憂「あっ、紬さんいらっしゃい」

紬「おはようございます、憂ちゃん。今日はよろしくお願いするね」

憂「はいっ。任せてください」

唯「誰かきたの…? あれ、ムギちゃんだ」

紬「こんにちは唯ちゃん。これ、お土産のプリンよ」

唯「わーい。でもムギちゃんがくるなんて珍しいねぇ」

紬「憂ちゃんにお菓子の作り方を教えて貰いにきたの」

唯「へぇー。そうなんだ」

紬「ええ、そうなの」

憂「それじゃ台所に行きましょうか」

唯「ねーねー憂。何を作るの?」

憂「トリュフを作るんだよ、お姉ちゃん」

唯「トリュフ?」

紬「ええ。あの生っぽい柔らかいチョコレートのこと」

唯「あぁ、あれ。ムギちゃんもたまに持ってきてくれるよね」

紬「ええ。賞味期限が短いから頂いても食べきれないから」

唯「でもなんで手作り?」

紬「梓ちゃんとプレゼント交換するの」

唯「ははーん。ムギちゃん恋してますねぇー」

紬「実はそうなの」

憂「今日の紬さんとっても楽しそうです」

紬「そう見えるちゃうかな。実は今日の夕方梓ちゃんに渡そうと思ってるの」

憂「今日は頑張りましょう紬さん」


―――
澪「あずさー、こっちこっち」

梓「澪先輩、待たせてしまってすいません。ところで…」

澪「あぁ…」

梓「なんで律先輩までいるんですか?」

澪「悪い。梓と遊びに行くって言ったら自分も行くって聞かなくてさ」

律「私がいちゃいけないのか?」

梓「いえ。そんなことありません」

澪「そうなのか?」

梓「むしろ考え様によってはついてきてもらったほうが助かるかもしれません」

澪「ならよかったよ」

律「それじゃあ行くか」

梓「はい」

律「それにしても梓がなぁ」

梓「いけませんか?」

律「いや、そんなことないが、ちょっと意外というか」

梓「まぁ、それはあるかもしれません」

澪「そうなのか?」

梓「そうですね。私も出会ったときはこうなるなんて思ってませんでしたから」

澪「ふぅん」

梓「それでどこへ行きましょうか」

澪「考えてたんだけどさ、やっぱり百貨店かなって」

梓「だけどムギ先輩って庶民的なもののほうが好きじゃないですか?」

澪「確かにそうなんだけど、最初はちゃんとしたものがいいと思うんだ」

梓「……一理ありますね。今日は澪先輩にお任せします」



―――
憂「こうやってチョコレートを溶かします」

紬「ふむふむ」

憂「温度を上げすぎても下げすぎてもだめでなんです」

紬「ふむふむ」

憂「正しい温度で作らないと滑らかさと口溶けが全然違っちゃいますから」

紬「温度管理が命なのね」

憂「はい。お菓子作りは正確さが命なんです。目分量でやったら大失敗しますから」

唯「ふむふむ」

憂「あっ、お姉ちゃんは遊んていいよ。完成したら持っていってあげるから」

唯「えーっ、私も見てるよ。二人が料理してるところ」

憂「退屈じゃない?」

唯「憂を見てるのは楽しいよ」

憂「そ、そうかな。えへへ」

紬「二人は本当に仲がいいのね」

憂「はい! そうなんです」

唯「私達とっても仲良しなんだよー」

紬「うふふふ」

憂「さっ、それじゃあ気を取り直して、まずはこの板チョコを溶かしていきましょう」

紬「はいっ! 憂先生」


―――――
律「それで、どこから見るんだ?」

澪「まずは宝石売り場にでも行ってみようかなと思ってるんだが」

律「えっ、お金は大丈夫なのか?」

梓「予算は十分あります」

律「マジで?」

梓「大マジです」

澪「ムギはさぁ、意外とピアスとか似合うと思うんだ」

梓「ピアスですか……でも穴あけてませんよね」

澪「マグネット式なら大丈夫だろ」

梓「確かに」

律「そうかぁ? 私はネックレスのほうが似合うと思うけどなぁ」

澪「でもネックレスって首元開ける服じゃないと見えないぞ。これから冬になるんだし」

律「それもそうか」

梓「ピアスやネックレスもいいですけど、シンプルな指輪も似合うと思うんです」

律「…」

澪「…」

梓「どうしました?」

律「いや、なんでもないよ」

澪「あぁ、意外と大胆だなって」

梓「えっ、えっ」

律「とりあえず行くか」

澪「あぁ」


―――――
紬「……どうかな?」

憂「……ちょっと柔らかすぎます。これじゃ上手く固まらないと思います」

紬「テンパリングって難しいのね」

憂「私も慣れるまで苦労しました」

紬「どうしても焦っちゃって駄目ね。テンパリングだけにてん――」

憂「その先は――」

唯「駄目だよ!!」

紬「……っ」

憂「ふぅ、ぎりぎりセーフだったね、お姉ちゃん」

唯「うん。チョコレートの温度が一気に氷点下まで下がるところだったよ」

紬「おそろしいこともあるのね…」

憂「紬さん、気をつけてくださいね。梓ちゃんの前でそんなこと言ったら百年の恋も冷めちゃいますから」

紬「えっと…いつも笑ってくれてるけど」

唯「あずにゃんの笑いのツボって…」

紬「えっと……これからは出来るだけ気をつけるわ」

憂「ええっと。それで、どうしましょうか。だいぶ材料が減っちゃいましたけど」

紬「これだと足りない?」

憂「3つぐらいしか出来ないと思います」

紬「梓ちゃんの分と憂ちゃんの分と唯ちゃんの分で丁度じゃない?」

憂「1個でいいんですか?」

紬「ええ、それに多分今から作り直してたら時間がなくなっちゃうから」

憂「……そうですね。次は成形していきましょうか」

紬「はい、憂師匠」


―――
澪「結局アクセサリーは駄目だったか」

梓「駄目ってわけではないんですが、ピンとくるのがなくて…」

律「あの指輪良かったと思うんだけどなぁ」

梓「あんな大きなターコイズのついた指輪はムギ先輩に似合いませんよ」

律「そうかー?」

梓「そうです」

澪「あぁ、私も梓に同感だ」

律「むむむ」

梓「それじゃあ次はどこを見に行きましょうか」

律「あっ、あれだ。エクササイズマシーンとかどうだろう」

澪「あっ、いいな。私だったら凄く嬉しい」

梓「確かにムギ先輩も喜んでくれるかもしれませんが……」

律「だろだろ」

梓「初めてのプレゼントがダイエット器具ってのはちょっと…」

澪「……あぁ、ごめんな、梓。確かに私でも嫌かもしれない」

律「なんでだ?」

澪「……」

ポカ

律「な、なんで無言で殴るんだよ」

澪「はぁ、梓。行こ行こ」

梓「そうですね。律先輩は置いていきましょうか」

律「お、おい」


―――
紬「できた」

憂「はい。できました」

唯「やったね」

紬「ええ」

憂「えっと、お姉ちゃんお腹空いてる?」

唯「うん」

憂「それじゃあ、あーん」

唯「あーん」

モグモグ

唯「うん。とっても美味しいよ!」

紬・憂「やった!」

紬「あっ、私はそろそろ行かなきゃ」

唯「時間なんだね」

紬「ええ。憂ちゃん、今日は本当にありがとうございました」

憂「どういたしまして。また遊びに来てくださいね」

紬「ええ、そうね。それじゃあまた」

唯「ばいばーい」

憂「さようなら」


―――
唯「行っちゃったね」

憂「うん」

唯「それじゃあ今度は私が憂に食べさせてあげるよ」

憂「えっ、いいよ。恥ずかしいし」

唯「そんなこと言わずに、あーん」

憂「もう、お姉ちゃんったら……」

唯「あーん」

憂「あーん」

モグモグ

憂「うん。とっても美味しいね」

唯「ねっ」


―――
澪「あのぬいぐるみなんて結構良かったんじゃないか」

梓「でも、ムギ先輩ならあの手のものは結構持っていそうですし」

澪「そうだな」

梓「あっ、でもそろそろ時間が……」

澪「うーん。そろそろ決めないといけないか。やっぱりアクセサリーで」

梓「そうですね、やっぱりそれが無難でしょうか」

律「おーい」

澪「律? 今まで何やってたんだ」

律「置いてっといてそれはないだろ、なっ、これなんてどうだろう?」

澪「湯呑? 敬老の日のプレゼントじゃないんだぞ?」

梓「それですっ!!」

澪「えっ?」

梓「律先輩、見直しました」

律「えっ?」

梓「ムギ先輩、ずっと湯呑を欲しがってたんです」

澪「そ、そうなのか?」

梓「はい。このペアの湯呑ならプレゼントにピッタリです」

律「だろ」

梓「伊達に部長をやってるわけじゃないんですね」

律「あはは、そう褒めるなよ」

梓「別に褒めてませんよ」

律「えっ」

澪「まぁ、なんにせよ決まってよかったよ」

梓「……はい。お二人とも、今日は本当にありがとうございました」

律「あぁ、後は梓次第だ」

澪「頑張れよ」

梓「はい!」


―――
澪「行ったな」

律「あぁ」

澪「なぁ、律」

律「なんだ?」

澪「これからカラオケにでも寄ってかないか?」

律「二人でか?」

澪「二人で」

律「いいぞ」

澪「よしっ! 今日は歌うぞー」

律「だなっ!」


二人は繁華街へと消えていった。


―――
紬「…………あら」

純「…えっ」

紬「あなた……純ちゃんね」

純「あっ…と………紬先輩でしたっけ」

紬「えぇ」

純「こんなところで会うなんて奇遇ですね」

紬「この公園にはよく来るの?」

純「めったに来ませんね。今日はたまたまこれを――」

紬「カメラ?」

純「最近はまってるんです。先輩も一枚撮ってもいいですか?」

紬「いいわよ」

パシャッ

純「ところで、紬先輩はこんなところで何を?」

紬「梓ちゃんと待ち合わせしてるの」

純「梓と?」

紬「えぇ」

純「逢引ですか?」

紬「実はそうなの」

純「えっ、本当にそうなんですか」

紬「ええ」

純「それじゃあ私はお邪魔になる前に――」

グー

純「…」

紬「…」

純「す、すいません。実はお昼ごはん食べそびれちゃって…」



2
最終更新:2012年10月31日 20:07