紬「菫?すみれ〜?」
菫「はい、紬お嬢様」
こんにちは、
斉藤菫です。
私は琴吹家に仕えるメイドです。
今日も紬お嬢様がおっとりとした声で私を呼んでいます。
紬「すこし相談があるの」
菫「どういったご用件で?」
紬「あのね、学校の部活でお茶がしたいの」
菫「学校の部活でお茶…ですか」
紬「うん!だから学校に置いておけるティーセットを一式、用意できないかしら?」
菫「承知しました。手配させていただきます」
紬「ありがとう、菫」
こうやって見てみると、私達はただのメイドとお嬢様だけど
紬「あ、そうそう」
紬「この前の漫画、続きが気になるの!」
紬「あとで部屋に行ってもいいかしら?」
菫「うん、いいよ」
紬「お茶とお菓子を持って行くわね!」
菫「わかった。ありがとうお姉ちゃん!」
私達は、それ以上の関係です。
〜 私とお姉ちゃんの日々 〜
私のお姉ちゃんはよく思いつきで行動します。
それはたいてい、良からぬ思いつきで…
紬「ねぇ菫、私も給仕がしてみたい!」
菫「え、ダメだよ。もしもお父様に見つかったら…!」
紬「そうそう、そのお父様がね…」
紬「お父様は最近、私の事ほったらかしだから…すこし驚かせようと思って!」
菫「お、お父様にお給仕するの!?」
紬「えぇ、お父様が書斎にいるときはいつもコーヒーを持ってこさせるでしょ?」
紬「それを私がメイド服を着て持っていくの〜!」
菫「うぅ…でもそんな事したら私たち怒られちゃうよ」
紬「大丈夫、私が一人でやった事にしておくから!」
菫「でもぉ…」
紬「協力してくれたら、この間菫が欲しがってたお洋服、お父様に頼んで買ってもらってもいいわよ」
菫「え、ほんとに!?」
紬「うん、私もすっごく似合うと思うから」
菫「う、うーん…」
紬「ダメかな?」ワクワク
菫「わかりました。じゃあついてきて」
紬「やった、やった!」
・ ・ ・
メイド長「とってもお似合いですわ、お嬢様」
紬「ありがとう」
メイド長含め、他のメイドたちは皆お姉ちゃんに口答えできません。
だから基本的に、お姉ちゃんの思いつきにはいつも快く対応しています。
あとでお父様に怒られることになるけど、でも…
メイド「3回ノックしたら、“失礼します”で、ドアを開けて…」
メイド2「お辞儀はこうですよ、お嬢様!」
紬「うん、うん!なるほど」
でもみんな、そんな事気にせず楽しんでるみたい。
チリリリリリ
メイド長「あっ、いよいよですよお嬢様」
紬「よぉし!」
・ ・ ・
コンコンコン
紬父『入れ』
紬「失礼しま〜す」
メイド「(お嬢様、大丈夫でしょうか?)」
菫「(多分…。紬お嬢様はああ見えてしっかりしている方ですから)」
メイド2「(でもちょっと心配ですわね)」
メイド3「(転んでお父様にコーヒーをぶちまけたりして!?)」
菫「(それはないと思いますけど…)」
紬『お父様のバカ〜〜!!』
紬父『な!?…つ、紬!?』
菫「!」
メイド「なにやら騒がしくなってますね…」
ガチャン!
紬「すみれぇぇ〜〜!!!」タタタタ
菫「おねぇ…じゃなくて、紬お嬢様!どうなさいました!?」
紬「菫、聞いて!お父様ったらひどいのよ!?」
紬「お父様ったら、最後まで私を私だと気づかずに、コーヒーを…!」
紬父「紬!悪かった、悪かったから!」
紬「来ないで!私は見損ないました!」タタタタ
紬父「こら、紬!待ちなさい!」
紬父「あぁもう…だれか!だれか紬を捕まえてくれ!」ドタバタ
メイド「は〜い、ただいま!」
メイド長「ふふふ、お嬢様がカンカンだわ」
菫「………」
お姉ちゃんが良からぬことを思いついた時は、いつも屋敷が騒々しくなります。
別の日・・・
紬「すみれ〜?」
菫「なぁにお姉ちゃん?」
今日もお姉ちゃんがソワソワしながら私の部屋に来ました。
また何か相談事でしょうか?
紬「ラーメンって食べたことある?」
菫「ら、ラーメン?」
菫「それはまぁ、あるけど…」
紬「今日ね、学校で澪ちゃんたちがラーメンのお話しててね?」
紬「私が食べたこと無いって言ったら、りっちゃんに笑われちゃった…」
菫「お姉ちゃん、ラーメン食べたこと無かったんだ…」
紬「うん」
紬「ねぇ、菫!ラーメンが食べたい!」
お姉ちゃんのお願いごとには時々驚かされます。
紬「しかもしかも!お店のラーメンじゃないとダメなの!」
菫「お店?」
紬「うん、りっちゃんたちが一番美味しいって言ってたラーメン屋さん」
紬「そこのラーメンを食べてみたいの!」
菫「お父様に頼んでみては?」
紬「実はお父様にはこの前頼んでみたの。でも…」
・ ・ ・
紬父『ラーメン?なんでまたそんな…』
紬『おねがいします!一度でいいから食べてみたいの!』
紬父『じゃあ今度の夕食に出すよう言っておくよ』
紬『あ、そうじゃなくて…行きたいお店があるんです』
紬父『店?ん〜…連れて行ってやる暇はあるかな?』
紬『最近は特に忙しいのでしたね』
紬父『うむ。来月まで待ってくれないか?』
紬『来月……?』
紬父『来月なら紬の好きな店に連れて行ってやるから。な?』
紬『うぅ……』
・ ・ ・
紬「来月なんて待てないわ!」
菫「部活動の人たちとは行かないの?」
紬「頼んでみたけど、週末は全員都合が悪いんだって…」
紬「ねぇ、菫…私とラーメン食べに行かない?」
菫「お姉ちゃんと?」
紬「二人で」
菫「う〜ん…」
紬「お願い!」
菫「………」
他でもない、お姉ちゃんの頼み事です。
断る理由なんてありません。
菫「うん!」
休日・・・
菫「駅に着いたよ、お姉ちゃん?」
紬「………」ジー
菫「どうしたの?外に何かあるの?」
紬「ううん、珍しい景色だから」
菫「確かに、ここに来るのは初めてだよね」
紬「うん。さて、行きましょ菫」
菫「あ、ちょっとまって!」
はしゃいでる時のお姉ちゃんに着いていくのはなかなか大変です。
・ ・ ・
カランカラン
店主「あ、いらっしゃいませ」
紬「こんにちは〜」
菫「こ、こんにちは」
店主「開いてるお席へどうぞ」
紬「ここがラーメン屋ね!すっごく狭いわね!」
菫「カウンター席しか無いね」
紬「こういう小さなお店のラーメンが美味しいのかしら?」
菫「ここが軽音部の方たちのおすすめのお店なんでしょ?」
紬「うん。ここらじゃ一番だ!って」
紬「さぁ、早速注文しましょ」
菫「どれにするの?」
紬「えぇと、りっちゃんが言ってたのは…」
紬「これ、チャーシュー麺!」
紬「炙ったチャーシューが美味しいんですって」
菫「あ、じゃあ私もそれにしよう」
紬「うん、一緒に食べよ?」
菫「じゃあ注文するね」
菫「すみません、チャーシュー麺2つお願いします」
店主「チャーシュー麺2つですね、はい」
紬「どうしよう…!?私ちょっとドキドキしてきちゃった!」
菫「あはは、落ち着いてお姉ちゃん。ラーメンは逃げないから」
紬「………」ソワソワ
菫「………」
真剣な顔でソワソワしてるお姉ちゃんはなんだかかわいいです。
・ ・ ・
店主「お待たせしました、チャーシュー麺です」ゴトゴト
紬「わぁぁ〜綺麗…」
菫「綺麗?」
紬「うん、とっても」
紬「よし。じゃあ…」
菫「えへへ」
紬菫「いただきます!」
紬「ところで、ラーメンってどうやって食べるのかしら?」
菫「ラーメンの食べ方?」
紬「うん、りっちゃんが言ってたの」
律『ラーメンにはちゃんと食べ方があるんだぜ〜』
紬「って…」
菫「あぁ〜…私も詳しくは知らないけど、まず初めにスープを一口飲むといいらしいよ?」
紬「スープを…わかったわ!」
紬「ふーふー!」
菫「………」ズズズ
紬「………」ズズズ
紬「わぁ〜…!」
菫「おいしい」
紬「とってもまろやかで優しい味ね!こんなの初めて!」
紬「それで、次は麺を食べればいいのかしら?」
菫「ふふふ、食べ方なんてそこまで気にしなくていいと思うよ?」
菫「好きなように食べれば、それで」
紬「うん!」
菫「………」チュルチュル
紬「………」モソモソ
菫「?」
紬「う、うまくすすれない…!」
菫「レンゲに乗せてスパゲティみたいに食べたら?」
紬「ううん、がんばる!」チュ…チュル…
菫「あはは…」
・ ・ ・
店主「ありがとうございました〜」
菫「おいしかったね」
紬「うん、ラーメンってこんなに美味しいのね」
紬「これでりっちゃんたちと対等に張り合えるわ!」
菫「よ、よかったですね」
次の日・・・
コンコン
紬父『紬、菫、いるか〜?』
紬「あら、お父様?」
菫「はい、今開けます!」
ガチャ
紬「どうかなさいました?」
紬父「お前たち、昨日の昼はどこに行っていたんだ?」
紬「お昼ですか?ちょっと菫とお食事に」
紬父「そうか。なら別にいいんだが…」
紬父「出かけるときはメイドでなくてちゃんと私に言ってから出かけなさいといつも言ってるだろう?」
紬「あ、ごめんなさい…」
紬父「菫がついていたからまだよかったが、何かあったら大変だ」
紬「はい…」シュン
紬父「菫も、こういう時は斉藤か私にちゃんと報告しなさい」
菫「はい、申し訳ありませんでした」
紬父「さて、それはそうと…」
紬菫「?」
紬父「紬がこの前言っていたラーメン屋を家へ呼んだぞ」
紬「えっ…!?」
紬父「ということで、今夜はラーメンだ!ははは!」
菫「………」
紬「お父様…」
紬父「驚いたか?はっはっは!」
紬「お、お父様…?」
紬父「ん?」
紬「昨日、お昼に菫と食べてきたのですけど、そのラーメン…」
紬父「え、えぇぇぇ〜…!?;」
菫「………」
お嬢様とお父様、思い立ったらすぐ行動に移すところはよく似ておられます。
最終更新:2014年04月07日 22:10