─53─

律「そろそろバイトしないとなあ」

紬「それ、この前も言ってなかったかしら?」

澪「というか大学に入学してからずっと言ってるよな」

唯「りっちゃん、入学してから今まで何やってたの?」

律「わからん」

律「なんか大学から帰ってメシ喰って、あーってして寝てを
繰り返して気付いたら今日だった」

紬「生き方が雑すぎる」

澪「大体なんだ?あーっ、ていうのは」

律「え…?」

律「なんだろうな…こう、何を考えるワケでもなく…
ベッドに寝っ転がって…ただテレビつけて…
ケータイいじりつつも何回も読んだ漫画読ん…よんで…よ…ん…」

律「……」

律「」

澪「お、おい、律!?律!?」

律「おっ、えっ、え?なに?」

唯「りっちゃん…」

澪「お前、今、どこを見てたんだ…?」

律「え…?なにが…?」

律「ていうか…お前ら、いつのまに人の部屋に入ってきてんだ…?」

紬「えっ」

唯「り、りっちゃんの眼は本気だよ…」

澪「律!お前、今、あ~ってしてただろ!?」

律「な、なんだよ、あ~って…」

律「そんな恐ろしいことが…」

唯「もうトリップしちゃダメだよ」

紬「私、分かったわ」

澪「何が分かったんだ?」

紬「アレがふわふわタイムの歌詞に出てくる
『ドリームタイム』だったのよ…」

唯「りっちゃんは、あの虚ろな眼で夢を見てたんだね…」

唯「あの廃人みたいな眼で」

律「そんなヤバかったのかアタシは…」

澪「私はそんなつもりであの歌詞を書いたワケじゃないぞ!?」

律「ア、アタシはどうすればいい?」

澪「と、とりあえずバイトするんじゃなかったのか?」

紬「そうよ、目的意識を持って生きればドリームタイムを回避できるわよ」

律「そ、そうだな」

唯「バイトかぁ…」

唯「でも仕送りが十分あるなら無理にバイトしないで
その分、将来について考えたり準備したりしても、いいんじゃないかな」

澪「おっ」

紬「唯ちゃん、賢くなったわね」

唯「頭を強く打ちつけたからね!」

澪「えっ、大丈夫なの、それ」

澪「で、仕送りは余裕あるのか?」

律「ない」

紬「庶民って、いくらくらい仕送りされてるのかしら」

律「だから無いんだ」

唯「えっ」

澪「余裕が無いとかそういう話ではなく?」

律「無いんだ…」

唯「……」

澪「……」

紬「庶民って壮絶ね…」


唯「仕送り無しで今日までどうやって生きてきたの?」

律「なんか大学から帰ってメシ喰って、あーってして寝てを
繰り返して気付いたら今日だった」

唯「それは聞いたよ…」

澪「まあ食事は寮で食べられるから、なんとかなるだろうけど」

紬「でもお昼ご飯は?」

紬「寮の食事は朝晩だけよ」

澪「そういえば律、昼になるといなくなってたけど…」

唯「ひょっとして何も食べてないのを隠してたの…?」グスッ

律「外でアリを喰ってた」

澪「わゅあああああああああああ」

澪「ウソだと言ってくれ」

律「わかった、ウソだ」

唯「本当に?」

律「ウソだ」

澪「どっちなんだ!?どっちなんだ!?」

紬「澪ちゃん、どうどう」

澪「ぶるるる」

唯「アリっておいしいの?」

律「オーストラリアリには腹に蜜を貯蔵する蜜アリがいて
食べると甘いオーストラリアリがいるんだぞ~」

澪「お、おーすとらりらり?」

唯「オーストラリアリは日本にいるの?」

律「いないラリ」

律「日本アリしかいないラリ」

唯「甘いラリ?」

律「甘くないラリ」

澪「いなくまあ」

紬「えっ」

澪「あまくない」

澪「逆から読むといなくまあ」

唯「いなくまあ」

澪「いなくまあ!」

唯「いなくまあ!!」

紬「み、澪ちゃんも唯ちゃんも落ち着くラリ!」

律「みんなラリってんのか?こわいヤツらだぜ…」

澪「早くバイトしろよ」

律「でも、いいバイトがなくてな~」

澪「コンビニのレジ打ちとか手頃なの、いっぱいあるだろう?」

律「偉そうに…澪はコンビニバイト出来るのかよ」

澪「するワケないだろ!?知らない人間がいっぱい来るんだぞ!?」

唯「はい」

澪「まぁ私のことはいいんだよ」

紬「はたしてそうかしら」

唯「りっちゃんは人間検定に合格してるから
コンビニのレジ打ちくらい屁の屁のカッパでしょ?」

律「アタシはもっとビッグなバイトがしてーんだよ」

澪「バイトでビッグと言ってもなあ」

紬「りっちゃん、アレは?」

律「なんだいアレって」

紬「路上でギターケース広げて中には小銭がいっぱい」

唯「あっアレだね!」

澪「弾きがたり?」

紬「それっぽい!」

律「なるほど!音楽やってるアタシらにはピッタリだ!」

紬「アタシら?」

唯「ら?」

澪「言っとくけど私らはやらないぞ」

律「え~」

律「ドラマー1人で弾きがたりって、なりたつのか?」

唯「しらな~い」

律「そもそもドラムだから弾きがたりじゃなくて叩きがたり?」

紬「なんだか叩きたがりみたい」

澪「仕方ないやつだなあ律は」

律「むむむ」

唯「ところでどうして仕送りしてもらえないの?」

律「夜中に弟とヤッてたのがバレた」

澪「えあ!?」

律「ファミコンを」

澪「ふざけるなよ!!オイふざけるなよ!?」


おわり





─54─

菫「直ちゃん、おはよう!」

直「おはよー」

菫「……」

直「……」

菫「……」

直「……」

菫「……」

直「……」

菫「……」

直「……」



みなさん、こんにちわ。

菫です。

最近、気がついたのですが


直ちゃんは


自分から私に話しかけてくる事があまり無いような…



直「……」


思い返してみれば
ただの一度も…


いや、きっと気のせい…

そう思って、試しにこちらから話しかけないでいたら


放送部「キーンコーンカーンコーン」


放課後になってしまいました……


直「……」


菫(直ちゃん…)


─部室─

菫「そういうワケなんです」

梓「はぁ」

憂「そういうワケなんだぁ」

純「まあ、なんかアレだね」

純「いつも自分から彼氏に電話するけど
よく考えたら彼氏の方から電話とかメールとか来る頻度が少ないことに気が付いて
いきなりキレ出す女みたいな」

梓「菫は付き合うと面倒くさいタイプそうだね」

菫「わ、私、面倒くさいんでしょうか…?」

憂「そんな事ないよ~」

菫「本当ですか?直ちゃんも深層心理では面倒くさがってるんじゃないですか?
だから私に自分からは何も話しかけてこないんじゃないですか?
だっておかしいじゃないですか
私は毎日いっぱい話しかけているのに直ちゃんから話しかけてきた事
本当にただの一度も今まで一回も無かったんですよ?
話しかけても「へぇ」とか「ふ~ん」だけで会話が終わることもしはしばあるし
この間なんて私が思いきってお姉ちゃん直伝の一発ギャグを披露したら
パソコンカタカタいじりながらコチラの方を一切みないで「あー、うん」で終了ですよ
こんなのヒドすぎますよ、あんまりですよ、直ちゃん直ちゃん直ちゃんちゃん!!」

梓「面倒だなあ」

憂「よくある事だよ」

菫「そんな一言で片付けられてしまうなんて…」

純「ていうか憂はそんな経験あるの?」

憂「あるよ~」

純「えっ」

純「もしかして憂、彼氏とかいたりして?」

憂「いないよ~、お姉ちゃんだよ~」

梓「唯先輩が?」

梓「ふたりはプリキュアになれそうなくらい仲良しってイメージだけど…」

憂「う~ん、スミーレちゃんのケースと違って
私の場合はお姉ちゃんから話しかけてくることはよくあるけど…」

菫「!」

梓(スミーレって言えてる)

純(練習したんだろうなぁ)

憂「お姉ちゃんから話しかけてくるときって
①アイス
②今日、学校でこんなことがあったよ
③明日、アレをするからコレを用意しといて~の3パターンでね」

純「うんうん」

憂「『憂は今日どんなことがあった?』とかって聞かれたこと無かった」

梓「はあ」

菫「……」

純「…まあ、普通じゃないの?」

憂「よく考えたらお姉ちゃん、自分のことばっかり話して
私に興味もってないのかなって…」

梓「か、考え過ぎだよ…」

菫「でも話しかけてもらえるだけ、うらやまし…」

ダンッ

菫「ひっ」

梓「う、憂。机たたいちゃダメ」

憂「ごめんね、カブトムシがいたから…」

純(いないよ!?)

純(しかもカブトムシを叩き潰そうとする人、初めて見たよ!?)

憂「スミーレちゃんは直ちゃんに何かしてあげた事ある?」

菫「え、えっと」

憂「直ちゃんのために自分の時間を割いて
ご飯作ってあげたりお洗濯したりお部屋のお掃除してあげたり
遅く帰ってきたお姉ちゃんのためだけにお風呂わかしてあげたり
私が行くワケじゃない修学旅行の準備を全てしてあげた挙げ句
私のことは3日間ほったらかしで土産話はされたけど
私がお姉ちゃんのいなかった3日間を家で1人でいかに生き抜いてきたか聞かれもせず
律さんから電話がかかってきたからってそこで修学旅行の話は永久に終了されたことあるの?」

菫「無いです…」

憂「そして修学旅行中、寂しさを紛らわすために梓ちゃんたちを家に呼んだら
梓ちゃんにはお姉ちゃんからメールが来て私には来なかったことあるの?」

梓「……」

菫「無いです…」

純「なんでこんなことになっちゃったんだろう」

純「よくある事だよ」

憂「嘘だッッッ!!!!!!!」

菫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

梓「そ、そういえば純にはお兄さんいたけど
その辺どうなのかなー」

純「割りと仲良しだよ」

憂「……」

純「い、いや、そんなこと無かったかなー」

純「そういえば誕生日プレゼントにブタのぬいぐるみもらった事あってさ~」

梓「え、え~?プレゼントにブタ~?」

純「そうそう、なんでブタなの?って聞いたら
『純のこと考えたらコレだ!と思って買っちゃった』ってさ~、失礼しちゃうよね~」

梓「あはは~」

憂「あ?」

梓「ど、どうしたの憂」

憂「そういえば…」

憂「私、お姉ちゃんから誕生日プレゼントもらったことない」

梓「えっ」

純「で、でもホラ、豚のぬいぐるみなんてもらってもねぇ…?」

菫「わ、私も直ちゃんから何ももらったことないですy

ダンッ

菫「ひっ」

梓「う、憂、カブトムシ潰しちゃダメだよ…」

憂「机がいたから…」

純(机がいたの!?)

ガチャ

直「遅くなってすみません」

菫「あっ直ちゃん」

菫「ウンチ大丈夫だった?」

直「……」

梓「なぜ直が菫に話しかけないか分かった気がするよ」

菫「えっ」

直「なんの話ですか?」

純「いや…スミーレ嬢がキミに嫌われているのではとヤキモキしててね」

菫「はうっ」

直「そんな事はありませんが…」

直「むしろ私のような友達の少ない
無愛想な口ベタに色々、話しかけてきてくれるので
菫の事は大好きですが何か?」

梓「なんでもありません」

菫「……ッ」

菫「直ちゃんはもう2度と私に話しかけないでいいから!!」

純「えっ」

菫「直ちゃんが何も言わなくても…私はずっと話しかけ続けるから…」グス

直「いや…まあ、何かは言うと思うけど」

純「いや~なんだかよく分からないけど、アッサリ丸くおさまった感じ?」

梓「めでたしめでたし」

ダンッ

菫「ひっ」

梓「憂、机もカブトムシも叩いちゃダメだよ…」

憂「私だって幸せなら手を叩くよ!?」

ピロリロ~ン♪

梓「あっ、唯先輩からメールだ」


おわり



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最終更新:2014年04月19日 22:09