澪「さて…」

残るは世間知らずなお嬢様一人。

もはや勝負あったな!

私は景気づけにその辺にスライディングした。

ザザアァッ

唯「えっ」

律「なぜ突然スライディングしたんだ?」

澪「おいおい、変な事を言うヤツだ」

澪「『今からスライディングしま~す』って宣言してからスライディングするヤツ見た事あるのか?」

唯「……あっ、無いね!」

律「じゃあいいのか」

澪「いいさ」

紬「あの……ところで私、はじめてだから、あんまりハードなのはちょっと」

青ざめた表情のムギが震えながら
ナメクジみたいに床にヌトヌト這いつくばってる律を見下ろしている。

澪「じゃあ唯、ヨダレ無しルールな」

唯「合点だよ~」

律「そもそも、ヨダレを攻撃手段に含む指相撲なんてあるのか?」

澪「唯、審判を頼むな」

唯「ほぇ?」

澪「さあムギ、来い!」

唯「待って!待ってよ!」

澪「なにが?」

唯「私は?」

澪「なにが?」

唯「私が?」

澪「なんなんだ」

唯「……?」

唯「あっ!私との勝負はどうなったの!?」

澪「お前負けただろ」


澪「張り手で」

唯「そんな指相撲聞いたことないよ!?」

紬「それじゃ、位置について…」

私と唯は左手を組みあわせ、互いの親指に精神を集中させる。

唯「絶対に負けないよ~」

澪「お前、そこまで練習したくないのか…」

唯「ふふっ。わた紬「れでぃーごーっ!」


空気を読まずに号令を発したムギを尻目に
私と唯は親指をすり合わせる。

澪「唯の指は子供のようにぷにぷにとした指で
汗でヌッチュヌチャの律指と違って心地好い感触だ」

律「アタシの指はそこまで湿ってねーよ!?」

澪「しまった、心の声が…まあ、いいか」


唯「スキありっ」

少々短めで子供っぽい唯フィンガーだが
動きはなかなかに獰猛で、ぐりぐり私の親指を押さえつけにかかる。

すかさずカウンター気味に親指を翻し、唯の指の上に回り込むが
唯もコレをヒラリとかわす。

澪「平沢だけに…」

唯「なにが?」

澪「ヒラリ」

唯「…?」


唯「はあはあ」

澪「うっ…くっ…」

くにゅくにゃとお互いの指をこすり合わせ
攻防を続けるが、唯もなかなかしぶとい。

ひとまず私は唯の指を陰核に見立ててコリコリしてみる。

唯「わっ…はひゃぁっ?」

くりくりくりゅくりゅと唯の指をねぶるようにコネ回すと
唯の体からぐにゃぐにゃと力が抜けていくのが見てとれた。

唯「にっ…」

澪「今だ!いちにいさんしいごーろくしちはちきゅうじゅっ」

私はすかさず唯の指を押さえつけて見事、勝利したのだった!

澪「ぃよっ!日本イチぃっ!」

唯「はあはあ…」

目をトロ~ンとさせた唯が頬を紅潮させてヘナヘナとヘタりこむ。

紬「唯ちゃん…大丈夫?」

唯「えへへ、なんだろう…負けたのに、こんな気持ちいいのは初めてだよぉ…」

唯「澪ちゃんすごいスゴいよぉ…」

そういって唯は頭をゆらゆら揺らしながら部室からふらふら出ていった。

私はというと、勝者が敗者にかける言葉など無いワケで
唯の背中を黙って見送るしかなかったのだった。

律「唯がいなくなったから今日は練習無しな」

澪「ぐあっ!?しまった!!」

そういうワケで今日も練習できなかった。

くそっ、唯め…

うまい事いって逃げるなんて…

澪「ヒョオォォッ」

私はカッターを握りつつ
本棚に登ってバルログみたいにその辺に飛び降りた。


晶「さっきから黙って見ていたがアイツら正気なのか」

菖「知らない」





─学生寮─


澪「明日から土日で休みだし、今までの遅れを取り戻すつもりで
猛練習したいところだが…」

あのパープリンどもはまた一丸となって「遊びたい休みたい」とゴネることは必至だろう。

とはいえムギはまだ律唯に比べたら人の心が残っているので見込みがある。

なんとかムギを説得して練習派とサボり派の戦力を2:2に持ち込みたいところだが…


コンコン

コンコン

澪「ん…?」

いろいろ思案していると私の部屋のドアをノックする音が。

こんな遅い時間に誰だろう…


…ジェイソンかも知れないな


用心のため、カッターの刃をチャッと手首にあてる。

これでいつ怖い思いをしても速やかに死ねるぞ。

100パーセント勇気、もうやりきるしかないさ。


私はおそるおそるドアに近づきガッと開けた。


唯「あ」

澪「うわぁああっ!?死ぬぞ!?死ぬぞ!?私が!!」

唯「み、澪ちゃん?」

澪「はあはあ、なんだ唯か…」


澪「ジェイソンかと思ったよ」


唯「そんな風に思う要素があったっけ?」

澪「夢は信じていれば叶うって、よく歌とかにあるだろ?」

唯「ほぇえ」

唯は子猫みたいにきょとんと首をかしげた。

かわゆい女の子め!


私はガッと唯のシリをなでた。


唯「ほぇえ」

唯は子猫みたいにきょとんと首をかしげた。

かわゆい女の子め!


私はガッと唯のシリをなでた。

唯「ほぇえ」

唯は子猫みたいにきょとんと首を


そうして一時間が過ぎた。


澪「それでどうしたんだ、こんな夜遅くに」

澪「っていうかお前、指相撲に負けたのに練習…!」

唯「あ、うん、そのことで来たんだよ~」

澪「えぇ?…まあ、とにかく中で話そう」

唯「お邪魔しま~す」

カチャン…




幸「今、向こうの方から死ぬとかなんとか聞こえたけど…」

晶「考えるな。感じるんだ」


─澪の部屋─

澪「それで、どうしたんだい」

唯「澪ちゃん、私、勝負に負けたから
澪ちゃんの言う事をきくよ~」

澪「えっ、ホント?」

唯「うん」

澪「じゃあ明日、練習に来てくれるのか?」

唯「そのかわり指相撲して」

澪「えっ」

澪「なんだ、リベンジマッチか?」

唯「そんなんじゃないよ~」

唯「ただ指相撲をヤッてくれれば、勝ち負けに関係なく私は澪ちゃんの言いなりだよ~」

澪「…?」

よく分からないが
唯を見ると、おねだりしたい子供のようにモジモジしている。

本当に純粋に指相撲したいだけなのだろうか…

澪「まあ、いいや。それで練習する気になるなら」

私は早速、左手を出す。

唯「あ、待って」

澪「なに?」

唯「……」

唯「シャワー、浴びてきて…」

シャワァァァァ

私はシャワーを浴びた。

澪「これでいいのか?」

唯「あ、待って」

澪「なに?」

唯「部屋の灯り、消して…」

パチッ

私は部屋の灯りを消した…

唯「…澪ちゃん」

すると唯がやわやわと私の左手と自分の左手を連結させ、親指をすりよせてくる。


唯「澪ちゃん…はあはあ」


しまった、こいつ、変態だ。

それから一晩中、唯は夜の指相撲に夢中になった。

蛇のように絡み合い、貪りあう。

お互いの親指を。

ねりゅねりゅくにゅくにゅ指と指が指と指が指と指が
そうこうするうちに朝になり、唯は満ちたりた顔で部屋から出ていった。

澪「おーい、午後から練習だからな?寝坊するなよ」

唯「ん…」

チュッと唯は親指の先で私の親指にキスするように触れ、去っていった。

おかしな夜だったなあ…

なんだかんだで徹夜してしまったので、私は眠たい目をこすってベッドに潜りこんだ。


昼になり、私は食事をとるために部屋を出た。

さて…唯はこれでいいとして、あとは律とムギも練習に誘わないと。

どう声をかけようかな…などと考えていると
丁度、廊下の向こうからムギがスキップして近づいてきた。


澪「やあムギ。調子はどうだい?」

紬「うふふっ、ふふはゅ!」

頭のネジが2、3本ふっ飛んでいるようだが
秋山さん的には、あえてコレをスルー。

私はストレートに練習に誘ってみることにする。


澪「やらないか」

紬「やるやる!」

ムギが練習に参加してくれることになった。

たぶん。


澪「よし、あとは律を誘うだけだな」

紬「りっちゃん?」

紬「りっちゃんなら朝からどこかへ出掛けてしまったわ」

澪「そうなのか…行き先とか何か聞いてない?」

紬「行き先は聞いてないけれど、大きなトノサマカエルを捕まえるんだって息巻いていたわ」

澪「よし、あとは律を誘うだけだな」

紬「りっちゃん?」

紬「りっちゃんなら朝からどこかへ出掛けてしまったわ」

澪「そうなのか…行き先とか何か聞いてない?」

紬「行き先は聞いてないけれど、大きなトノサマカエルを捕まえるんだって息巻いていたわ」

澪「……なんのために殿様蛙を捕獲するんだ?」

紬「元気な家来が欲しいそうよ」

澪「……」


アイツのことは、ほうっておこう…


─部室─

土曜日は特別な講義しか無いので、大学構内に学生の姿は少ない。

そんなワケで軽音部の部室に集まる部員も少なく
今は私とムギと唯だけなわけで
誰にも気を使うことなく練習出来るというものだ。



澪「じゃあ早速やろうか」

唯「おっけー」

ジャラ~ンと唯愛用ギターのギー太を爪弾き始め
ムギもチンポロチンポロとキーボードをいじくりまわす。

ジャンジャカジャンジャカジャンジャカジャ力ジャカ♪

澪『FM東~京~♪』

唯『えふえむと~きょ~♪』

澪『汚ねぇラジオ~♪』

澪『FM東~京~♪』
紬『エフエムト~キョ~♪』

澪『政治家の手先~♪』

澪『オマンコ○野郎ッ!!!FM東~京~♪』

唯『ざまあみやがれっ!!!』


というワケでドラムの律がいなかったものの
なかなか熱がこもった演奏が出来て
秋山さん的には大満足でした。


澪「ふう、ちょっと休憩するか」

紬「じゃあ私、お茶淹れてくるね」

ムギも演奏で疲れているだろうに笑顔でお尻を揺らしながら
パタパタと給湯室へ歩いていく。

アイツはいい奥さんになるだろうなぁ。

グッヘへ…といった感じで、ムギのぷりぷりとした揺れ動くケツを
曇りなきマナコで見定めていると
唯がジリジリと近寄ってくる。

唯「ねぇねぇ澪ちゃん…」

澪「うん?」

唯「えへへ…」

恥ずかしそうに私の左手に指を絡めてくる。

澪「なんだい、また指相撲か?」

澪「ほれ」

唯「ふゅっ!?」

唯「んほぉおおおっ!?」

唯の親指の関節の裏側をクリクリしてやると
梓とのラストセックスのような咆哮をあげてびくびく震え始めた。



怖い。


私は念のためカッターを自分の手首にあてがった。


その後もときおり休憩を入れつつ演奏をジャンジャカ続けて
気が付けば夕方になっていた。

澪「ふぅ…、今日はこれくらいにしておくかな」

唯「ひゅあ~、ちかれたぁ~」

澪「……」

澪「誘っておいてなんだけど、今日は悪かったな」

紬「えっ?」

澪「いや、ホラ。
せっかくの休みなのに、こんな遅くまで付き合わせちゃって…」

唯「澪ちゃん…」

紬「ううん、最近あまり練習出来なかったから、今日は良かったわ」

唯「うんうん、そうだよ良かったよ~」

ここしばらくムギも唯もクスリを打ちまくるヤク中みたいな顔をしてたのに
汗を流したことで、いい表情になった…ような気がする。

澪「ふふっ、そっか」
私がそう言ってニッコリ微笑んだ瞬間
突然、ムギに押し倒され
唯が呆気にとられる私の顔面に野菜コロッケを叩きつけてきた。

澪「何故あんな事をしたんだ」

私は顔にへばりついた野菜コロッケをどうにかしながらムギと唯に詰め寄った。

紬「私はアレよ」

澪「アレってなんだい」

紬「練習がうまくいった喜びを分かちあおうと
ガッと抱きついただけよ」

紬「ただ私はパワータイプだから…」

澪「抱きついた勢いで図らずも押し倒してしまったというワケかい?」

紬「きっとそうよ」

澪「ふむ、納得できる」

唯「私はアレだよ」

澪「アレってなんだい」

唯「私が聞きたいよ」

澪「そうか…」


私は納得するしかなかった。


澪「まあいいけど…」
唯「えへへ」

澪「お前この野菜コロッケ責任もって、ちゃんと食べろよ」

唯「えへぁっ!?」

唯は虚ろな目で

自分が叩きつけて

グッシャグシャになっちゃった

コロッケを見つめていた。

いつまでも、いつまでも……




─56─


おわり



24
最終更新:2014年04月19日 22:12