廊下
菫(さて、今日も部室に行ってお茶の準備しなきゃ…あ、直ちゃん)
菫「お疲れ〜。一緒に行こう?」
直?「え?」
菫「え?行かないの?」
直?「どこに?」
菫「ど、どこって…部室に…」
直?「部室なら今から行きますけど」
菫「な、なんで敬語…」
直?「?…では、行きますので」スタスタ
菫「ええっ!?そっち部室じゃないよ!?…行っちゃった」
菫(…どうしたんだろ、急によそよそしく…もしかして、何か気に障ることしたのかな)
………
部室
菫「こんにちは〜、ってまだ先輩達来てないや…って、直ちゃん!?」
直「? どうしたの、菫」
菫「あれ、さっき逆方向に行ったはずじゃ…いつの間に抜かされたんだろう」
直「私ずっとここにいたけど…」
菫「もう、からかわないでよ!さっきちょっと怖かったんだよ、直ちゃん?」
直「…?何の話?」
菫「んもう…いいよ」
菫(なんだったんだろう…とりあえず怒らせたわけじゃないみたい、よかった)
………
下校時
菫「直ちゃん、一緒に帰ろう?」
直「うん。あ、ちょっと忘れ物したから待ってて」スタスタ
菫「はーい」
菫(……)
菫(……)
菫(…あれ?向こうに見えるのは…直ちゃん!?)
菫「え…ちょっと!?帰っちゃうの!?」
直?「はい?」
菫「もう、待ってたのに…先に行っちゃうなんてひどいよ」
直?「えっと…すいません、私の記憶が…。待ち合わせしましたっけ」
菫「えっ…そんな、また…ねぇ、何で急にそんな意地悪するの…」
直?「ご、ごめんなさい…では」スタスタ
菫(…どうしちゃったの、直ちゃん…。はぁ、帰ろう…)
菫(…あれ、今度は向こうに直ちゃんがいる。もしかして、帰ったと見せかけてまたさっきみたいに急に元に戻るのかな)
菫(……)
菫「……あの……」
直?「……はい?どちら様ですか?」
菫「う…うわーん!!!」ダッ
直?「…?」
………
翌日 クラス
菫「……」
直「……菫?」
菫「……元に戻ったの」
直「……昨日どこ行ってたの?待っててって言ったのに」
菫「知らないもん!!」
直「!?」
菫「……」
直「……」
………
放課後 部室
純(ねぇ、あれどういうこと)
梓(いや、全然わかんないんだけど…)
憂(珍しいね、あの2人がけんかなんて…)
さわ子(お茶頼める空気じゃないじゃない…)
梓(…先生は黙っててください)
菫「……」
直「……」
梓「ね、ねえ!そろそろいつものお茶…あ、お茶じゃないよね、練習しなきゃねー、あはは…!」
純「だめだこりゃ…」
梓(う、うるさい! 純こそ何とかしてよ!)
純(えー…)
さわ子「菫ちゃん、お茶淹れてくれない?」
梓「ちょっ、先生は黙っててって…」
菫「……」
直「……」
梓「うわ…さわ子先生の言葉にも反応しないなんて…」
さわ子「地味にショックね…」
憂「心ここにあらずって感じだね…」
純「ほーら、スミーレに直! 黙ってちゃわかんないでしょ!?」ガシッ
菫「え!?」
直「!?」
純「何があったのさ!ほら、言ってみなって」
菫「あ、う、あの…」
梓(なんかくやしい)
………
純「直が赤の他人のフリをした?」
菫「……」コクン
憂「そんなこと…しないよね、直ちゃん?」
直「してませんが…」
菫「……」キッ
直「す、菫…本当に私そんなことしてないんだけど…人違いじゃない?」
菫「ひ、人違いなんかじゃ…っ!!」
梓「す、菫、落ち着いて!」
さわ子「それ直ちゃんの四つ子じゃないの?」
梓「先生はふざけてないで黙っててくださいっ!」
直「いや、本当ですよ」
梓純憂菫「…えっ!?」
さわ子「だから言ったのに…」プクー
梓「えっ、あっ、すいません先生、ってか、四つ子!?」
直「はい。5人きょうだいの1番上で、上4人は四つ子です。そうか、それで菫が…」
菫「」ポカーン
純「知らなかった…てか今まで見たことなかったし。あ、見てもわかんないか」
憂「じゃぁ今まで見かけた直ちゃんは妹さん達だったかもしれないんだね」
梓「確かにそのへんで直を見かけることが多かったような…」
さわ子「単純に4倍の確率で見かけるわけだものね」
菫「じゃ、じゃぁ私…直ちゃんじゃない人に話しかけて勝手に怒って…あああ、ごめんなさい〜!!!」
直「う、ううん、ごめん菫、こっちこそ気づかなくて」
梓「直もすぐ言ってあげればよかったのに…双子、あ、四つ子?なら間違われることもよくあるでしょ?」
直「まぁ確かに間違われた覚えはありますが…そんなに似てないので自分ではその選択肢は浮かびませんでした」
菫「え、ほんとにそっくりだったけど…」
純「ま、他人からみたらわかんないけど本人から見れば結構違うんじゃない?ね、憂」
憂「私もお姉ちゃんと似てるってよく言われるけど、細かいところは全然違うよ」
梓「まぁ中身はほぼ違うけど…」
純「ま、一件落着だね!今回私のおかげで解決したしなんかおごって、梓!」
梓「うぐ…反論できない…けどおごるのは話が違うでしょ!」
菫「はぁ…自分が恥ずかしいです…ごめんなさい、直ちゃん」
直「いいよ。こっちこそごめん」
憂「仲直りだね♪」
さわ子「これでやっとお茶が飲めるわ…」
……
下校時
菫「今日は一緒に帰ろう?」
直「うん」
菫「…直ちゃんの四つ子の妹さん達、みんなこの高校なんだ?」
直「そう。みんなクラス違うから」
菫「全然知らなかった…いや、見かけてたんだろうけど全員直ちゃんだと思ってたのかな…」
直「まぁ確かに言ってなかったけど」
菫「他のみなさんは部活やってるの?」
直「うん。司(つかさ)は美術部、真(まこと)は文芸部、実(みのり)は書道部」
菫「へぇ、みんな文化系なんだね!」
直「司は美術理論を完璧に覚えていったんだけど結局絵が描けなくて、パソコンでデザインしたり他の人の絵の構成をチェックしたりしてる」
菫(なんだか直ちゃんにそっくり…)
直「真は小説理論を完璧に覚えていったんだけど結局ストーリーが作れなくて、パソコンで他の人の文法とか構成をチェックしたりしてる」
菫(…じゃぁ、まさかもう一人も…)
直「実は書道理論を完璧に覚えていったんだけど結局きれいに字が書けなくて、パソコンで他の人の字の筆跡とかバランスをチェックしたりしてる」
菫「みんな似てるんだね…」
直「そうかな?結構違うと思うけど…見てみる?」
菫「えっ、今?」
直「呼んでみようか」ピッピッ
菫(どうしよう、緊張してきた…)
直「みんな今来るよ」
菫「は、はいっ!」
……
直「あ、来た」
司「あ、昨日の」
真「あ、昨日の」
実「あ、昨日の」
菫「本当に本当に本当にすみませんすみませんすみませんでしたーーー!!!」
直司真実「「「「いやいやそんなに謝らなくても…」」」」
菫(に、似てる…というか直ちゃんが四人になったようにしか見えないよ…)
司「この人が斉藤さんだったんだね」
直「あ、うん。そう」
菫「え、知ってるんですか?」
真「直がよく話してるから」
実「いつも斉藤さんの話題ばかりだよね」
直「え、そうだっけ…」
司「直だけ部活に同級生がいて羨ましい…」
菫「え、みなさんそうなんですか?」
真「うん、美術部も文芸部も書道部も新入生は私達1人だけ」
実「抜け駆けは許さないよ、直」
直「抜け駆けだなんてそんな…まぁ菫がいてよかったけど…」
菫「直ちゃん…」
司「私も斉藤さんと友達になっていい?」
真「私も斉藤さんと友達になっていい?」
実「私も斉藤さんと友達になっていい?」
菫「う、うん!いいですよ。…いいですよ。いいですよ」
直「いちいち3回返事しなくてもいいのに…」
司「なんて呼ぼうか」
真「さん付けじゃないほうがいいよね」
実「じゃぁ…」
司真実直「「「「斉藤!!!!」」」」ビシッ
菫「みょ、名字はやめて!てか、直ちゃん!今わざとやったでしょ!?」
直「ふふふ」
菫「んもう…4人いっぺんに指差されると怖いよ…あ、私も下の名前で呼んでいい?」
司真実「「「いいよ」」」
菫「ええと…ごめんなさい、まだ見分けが…」
直「そんなに似てるかな?」
司「結構違うよね」
真「何か目印つけようか?」
実「じゃぁ各々の部活に関わる何かを…」
菫「あ、それいいかも!」
直「なるほど…じゃぁ私の担当はパソコンだから…」
司「私もパソコン…」
真「私もパソコン…」
実「私もパソコン…」
菫「う…なんかごめんなさい。で、でもみなさんパソコンを使って違うことをやってるんだからいいんじゃないかな、例えばキーホルダーとか」
直「中野先輩がつけてるみたいな?」
菫「そう、そう!みんなで買いに行ってみない?」
司「いいね」
真「私は何だろう、本の形のキーホルダーとかかな」
実「どこに売ってるか知ってる、菫?」
菫「(名前で呼んでくれた…!)え、えっとね、いい雑貨屋さん知ってるからそこに行こう?」
……
雑貨屋
菫「ここだよ」
直「おお…」
司「かわいい…」
真「これが女子力…」
実「なるほど…」メモメモ
菫(みんな同じ表情だけど微妙に反応違うのかも…?)
菫「ええとね…あったあった、この
シリーズのキーホルダー、いろんな部活用のが揃ってるんだよ」
菫「直ちゃんはこれ、ギターのキーホルダーがいいんじゃないかな?」
直「なるほど、軽音部っぽいね」
菫「それで、司ちゃんは…」
司「私私」フリフリ
菫「ご、ごめんねすぐに分からなくて…それで、美術部だからこれを」
司「キャンパスとパレット…!いいね」
菫「えへへ、よかった…それで、真ちゃんは文芸部だから」
真「はいはい私私」フリフリ
菫「はい、このキーホルダーを」
真「本にふでペンか…ふふふ」
菫「ふふ…でね、実ちゃんには、書道部だからこれを」
実「『書』と書いてある紙と筆…なんかかっこいい」
司真実「「「ふふふふふ…」」」
菫「気に入ってもらえたみたいで良かった!」
直「ありがとう、菫」
菫「うん!」
……
後日 放課後
菫(あれからというもの…)
司真実「「「……」」」ジーッ
菫(三人の視線を感じる…)
直「何してるの…入ってくれば?」
司「だって別のクラスだし…」
真「直としゃべってるし…」
実「邪魔しちゃ悪いかなと思って…」
直「いやそんなこと気にしないでも…」
菫「そ、そうだよ、もう友達なんだし」
直「というかみんな部活は?」
司真実「「「ぐぬぬ…行ってきます…」」」トボトボ
菫「あっ…行っちゃった」
菫(もっとお話ししたほうがいいかなぁ…休み時間の度に覗かれててなんか怖いよ)
直「菫、部活行こう?」
菫「あ、うん!」
……
その日の夜 自宅
紬『それは…ふふ…間違いないわね…』
菫「え、何が?」
紬『ううん、何でもない。菫、みんな大切にしなきゃダメよ?』
菫「うん、そうだよね…今度みんなで遊びに行こうかなあ」
紬『うんうん、でもね、だらしないのもダメよ?きっぱり決めなきゃ』
菫「え、何の話?」
紬『うふふ…誰が本命になるのかしら…』
菫「え!?いや、そんなつもりじゃ…!!」
紬『頑張ってね、菫♪』ピッ
菫「あっちょっとお姉ちゃん待って!…んもう…何なの急に張り切っちゃって」ピッ
菫「直ちゃんにメールしてみようかな」
ピリリ
菫「ってあれ?直ちゃんからメールきた」
菫「…!?『うち来ない?』って…!」
菫「えっと…いきなり家か…」
菫「…『はい、行きます』」
最終更新:2014年06月29日 20:39