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 ‐銭湯‐


エリ(……考えてみれば、アカネはいいのかな。
 あんな発言した人と、一緒にお風呂入るなんて)

三花「エリ、どうしたのぼーっとして? もう皆入っちゃったよ?」

エリ「ねえ三花」

三花「ん〜?」

エリ「三花はさ、今までただの友達だと思っていた人が、急に変化を求めた……とも取れる行動をしたとして、
 その人のことを今まで通りの目で見ることができる?」

三花「ん〜……完全に元の通りっていうのは、難しいんじゃないかな」

エリ「だよね……」

三花「ただこれは中学のときの話なんだけど、私が男子から告白されてね」

エリ「こ、告白!?」

三花「驚きすぎだよ〜。でもまあ、断っちゃったんだけどね」

エリ「そ、そうなんだ……」

三花「……その後でもその男子とは、特にこれといった不和もなく仲良くしてたよ。
 ただやっぱり最初の方は少し、ぎこちなかったかもね〜」

三花「でも時間が経つ度に、そういうのは薄れていっちゃうもんだよ。
 だって“実質的に”その子は変わってないんだから」

エリ「え、だって告白してきたんでしょ?」

三花「それはそれ、これはこれだよ〜。私はその人を恋人としては好けなかった。
 けれど友達としてはやっぱり好きだったんだよ」

三花「友達として見たとき、やっぱりその子はなにも変わってなかったんだ」

エリ「そのあと、友達としてでも仲良くすることに抵抗はなかったの?」

三花「友達でいる“だけ”なのに、自分が改めて恋愛対象になるって思っちゃうの?
 それすっごい自意識過剰ってやつじゃない?」

エリ「あっ」

三花「そんな警戒する必要ないんだよ。きちんと自分を保って、自分の気持ちを伝えられれば。
 その境界線を無理やりにでも越えようとしてくる輩は、ぶっとばしちゃえ!」

エリ「ぼ、暴力には発展してほしくないかな……」

三花「……それで、どっちが告白しちゃったの? アカネの方から?」

エリ「えっ!?」

三花「お、まさか本当にそうだとは〜」

エリ「ナンノコトヤラ」

三花「ここまで誘導されておいて、今更隠せると思ってるの〜?」

エリ「……嵌められた」


  *  *  *


エリ「……このこと、誰にも話さないでよ」

三花「わかってる。この秘密はお墓まで持っていくよ」

三花「しかしまあ、今回の事態は……エリがねえ……」

エリ「わかってるよ私が悪いことなんか!!」

エリ「でもでも、いつ謝ればいいのかわかんないし……どうすればいいのか……!」

三花「エリはさ、自分の気持ちに答えが出ればいいんだよね?」

エリ「……うん」

三花「まあ思春期特有のものっていう話も聞いたことあるからねえ」

三花「私にも見分け方はわからないや。
 でもアカネを、悪気がなかったとしても、使おうとしたのはいけないね」

エリ「うん」

三花「正直自分の気持ちなんか、自分以外に答えを出せないよね……。
 しかもその答えは確実な正解とは限らないし、そもそも他人の手が加わってる可能性もあるし」

三花「どうしようもないんじゃないかな」

エリ「それ三花が言っちゃうか」

三花「あはは〜……ごめん。相談相手になりきれてないよね」

三花「でもエリはこの選択を全てだと思わない方がいいよ」

三花「アカネとの関係はこれで終結するわけじゃない」

三花「だって恋愛とか結婚とか、そういうのが人間関係の終結だとしたらさ、
 別れや離婚っていうのは何になるわけ?」

三花「そういう意味では、別れや離婚が人間関係の終結でもない。
 私と、私に告白してきた男友達みたいにね」

三花「どこまでも道は続いているんだ。私たちが生きている限り、ずっと」

三花「だからエリも不安にならないで、まずは恐れず話し合ってみて。
 全てはそこからだよ。ねっ?」

エリ「……」

三花「へへ、らしくない言い方になっちゃったね。よし、さっさとお風呂入ろ〜!」

エリ「……ありがと」

三花「なんだよ、らしくないなあ〜」

エリ「本当……ありがと!」

三花「わかったらさっさと風呂に行った行った!
 ……二人きりで話せる時間は、確保できるように協力するからさ」

エリ「うん!」


  *  *  *


三花(行ったかな。さて、と……)

三花「……出てきなよ、中西ぬす見」

とし美「私はとし美だ。仕方ないでしょ、ちょっと忘れ物しちゃって、戻ろうとしたらこれだもん」

三花「まあ別に軽蔑なんかしないけど〜。……でも今の発言でエリを軽蔑するなら、私は許さないよ」

とし美「そんなことするわけないじゃん。協力するって」

三花「そか」

とし美「うん」

三花「じゃあ後は、まきをどうするかだね〜」

とし美「あの子なら、飲めばすぐに寝ちゃいそうだけどね」

三花「子供かっ!」

とし美「いやいや大人でもそういう性質の人、いるわけだし。まきならなおさらね」

三花「あ〜でも確かに、さっきちょびっと飲んだだけで眠そうだったよね〜」

とし美「ゲームで目覚めてたみたいだけど」

三花「つまりゲームとかをさせず、ただちょっと飲ませればいいわけだね?」

とし美「そういうこと。……というかもし私がここで会話を聞かなかったとしたら、
 三花は私をどうするつもりだったの?」

三花「私が酔ったふりして、とし美を外に引きずっていく予定だったよ〜」

とし美「抵抗したら?」

三花「気を失ってもらってたかなっ」

とし美「怖いわ!」


  *  *  *


まき「最近気づいたことがあるんだけど、アカネちゃん聞いてくれる?」

アカネ「うん」

まき「常々私は、アカネちゃんが持ってるものの多くを持ってないなあと思ってきたんだよ」

アカネ「へえ。例えば?」

まき「身長とか背丈とか上背とか」

アカネ「全部同じじゃない」

まき「でもついに、私が持っていて、アカネちゃんが持っていないものを発見したんだよー」

アカネ「そんなの沢山あると思うけど、例えば?」

まき「小動物っぽさ」

アカネ「ああ、うん……」

まき「……」

アカネ「……まき、無理してない?」

まき「もー! せっかく私が自虐ネタをしてまで励まそうとしてるのに、なんでそんな微妙な反応なのー!」

アカネ「えー……」

まき「今のアカネちゃんを笑顔にできるのは、やっぱりエリちゃんしかいないかー」

アカネ「え、エリはともかく……私は今も笑顔だよ?」

まき「それは私の自虐ネタに対する苦笑いだよね?」

アカネ「そうだけど」

まき「アカネちゃん酷い!」

アカネ「どうしろと!?」

まき「ていうか皆どこ行ったの!? とし美ちゃんは忘れ物を取りに行ったきりだし、
 三花ちゃんと、当人のエリちゃんはそもそも入ってこないし……」

エリ「私がどうしたって?」

まき「あ、エリちゃん!」

エリ「なにー、私についてなに話してたのさー」

アカネ「……」

エリ「……あ、アカネ……」

エリ「あのさ、話があるんだ。だから後で……」

アカネ「……うん」

エリ「良かった。聞いてくれるんだ。ありがと」

アカネ「絶対そうしないといけない……、そう思うから」

エリ「……家に戻って、二人きりの時間が作れたら、そこで」

まき「ねえ二人ともなに話してるのー? 聞こえないよー」

エリ「まきには難しすぎる話だよ」

まき「そんな難しい話を、エリちゃんが理解できるとは思えないんだけど……」

エリ「私が馬鹿で悪かったな!!」


 ‐アカネの家・リビング‐


アカネ「ただいまー」

アカネ母「おかえり。あんたたち、どこで寝るの?」

アカネ「リビング使っちゃダメ?」

アカネ母「ん、わかった。それじゃ布団出しといてあげる」

アカネ「ありがと」

まき「……」

アカネ「まき?」

まき「……遺伝、なのかなあ」

アカネ「和嶋家の様子が大体わかった気がするよ」


  *  *  *


三花「飲むものもつまむものも完全に揃ったことだし、始めようか」

三花「さあ飲むよ!」

まき「いえー」

エリ「いえー」

三花「改めて、お互い卒業おめでとう。かんぱーい!」

とし美「乾杯」

三花「……ふう」

三花「さて、ちょっとこれを見ていこうか」

アカネ「卒アル?」

三花「積もる話もあるだろうしさ、これ見ながら話そうかなーって」

エリ「そういえば卒アル写真で唯ちゃんがなにか嘆いていたような」

三花「この前髪ぱっつんのことかな?」

エリ「なんでも最後の最後まで、先生に差し替えるよう嘆願していたとかいないとか」

とし美「結構可愛いと思うけどね」

アカネ「本人は“前髪がー……前髪がー……”って、ずっと言ってたけど。
 ついでに和ちゃんから聞いた話だと、小学校と中学校でも同じ悩みを抱えてたとか」

とし美「これで小中校コンプリートってわけ?」

まき「全然嬉しくないねー」

とし美「……にしても小中校と一緒の二人ってなかなか凄いと思う」

まき「りっちゃんと澪ちゃんもそうなんだよー」

とし美「あそこは幼馴染に恵まれた部活だったんだ」

三花「和ちゃんは軽音部じゃないけどね〜」

三花「でも幼馴染って、私にはいないからどんな感覚なのか気になるんだよね〜」

エリ「あ、私いるよ」

三花「えっ、どんな感じ? 普通の友達とちょっと違うの?」

エリ「どうだろ……一緒にいる期間は長いから、安心感あるよね。
 でもそれは他の親友にでもいえることだし……大差ないのかも」

三花「そんなもんか〜」

まき「恋愛関係になるとか、そういうことはないのー?」

エリ「えっ」

まき「そういうの創作でよくあるからさー」

エリ「ん、んーと、無いかなあ……」

アカネ「……」

まき「エリちゃん?」

三花「おっとまき、手が止まってるよ〜! ほらほら飲んだ飲んだ!」

まき「ちょ、待っ、三花ちゃん……、そんなにいきなりは飲めないってばー!」

とし美「ダメだよ三花。あくまでゆっくり飲ませてあげないと」

三花「え〜、でもまきにも飲めるようなものばっかだよ?」

とし美「確かにジュースみたいな味かもしれないし、まきにとっては飲みやすいかもしれないけどさ」

まき「暗に私の舌が子供だと言っているね?」

とし美「大人でも飲めない人はいるよ。だから舌が子供だから飲めないっていう話じゃない」

まき「じゃあどんな話?」

とし美「まきは子供だなーって話」

まき「私にとっちゃなにも変わんないよ!!」

三花(……よしよし話題は変わった。とし美、ナイスっ!)

とし美(これぐらいなんてことないって。乗りかかった船だしね)

とし美(一人だけ部外者みたいなまきは、ちょっとかわいそうだけど)

まき「もー!」

とし美(でも元々そういうキャラだしいいか)


  *  *  *


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最終更新:2014年06月01日 20:21