─部室─

豚「ふごっ」

部室には豚がいた。

澪「えっ」

律「お、おわぁ…?」
和「ムギ…?」

澪「!!」

律「ア、アレがムギだって…?」

豚「ぐひっ」

澪「そういえば律、言ってたよな」

澪「ムギが豚の生皮を着て走り去っていったって…」

律「お、おぉ、確かに」

和「ムギ、いつまでそんなものをかぶっているの?」

和「ムギ…、」

豚「ぶきっ」ダダッ

澪「きゃっ!?」

私たちが止める間もなく豚は部室から飛び出し
階段をかけ降りて行った。

律「おーい、ムギ~!」

和「行ってしまったわね…」

澪「なぁ、アレ本当にムギだったのか?」

律「さあ…」

和「でも本当の豚がいるのも、奇妙な話だわ」

澪「う~ん…」

澪「そもそもムギは何故、豚の生皮をかぶって走り去っていったんだ?」

和「私が分かるワケないじゃない」

澪「理由は聞かなかったんだ?」

律「あの時は唯がコショウをふりかけている最中で
ゴタゴタしてたからな…」

澪「本当に、私が眠っている間に何があったんだ」

律「あっ、亀が死んでる」

律「お、おいトンちゃん!しっかりしろ!トン!ト~ンッ!」

和「ドーンッ!」グィィン

律「えっ」

和「微動だにしないわね…」

律「澪…どうしよう…」

澪「それよりなんで唯はコショウなんかかけたんだろうなぁ」

律「今それどころじゃないだろ!?」

澪「それどころだろ!?」

ドガシャアァン

律「ひっ、み、澪っ?」

澪「お前は唯やムギがどうなっているか心配じゃないのかッ!?」

律「し、心配だよ!心配だけど、トンちゃんが…」

和「あっ、見て」

和「水槽の内側に引っ掻き傷のようなものがあるわ」

澪「へ?」





 才


和「……」

律「……」

澪「…………」


律「さ、三才…?」

澪「そうだな、三才だな」

和「このスッポンって三才なの?」

澪「そうらしいや」

律「仮にそうだとして何故、死ぬ間際に年齢なんか書き残したんだ?」

澪「亀を人間の尺度で計ってはいけないよ」

澪「きっとトンちゃんなりに思うところがあったのさ」

律「そうか…」

澪「そうさ…」

和「…ひょっとしたらダイイングメッセージじゃないかしら」

澪「無いね、無い無い」

律「そういえば三、というよりカタカナのミに近いかな」

和「逆に才という文字は、カタカナのオに見えないことも無いわね」

澪「そんなことあるのかなぁ」

律「ん…?」

律「ミ」

和「オ?」

律「ミオ…」

澪「待て待て待て待て待て」


律「澪…お前なんで……」

澪「バカ言うな!」

澪「常識的に考えて亀が文字を書くワケないだろ!?」

澪「そして私が亀さんを殺すワケもあるもんか!!」

律「そりゃそうだが…」

㌧「パシャパシャッ」

澪「!?」

和「あら、生きてるわ。このスッポン」

律「な~んだ、心配させんなよな~」

澪「はぁはぁ」

和「澪、どうかした?」

澪「はぁはぁ」


澪「なんだか疲れたな…」

澪「そろそろ寝ようかパトラッシュ」ナデナデ

律「しかし、ご主人。我々はまだ一秒も練習してねーワン」

澪「だまれっ!」

バシッ

律「い、痛いワン!」クゥン

澪「僕の言うことが聞けないのかパトラッシュ」グッ

律「分かった分かったから背中にパンチするのをやめるワン!」キャインキャイン

和「暴君ネロだわ」

澪「いいアバンストラッシュだったなパトラッシュ」

律「ご主人は悪魔だワン」ワン!

和「しかし意外ね」

澪「なにが?」

和「練習をサボりたがるのが律で
練習をしたがるのが澪だと思っていたけれど
真相は真逆だったのね」

澪「ちっ違うんだ」

律「澪は人前ではキッチリしてるけど
部屋ではパンツ脱ぎちらかすような奴だからな~」

和「あら、だらしないのはパイオツだけじゃなかったのね」

澪「だまれっ!」

バシンッ

和「い、痛いっ!!」

澪「ヨーシ、もう一発!」

ぱちんっ

和「ひぃいっ」
律「へへへ聞いたかよ、ご主人?」

律「この野郎、女みたいな悲鳴をあげやがるワン」

和「みたいも何も私は女のコよ!」

和「そしてアンタ、パトラッシュをなんだと思ってるのよ」

律「もし先にご主人が死んだら死体を食べていいワン?」ワクワク

澪「ま、待てだ、パトラッシュ待てっ」

律「ハッハッ」

和「あーそれにしても痛かった。
私、暴力とか振るわれる人じゃないのに…」グスッ

律「よしよし」ナデナデ

和「あ…んっ」ピョンピョン

澪「ひぃい」

律「な、なぜ頭を撫でたらジャンプしたんだ」

和「ジャンピング和ちゃん」

律「ワケが分からないよ」

澪「脳みそがクスリでトンでるのか?」

和「はぁはぁ」

律「しかし寝るのはいいが、こう暴れられると
風呂に入りたくなってきたなー」

澪「ああ…いいね、お風呂…」

和「アハハ八!!」

澪「うわぁ!?しっかりしろ!!」

ドスンッ

和「はぐっ…」クタリ

律「痛烈なお腹パンチ炸裂」

和「うぅっ…こんな事もあろうかと
玄関にドラム缶を用意しておいたわ」ハァハア

澪「え~っ」

律「禁断のドラム缶風呂かよ!」

澪「コンクリート詰めて東京湾に沈めるアレか!」

和「そこの髪の長いコは何を言ってるの?」

律「アタマがジャンピング澪ちゃん」

和「シャブでハイジャンプキメるなんて気が利いてるわね」

澪「えへへ~」

和「そこの痛々しいのは放っておいて
入浴の準備でもしましょう」

律「反対の賛成の反対」

律「しかし風呂って、お湯はどうすんの?」

和「ああ、澪が入ったら私が飲むわ」

澪「そ、そりゃ和の勝手だけど
しかし人が入った後のお湯を飲むって不衛生じゃないか…?」

和「そこに価値があるのよ」

澪「そうか」

律「しかしアタシが聞きてーのは、使用後の話じゃなくて
まず風呂のお湯をどう用意するかであって」

律「今は水道もガスも使えないんだぞ」

澪「雪をバケツとかで運んで
ドラム缶に入れて火をおこせばいいんじゃない?」

和「妥当な案ね」

律「でも火をおこす木は?」

和「校舎裏のゴミ置き場に枯れ枝をまとめた束があったのを見たわ」

澪「用務員さんがまとめて捨てるつもりだったヤツかな」

律「なるほどな~、それなら風呂の準備はバッチリだ!」

澪「なるほどじゃないよ。お前も少しは何かを考えろ」

和「足りないのはパイオツだけではなく
脳みそもガッカリ脳みそなのね」

律「でもさ、アタシこの間、胸をかなり強くモミしだいていたら
先っちょから白い液体が滲んできてさ」

澪「なにっ」

和「ちょっと揉まさせなさいよ」

がしっ

律「おい、離せ」

ぷちぷち

律「おい、服を」

ぎゅっ

律「いたいいたい」

ぎゅっぎゅっぎゅっ

律「いたいいたいいたいいたい」

和「出ないわよ」

律「だって嘘だから」

和「なっ」

澪「お前にも嘘をつけるだけの知能があったんだな」


─二時間後─

めらめら ぱちぱち

和「なんとか完成したわね、ドラム缶風呂」

律「わりと手間どったな」

澪「まあ初めてにしては上出来さ」

和「さて、誰から入ろうかしら」

和「ああ、みんな一緒に入るのもいいわね。肌と肌とを密着させて」

律「絶対にジャンケンで決めようず」

和「考えてみたら私は女子高生が入ったあとの残り湯を楽しむから
やはり最後でいいわ」

澪「お前だって女子高生だろうに」

律「じゃあアタシはトイレに行ってくるから
澪が先に入ってていいよ」

澪「あ、私も行く」

澪「私、最近お風呂場でオシッコするクセがついちゃってさ」

律「ヘハッwなんだ、そのくらい。アタシなんてこの間は
風呂中トウモロコシだらけ…」

豚「ぶきっ」

和「あらっ、豚だわ」

和「この豚いつのまに、ここに…?」

豚「ふごっ」

澪「なんだかドラム缶に近づいてるぞ」

律「もしかして風呂に入りたいんじゃねーの?」

豚「ぷきゅぷきゅ」コクリ

和「うなづいたわ」

澪「よしよし、ちょっと体にお湯をかけてやるか」

ばしゃっ

豚「あづっ!?あぢゅいのぉぉっ!?」ビクンッ

ジタバタ

澪「……」

和「……」

律「しゃ、しゃべった!?」

澪「お前、ムギだろ」

豚「絶対に私じゃないわ」

和「確実にあなたじゃないのね」

豚「もち」

律「なに言ってんだよ、豚がムギなワケないだろ」

澪「一応聞くが、もしお前がムギだったらどうする?」

豚「二度と学校にお菓子を持ってこないわ」

澪「!?」

律「ははっ、なんだなんだ」

律「こりゃ豚がムギじゃなくって良かったな~、そんなワケないけどさ」

澪「一体どうすればいいんだ…」

和「私はお菓子、関係ないから豚だろうがムギだろうがどうでもいいわ」

澪「それはそれでアレだな、えっ、どうでもいいの?」

和「えぇ」

豚「そんな…」

豚「まあ良いわ」

澪「そ、そうだな」

和「それよりさっさとお風呂に入って明日に備えましょう」

豚「そうね」

澪「お、お風呂に入るの?豚なのに」

豚「しゃらんら」

澪「もうしゃらんらとか言っちゃってるよ!?キミどうしたいの!?」



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最終更新:2014年04月19日 21:58