〜桜が丘女子高等学校〜

………音楽室


梓「死ぬほど寒いです」ガクガクガク

唯「こんな寒い日はお鍋に限るよね〜」

梓「ぁあ〜ッ、イイですね。
極上の牡蠣をふんだんに使った鍋が喰いたいです」

律「鍋かァ……アタシはキムチ鍋でガッツリいきたいなぁ」

澪「私はカニだ!」 I'm a crab

紬「そっかー、みんなお鍋が食べたいのね〜」

唯「私は別に……」

紬「うん! 今日はお鍋にしよう!」

澪「本当か! わあい!」

律「いやっほぉー!」

梓「待ち遠しいです!」


紬「じゃあちょっと待っててね〜」ガチャ


ムギは物置部屋へ消えた。


澪「カーニっ カーニっ♪」

律「そーいやアタシ カニ○○○○ってカニを頬張ることだと思ってたんだよな〜」

唯「かに○○○○?」

梓「女子高生とは思えない話題提起ですね律先輩」

律「よせやいよせやい♪」

梓「褒めてませんよ」

唯「ねー、カニ○○○○ってなーにー? お祭り?」

梓「ヒトを喰べちゃうことですよ」

澪「ピッ!」ドタッ

唯「うえ〜……人っておいしいの?」

梓「さあ? 喰べたことないですから」

律「肩の肉ならまだイケそうだよな〜」

唯「あ〜あ! 分かるかも〜!」

梓「でも内蔵は勘弁してほしいですね」

律「あー、アタシ秋刀魚の内蔵もキツイな〜」

唯「えーっ? おいしいのに〜」

梓「それは憂がいつも新鮮で良質な秋刀魚を買っているからでしょう。 大事にされてますねぇ」

唯「うへへ……」


ムギ「みんな〜」ガチャ


澪「出来たか!?」ムクッ

律「おお! 待ーってましたぁ!」

梓「何鍋が採用されたんでしょう!?」

唯「楽しみだなあ♪」


ムギ「……」ごとん


澪「………」


律「ムギ……これは?」


唯「何も入ってないね……」


ムギ「冷蔵庫の中、ケーキとアイスしかなかったの……」


律「むしろ他の具材があると思ったのか」

梓「失望しましたムギ先輩」

澪「……じゃあ、これから買ってくるしかないか」

梓「でも外は猛吹雪ですよ? 出たくありません。 凍えちゃいます!」

澪「行くんだ!!」

唯「そこまでして鍋したいの……?」


律「………分かったよ、澪の好きな具材でいいから頼むぜ」

紬「そうね〜 お願いするわ澪ちゃん」


澪「お、おい、ちょっと待ってよ。誰か一緒じゃなきゃ私はここを動かないぞ」


律「うーん、その気持ちは分からんでもない。 よし! 唯! 一緒に行ってやれ!」

唯「えっ! なんで私!?」

梓「だって唯先輩、今こそ乗り気ではなさそうですけど、いざ鍋が出来たら一番に喰い付く姿が目に見えてますよ」

律「そうそう、だから唯も鍋作りに貢献しておくべきだって」

唯「おかしいよ! それならりっちゃんだって——

澪「よし! 唯! 行こう!」ぎゅっ

唯「わーん!」

梓「あ、唯先輩、どうせなら牡蠣お願いしますねー」


——バタン


律「さて、二人が帰って来るまでなにしようか」

梓「ムギ先輩! バナナケーキください! クリームたっぷりですよ!」

紬「は〜い♪」


………

………

………廊下


澪「さ、寒いぃ〜……」

唯「はー」

澪「どうした唯」

唯「ほら〜、廊下でもこんなに息が白くなるよ」

澪「知るか。 早く行こう」グッ


澪は玄関の扉を開けた。


——ビュゴオオオオオオオオオオオォォォォ!!


澪「ヒィーッ!?」

唯「ひゃあああああ!」


途端に校内へなだれ込む吹雪、澪はあっという間に真っ白になってしまった。


澪「」カチーン


唯「わお! 澪ちゃん亜種だね!」


澪亜種「もういやだ……帰りたいよお」めそめそ


唯「澪ちゃん……」


澪亜種「唯、こうなったら二人で先に帰っちゃおう……」


唯「カバンと楽器置いてっていいの?」


澪亜種「……忘れてた」


………

………

………


律「迂闊だったな梓! くらえ!」しゃっ

梓「あーっ! しまった! 律先輩! もう一回です!」

律「梓は丸バツゲーム下っ手だなあ」

——ガチャ


紬「あら澪ちゃん、おかえりなさい」


澪「ただいま…… この場所は変わらないな」


律「早えな! もう買ってきたのかー!?」


梓「牡蠣をよこすです! じゅるり!」


澪「まーだ、財布忘れただけっ」


梓「失望しました澪先輩」


澪「生意気な後輩め、お前もくるんだ!」ガシッ


梓「あああああ!? やめるです! 離すです!」


澪「黙れ、少しくらい先輩の言うことを聞け!」ズルズル


梓「ま、まだケーキが……… 律先輩! 助けてください!」


律「いいじゃんか、うまい牡蠣買ってもらえよ」


梓「わあああん!! 寒いのはイヤですゥゥゥーーッ!」


紬「またね〜」


バターン


………


………


………


梓「とんでもない先輩です」

澪「自分だけラクしようとする奴が何を言う」

梓「はあ…… 唯先輩はどこですか?」

澪「玄関の近くに待たせてあるよ。 ほら、そこに……」


唯「」カチーン


玄関には唯亜種が倒れていた。


澪「唯いいいいいいいい!?」

梓「唯先輩ィィィィーーーーーッ!!」


唯亜種「ふふ……つい気になってドア開けたら……… 不覚だよ……」


澪「こ、こんな真っ白になって……」

梓「澪先輩の責任です!」

澪「なんだと!?」

梓「唯先輩も連れてくるべきだったんですよ!」

澪「言わせておけば! こいつッ!」

唯亜種「ふ、二人ともヤメテ。 私が悪いんだよ……危ないって分カッてたノニぃ……ィ」

澪「唯がよくても、こいつのフザけた態度はもう見過ごせない!」

梓「望むところです! くらえ!!」バキャ

澪「いたあい! こ、こォいつッ!」ドグシャアッ

梓「ぎにゃああああ!!」

澪「この! この!」ドゴドゴドゴドゴ

梓「ひぎいいいいいい!! こ、降参! 降参ですう!」

澪「思い知ったか」パンパン

梓「言うこと聞きます」

澪「よし、じゃあまず唯を助けないと」


唯「」


澪「顔色は?」

梓「意外と整ってて可愛らしいです」なでなで


澪「身体は?」

梓「まるっこいケツと、澪先輩とは違って大きすぎない美乳がたまらんです」スパァン


澪「外に放り出すぞ」

梓「ご、ごめんなさい……」シュン


澪「で、顔色は?」

梓「バッチリですよ、毎朝ちゃんと喰べてますから。 貧血とも無縁です!」


澪「お前じゃないよ!!!」ズドム


梓「ギュッ!?」


澪「三度目はないからな。 顔色」

梓「ミ、澪先輩が調べればいーのに……… ええと、マシュマロみたいに真っ白です」


澪「身体」

梓「氷みたいに冷たいです」


澪「……脈は?」

梓「ピクリとも」


澪「し、心臓の鼓動……」

梓「柔らかいだけです」もみもみ


澪「ど、どうすればいいんだ……唯っ……」めそめそ

梓「私、聞いたことあります。凍えちゃったら人肌であっためるのが効果的らしいです」

澪「よ、よし、すぐ始めろ!」


梓「唯せんぱ〜い!」ぎゅうっ
唯「」だらんっ
梓「雪だるまに抱き付いてる気分です」


澪「そうか………しかし参ったな…… この吹雪じゃあ外に出られないぞ……」

梓「出たら即雪だるまですからね……」
雪だるま「」ぐったり


澪「けど、律とムギがお腹を空かせて待ってるし、冷えきった唯に鍋を喰わせてやりたい…… 私がやらなきゃ誰がやるっていうんだ」

梓「あの……私は……?」

澪「つべこべ言わずにあっためろ」

梓「分かってますよ」ぎゅうっ
唯「」

梓「ていうか、澪先輩先に行ったらどうです?
私は唯先輩を起こすのに尽力しますから」

澪「一緒じゃなきゃ嫌だ!」

梓「子供ですか?」

澪「そうだよ! 高校三年間は子供でいられる最後の時なんだ!」

梓「はいはいっ……分かりましたよー。 待ちます待ちますっ」

澪「子供扱いするな!」

梓「難しいですね」



唯「………ゥー」



澪梓「あっ!」


唯「は、ひひ、ひ、さ、さ、寒いよおお……」ガチガチガチ


梓「唯先輩! 目が覚めましたか!」

澪「よかった…… 一時はどうなることかと……」

唯「ぁあ あ あずにゃんあっためて……」

梓「任せてください!」ぎゅううっ

唯「うぐああ……」


澪「よし! 唯が目覚めたところでどうやって外に出るか考えるぞ!」

梓「ふつうに厚着でもすればいいんじゃあないでしょうか。 特に脚、スカート短すぎなんですよこの学校」

澪「まったくもってその通りだな。 よし! 多少無理してでも体操服を着よう。 待っててくれ!」ダッ


梓「はあ…… お腹空いた……」


………

………十分後

………


澪「持ってきたよっ」


梓「お疲れ様です。 私の分はどうしました?」


澪「律に借りてきた、これでガマンしてくれ」ばさっ

梓「了解です」

澪「ほら、唯のも」

唯「…………えっ?」

梓「唯先輩はあとで着せてあげますね」ごそごそ

唯「ちょっと待って……私も行くの?」

澪「三人でいる方が楽しいぞ?」

唯「無理だよぉ…… 動けない……」

梓「失望しました唯先輩」

唯「ヒドイ……」


………

………

………

………音楽室


律「おっせー、さっきまで入り口にいたんじゃあまだまだかかりそうだな」

紬「ピザ屋さん、あまりの猛吹雪で来られないって……」

律「えーーっ…… 腹減ったなぁ……」

紬「澪ちゃん達が戻ってくるまで、プロレスごっこでもする?」

律「アタシ負け確じゃね? それ」

紬「私、お友達とプロレスごっこするの、夢だったの〜」

律「夢かあ…… ムギは今までにいくつそういう夢を語ったっけな」

紬「さあ……?」

律「前にみんなでスーパー行ったとき、
"牛脂もらうの、夢だったの〜♪"って言い出したのは流石にどうかと思ったよ」

紬「夢だったんだもん!!」どがああん

律「でも、そういうちょっとしたことで喜んだり、幸せになれるのってなんだか羨ましいよ」

紬「りっちゃん……」ポッ

律「思えば行く先々で最低一個はムギの夢が叶ってたような」

紬「ええ……毎日が楽しかったわあ……」

律「おいおい……もう終わりみたいに言うなよ……」


………

………

………極寒の桜が丘


澪「観える! 聴こえる!」ざふっ ざふっ

梓「目の前すら見えませんし、吹雪の音しか聞こえませんよぉぉ〜」ガクガク

澪「まったく……これだから若輩は……」

梓「……そ、それより、唯先輩担ぐの代わってくれません? 流石に重いです……」 唯「」

澪「もう少しな、あそこの電柱まで」

梓「……………どこですか? 適当言ってません?」

澪「少しは先輩を信用しろ!」ごちん

梓「いたい!」



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最終更新:2014年05月01日 08:26