とみの部屋



とみ「眠れないな…」



とみ「今日で最後なんだな」



とみ「お父さんもお母さんも寂しいんだろな」



とみ「今、私に出来る事って…」



とみ「そうだ!」



とみ「布団を持ってと」




両親の部屋



とみ母「あなた、今日で最後なんですね」



とみ父「そうだな」



とみ母「寂しいですか?」



とみ父「寂しくなんてないさ」



とみ母「まだまだ、子供だと思ってたら大人になりましたね」



とみ父「体は小さいままなのにな」



とみ母「不思議な感じですね」


とみ父「あぁ」



とみ「お父さん、お母さん」



とみ母「とみ、早く寝なさいと…」



とみ「よいしょっと」



とみ父「おいおい、どうしたんだ?」



とみ「今日は3人で寝るんだよ」



とみ母「とみ…」



とみ「私ね、今凄く幸せだよ」



とみ父「うん」



とみ「2年会えないと言われた時は二人とも嫌いになりそうだった」



とみ母「…」



とみ「でも、二人とも誰よりも私を愛してくれた」



とみ「私だけじゃない、亨さんの事も思ってくれていた」



とみ「だから、凄く幸せだよ」



とみ父「…」



とみ「お父さん、お母さん私を育ててくれてありがとう」



とみ「二人の娘として生まれて来て良かったです」



とみ母「馬鹿…」ぐすっ



とみ父「…」ぽろぽろ



とみ「えへへ」ぎゅっ



とみ「こうやって、3人で手を繋いで寝るのも久しぶりだね」



とみ「おやすみなさい」



とみ母「…」ぐすっ



とみ父「…」ぐすっ



唯「お父さんもお母さんも嬉しかったんだね」



憂「私達がお嫁に行く時、お父さんとお母さんどんな感じだろ?」



唯「喜んでくれるかな?」



とみ「そりゃ、嬉しいと思うよ」



憂「結婚して喧嘩とかした?」



とみ「大きな喧嘩はなかったけど、一度泣いてしまってねぇ」



唯「な、何で泣いたの?」










亨「ただいま、とみ」



とみ「ぐすっ…ひっぐ…」



亨「とみ、どうしたんだい?」



とみ「煮物を…煮物を焦がしてしまいました…」ぐすっ



とみ「あなたは一生懸命働いて帰って来るのに私…私…」



とみ「ごめんなさいごめんなさい…」



亨「とみ」



とみ「は、はい」びくっ



亨「一緒に作り直そう」にこっ



とみ「あなた…」



亨「一緒に作れば直ぐ出来るさ」



とみ「あなた、怒ってないの?」



亨「僕だって.失敗する事もあるさ」



とみ「…」



亨「だから、泣かないでおくれ」



とみ「あなた…はい」











唯「旦那さん、優しい…」



とみ「あの人は私が失敗しても決して責めなかったんだよ」



憂「だから、お婆ちゃんは私がお料理を失敗しても怒らず何度も教えてくれたんだね」




唯「結婚生活は何れくらいだったの?」



とみ「3年だよ」



憂「さ、3年?」



とみ「そうだよ、私が二十歳になる前に彼は亡くなってしまってねぇ」




唯「じゃあ、その間ずっとお婆ちゃんは一人だったの?」



とみ「そうだねぇ、あの人が死んだ時の事は昨日の事のように覚えてるよ…」



とみ「今日も美味しい物作ってお部屋を綺麗にしてと」




とみ「お布団も干さないとね!」



とみ「ふかふかのお布団で亨さんの温もりに包まれて寝るんだ」



とみ「そして、その後は…」



とみ「///」ごろんごろん



とみ「私ったら、昼間っからもう///」



ジリリーン



とみ「あっ!電話だ」



とみ「もしもし、一文字ですけど?」



とみ「えっ?亨さんが?」



とみ「わかりました、直ぐ向かいます」



とみ「嘘、だよね…」





病院



亨「」



とみ「…」



とみ父「子供を助ける為に轢かれたそうだ…」



とみ母「即死だったそうよ…」



親方「馬鹿野郎、良い事したのに褒めてやれねぇじゃねぇか…」



とみ「…」



とみ父「とみ…」



とみ「私、帰らないと」



とみ母「何を言ってるの?」



とみ「亨さんに美味しい物作ってあげないとね」



親方「と、とみさん?」



とみ「今日はカレーだから、しっかり煮込まないといけないから帰らないと」



とみ「疲れて帰って来るんだから」



とみ「そうだよね?お母さん教えてくれたもん」



とみ母「とみ、辛いのはわかる」



とみ母「でも、亨さんはもう…」



とみ「何?」



とみ父「亨君は死んでしまったんだ…」



とみ「…」






唯「…」



憂「…」



とみ「あの人が死んだ事を受け入れられなくて、あの人の好物を作れば帰って来ると思ってしまってねぇ」



とみ「毎日毎日、カレーを作ったんだよ」










とみ「…」コトコト



とみ母「あなた、またカレーを…」



とみ「…」



とみ母「とみ、何度も言うけど亨さんはもう…」



とみ父「母さん」



とみ父「そっとしといてやろう」



とみ母「でも、このままじゃ…」



とみ父「いいから」



とみ母「わかりました…」




とみ「…」











唯「お婆ちゃん…」



憂「どうやって立ち直ったの?」



とみ「親方さんが、あの人の日記を持って来てくれてねぇ」











親方「そうですか、まだとみさんは…」



とみ母「私もどうして良いのか…」



親方「こないだ、亨の荷物からこれを見つけました」



とみ母「これは日記?」



親方「このページを読んで下さい」



とみ母「こ、これは…」










とみ家



とみ母「とみ、ちょっと」



とみ「…」



とみ母「この、日記を読みなさい」



とみ「…」



とみ母「亨さんの貴女への気持ちが綴られています」



とみ「カレー作らないと…」



とみ母「とみ、読んで!お願い」



とみ「…」ペラッ



○月○日


とみの好きな所



とみの笑ってる顔がこの上なく好きだ
小さな体を目一杯使って家事をこなして上手く行った時の満面の笑顔が好きだ
いつも、笑っていて欲しい
とみの笑顔を守りたい
万が一僕が先に死ぬような事があり
君の笑顔を曇らせてしまったなら
それは僕にとっても寂しい事
でも、ずっと見守りたい
星座になって君を見守りたい
とみが笑顔になれるまで。



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最終更新:2014年12月12日 08:01