和「……琴吹さん。……琴吹さん。……琴吹さん。……ということで、マーニー役は琴吹さんに決定しました」
パチパチパチ……
紬「えっ……ええっ!?」
唯「おお、すごい!ダントツでムギちゃんに票が入ったよ」
律「そりゃぁなぁ、見た目からしてピッタリすぎだし」
澪「ムギ、よかったな。おめでとう」
紬「えっ、えっ……でも!私、脚本が……」
和「それは他の人に任せてもいいんじゃないかしら。せっかく皆に選ばれたんだし、ね」
紬「う、うん……」
和「それでは、次にアンナ役を決めようと思います。立候補してくれる方はいますか?……」
和「……ないようですね。それでは、推薦はありますか?」
圭子「……」クルッ
紬「……どうしたの圭子ちゃん?」
圭子「……えっとね、私個人的にはさ……砂原さんがいいと思うんだけど!」
よしみ「……え?」
圭子「ほら、ちょうどムギちゃんと隣同士だし、見てよ!なんかぴったりだと思わない?」
エリ「あ、確かに似合ってるかも?」
三花「うん、なんかミステリアスな感じがアンナっぽいかも!」
よしみ「え、えっと……」
圭子「でしょ?どうかな、推薦しちゃダメかな?」
和「推薦ということでよろしいですか?もし砂原さんがそれでいいなら、決定にしますけど……」
よしみ「……」チラッ
キミ子「……」ニコッ
響子「……」ニコッ
よしみ「……わかりました。やります」ニコッ
和「それでは、アンナ役は砂原さんに決定しました」
パチパチパチ……
圭子「ありがとう、急に無茶言ってごめんね」
よしみ「いいえ。ちょっとびっくりしただけ……あ、でも私、衣装をやろうと思ってたんだけど」
和「そうですね。では衣装係は……」
さわ子「はいっ!!私がやります!」
和「……先生?でも先生にそんなことをやっていただくなんて」
さわ子「いいのよ、悪いようにはしないから……ふふ」チラッ
律「あー……こりゃあの二人すごいことにされそうだなー」
澪「確かに……」
和「それでは、引き続き他の役を……」
よしみ「琴吹さん」
紬「は、はいっ!?」
よしみ「……よろしく」ニコッ
紬「!!」ドキッ
よしみ「……ん、どうかしたの?」
紬「……ご、ごめんなさい!よろしくね、砂原さん。がんばろうね」
よしみ「ええ」
……………………
部室
梓「……そうなんですか。おめでとうございます、ムギ先輩!とっても似合ってますよ」
紬「ありがとう……でも私、ちゃんとできるかな……まさか私がヒロインをやるなんて思ってなかったから」
律「ムギならだーいじょぶだって、澪じゃあるまいし!」
澪「どういう意味だ律っ!」ゴチン
律「でっ!?」
唯「ムギちゃんホントにマーニーそっくりだしねぇ」
紬「そうかしら……髪の色は似てるかもしれないけど」
唯「それだけじゃないよ、おっとりぽわぽわしてるところとか~」
梓「アンナが療養先で出会った不思議な少女っていう設定ですよね?ムギ先輩、ぴったりだと思います!ミステリアスなところもあるし……」
紬「ミステリアスかぁ……」
澪「ふふ、そういえば、砂原さんもミステリアスって言われてたな」
律「ちょっとムギとは違うタイプのミステリアスだけどな~」
唯「かわいいよねぇ~よしみちゃん」
梓「唯先輩は誰に対してもそう言ってる気がしますけど……」
紬「私、砂原さんとは隣の席なんだけど……まだそんなに話したことなくて……」
梓「え、そうなんですか?」
律「砂原さんはミステリアスだからな~」
澪「何でもかんでもミステリアスで片付けるなよ……砂原さん、普段は物静かだからな。私もまだほとんど喋ったことないし……」
唯「えーでも話しかけたらすごい笑顔でお話ししてくれたよー?姫子ちゃんも『話してみたら意外と面白いよ』って言ってたし」
梓「なるほど……一見、話しかけにくそうだけど実はよく喋るタイプですか」
律「そんな感じだな。ほーらムギ、これを機に砂原さんに急接近しちゃえよ」
紬「う、うん……がんばる……!」
澪「あはは……役よりもそっちの方が頑張りどころになってるな」
……………………
教室 練習第一回目
紬「……ねぇお願い、約束して……私達のことは秘密よ……」ブツブツ
律「よっ、ムギ。順調か?」
紬「うん、台本はまぁ何とか覚えてこれたかな……」
律「さっすがだなー、ムギは。これがもし澪だったらと思うと……ぷーくすくす」
澪「何か言ったか律?」
律「いいえ何もっ!!」
澪「ムギ、今日は非番なのか?」
紬「うん。マーニーは最初からは登場しないから。今日は自分の練習と、あと……見学!」
信代「じゃぁ頭からやってみようか。砂原さん、準備はいい?アンナの語りからだけど」
よしみ「うん、いいよ」
潮「え、他に誰も登場人物いないのにソロで語り?大丈夫?さすがに恥ずかしかったら他のシーンからでも……」
よしみ「ふふ、大丈夫……やります」
信代「じゃぁ……3,2,1,どうぞ!」
よしみ「……」スゥ…
澪「……」ジーッ
律「……」ジーッ
紬「……」ゴクリ ?
よしみ「……この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間」
よしみ「でも……そんなのは、どうでもいいの」
よしみ「私は……私が嫌いっ……」ギリッ…
信代「……お、おお~っ」パチパチ
ちか「す、スゴイ……」パチパチ
潮「……う、上手いよ!っていうか、なんか迫力あった!!」パチパチ
よしみ「……ふふ、そうかな?」
律「……すご、似合い過ぎててむしろ怖かったぞ今」
澪「気合い入ってるな……きっとたくさん練習したんだな」
紬「……」ポカーン
律「どうした相方さん」
紬「へっ……相方!?」
澪「そうだよ、アンナの相手役だろ、ムギ」
紬「私が、相方……頑張らなきゃ!!」
……………………
練習第二回目
信代「今日はマーニーとの出会いのシーンから練習するよ。ムギ、セリフは大丈夫?」
紬「うん、大丈夫!覚えてきた!」
よしみ「……」ジーッ
律「いよっ、ムギ頑張れ~!!」
潮「それじゃぁ、アンナが舟を漕いできたところにマーニーが駆けつけた後のセリフからだね……はい、どうぞ!!」
紬「……だ、だい、じょうぶ?」
よしみ「……?」
信代「カット!!ムギ、緊張しすぎだよ」
紬「ご、ごめんなさい」
ちか「ここ、戸惑うアンナをマーニーが優しくリードしてあげるところだよ?」
潮「落ち着いて、いつもの琴吹さんの雰囲気でやればできるから!」
紬「うん。もう一度、お願いします!」フンス
潮「じゃぁ……どうぞっ!」
紬「……大丈夫?」
よしみ「……」ジーッ
紬「……え、えっ?」テレテレ
律「カーット!ムギが照れてどうする!!」
よしみ「……ここ、私がマーニーに見惚れてしばらく見つめるところだよ、琴吹さん」
紬「あ、そうだった……ごめんなさい、緊張して頭真っ白になっちゃって……」
信代「あはは……ムギは慣れるまでちょっと時間かかるかもね」
ちか「しょうがないよ、今日初めての演技だもんね」
潮「他のシーン先にやろっか?」
紬「うん、ごめんね……ちょっと、練習してくる」
信代「よーし、んじゃ私のとこやろっか!療養先のおばさんとの会話シーン」
よしみ「うん、よろしく」
律「……ムギ、意外だな。ライブのときは堂々としてるから演技なんて余裕だと思ってた」
紬「大丈夫だと思ってたんだけど……やっぱり、自分が重要な役をやるとなると違うね……緊張しちゃって」
澪「わかるよムギ……脇役とかなら、まだマシなんだけどな。自分に注目が集まってると考えるだけで……うぅ」
律「……って、澪まで緊張してどうする!」
紬「それに……なんだか砂原さんが目の前にいると……」
律「え?」
紬(妙に緊張するというか、ドキドキするというか……あの子、まっすぐな眼差しでこっちを見てくるから……)
紬「……れ、練習しなきゃ!りっちゃん、アンナ役やってくれない?」
律「ええっ、なんで私!?」
紬「立ってるだけでいいから!」
律「まぁ、それなら……」
澪「笑わずにじっとしてろよ律」
律「それぐらいできるわい!ほら、ムギ」
紬「ありがとうりっちゃん。じゃぁ……」
紬「……大丈夫?」
律「……」
澪「……ぷぷ」
律「……!(こら澪、笑うなっ!)」
紬「……約束して?私達のことは秘密よ、永久に……」
律「……!」ドキッ
澪「できてるじゃないか、ムギ!」
律「あー、正直ドキッとしたわ……結構役に入りきってるな」
紬「ほ、ほんと?よーし……」
信代「ムギー、いけるー?」
紬「あ、うん!大丈夫!!」
信代「んじゃ、さっきのシーンをもう一回」
潮「いくよー……どうぞっ!」
紬「……大丈夫?」
よしみ「……」
紬「……」ドキドキ
よしみ「あなたは本当の人間?私の夢の中に出てきた子にそっくり……」
紬「ゆ……夢?夢じゃ、ないわ……」
信代「カット!惜しいね~」
よしみ「落ち着いて、琴吹さん。さっき田井中さんとやってた時は出来てたじゃない」
紬「み、見てたの!?」カアッ
信代「あっはっは、律相手なら緊張しないってかい!」
澪「ぷっ……」
律「な、なんでいっ!?私の扱いなんなの!?」
よしみ「ふふ……」クスクス
紬「あはは……」
……………………
後日 放課後
姫子「え?よしみ?」
紬「うん……」
唯「ムギちゃんがね、よしみちゃんがどんな子なのか知りたいんだって」
姫子「本人と喋ればいいじゃない……ってわけでもなさそうだね」
紬「なんか恥ずかしくなっちゃって……」
姫子「そっか。まぁあの子、どストレートだからね」
唯「サラサラヘアーだよね~」
姫子「そうじゃないよ、唯。あの子、芯が通っててどストレートって意味。見た目大人しいと思ってるとちょっとびっくりするかもね」
紬「そう、そうだよね……すごくまっすぐに見つめられちゃって、恥ずかしくなっちゃったの」
唯「なら、負けじと見つめ返すんだよムギちゃん」
紬「見つめ返す……?」
姫子「まぁその通りかも?ビビる必要はないよ。こっちもストレートで行けばまっすぐ受け止めてくれるから」
紬「わかった、ストレートね!ありがとう姫子ちゃん!」
……………………
練習第三回目
紬「……大丈夫?」
よしみ「……」ジーッ
紬「……」ジーッ
よしみ「……」ジーッ
紬「……」ジーッ
信代「……?ムギ、見つめ合ってないでセリフを……」
紬「はっ!!ごめんなさい……」
よしみ「……ぷ、ぷふふ、あっははははははは!あはははは!!琴吹さん、面白いね……あは、あははは!!」
キミ子「あーあ、よしみちゃんのツボにはまっちゃった……こりゃしばらく収まらないね」
響子「結構いいコンビになれそうだね、あの二人……ふふ」
唯「お!やっぱりそう思う~?ムギちゃんとよしみちゃん、お似合いだよね」
キミ子「唯ちゃん……うん、そうだね、私もそう思う」
響子「よしみ、アンナ役に決まってから結構琴吹さんのこと気にしてたよ。人間観察とか言って」
……………………
部室
紬「はあ……」
梓「む、ムギ先輩……大丈夫ですか?」
律「……こら梓、今ムギは気になるあの子の前で失敗しちゃって凹んでるんだよ」ヒソヒソ
梓「ええっ!?む、ムギ先輩に好きな人が……!?」
澪「話をややこしくするな!!」ゴチン
律「だっ!?」
唯「ムギちゃーん、大丈夫~?」
紬「はあ……アンナ……」
梓「役に入りきってる……?」
律「これもある意味現実逃避か……」
澪「痛いほど分かるよ、ムギ……」
……………………
後日 練習
紬「ねえお願い、約束して?私達のことは秘密よ、永久に」
よしみ「うん……秘密だよ。永久に……」
信代「そこで手を繋いで!」
紬「……」パシッ
よしみ「……」パシッ
潮「おお……なんか見てるこっちがときめいちゃうかも」
信代「だいぶ安定してきたね、ムギ」
紬「えへへ……よかった」
よしみ「ふふ……」
ちか「じゃぁ、この調子でちょっとクライマックスやってみない?」
潮「いいね!」
信代「セリフは大丈夫?」
よしみ「うん、大丈夫」
紬「覚えてはいるけど……」
信代「じゃ、ちょっとやってみようか。砂原さん、『どうして私を置いていってしまったの』からいけるかい?」
よしみ「了解。いくよ?」
紬「……うん」
よしみ「……どうして私を置いて行ってしまったの!?どうして私を裏切ったの!?」
紬「……ア、アンナお願い、許してくれるって言って!!」
よしみ「……もちろんよ、許してあげる!……あなたが好きよ、マーニーっ!!!」
紬「……ええっ!?」ボフン!! ドサッ
信代「ちょっ、ムギ大丈夫!?」
よしみ「……え?琴吹さん!?」
紬「」プシュー
……………………
保健室
紬「あれ、私……」
唯「ムギちゃん!大丈夫~?」
律「起きたか……」
澪「よかった……」
和「ムギ、なんともない?」
紬「うん……あれ、私練習してたはずじゃ」
和「練習中に倒れたって聞いたけど……疲れてたんじゃないかな」
律「ちょうど私ら見てなかったから何があったのかわかんないけど……ムギは覚えてないのか?」
澪「貧血とかかな?」
紬「ええと……確かアンナのセリフを聞いて……あっ!!」ボフン!!
唯「わっ、またムギちゃん真っ赤になった!!」
律「ははーん……こりゃアレだな」
和「アレって何よ、律?」
律「その……アレだよ……アンナのセリフのさ……」
唯「あなたのことが好きよ~、マーニー~!」
律「そ、そうそれっ!」
澪「今更だけど中々恥ずかしくなる脚本だよな……女の子同士だし」
紬「ちょっと役に入りすぎたかしら……好きよ、って言われたら急に恥ずかしくなっちゃって」
和「確かにそうね……でもこの脚本やりたいって言ってたのムギじゃない」
紬「そ、それはそうだけど!やっぱり自分でやるってなると……」
律「ぷぷ……ムギ、いつもは他の女の子同士が仲良くしてると目を輝かせてるのにな」
紬「んもう、りっちゃん!からかわないでよ」プー
律「ごめんごめんって……お?」
最終更新:2014年08月19日 07:21