コンコン

律「お姫様の登場だな」

澪「王子様かもな?ほら行くぞ、唯」

唯「へ?何で?」

和「いいから。じゃ、お大事にね、ムギ」

紬「え?ええ、どうしたの急に」



律「ムギなら今起きたぜ~」ガチャ

よしみ「本当?よかった」ガチャ

紬「!!」



よしみ「琴吹さん、大丈夫?」

紬「う、うん……ごめんね、練習中断させちゃって」

よしみ「いいよいいよ。むしろ私のせいかな、ごめんね」

紬「そんなことないわ!すごく気持ちのこもった演技で……本当にアンナかと思ったの。だから……」

よしみ「ありがとう。琴吹さんこそ、本当にマーニーみたいだよ。優しくて、包み込んでくれるような感じ」

紬「ありがとう……」

紬(……ストレートに、ストレートに……)

紬「……ねぇ、砂原さん……あの……お友達に、なってくださいっ!!」

よしみ「……へ?」

紬「あ……えっと」

よしみ「……ぷ、ぷははは!!あはははっ、あっはっはっは!!やっぱり、琴吹さん、面白いね。うん、喜んで、こちらこそ、ぷふふ、お友達になってください」ニコッ

……

紬「そんなに笑わなくてもいいのに……」プー

よしみ「ごめん。ツボに入ると止まんなくなっちゃって……」

紬「……ふふふ。こうやって、ゆっくりお話しするの、初めてね」

よしみ「うん、隣の席なのにね。でも、私は琴吹さんのことよく見てたよ」

紬「本当……?」

よしみ「うん。髪の色が綺麗だから……どんな服が似合うかな~とか、考えるのが楽しくて」

紬「服を?」

よしみ「うん、私、服とかデザインするの好きなの。将来、そういうのやりたいと思ってる」

紬「そっか、それで衣装係をやろうとしてたのね!」

よしみ「そう。でも主役に選ばれちゃったからね、せっかくだしこっちをやることにしたの。私がまさか主役なんて考えたこともなかったからびっくりしたけど」

紬「私もよ……」

よしみ「琴吹さんはもう始めからマーニーで決定だと思ってたけど」

紬「もう、みんな髪の色だけで選ぶんだから……」

よしみ「そんなことないと思うよ。琴吹さん、優しいし芯がしっかりしてて、中身もマーニーにぴったり。どこかのお嬢様みたいでミステリアスなところもね」

紬「そんな、芯がしっかりしててミステリアスなのはむしろ砂原さんのほうでしょう?」

よしみ「私達似たもの同士?」

紬「うふふ、そうかもね」

よしみ「マーニーとアンナも似てるところあるよね」

紬「うん、確かに私もそう思った」

よしみ「ねぇ……友達になったのなら、下の名前で呼んでもいい?」

紬「うん!ムギ、って呼んでね」

よしみ「んー、つむぎ」

紬「!?」

よしみ「いい?」

紬「……い、いいわ!じゃぁ、私も呼び捨てでいい……?」

よしみ「全然いいよ」

紬「……よ、よしみ!」

よしみ「はい。なんでしょうかお嬢様」

紬「……もう、茶化さないでよ……ふふ」

よしみ「ふふ……」

紬「……不思議。今日初めてゆっくりお話ししたのに、もう昔からの友達みたい。よしみってまるでマーニーのようね」

よしみ「つむぎこそ、今日までずっと緊張してたのに、やっと自然に笑ってくれたね。まるでアンナみたい」

紬「私達、逆よ」

よしみ「そうかも」

紬「……そうだ!ねぇ、よしみ」

よしみ「ん?」

紬「……私達がお互いに呼び捨てで名前を呼んでいることは……秘密よ、永久に」

よしみ「……うん、秘密だよ……永久に」

……………………
さらに後日 練習

紬「……秘密よ、永久に。ねぇ、ここの手の繋ぎ方、こうでいいかな?」

よしみ「うん。両手で繋ぐのがいいよ。こう……秘密だよ、永久に……ってね」



澪「いつのまにかムギが砂原さんと打ち解けてる……」

律「こないだ私達がいなくなったあと何があったんでしょうねぇ奥様」

エリ「えー、なになに、何かあったのあの二人?」

アカネ「何かある日突然仲良くなったよね!」

律「そうそう、実はな……」

紬&よしみ「「田井中さん?」」

律「は、はいっ!!何でもございませんですことよ!!」

澪「ムギに名字で呼ばれると怖いな……」



紬「よ……砂原さん。もし時間あったら、休日練習しない?」

よしみ「うん、いいよ」

信代「もう心配いらなそうだね、二人とも」

ちか「アツアツう!」

潮「完成が楽しみだな~!」

……………………
休日 教室で二人きりの練習

よしみ「……ふう。だいぶ良くなってきたね」

紬「うん。あとは実際に大道具が出来てから確認、かな?」

よしみ「休憩しようか」

紬「ええ。あ、そうだ!軽音部の部室に来て?」

よしみ「え、いいの?」

紬「いいの。お茶しましょう?」

……………………
部室

紬「……はい、どうぞ」

よしみ「ありがとう。これが噂の軽音部のティータイムかぁ」

紬「そんなに有名?」

よしみ「そりゃぁもう。クラスで知らない人はいないと思うよ……あ、おいしい」

紬「よかった……お菓子もあるの、食べてね」

よしみ「ありがとう。マーニーの家に来たみたい」

紬「本当?じゃぁ、アンナとマーニーの秘密のお茶会ね」

よしみ「そんなシーンないけどね、ふふ」

紬「ふふ……ねぇ、よしみ」

よしみ「ん?」

紬「よしみって……すごくストレートで……」

よしみ「あ、もしかして姫子に聞いたの?」

紬「! うん、そうなの……よくわかったね」

よしみ「よく言われるもん。意外と感情表現が直球だねって。やっぱり意外かな?」

紬「うーん……確かに、すごく大人しい子なのかなって思ってた」

よしみ「そうだよね……」

紬「ごめんなさい、私変なこと聞いちゃったかな」

よしみ「いいよ。ねぇ、つむぎ。私、何でアンナに選ばれたと思う?」

紬「それは……アンナにぴったりだから?大人しくて、ミステリアスで……あっ」

よしみ「そうだよね。周りの輪に溶け込めなくて、変わった子だなって周りから思われてて」

紬「そ、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

よしみ「いいよ。ありがとう。でもね、その通りだと思うんだ。正直、アンナって主役だけど……ちょっとひねくれてる性格だし、配役を選びにくかったと思う」

紬「……」

よしみ「推薦で私に決まって、良かったと思うよ。多数決になってたら、『アンナっぽい子』が、黒板に書き出されることになるんだから。嫌な思いをする子もいるかもしれない」

紬「よしみは、嫌じゃなかったの?」

よしみ「うん、別に。気にしてない。その通りだな、とは思ったし。いい意味でも悪い意味でもね。そのいい意味の方を受け止めて、前向きにやろうと思った」

紬「……強いのね……」

よしみ「私……人とはちょっとズレた感覚を持ってるみたいで、昔からなかなか人の輪に入れなかったんだ」

紬「……」

よしみ「ズレてるから、誤解を招くことも多いし。またみんなに変な子だなって思われてるんじゃないかって、怖かった時もあった」

紬「……うん」

よしみ「でも段々バカらしく思えてきて。そんなことを気にするのがね。だから、もう私は怖がらないで気持ちをまっすぐ表現しようと思ったの」

紬「……うん」

よしみ「ズレてるのはもう分かってるからさ。私はオープンですよ、って。別に裏で何か考えたりしてないですよ、って」

紬「……うん」

よしみ「そしたら、結構分かってくれる人は増えたし……まぁ未だに基本1人行動だけどね。それは別にいいんだ、性に合ってるし」

紬「自分に対してみんながどう思っているかを全部受け入れて、進んでアンナ役をやることに決めたのね……すごいよ」

よしみ「そうかな?」

紬「うん。とっても。自分のことをみんなが悪く思っているなんて想像したら……私なら、周りのみんなが怖くなってしまいそう」

よしみ「私だって、ああ言ったけど未だに少しは怖いよ……?つむぎ、あなたにだってどう思われてるのか……気になってた」

紬「私はあなたが大すきよ、よしみ!!」ガタッ

よしみ「うわ!?ちょっと、なに突然恥ずかしいことを……」

紬「あ、ごめんなさい、つい……でも、本当よ。素直で、素敵だと思う」

よしみ「……ありがとう……でも」

紬「なぁに?」

よしみ「……なんでもない」

……………………
校門にて

紬「今日はたくさん練習して、お茶会もして楽しかったね」

よしみ「……うん。楽しかった。またね、つむぎ」

紬「またね、よしみ!」


よしみ「……」クルッ スタスタ

……………………
部室

よしみ「……」ガチャ

梓「あ……」

よしみ「あ、ごめんなさい、お邪魔します」

梓「あ、いえ……あの」

よしみ「もしかして、私達がいたから待っていたの?」

梓「え、えっと……お気になさらないでください!」

よしみ「ごめんね、練習の邪魔をしちゃって……あなたは、軽音部の2年生の」

梓「中野梓といいます。もしかして、ムギ先輩と劇で共演するっていう……」

よしみ「そう、砂原です。よろしくね」

梓「は、はい、よろしくお願いします!」

よしみ「……早速だけど、邪魔しちゃ悪いから……さようなら」

梓「え?いえ、何かご用があったんじゃないんですか?」

よしみ「……んー、まぁ……」

梓「……?」

…………

よしみ「琴吹さん……つむぎって、どんな人?」

梓「どんな人、ですか……。ムギ先輩は、優しくて、おっとりしていて……いろんなことに興味津々で……謎も多くて……」

よしみ「うん。後は……?」

梓「あ、でもすごくしっかりしてるところもあります。たまに、ズバッと意見を言ったり」

よしみ「ライブのときは?」

梓「すごく楽しそうです。ちょっと興奮しすぎちゃうこともあるかもしれません」

よしみ「……そっか。うん」

梓「……あの、どうしてそんなことを?」

よしみ「……それがみんなに知られている、軽音部のムギちゃんの姿なんだね」

梓「……え?」

よしみ「うん、ありがとう、中野さん。つむぎは本当にいるんだなぁって思っただけ。お邪魔しました。またね」ガチャ

梓「え……はぁ。また……」


梓「……どういう意味だろう……やっぱり、ちょっとミステリアスな人だなぁ」

……………………
後日 練習

ちずる「できたよ、大道具!」

律「いよっ!待ってました!!」

潮「すごーい、マーニーのお家だ……」

信代「湿地っぽい草も完璧だね。せっかくだし、盛り上がるシーンやってみる?」

ちか「いいねいいね、雰囲気が出そう!」

律「ムギ、あのマーニーの部屋の窓から顔出してみなよ」

紬「よいしょ……こう?」

澪「すごい……似合ってるよ、本当にマーニーみたいだ」

紬「うふふ……じゃぁ、セリフいくね?砂原さん、いい?」

よしみ「……うん、いいよ」

紬「……アンナ!大好きなアンナ!!」

よしみ「……どうして私を置いて行ってしまったの!?どうして私を裏切ったの!?」

紬「アンナお願い、許してくれるって言って!!」

よしみ「……もちろんよ、許してあげる……あなたが………………好きよ……マーニー……」

信代「ん?」

律「あれ?」

紬「……よ……砂原さん?どうしたの?」

よしみ「……ごめん、ちょっと調子悪いかな。うまく気持ちを込められなくて。せっかく大道具作ってくれたのに、ごめんね。次は、ちゃんとやるから」

ちずる「う、ううん、いいよ!体調が大事だよ!」

よしみ「ちょっと休んできます。ごめんね」

信代「大丈夫?無理しなくていいよ」

よしみ「うん、ありがとう」ガチャ


潮「どうしよう……」

ちか「他のところ、やろっか……」

紬「……私、行ってくる!!」ガチャ

…………
廊下

紬「……よしみ!」

よしみ「つむぎ……」

紬「大丈夫?」

よしみ「うん」

紬「……体調が悪いわけじゃないの?」

よしみ「……うん」

紬「……」

よしみ「ねぇ、つむぎ。つむぎが見ているのは、本当に私?」

紬「えっ……」

よしみ「つむぎって、ちょっと世界に入り込みすぎて舞い上がっちゃうところがあると思うんだ」

紬「……う……」

よしみ「私、アンナじゃないよ」

紬「!!そんな、そんなつもりじゃ……!」

よしみ「アンナじゃなくても、アンナのような誰かというか……」

紬「……」

よしみ「怖くなっちゃったんだ。私達、まるでマーニーとアンナみたいだから」

紬「……うん」

よしみ「お互いに、作り上げた空想の人物と会話しているんじゃないかって、不安になっちゃって」

紬「……」

よしみ「この劇が終わったら、私達はどうなるのかな」

紬「……ごめんなさい。私、役に入りきりすぎたのかもしれない。劇を通してよしみと仲良くなれたから、それに酔っていただけなのかも」

よしみ「……」

紬「だから、この劇が終わってしまったら……お互いにアンナとマーニーでなくなったら……以前の関係に戻ってしまうのかな、って考えると、怖い」

よしみ「……うん。大すきなつむぎはもういない。つむぎは軽音部のムギちゃんに戻って、私は置いていかれるんじゃ……そう考えちゃった」

紬「そんなことないわ!!ねぇ、よしみ。これからも、友達でいて。軽音部のみんなも大切な友達だけど、あなたも大切な友達なの」ギュッ

よしみ「ありがとう……」ギュッ

紬「……劇が終わったら……次の日、私達の軽音部のライブ、見に来てほしいな」

よしみ「うん。絶対行く」



唯「おお、廊下なのにムギちゃん大胆……」

澪「抱きつき魔のお前が言うなよ……」

姫子「よしみがあんなに取り乱してるの初めて見たけど……何とかなったみたいだね」

律「ふーむ、やるなムギ」



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