船から出て最初に思った事はとにかく海が青いっていう事。

唯「うわー青い! 青いよあずにゃん!」

もう本当に澄んだ色をしていて青って言うよりも水色な海だった。
今日は夕暮れまでこの島で過ごせるんだ。

唯「まずどこにいこっか!」

梓「落ち着いて下さい。とりあえず潜水船に乗りますか?」

唯「よしそれにしよう!」



正確には半潜水船に乗り海の中を見学する事に。
船内は明かりがついていないけれど海の中を覗ける窓から海の色の光が入って来る。
二人して窓にへばり付いて海中を観察すると日本で見られないような魚が泳いでいた。

午後は市内で昼食を取ってからイルカに会いに行く予定になっている。
唯先輩は余程楽しみだったらしくご飯の間ずっとイルカの事を喋っていた。

ナッソーの港からボートでブルーラグーン島へ移動すればイルカはもうすぐそこ。
インストラクターからイルカについての説明を受けた後、水着とライフベストを着用していざご対面。
そう水着。
先輩の水着はシックなブルーでグラデーション+ボーダー柄だった。
トップはビキニを重ね着するデザインで、ボトムにはビキニと同じ柄の水着+その上に黒のデニムショートパンツを着用。
ショートパンツの腰の部分からちらりと覗く水着がポイント。
可愛さの中にかっこよさも混ざっている所が唯先輩に合っている。
でも先輩ならもうちょっと淡いパステルカラーもしくは明るい色も合いそう……ライフベスト邪魔だな。

唯「あずにゃんイルカだよ! かわいいね~」

梓「ほんとよく似合っててかわいいですね」



先輩がイルカと触れあうのを横で眺めるだけで楽しい。
ほんと唯先輩て生き物好きだなぁ。

唯「おーしおしおしおしおしぉ」

なんていうか……ムツゴロー?

唯「わぁーイルカと握手しちゃった」

梓「かわいいです」

唯「イルカとハグしちゃった」

梓「いいなあ」

唯「イルカとちゅー出来るんだって!」

梓「なにー!?」

唯「うわっどうしたのあずにゃん?」

梓「あ、いや、ビックリしちゃって」

唯「やだなぁさっき説明受けたじゃん」

梓「あははそうでしたね……」

イルカに嫉妬してどうするのよ。
でもいいなあ……唯先輩と……。
そういえば夢の中で先輩とキスしてたような気がする。
それは叶わない夢だけどこうして先輩と二人で旅行出来てるだけで幸せなんだから……。

唯「んー」

梓「っ!」

唯先輩の屈託のないキス顔にドキッとしてしまった。
何故かこっちが恥ずかしくなる。顔が熱い。

唯「んんー……」

梓「何回もやらないで下さいよ!」


唯「ちぇー。じゃあ次はあずにゃんがイルカと遊ぶ番だよ」

……あれっ?
これってもしかして本当の意味で間接キス?
いやいや何考えてるのよ。
そもそも唯先輩がキスした相手とキスする事を喜んじゃダメでしょ。
危ない人っていうか色々ダメな人だよそれ。
ていうかイルカ相手に真面目に考えすぎだよ。
全然大した事ないでしょ間接キスとか別に普段は気にしてないし……。

梓「ん、んー……っ」

唯「……あずにゃん最初は握手からだよ?」



余計な恥をかきつつもナッソーを堪能して船へと戻った。
日が沈む前に出向して次の目的地であるセントトーマス島へ船は進む。
距離がそこそこ離れているため明日は終日クルージングとなっている。
これを利用して船内を満喫したいところ。

唯「ショーとか見れるんだよね! あっプールも入りたい! 楽しみだなー」

梓「ロッククライミングとかミニゴルフなんかも出来るそうですよ」

唯「そうなの!? いやーすっごいね」

唯先輩はこれから毎日わくわくして眠れないんじゃないだろうかと思った。




それにしても唯先輩の水着姿可愛かったな。
それにずっとはしゃぎっぱなしで、よく言えば天真爛漫だけど。
この旅行中ずっとこの調子で振り回されちゃう気がする。
まあ、それも悪くないかな。
唯先輩のそういう部分に助けられた事もある。
だから嫌じゃないし、むしろ……。


梓「んん……あ、れぇ?」

目を覚まして隣のベッドを見るともぬけの殻だった。
昨日は結局唯先輩がすぐに寝付いてしまって私の方が遅く寝てたからなあ。
部屋を見回してもいない。外に行ったのかな。

梓「あ……ふあぁぁ……」

んーよく寝た。
せっかくだし私も外を歩いてこようかな。
窓から差し込む南国の朝日を浴びてるとじっとしてるのがもったいない気がしてくるんだもん。

私は準備を整えてシーパスカードを持ち部屋を出た。



船の中ではこのシーパスカードがあれば大体OKなのだ。
乗客一人一人に配布されるこのカードはクルーズ中の身分証明書になり部屋の鍵も兼ねている。
それから船内での支払いにもこのカードを使うのでとても大事な物だ。

さて、どこを歩こうかな。
ここはやっぱり船の中にある公園かな。




船体中央にはセントラルパークという公園を模した並木道があってこの道を挟んで左右に客室棟がある。
吹き抜けになっていて実際に歩いてみると左右の建物がマンションに見えてここが船の上だという事を忘れそう。
ここにある草木は造花ではなく全て本物の植物で、洋上なのに花の淡い香りが漂っていた。
ここが海のオアシスというのも頷ける。
その並木道を抜けて行くとその先には――

唯「あーあずにゃんやっぱりここに来た」



前方から唯先輩が歩いてきた。

梓「こんなに広い船でまさか会えるとは思わなかったです」

唯「部屋に戻るところだったんだけどあずにゃんも散歩してたの?」

梓「はい。唯先輩に置いて行かれちゃったので」

唯「ごめんごめん散歩が気持ちよさそうでつい……でもあずにゃんもここに来ると思ってこの辺ぶらぶらしてたんだ」

梓「そうですか……」

うあ、なんか嬉しい。

唯「本当に会えてよかったよ」

梓「そ、そうですね……にへ」

唯「私お腹ペコペコでさー。部屋戻るの諦めて一人でご飯食べちゃうところだったよー」

梓「……あっそ」

梓「イライラしたらお腹減ってきました。行きましょう」

唯「へっ? あっちょっ、あずにゃん歩くの早いよー!」

セントラルパークを歩いて手頃な店を探す。
程なくして朝食にぴったりそうなカフェを見つけた。
そこでサンドイッチを頬張りながら改めて今日の予定を立てる。

唯「プールは絶対行きたいです」

梓「じゃあプールにしましょうか。アクアシアターの予約は今日じゃないから席に座れないし」

船尾にはアクアシアターと呼ばれるプールや噴水を使ったショーを行う施設がある。
もうほんとに船っていう感覚がない。

唯「もぐもぐいいねー。はぁーごちそうさま! プール以外だと美味しい物食べたいなー」

梓「よく食べ終わってすぐに別の食べ物の事考えられますね」

唯「えへへ」

梓「褒めてないです」



まずはプールという事で一旦部屋に戻って水着に着替える事に。
とりあえず無心で着替えた。

唯「さてと、あずにゃんに日焼け止め塗ってあげるよ」

梓「えっ!?」

唯「昨日のあずにゃんの格好ちょっと怖かったし今日は私がベトベトに塗ってあげる。それなら安心でしょ?」

梓「いやっ……」

昨日はイルカと触れあうから日焼け止めはそこそこに別の方法で日射しを防いでいた。
……やっぱり変な格好だって思われてた。
その甲斐あってかあんまり日焼けしなかったけど。
そんなことより日焼け止めどうしよう塗ってもらいたい。
けどちょっと別の意味で安心できないかもしれない。

唯「かわりに私にも塗ってね」

梓「えっ!?」

唯「え、塗ってくれないの?」



塗りたい。
塗りたい塗りたい塗りたいよお。
でもなんだかまずい事になりそうな気がする。
こう、何かが我慢できなくなっちゃうっていうか。
いやいやたかが日焼け止め塗る位で……。
あっでも塗ってもらうのよさそうだなぁ。でも変な声出ちゃったりしないかな。
逆に私が先輩に塗ったら先輩が……や、やっぱり塗ってもらうしか――!

梓「せ、先輩! ……ってあれ」

唯「ん?」

梓「あの、日焼け止めは……」

唯「あずにゃんが動かなくなっちゃったから自分で塗っちゃったよ。ほらあずにゃんも早く塗って! 私プールが待ちきれないよ!」

梓「えあ……はい」

梓「……」

今回の旅行先は日射しの強い場所だから日焼け止めを新調した。
SPF30のPA+++。
SPFは紫外線B波のカット効果を表したもの。
SPF30だから約20分×30=10時間ほど日焼けするのを遅らせてくれる効果がある。
SPF50っていうのもあるけど肌への負担が大きくなっちゃうっていう話もあるからSPF30のものを適度に塗り直す事にした。
いつだったか憂がSPF200なんていう日焼け止めを持って来てたっけ。あんなのどこに売ってたんだろう……。
それとPA+++だからシワとかたるみの原因になる紫外線A波のカット効果も高い。
危ないって言われている紫外線吸収剤も無配合だから安心。
実際に塗ってみるとベタつかなくていい感じ。
塗りあいするなら多少ベタついてもいいかな……なんて。
よく塗らないと効果が出ないから多少白くなっちゃうのは我慢するとして――

唯「……まーだー? 先に行っててもいーい?」



我に返った私は唯先輩の後を追ってプールへと向かった。

プールは客室棟の屋上にあり、そこにはバスケットコートやサーフィンが出来る場所もある。
今私達がいる棟から今朝歩いたセントラルパークやプロムナートを挟んで反対側の棟を見るとそこにもプールがあって、子供たちが元気に遊んでいたり大人はカラフルなサンベッドで日光浴していたり。
船なのに公園やらホテルがあってその上にはプールやら何やら。船の外を見渡せば当然一面の青。
不思議な感覚だけどとても心地良い。
流石は海のオアシス。

唯「いっえーい!」

梓「あっ!」

唯先輩が感極まって助走からの飛び込み。
もう……恥ずかしいなあ。

唯「あずにゃんも早くー」

梓「はーい」

唯「違うよ飛び込むんだよー」

梓「いやですっ!」





プールの広さはそこそこだけどなんていうかゴージャスな雰囲気に浸らせてくれる空間だった。
身体が冷えたらお風呂代わりのジャグジーに入ったり、サンベッドで横になって話をしたり。

唯「ああっ!?」

梓「何ですかいきなり」

唯「ちょっとあずにゃん、私達って仮にも現役のミュージシャンでしょ? こんな所でのびのびしてたら大変な事にならないかな……!」

梓「ええー……あんなに目立っておいて今更ですか?」

唯「どうしよう唇紫になってないよね!?」

梓「そっちを気にするんですか……なってませんしまだ私達の知名度なんて低いから囲まれたりなんてしませんよ」

唯「それはそれでちょっと残念だな」

梓「どっちなんですか」

梓「それに日本人だって少ないですから」

唯「そっかー。もうちょっとビッグにならないとこの船でライブは出来ないねー」

梓「もしかしてそれ本気で言ってたんですか?」

唯「もちろん。私の新たな夢だよ」

梓「夢のまた夢ですね」

唯「えー、あずにゃんだって”まだ”知名度低いって言ってたじゃん。まだって事はそういう事でしょ?」

梓「う……私そんな事言いましたっけ」

唯「言ってましたー」



プールで散々泳いだ後、日が暮れてきたのでオシャレなレストランで食事を取る事にした。
が、ドレスコードが指定されている事を忘れて普段着で来てしまったため予定を変更してにぎやかなレストランへ。
こっちはこっちで美味しいし楽しめた。
はっきりくっきりとした味付けの料理に先輩も満足していたみたい。
食事の後も見たいところがあったんだけど私も唯先輩も泳ぎ疲れてしまい今日はもう寝る事になった。
明日目を覚ましたらセントトーマス島の首都シャーロットアマリーの港に停泊しているはず。
朝日と入港の瞬間も見たいけれどそれはまた今度にしよう。

唯「おやすみあずにゃん」

梓「おやすみなさいです」




……あれ本気だったんだ。
この船でライブだなんて相変わらずすごい事言う人だなぁ。
けどそんな先輩についてきたから今の私がいるんだ。
先輩が前だけ見て頑張っているから私もそれに負けないようにして。
先輩と並んで歩いて行けるようにって。
そしたら今もギターを弾けていて、それで生活出来て、こんなところにまで来れてしまった。
先輩の無茶苦茶な発言を最初は無理だって否定したのに、心のどこかでは出来るかもなんて思ってる。
先輩と一緒にいて私にもそういう所がうつっちゃったのかな、なんて……。


唯「海もいいけど山もいいね!」

セントトーマス島を一望出来る展望台『パラダイスポイント』からの景色を見て唯先輩が一言。
ゴンドラに乗ってここへ来る前は海で泳ぎたいと言っていたのにここへ来てコロッと考えが変わったらしい。
ここから私達が乗っている豪華客船やシャーロットアマリーの街並み、そしてカリブ海を眺める事が出来る。
海の青に山の緑、南国の風と太陽、それになんだか甘いにおいが……。

唯「良い眺めだねー。ちゅるるる」

梓「そうですね……っていつの間に飲み物なんか」

ココナッツミルクの様な物を持っていた。
なんとなく南国っぽい感じの飲み物だ。

唯「あずにゃんの分も買って来た! 甘くておいしーよ」

梓「どもです。いただきます……んく」

梓「……先輩これお酒じゃないですか。いいですけど」

唯「んんーカリブさいこー!」


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その後市内へ移動した私達は街を見ながらお土産を買ったりした。
カリブ海の島だけにパイレーツなお土産や像や観光地が目につく。

唯「見て見てあずにゃんサーベルが売ってるよ! じゃっくすぱろぅ~」

梓「免税だからってそんなの買わないで下さいよ?」

唯「えーダメなの? じゃあこの海賊帽子とかどうかな。次のライブの衣装に」

梓「いやぁ……似合ってますけど……大分可愛い海賊ですね」

一通り見て回って買い物の荷物を置きに船へと向かう。

唯「さて、そろそろ海で泳ごっか!」

梓「あ……今から泳いだら出港に間に合いませんね」

唯「えー!?」

唯「そんな……こんなに海が透き通ってるのに……」

梓「まあまあ、明日行くセントマーチン島でも泳げますから」

唯「でもここで泳ぐことはもう出来ないんだよ……?」

梓「そう言われましても……またいつか来ればいいじゃないですか」

唯「……そっか。うん、そうだね! んーでも西カリブも捨てがたいですな」

梓「あれ、これってもしかして……」

唯「どしたの?」

梓「いえっなんでもないです!」




今日も楽しかったな。
先輩といると本当に飽きない。……別の意味でも。
だけどそんな先輩とこうして近くにいればいる程切なくなって。
この旅行の間だけでもどんどん想いが溢れてくる。
すごく楽しいのに辛い。
これじゃああの夢と一緒だよ。
本当にこのままでいいのかな。
このままずっと……。


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最終更新:2012年12月20日 23:52