………

………

………

………

………


ビュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ!!


その身に突き刺さるような吹雪が猛威を振るう中、
華の女子高生三人(一人瀕死)は進み続ける。


梓「ハァ ハァ ハァ み、澪先輩っ……私、もうダメ……」どさっ

澪「なっ!? あ、梓!!」

梓「唯先輩を連れて………先に行ってくださいッ……」

澪「そんなことができるか! こいつッ!」ごちん


梓「」


澪「……なあ、梓、牡蠣鍋が喰べたいんだろ? こんな所で諦めてどうする」

澪「全員が無事に帰らなきゃ意味がないんだ。 私はみんなで鍋を楽しみたいんだよ」

澪「7:3、7:3の割合で牡蠣を入れてもいいから……頑張れ……梓!」


梓「」


澪「梓! ……梓あぁっ!」


澪「くそー!」グイッ


梓を背負った澪は、彼女のツインテールを胸の前でクロスさせるように結び、これから先 決して離れないよう固定した。

そして、腰まで積もった雪の中から唯を掘り出して抱きかかえる。


澪「私は諦めないぞ!」


………

………桜が丘女子高等学校

………音楽室


律「遅い」

紬「心配になってきちゃった…… 吹雪もさらに強くなってきたし……」

律「………アタシもだ」


紬「こんなとき、どうすればいいんだろう……」


律「バッキャロおおおおおおお!」ブーン

紬「きゃあ!」バシィ

——ドム!

律「ほォんッ!? チョ……冗談だって……」

紬「あ…… び、びっくりしたから……ごめんねりっちゃん……」

律「へへ……親友たちが凍えてるかもしれないんだ。だったらアタシ達のとるべき行動は一つだろ……?」

紬「そ、そうね! すぐに捜索部隊を派遣させるわ!」ピッ ピッ

律「当ってるけど違えよおおおおおおん!!」ブーン

紬「ええいっ!」サッ

——ボギャアッ!

律「キャアアアァァァァーーッ!!」


…数時間後

……

………スーパー

……

…駐車場付近


吹雪はすっかり止んでいた。 夕日が澄み切った空と雪を染めている。


澪「つ、着いた、着いたよお……唯……梓……ほら、分かるか……?」


梓「お疲れ様です澪先輩!! あ、これ、ほどいてくれません?」


澪「正直に話せ、いつからだ」


梓「道中澪先輩が
『ここまでか……糞、唯、梓、すまない……私は………諦めちゃダメだよミオ! ファイトだよ! ………そうだな、ミオ頑張る!』
って言ってた最中です」


澪「離れろ! こいつッ!」ブンブン


梓「きゃあ!」どてっ


澪「まったく…… 立て! 早く唯を手当てするんだっ」


梓「えへへ…… はいっ!」


………

………店内

………


澪「あ、ああ、あのっ、友達が一人凍えちゃってるんです。 このままじゃ凍傷になっちゃう…… お湯か何か、お借りできないでしョッか!」


店員「そりゃ大変だ! 待っててください! 今用意しますので!」ダダッ


澪「……」


澪「ひ、人の温かさにふれた……」グスッ


梓「泣いてる暇があったら、唯先輩のマッサージ続けたらどうです?」もみもみもみもみもみもみ


澪「……悪魔だなお前」


店員「すみません! 休憩室の準備が整いましたのでどうぞこちらへ!」


澪「あ、はい! ありがとうございます!」

………

………暖房の効いた休憩室。

ちゃぶ台の上には店員からの餞別であるカイロ三十枚と温かいお茶、そしてお饅頭が置かれていた。

そばにはタオルと洗面器に入ったお湯もある。


店員「ではごゆっくり」ぱたぱた


店員は去っていった。


澪「ふう…… これならなんとかなりそうだな……よッと」

澪は唯を畳の上に寝かせる。

梓「それじゃ……唯先輩っ……服脱がしますね……」グイッ グイグイ ブチブチブチッ

澪「………おい」

梓「なんですか!!」

澪「こォいつッ!」ドギャッ

梓「がッ!?」ブシュッ

澪「唯の世話は私がやる! お前は饅頭でも喰ってろ!」

梓「分かりました!」もぐもぐ


澪「……あーあ、ボタンが……律に付けてもらうしかないな……」


………

………

………

………桜が丘女子高等学校

………エントランス前


律「はっくしょおおおおおい!」

紬「はあっ!」コキーン

律「エ"ン"ッ!!!」ビグンッ

紬「ご、ごめんなさい…… くしゃみがかかりそうだったから……」

律「そ、そッか、いいさいいさ。 それより、和はまだかな……おお寒っ」

紬「和ちゃんが学校に残っててよかったわね〜」

律「ああ、ホント頼りになるやつだよ」


——ドドドドドドドドォ


律「おっ、ウワサをすれば……」


校庭に至る道から、スノーモービルに乗った和が颯爽と現れた。


和「ふんっ」ザザザザザァァーーーッ


雪煙を立てながら、律達の前に止まる。


和「待たせたわね。 上の説得に手間取っちゃった」ドルルルルン ドルルン


紬「使用許可が出たのね!」

律「さっすが和ァ!」

和「この桜が丘女子高等スノーモービルは特注品、驚異の五人乗りよ。 いざというときのため生徒会長である私が操作方法を学んでいたの」


和はスノーモービルのハンドルを誇らしげに撫でる。


律「すげー! かっけえなあ!」

紬「和ちゃんの運転するスノーモービル、なんかワクワクしちゃう♪」


二人は期待と物珍しさに目を輝かせながらスノーモービルに乗り込む。


律「おーし! 目指すは最寄りのスーパーだ! 頼むぜ和ァ!」



和「掴まってて、飛ばすわよ」ドルルルルルルン


——ドオオオオオオォォーーッ


………

スーパー………

………休憩室


梓「あっ! 澪先輩! 唯先輩がっ!」


唯「ぅ…… う〜ん……あれ? ここどこぉ……」

澪「唯ぃ……よ、よかったよぉ」うるうる

唯「みおちゃん……そっか、わたし、気を失ってて……」

梓「普段お菓子ばかり喰べてるからですよ!
私みたいに日頃から栄養をタップリ摂っていればあんな吹雪程度でへこたれることありません!」

唯「えへへ…… 面目ないよ〜」

澪「………………まあ、元気そうでよかった。
じゃあ、私は具材買ってくるから、ゆっくり休んでなよ」


梓「はいです!」


澪「お前じゃない!!」ボゴン

梓「おォん!?」

………

………店内

………海産物コーナー


澪「糞…… 寒いなあ……」ブルブル


梓「わああ…… 見てください澪先輩! サザエ! おいしそうですよ!
あっ! こっちにはホタテも!」キラキラ


澪「黙れ、第一はカニだ。 とびきりのタラバガニを探すんだ」


梓「はい……」しゅん


澪「えーっと……違う、ここじゃないな………こんな切り身達に用はない……」キョロキョロ


梓「!」たったったっ


澪「思えば……カニとカキだけじゃあ なんだかな。 少しくらい野菜や豆腐、ダシも買わないと……」


梓「澪先輩っ!」


澪「どうした?」


梓「買い物カゴ取ってきました!」らんらん


梓はニコニコと満面の笑顔でカゴを差し出した。


澪「そうだった、カゴは要るな。 ありがとう!」


受け取ったカゴには調理用生牡蠣三パックとバナナが入っていた。


澪「…………オイ、なんだこれは」


梓「えっ? 澪先輩が買ってくれるんじゃないんですか!?」


澪「そんなことは言ってない!!」


梓「……」ムスッ


梓はさっきの笑顔とは一転、むくれてしまった。


澪「ちょ……」


澪「…………はあっ……しょうがないな。 分かった、買ってやるよ」


梓「本当ですか!」パァァ


澪「戻すのはなんかアレだし…… 今回だけだぞ」


梓「バンザーイ! 澪先輩大好きです!」


澪「現金な奴だ」


………

………

………雪道


和「どう? この風を突っ切る爽快感! 最高じゃない?」ドドドドドドド

律「速えぇーっ! オープンだからなおさら速くかんじるぜ!」

紬「最高よ和ちゃんっ!」


和「ふふっ。 あ、ちょっと近道するわね」グインッ


和はハンドルを切って方向転換、車に雪が積もって出来たジャンプ台に向かって猛進する。


律「うおおおおい!! 大丈夫なのかあああ!?」

和「こういう賭け、ワクワクしない?」ドドドドド

紬「きゃあああああ!!」


——バウンッ!!


和の運転するスノーモービルはジャンプ台を通じ、道路脇に出来た雪壁に乗り上げる。


和「ふんっ!」ズギャギャギャギャ

律「ひえええええええ!!!」ガクンッ

紬「ーーーッ!」


スノーモービルはそのまま雪壁の上を走る。


和「うまくいったわね。 さあ、ここからよ」ドルルルルン ドルルン


和は再びハンドルを切り、民家の屋根に飛び移った。


律「ぎゃあああああああ!?」 紬「和ちゃああああん!!」


和「喋ると舌を噛むわよ!!」グンッ


ドズンッ!!


そして、スノーモービルは無事隣の道路に飛び降りた。


和「これで後はまっすぐ行くだけよ。 かなり時間の短縮になったんじゃない?」

律「ハ、ハードな奴だ……」げんなり

紬「最高……*」ウットリ

和「暗くなってきたわね。 急ぐわよ」ドルルルルルル


ドドドドドドドドドォォォーー!


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最終更新:2014年05月01日 08:27