唯「ドキドキだね…」
憂「それで、どうなったの?」
亨「はじめまして、とみさんとお付き合いさせて頂いている亨です」
とみ父「はじめまして、父です」
とみ母「はじめまして」
とみ父「君は幾つなんだ?」
亨「18歳です」
とみ母「板前を初めて何年なの?」
亨「まだ、2年です」
とみ父「半人前だな」
亨「はい、その通りです」
とみ「お父さん!」
とみ母「とみは黙ってなさい」
とみ「…」
とみ父「亨さん、とみの事を本気で好きなら一つ条件を出す」
亨「何でも言って下さい」
とみ母「後、2年で一人前の板前になって下さい」
亨「2年ですか?」
とみ父「そうだ、2年だ」
とみ「お父さん、無茶だよ!」
とみ母「黙ってなさい」
とみ父「2年で一人前になったら、とみとの交際でも結婚でも認めてやる」
亨「わかりました、死に物狂いで頑張ります」
とみ母「2年間、とみとも会わないで下さいね」
とみ父「守れるか?」
亨「必ず、とみさんを迎えに来ます」
とみ「そ、そんな…嫌です!」
亨「大丈夫だから、必ず迎えに行くから」にこっ
とみ「亨さん…」
唯「2年間、長いね…」
憂「亨さんもお婆ちゃんは2年間どんな風に過ごしてたの?」
とみ「彼は一心不乱に修行に打ち込んでたそうだよ」
唯「お婆ちゃんは?」
とみ「私は毎日泣いてばかりいたよ」
憂「そうなるよね…」
とみ「でも、そんな私に渇を入れてくれたのは両親だった」
とみ「…」ぐすっ
とみ「亨さん…」
とみ父「とみ、また泣いてるのか?」
とみ「お父さんのせいです…」ぐすっ
とみ母「とみ、貴女は恥ずかしいと思わないのですか?」
とみ「…」
とみ父「こっちへ来なさい」ぐいっ
とみ「辞めて離してよ!」
とみ母「良いから、来なさい」
とみ「…」
とみ母「今日から、貴女には家事の全てを任せます」
とみ「えっ?」
とみ父「亨君の様子を見てきた、彼は一心不乱に修行に打ち込んでいたぞ」
とみ「亨さんが…」
とみ母「それに比べて貴女は毎日泣いてばかり…恥ずかしいと思わないのですか?」
とみ「わ、わたし…」
とみ母「今日から貴女に花嫁の心構えと家事を徹底的に教えます」
とみ「お母さん…」
とみ父「亨君が迎えに来た時に恥ずかしくないようにな」
とみ母「返事は?」
とみ「…」
とみ母「返事は!」
とみ「はい!」
唯「ほぇ〜凄い事になったね」
唯「お母さんは厳しかった?」
とみ「そりゃ、鬼に見えたさ」
憂「そ、そんなに怖かったの?」
とみ「何度も洗濯物を畳み直させられたりお皿の洗い方が悪いと怒られたりしたよ」
とみ母「とみ、洗濯物を畳み直しなさい」
とみ「えっ?何が悪いの?」
とみ母「これでは皺になります、やり直しなさい」
とみ「は、はい」
とみ母「違う、とみ何を見てたの?こうやるのです」
とみ「はい…」
とみ母「何か、不満なの?」
とみ「いえ…」
とみ母「掃除も全くなっていません」
とみ母「やり直しなさい」
とみ「わかりました…」
唯「少し意地悪に思うかもね…」
とみ「まだ、私も子供だったからねぇ」
憂「やっぱり反発し続けたの?」
とみ「いや、偶然に両親の会話を聞いて考えを改めたよ」
唯「何を話してたの?」
とみ「お母さんなんて嫌い、私の事ちっとも褒めてくれないんだから…」ぐすっ
とみ父「母さん、幾ら何でもとみに厳しすぎるんじゃないか?」
とみ母「…」
とみ父「もう少し、優しく教えてやりなさい」
とみ母「あなた、とみに恥をかかせても良いと仰るの?」
とみ父「そんな事は言ってない」
とみ母「亨さんには両親が居ないと言っても親戚や兄弟が居ます」
とみ母「そこで、とみが何も知らない子だと恥をかいたらどうしますか?」
とみ父「…」
とみ母「とみの為に私達が恥をかくなら幾らでもかきます」
とみ母「しかし、私達が何も教えない知らばかりにとみが恥をかくのは許される事ではありません」
とみ母「とみが何処に出ても、誰を前にしても立派な嫁にするのが母親の務めなのです」
とみ父「わかった、母さんに任せるよ」
とみ「お母さん…」
とみ「あんなに私の事を思っててくれたんだ…」
とみ「私、何やってんだろな」
とみ「愚痴や泣き言ばかり言ってる」
とみ「…」
とみ「よーし!」
唯「お母さんもお父さんも何だか厳しいけど、お婆ちゃんの事を誰よりも好きなんだね」
とみ「子供の為に親が恥をかくのは当然 親の為に子が恥をかくのは許されないと考えていたんだよ」
憂「カッコいいね」
とみ「今でも、最も尊敬する人だよ」
唯「亨さんにはお婆ちゃんを一生守る覚悟を学ばせる為」
憂「お婆ちゃんには、そんな亨さんを一生支えて行く覚悟を学ばせようとしてたんだね」
とみ「正にそうだよ」
唯「それからのお婆ちゃんはどんな風に家事の仕方が変わったの?」
とみ「それはね」
とみ「お母さんを観察しよう」
とみ「お母さんの細かい動きを見て研究するんだ!」
とみ母「とみ、掃除をしますよ付いて来なさい」
とみ「はい、わかりました」
とみ母「良く見てるんですよ 」
とみ(真剣に見るんだ)
とみ母「わかりましたか?出来たら呼びに来なさい」
とみ「わかりました」
とみ母(目の色が変わった…)
バタン
とみ「よーし見てろー」
とみ「…」ゴシゴシ
最終更新:2014年12月12日 07:57