─55─
唯「メゾソプラノ」
澪「ん、どうしたんだ?唯」
唯「音楽の話だよ、澪ちゃん」
澪「…?」
律「お前、それで音楽の話をしたつもりかよ」
唯「ホルテッシモ」
紬「フォルテッシモよ、唯ちゃん」
唯「え?」
紬「ホじゃなくてフォ」
唯「ほ…」
紬「そっちの方がカッコいいわ」
唯「ふお」
紬「フォルテッシィモ」
唯「ほるてっしも」
紬「唯ちゃんにはフォルテッシモの才能が無いようね」
唯「……」
唯「うるさいよ!!」
紬「えへっ」
律「なんなんだコイツら」
唯「大体わたし達けいおん部なのに
雪が積もったとかテレビのリモコンをなくしたとかそんな話ばっかり!!」
澪「それは確かに」
紬「ここらで一丁、軽音部らしい話題をかましてみようというワケね」
唯「へ長調」
澪「だからそれ、音楽の話題なの?」
唯「話題だよ~」
律「納得いかねーなぁ」
おわり
─56─
律「練習したら負けかなと思っている」
とある金曜日の昼下がり、私のバカな幼なじみのバカが
相も変わらずバカな事を言い出した。
私たちは大学軽音部に所属していている花の女子大生。
そして私は黒髪ロングなベース担当の素敵ポエマー。
バンド名は永遠の放課後こと、放課後ティータイム。
ただし練習は一週間前から一切合切していない。
高校時代から今のメンバー4人(+1人)でヨロシクやってきたワケだが
このクズどもは、やれティータイムだ休憩だと、とにかく練習をサボりたがる。
そりゃ私だってスパルタクスかつストイックなまでに
練習を頑張りたいワケじゃないが
このクソどもの怠惰な精神構造は常に常軌を逸している。
とにかくスキあらばサボりたがり
スキが無ければ私をのぞいた3人で
ジェットストリームアタックを仕掛けてきてまでサボろうとする。
なんというクズども。
正直、バンド全体のレベルアップがどうこうというより
もはやこのゲロカスどもの将来そのものを憂いてしまうレベルの
だらけっぷり。
ここは彼女自身らと、そのご親族とかのためにも
私がシッカリと導いてやらねばなるまい……。
どこかいいトコロに。
澪「さあ、導いてやるぞ」
唯「ほぇ、どこに?」
澪「えっ?そりゃお前…」
澪「どこかイイ所だよ」
唯「わ~い!」
律「ダマされるな唯!」
律「ウマイこと言って、ソイツはアタシらに練習させようって魂胆だぞ!」
澪「そうとも言う」
紬「そんな…」
唯「酷いよ澪ちゃん!」
律「アタシらは肉一片、血の一滴になろうとも練習しないぞ!」
澪「さあ、練習だ」
律「聞けよ!人の話を!」
唯「澪ちゃんは独裁者だよ!」
紬「まあまあ、お茶にしよ?」
律「よし来た」
澪「来てないよ!何も来てないよ!」
唯「ぐびぐび」
律「お茶うめえ」ゴクゴク
澪「わああーーっ!!!!」
紬「澪ちゃん、どうしたのかしら」
律「あの日なんだろ」
唯「大変だねえ」
澪「ずずっ…」
結局ふてくされながらもムギの淹れてくれたお茶をすする。
こうやって流されるから、いつもズルズルとサボる流れに移行してしまうのだが
せっかく淹れてくれたお茶をツッパねるのはさすがに感じが悪い。
澪「もう…これを飲んだら今日こそは練習するからな」
律「うーん……でもさ、アタシらだけが
澪の要求を一方的に聞くっていうのは公平さにかけるよな」
唯「たぶんそうだね」
紬「間違いないわね」
澪「なんだ、死ねばいいのか?」
私はチキチキとカッターの刃を伸ばし、そっと手首にあてる。
唯「ま、待って澪ちゃん!」
律「自分の命を人質にするなんて卑怯だぞ!」
澪「ここまで私を追い込んだのは誰だ!?」
うっ…と申し訳なさそうな顔をする彼女らの顔を見て
私の命も捨てたものじゃないな、と内心嬉しく思った。
律「分かったよ、練習するよ」
澪「えっ、ホント?」
律「ただし…、アタシらに勝負で勝ったらな」
勝負だと?
そんな事言ってコイツは以前
「大学内でかくれんぼして澪が全員見つけたら練習開始」
とかいう計略で私が真面目に探す中、3人でROUND1に行ったクソムシだ。
澪「うおおーっ!!!!」
私はなんとなくカッターを振り回した。
唯「ど、どうしたの澪ちゃん!?」
澪「はぁはぁ」
澪「…ちょっと思い出し怒り」
紬「私の眉毛が…」
見るとムギの眉毛がちょっと切れて細くなっていたが
命には別状はなかったようで何よりだ。
このままじゃ埒があかない。
かといって律が提示する勝負では、またズルズルと時間を食ったりするに決まっているので
私はコチラから勝負内容を提案する。
澪「よし、じゃあジャンケンポンで勝負だ!」
紬「ジャンケンポンて」
律「ガキか、お前は」
唯「澪ちゃん、私たちもう大学生なんだよ?」
澪「うおおーっ!!!!」
私はまたもやカッターを振り回した。
紬「私の眉毛が…」
見るとムギの眉毛が両方とも細く、切り揃えられていて
ちょうどよくなっていたので良かったです。
澪「まぁいいよ、ジャンケンじゃなくてもいいよ」
澪「でも時間がかかる勝負はダメだぞ」
律「ちっ」
唯「だったら指相撲しよう!」
紬「指相撲て」
律「ガキかコイツ」
澪「早く、うんたんとか言ってタンバリン叩けよ」
唯「うんたん♪うんたん♪」
そう言って、手のひらをヒラヒラさせる唯の目は
深い哀しみに彩られていた。
byハンバーグ
紬「でも、指相撲って噂には聞くけど
実際にプレイした事ないかも…」
唯「ええっ、ムギちゃん、指相撲した事ないの?」
紬「私、お嬢様だから…」
澪「ふ~む、お嬢様なら仕方ないな、絶対に」
律「おっし、じゃあムギのために指相撲対決とシャレこもうじゃないか」
澪「えっ」
律「澪が指相撲で見事、アタシらを倒せたら
望み通り練習してやろうじゃないか」
澪「ええっ?」
澪「……」
澪「うーん。まあ、指相撲なら、てっとり早く終わるからいいか…」
特に指相撲が得意というワケでも無いが、フェアなだけマシだ。
とにかく勝てば練習出来るんだから、やってみる価値はある。
それにムギは未経験者だし戦力外。
実質、律と唯のアホ2人に勝てばいいワケだから
3対1の戦いにしては分が良い方だろう。
律「それじゃ、まずはアタシが相手だぜぃ」
そういって律は右手を出してくる。
澪「ちょっと待て」
律「ん?」
澪「数じゃソッチが上なんだ」
澪「せめて私の利き手でやらせてくれ」
と、私は左手を出す。
律「こんなモンに利き手も何も無いと思うが…」
律「まあ、いいや。それだけ澪も本気ってワケだしな」
などと気色悪い事をほざきながら律も左手を差し出す。
ぐゅっ
澪「う…」
律の左手と私の左手をガシッと連結させると
律の体温と若干、湿った皮膚の感触が
左手に伝わってくる。
澪「お、お前は相も変わらず手汗がジュクジュク出てるなあ」
律「ジュクジュクは出てねーよっ」
律「しかし…澪の手はすべすべふわふわしっとりしてて良いなあ」
澪「変なこと言うんじゃないよ」
しかし、なんというかムギでは無いが
私も指相撲なんて、もう長い事やった覚えがない。
小学生のとき以来か?
この年齢になって友達と正面切って手指を握りあうなんて、おかしな感じだ。
唯「じゃあ、見合って見合って~」
律「おぉ…」
立てた親指の先を凝視して、心無しか肩やヒジに力がこもる律。
私は逆に左手を全体的にリラックスさせ、視線も親指だけでなく
律そのものを客観視するように眺める。
唯「それじゃ…れでぃー…ごーっ!!」
律「うりゃっ!」
唯が号令をかけるやいなや、律の親指が私の親指に襲いかかる。
その瞬間、私はプュッと律の眼球めがけて唾を吐きかけたよ?
律「ぐゃっ!?」
トカゲみたいな呻き声をあげているうちに律の親指を押さえつける。
澪「いちにいさんしいごーろくしちはちきゅうじゅっ」
唯「あっ、澪ちゃんの勝ち~!」
澪「フッフッフッフフw」
澪「ハッハッハッ、ハァーッハッハッハッwwww!!!!!」
律「き、きたねぇ…」
顔をヨダレでベトベトにした虫けらが何かホザいていたが
私は華麗にスルーしてやった。
澪「さあ、次は誰が相手だ?」
私は華麗なるドヤ顔で次のチャレンジャーを求めた。
唯「ちゅぎはわゃたしだょ」
心なしか顔が上向きの唯がスイッと左手を差し出す。
見れば唯の口の中にはヨダレがなみなみと蓄えられており
しゃべるたびに口からヨダレがびちゃびちゃとこぼれる。
唯「えーえーぉーおーをあおーぇ」
もはやこのキチ○イが何を言ってるか分からないが
たぶん勝負が始まると同時にこのキ○ガイは私にヨダレを浴びせかけるつもりだろう。
澪「このキチガイがッ!!!」 ○
ぱァン
私はドングリをほおばるリスみたいに
ヨダレで頬を膨らませた唯に平手打ちをかます。
唯「ぷるるァ!?」
ばしゅっ
その衝撃でびちゃびちゃとヨダレが律の頭上に降り注いだ
律「きたねぇ!きたねぇ!」
唯のヨダレまみれになって床を転がる律。
すると落ちてたホコリが
揚げる前の天ぷらみたいに律の身体中にへばりついて
名実ともに人間のクズに進化合神したクズが爆誕した。
律「あぅぁ~、とっでくれぇ~」
澪「……」
こいつ、なんのために生まれてきたんだろう…
最終更新:2014年04月19日 22:11