澪「……それじゃ、一曲目いきます。“五月雨20ラブ”」
〜♪
——ノリノリになりながら、さり気なくど真ん中を陣取る三花ちゃん凄い。
——このイントロかっこい〜。
澪『Raindrops 降り出す雨』
澪『なんて キレイな〜の』
澪『ソーダ 水みたいに〜ね 街のあくびを止める〜の』
澪『三粒数えて 大粒のをおでこでキャッチ』
澪『雨は私に 語りかけるよ』
——勝手に演奏して、先生に怒られたりしない?
——そんなこと考えるのは野暮ってもんだよ、今はさ。
——いえい! いえい!
——……それもそっか。
澪『キ〜ラリ この夢に』
澪『光をあげたいから』
澪『雨雲〜 ちぎる手を〜』
澪『ポケットから出すよ』
* * *
唯「えっと……じゃあ、これで最後にします」
〜♪
——あっ。
——これ、確か文化祭で演奏してた曲だ……!
——でも今度は教室限定……レアだね。
——なんだか余計楽しくなってきた!
唯『キミがいないと何もできないよ』
唯『キミのごはんが食べたいよ〜』
唯『もしキミが帰ってきたら とびっきりの笑顔で』
唯『抱〜きつくよ〜』
——ねえ、しずか。私がもっと前に立たないと見えないんじゃない?
——失礼な! これでも十分前に立ってるよ!
——……圭子もしずかもうるさい。
唯『キミが いないと謝れないよ』
唯『キミの声が聞きた〜いよ』
唯『キミの笑顔が見れれば それだけでいいん〜だよ』
——風子の声が聞きた〜いよ。
——私はなっちゃんの声、聞き飽きちゃってるぐらい聞いてきたけどね。
——えー。なんかそれ、微妙なんだけど。
——ふふ、一応はお礼のつもりだよ。
唯『君が そばに いるだ〜けで』
唯『いつも 勇気 もら〜ってた〜』
唯『いつまででも〜 一緒にいた〜い』
唯『この気持ちを伝えた〜いよ』
——慶子ちゃん、いえーい!
——いえーい!
唯『晴れの 日にも 雨の日も』
唯『キミは そばに いてく〜れた〜』
唯『目を閉じれば〜 君の笑顔〜 輝いてる〜』
——あら、憂たちも来たの?
——うん。あの人においでおいでってされたんだ。
——へえ、いちご、いいとこあるじゃん。
——……別に。
唯『キミの 胸に 届く〜かな?』
唯『今は 自信 ないけ〜れど』
唯『笑わないで〜 どうか聴いて〜』
唯『思いを歌に込めた〜から』
——憂のお姉ちゃん、すっごいきらきらしてるっ!
——だってお姉ちゃんだもん!
——わわっ、しかも飛び込んできた!
唯『ありったけの ありが〜とう』
——えい、えい、いえーい!
——いえーい!
唯『歌に 乗せて 届け〜たい〜』
唯『この気持ちは〜 ずっとずっと〜 忘れ〜ない〜よ〜』
——あれ、外にいるのさわちゃんと堀込先生?
——ちょっと信代、引きずり込んできなさいよ。
——がってん!
——私も手伝うよー!
——エリ、いつの間にあんなところへ……。
——私もー。
——まきも!?
唯『思い〜よ〜 届け〜』
——今だ!
——ちょ、ちょっとあなたたち?
——いいからいいから、先生!
——ほら、堀込先生も!
——こ、こら、私はいいと言っているだろう!
——いいですからーいいですからー。
唯(あれっ、さわちゃん!)
——すごいすごい、先生もライブ来てくれたんだ!
——いえーい。ほら、先生も。
——放課後〜!
梓(なんというか、このクラス……さすが先輩たちのいたクラスです)
紬(自慢のクラスメイトたちよ〜)
律(一年間を一緒に駆けた、仲間だからな!)
——なんか心が一つって感じだよねー!
——……あれ、まきいつの間に戻ったの!?
——なんたってリベロですから。
唯(ムギちゃ〜ん!)
紬(唯ちゃ〜ん!)
澪(二人ともはしゃいじゃって……ああ、私も同じぐらい楽しいよ!)
律(さあ、締めだ! 集中しろよー!)
梓(これで最後——!)
じゃーん——……‥‥♪
‐外‐
エリ「……いやあ、今日の演奏はすごかったね」
アカネ「本当ね。他のクラスには申し訳なかったけどね」
エリ「へへーん、私たち三年二組の特権だーい」
アカネ「まあ唯ちゃんの妹さんとかは来ていたみたいだけど」
エリ「あ、そうなの?」
アカネ「あとオカルト研」
エリ「おー、意外なゲストが」
アカネ「……オカ研にもお世話になったよね、そういえば」
エリ「文化祭だね。大変だったよねー、お墓がなくなっちゃってさ」
アカネ「そうそう。この一年を振り返ると、本当色々な人と出会ったり、喋ったり、
助けたり、助けられたり……。数えきれないぐらいのことが起きてるんだよね」
エリ「なにしんみりなってんのさ。卒業式はまだだよー」
アカネ「そうだけど。でも、逆を言えば、あと卒業式だけなんだよ私たち」
エリ「……あー、そうだっけ」
アカネ「本当、あっという間だったよね」
アカネ「って、今こんな話してもだけど。卒業式までお預けにしないとね」
エリ(……まだだよって言っておきながら、私の方が整理ついてないっていうね)
アカネ「あっ、そうだ」
アカネ「卒業式のあと、バレー部で誰かの家に泊まりしようって、話してたじゃん?
あれ私の家に泊まることになったからね」
エリ「そのことなら三花から聞いてるよ。いやあ久しぶりだねえ」
アカネ「真剣に各々で勉強初めてからは、来てないもんね」
エリ「前にアカネの家で揃ったのは、夏休みの宿題のときかな?」
アカネ「あー……そうだった。あの時のエリはどうしようもなかったね」
エリ「面目ない……」
アカネ「いいっていいって。もう受かったんだから。変わらずバカだけど」
エリ「ば、バカにするな!」
アカネ「ふふ、ごめんごめん」
エリ「……私だって、この一年で心境に大きな変化があったんだからね」
アカネ「へえ、どんな?」
エリ「……悩まない性格だったのが、いま色々悩むようになってる」
アカネ「それは珍しい」
エリ「……というか気持ちの整理がつかない」
アカネ「別れることが辛いの?」
エリ「皆と別れることもそうだけど……、アカネに関することが一番整理ついてないんだ」
アカネ「私?」
エリ「……ちょっと今の私は、普段の私じゃないかもしれないね。
こんなに色々なことを悩んでるぐらいだし」
エリ「だからアカネ。今から言うこと、多分驚くと思うけど、ちゃんと聞いててほしいんだ」
アカネ「……うん」
エリ「ありがとう。それじゃアカネ、一つだけ提案……というかお願いなんだけど」
エリ「私とキスしてくれない?」
アカネ「えっ」
アカネ「……はあっ!?」
第二十五話「桜高バレー部の渡航の弐」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:41