澪(それから…ムギはさらっとロスへ旅立つ日を告げた)

澪(それは丁度、私たちのN女子大の合格発表日の次の日)

澪(卒業すら待たせてくれない、ムギの家と相手の男を心底憎んだ)

澪(そして…ムギはみんなにもお別れの話しをし、みんなは想い想いの感情を露にした)

澪(唯は泣いてばっかりだし、梓は泣きながら怒ってた)

澪(律はこういうときは人一倍大人びていた)

澪(私も…出来る限り泣かないようにした)

澪(ムギを不安にさせたくないから…笑顔で見送りたいから)

澪(そんな私に…まず訪れたのは…この世で最も見たくなかったもの…)

澪(ムギの結婚式)

澪(有り得ないほど盛大なパーティ)

澪(見たこともない程たくさんの人間と豪華な演出…全てがおぞましく見えた)

澪(そして…)

澪(皆の前で、ムギが相手の男とキスをした)

澪(私の心は例えようのないドス黒い気持ちでいっぱいだった)

澪(ムギは…これを恐れていたんだ…)

澪(これが怖くて怖くて…助けを求めるかのように…部室で寝ていた私にキスを…)

澪(幸せそうな会場が、私には地獄にしか見えなかった)

澪(でも当然、欠席するわけにも、途中で逃げるわけにもいかなかった)

澪(キスのあと、ムギが私を見た気がした)

澪(私は目を逸らした)


澪(ちなみに…)

澪(その後のブーケトスの場が…さわ子先生無双となったのは言うまでもない)


……………………………
…………………
………

N女子大合格発表日!!

唯「うっわぁ〜〜い!!」

澪「う、受かってる…!」

律「私たち『全員』!!」

澪「…バ、律!!」

紬「…」

律「…あ」

紬「え、え? どうしたの? みんなおめでとう〜〜!」パチパチ

律「お、おお! サンキュームギ!!」

唯「ムギちゃん〜! 勉強教えてくれてありがとう〜〜!!」ダキッ

紬「あらあら、うふふ」

澪「…」

澪「ごめんな…ムギ。明日旅立つっていうのに発表につき合わせちゃって…」

紬「いいのよ〜。それに今日までは私だって軽音部の一員だよ? 仲間ハズレだけは絶対にイヤだもん!」

澪「…」

唯「…」

律「…」

紬「あ、あれ…? 今のは『合格してないから結局仲間ハズレじゃん』ていう冗談のつもりだったんだけど〜…」テヘ

律「…笑えねーよ」

紬「あら///」

斉藤「お嬢様…そろそろお時間の方が」

紬「あ…。じゃあね、私そろそろ行かなきゃ…」

澪「あ、ムギ…」

唯「ムギちゃん、明日は見送り行くからね!」

紬「いいのよ…無理しなくて」

律「まあ、空港までは難しいけど…家の前までは行くからさ?」

紬「ありがとう…。じゃあ、みんな、本当におめでとう」ニコッ

澪「あ…う……」

唯「はぁ…明日でお別れかぁ〜」グスン

澪「うん……」ボー

律「…」

律「いいのか? 澪」

澪「は?」

律「『は』じゃねーよ」ポカッ

澪「痛…」

澪「別にどうしようもないだろ」

律「…ま、そうだけどさ」

澪「…」


ぶしつ!!

唯「あ〜ず〜にゃぁ〜〜〜ん!」ノシ

梓「あ! 先輩たち! おめでとうございます!!」

さわ子「みんな合格おめでどぉ〜〜〜〜」ウルウル

澪(? 泣くほど嬉しいのかこの人は…??)

律「いや〜、まったくよく受かったよな〜。はっはっは」

ワイワイ… ギャーギャー…

澪「——ん? なんだここに置いてある封筒は」

梓「あ、それムギ先輩が朝来て置いていったんですよ」

澪「え!?」

梓「みんなが揃ったら開けてみて、って」

澪「…!」ビリビリバリーン

澪「こ、これは…?」

梓「楽譜…ですね」

唯「あれ〜? ここに手紙も入ってるよ!」スッ

律「ムギからか! 読んでくれ唯!」

唯「うん! なになに…えーと」

唯「『軽音部のみんな、さわ子先生、おはようございます。琴武器紬です』」

唯「『この手紙をみんなが読んでいるということは、既に私は日本にいないのでしょうね』」

澪「いや、まだいるし!」

梓「なぜここでミステリーチックに…」

律「っていうか、どっちにしても笑えねーってばよ…」

唯「『もう何ヶ月も前だけど、実は澪ちゃんから素敵な素敵な歌詞を頂いていて、みんなには内緒にしてたのです』」

澪「あ…(いつぞやのラブレター…じゃん…///)」

唯「『時間が掛かってしまったけれど、やっとその歌詞に合う曲ができました』」

唯「『本当はもう少し早く作って、皆の前で披露して驚かせようと思ったんだけど…』」

唯「『とにかく私の想いが詰まった全力の曲です!』」

唯「『演奏してくれたら幸いです。でわ、みなさんごきげんよう』」

澪「ムギ…」

梓「ムギ先輩…」

唯「う、う〜ん…ぴーえす…? 続きがあるよ!」

律「お、なんだなんだ〜」

唯「『P.S. 澪ちゃん、遅くなって本当にごめんね』」

唯「『そして、もらった歌詞に曲名が無かったので、勝手につけちゃいました』」

唯「『タイトルは…』」

唯「『ほかほかごはんにたくあんのせて』」

唯「『じゃあね、澪ちゃん。愛してます』」

唯「…ええ!?」バッ

梓「!」バッ

澪「///」

律「…」フッ


……………………………
…………………
………

つぎのひ!!

さわ子「さようなら…ムギちゃん…まさか教え子に先を越されるとは…」ガックリ

紬「お、お世話になりました〜…さわ子先生もお幸せに…」

唯「ムギちゃ〜〜ん! 絶対に絶対に遊びに行くからね!」ウワーン

紬「ありがとう唯ちゃん…私も日本に来たときには絶対にみんなに会いにいくから…」

梓「また…一緒にギター練習してくださいね…」グスン

紬「うん! 次に会うときには梓ちゃんに負けないくらい弾けるようになるわ!」

律「ムギ…なんか上手なこと言えないけど…お前がいたから楽しい軽音部だったよ」

紬「ふふ…こっちのセリフよ…。りっちゃんが部長だから、私たちの軽音部があったのよ?」

澪「ムギ…」

紬「澪ちゃん…」

澪(最期だってのに…なんで私は気の利いたこと言えないんだっ……)

澪(本当に不器用な自分に腹が立つ…)

紬「…」

澪「ム、ムギぃ……」

澪(だ、だからあ〜! もう私なんてハゲてしまえ!!)

斉藤「お嬢様…そろそろ…」ガチャリ

紬「…! う、うん…」

紬「…」チラリ

澪「ム!」

澪「…むぎゅぅ……」

澪(あぁぁああ〜〜! もう私なんて死んでしまえ!!)グスン

紬「じゃあね…みんな。またね!!」

ブロロロロロ…

梓「行っちゃいましたね…」

唯「うん…ムギちゃんのお茶おいしかったな〜」

澪「…」ズーン…

律「…」

律「おい」ポカッ

澪「いたっ」

律「いいのかよ」

澪「だからっ! どうしようもないだろっ!!」ボカッ

律「いでっ!!

律「こ、の、…ヘタレが!!」ボカッ

澪「ふげ!?…うるさいバカ律!」ゴチン!

律「〜〜〜…!! この意気地無し野郎がっ!!」バチン!

梓「え……? ちょ」

さわ子「こ、こらこらどうしたの?」

澪「野郎じゃないだろ!!」ボカッ

律「そ、そこっ!?」

梓「や、やめてくださいよ先輩たち!」

澪「ふんむ〜〜〜!」グイィィ

律「へも〜〜!」グイグイ

さわ子「ちょ、ちょっと離れなさい、あなたたち!」グイー

梓「あ〜もう、どうしたんですか急に!? ゆ、唯先輩! 見てないで止めましょうよっ!」

唯「………ほぇ?」

梓「もうちょっと関心もってください!」ガビーン

律「悔しくないのかよっ! 澪!!」バシン!

澪「……〜〜〜! 悔しいよ!!」ボカッ

澪「どうせヘタレだよっ!!」ドゴッ

澪「意気地なんてもの、私の何処にもないよ!!」ゲシッ

律「いた、た、ちょ、ちょっとタンマ!」

澪「私だってこんな自分大嫌いだ! 私なんて馬に蹴られて死んでしまえ!!」ゲシゲシッ!

律「いたいいたい、蹴られてるのは私だってば」

さわ子「み、澪ちゃんやりすぎよ!」ガシッ

澪「うぅ〜〜〜…」

澪「ムギが好ぎだよ〜〜〜! でぼ、どうじだらい゛い゛が〜〜〜!」ウワーン

律「……やっと本音が出たか…」

律「どうしたらいいかなんて、もう決まってるだろ!」

澪「何がだよ〜〜!! ひっく、ひっく…」

律「今の本音を直接ムギに言ってやれ!」

澪「そんなこと…そんなこと出来るか!」

澪「ムギは…ムギは私のこと好きって言ってくれたんだ!」

澪「自分の運命を知ってたのに、どうしようもないのに…言ってくれたんだっ…」

澪「これ以上ムギを苦しめられるか!!」

律「だからだってば! ムギはそれでも、告白したんだろ!?」

律「どうしようも出来ないのは今のおまえも一緒だろ!? だったらせめて気持ちを伝えてやれよ!!」

律「ムギが…澪を好きだったってことを無意味にさせるな!!」

澪「……っ!」

律「逆の立場だったらどうだよ…」

律「ムギが気を使って告白しなかったら、お前はなんて思うんだ!?」

澪「…」

律「どっちが…苦しいと思う…」

澪「…言ってほしい……」

澪「たとえ、どうしようもなくても……好きって言ってほしい」

律「はぁ〜〜〜……やっとわかったか。まったくめんどくさかったぜ…」

澪「でも…私、どうすれば…」

律「ああ、もう!! どうすればいいとか、どうしようもないとか!」

律「考えてるヒマあったら! 行動あるのみだ!!」

澪「で、でも…もう空港向かっちゃったし…」

律「知るか! さわちゃん!!」

さわ子「は、ハイ!?」

律「車を出せ!! 150km/hで行くぞ!!」

さわ子「何言ってるのよ…私の車見ればわかるでしょ? 無理に決まってるじゃない…」

律「いいから〜…メガネをはずせ!!」パッ

さわ子「ちょ、あ…」

さわ子「…」

澪「せ、先生…?」

さわ子「ククク…てめぇら!乗りやがれ! 200km/hで飛ばすぜ!!」

澪「」

梓「そ、そんなキャラ設定だったっけ…?」

さわ子「イニシャルSと呼ばれたこの私をナメるんじゃあねぇ!!」

梓「ひぃぃ! メガネくらいかけて運転してくださいよ!」

ドギュゥゥゥン!!



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最終更新:2014年11月03日 19:13