平沢家
ゴオオォォン……
唯「わー……すごい音だね……」
憂「風も雨もすごいね……」
唯「でも、早く気づけてよかったよ。おかげで洗濯物濡れる前に取り込めたから」
憂「手伝ってくれてありがとね。そうだ、あたたかいココア作ろっか?」
唯「ありがとう、お願いしていい?」
憂「うん♪」
唯「ふふ〜憂のココア〜♪」
憂「お姉ちゃんココア好きだもんね」
唯「そうだよ〜コーヒーは苦手だけどね……」
憂「でも紅茶は好きなんだ」
唯「香りがいいからね。あと色も好きだよ!」
憂「色? たしかにそうかも……スプーンいる?」
唯「うん、あったらうれしいな」
憂「はーい」
唯「うー……さむさむ」
憂「お待たせ〜」
唯「ありがとう。はぁ〜……カップさわってるとあったかあったかだね」
憂「ほんとだね」
ピカッ!
唯「わっ!?」
憂「!!」
ゴオオオオオンッ
唯「けっこう近いね……」
憂「停電とかだいじょうぶかなあ……」
唯「停電しちゃうとこたつが……」
憂「落ちてこないといいね。 ……あっ」
唯「ん、どうかした?」
憂「えへへ……ちょっと昔のこと思い出して……」
唯「昔?」
憂「うん。お父さんとお母さんがコンサートに行ってる間、二人でお留守番したことあったでしょ? 今日みたいなひどい天気でさ」
唯「あった……かな?」
憂「あれ、覚えてない?」
唯「うーん……どうだったかな……その日のこと、憂は覚えてるんだ」
憂「うん……わたしにとっては……とっても思い出深いよ……」
唯「そっかあ」
憂「(──あの日は……)」
#
あの日は、今日みたいに風と雨が強い日だったかな。
お父さんとお母さんは二人仲良くコンサートに出かけていた。
私とお姉ちゃんは家でお留守番。一晩まるまる家を空けるわけじゃなかったから、そのくらいなら小学生の私たちでも大丈夫だろうってことで。
家を出る前にお母さんが晩ご飯を作っていってくれていた。
憂「お姉ちゃん、それレンジであっためた方がおいしいと思うよ」
唯「そっか、それもそうだね」
ビュウウウウウッ
唯「風強いね……」
憂「そうだね……」
その時お姉ちゃんには言わなかったけど、私は内心不安だった。
お父さんたちがちゃんと家まで無事に帰って来られるのか。
お姉ちゃんはそんなことまったく気にしていないみたいで、私一人だけが何度も窓の外を見ていた。
唯「今日はおもしろいテレビやってないや〜……」
憂「…………」
コンサートは夕方の5時から夜の7時までと聞いていた。
終わったら一度電話するって言ってたけど、まだかかってこない。
もう7時半なのに……。
せっかくのご飯だけど、なかなかお箸が進まない。お姉ちゃんはさっきから何度もチャンネルを変えている。
唯「あれ、お腹すいてないの?」
憂「えっ? ううん、そんなことないよ」
唯「そう?」
憂「うん」
少し表情に出ていたのか、お姉ちゃんはしばらく私の顔を見つめていた。
すると、私のほっぺたに手を伸ばして、
唯「ほっぺにご飯つぶ付いてたよ、ほらっ!」
そう言って明るく笑ってみせた。
お姉ちゃんはいつでもお姉ちゃんだなあ……。
憂「ありがとう」
そんなお姉ちゃんが羨ましくて、また思いつめてしまう。
風はだんだん強くなって、雨もざあざあと地面を打ち鳴らしている。
そんな音を聞いていると、私の心の中もどんどん曇ってきた。
憂「…………」
唯「憂は何か見たいテレビある?」
憂「ないかな……」
唯「そっかー」
外を見ていると、雨がだんだん強くなっている気がしてくる。
二人とも傘は持って行ってたっけ……でも、忘れたのなら電話くらいあるかな。
そんなことを考えていると、一瞬、空が輝いた。
憂「!!」
ゴオオオオオオンッ
唯「わっ!」
フッ……
唯憂「あっ」
電気が消えて、リビングが真っ暗になった。家が停電してしまった。
唯「び、びっくりした〜……憂、どこにいるのー?」
憂「…………」
お姉ちゃんが呼びかけてくれたけど、私はそれどころじゃなかった。
雷が怖い……。
停電して家が真っ暗になった瞬間、私は怖くなってしゃがみ込んでしまった。
窓ががたがたと音を鳴らして、不安を煽ってくる。
パッ
唯「あっ」
次の瞬間、リビングが明るくなった。電気が戻った。
それでも私の身体の震えは止まらない。
私を見つけたお姉ちゃんがしゃがみ込んでいる私の隣まで来てくれた。
唯「憂、だいじょうぶ……?」
憂「…………」
お姉ちゃんの呼びかけは耳に入らない。
私はお父さんとお母さんのことだけを考えていた。
こんなにひどい天気で二人は大丈夫なのか、電話が無いのは二人に何かがあったのか、
何かあったとすれば……もしかしたら、もしかしたら……
ゴオオオオオオォンッ
憂「!!」
「もしかしたら」がどんどん悪い方へと積み重なる。
まさか……いや、でも……もし二人に雷が……
憂「……お父さんとお母さんが」
唯「えっ?」
憂「私、お父さんとお母さんを迎えにいくよ!」
唯「えぇっ!? こんな天気じゃ無茶だよ! 危ないよ!」
憂「でもっ! 電話が無いのは心配だよ! もしかしたら……雷が……!」
その言葉を口にした瞬間、私はいても立ってもいられなくなった。
お姉ちゃんの制止を振り切って、玄関へと向かった。背中で声を跳ね除けて……。
早くいかないと……早くいかないと……!
私は傘も持たずに家を飛び出した。
憂「っ……」
ドアを開けると、強い風が吹き込んできた。雨も今まで見たことないくらい降っている。
それだけで一瞬怯んだけど、覚悟を決めて走り出した。
すぐに雨でシャツがびしょ濡れになったけど、そんなこと気にしてられない。
唯「待ってよ、憂っ!」
すぐに追いつかれてしまった。
お姉ちゃんの手を振り解こうとしても、離してくれない。こんなに強く腕を握られたのは初めてだった。
憂「……っ! お姉ちゃんはお父さんとお母さんのこと、心配じゃないの!?」
唯「もちろん心配だよ」
憂「だったらどうして!」
唯「憂を危ない目に遭わせたくないからだよ!」
憂「えっ……」
唯「お父さんとお母さんのことも心配だけど、わたしは憂のことも心配してるんだよ! ……今みたいにいきなり家を出て、もし憂がケガしちゃったりしたら……悲しい」
憂「…………」
唯「わたしは憂のお姉ちゃんだからね」
そう言って、お姉ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
とてもやさしく……。
その一言で、私はどこか救われたような気持ちになった。
こんな雨の中なのに、お姉ちゃんはとてもあたたかかくて……。
唯「家に戻ろう。このままだと風邪引いちゃうよ」
憂「うん……」
唯「帰ってシャワー浴びないとだね」
憂「ごめんなさい……」
唯「いい子、いい子……憂が何か怖くなったりした時はわたしが守ってあげるから」
憂「お姉ちゃん……」
……ありがとう。
~~~
唯「頭拭いてあげるね」
憂「あ、ありがとう……」
唯「憂、びしょびしょだね」
憂「お姉ちゃんだってびしょびしょだよ」
唯「ほんとだ……一緒にお風呂入ろっか!」
憂「うん!」
そのあと、お風呂からあがってお姉ちゃんとおしゃべりしていると、お父さんとお母さんが帰ってきた。
二人の顔を見て、私は思わず駆け寄ってから抱きついてしまった。
帰りが遅れたのは雨と風がひどかったからで、電話は充電が切れていたからできなかった、と話してくれた。
お父さんとお母さんもまた、そんな私を抱きしめてくれた。
♯
憂「(──ふふ、いい思い出だなあ……)」
唯「ねえ、憂」
憂「どうしたの?」
唯「今日は寒いから、晩ご飯はあったかいものが食べたいな〜」
憂「じゃあお鍋にしよっか」
唯「やった! わたしも手伝うからね〜」
憂「うん、お願いするね。ありがとう、お姉ちゃん!」
おわり!
♯
憂「(──ふふ、いい思い出だなあ……)」
唯「ねえ、憂」
憂「どうしたの?」
唯「今日は寒いから、晩ご飯はあったかいものが食べたいな~」
憂「じゃあお鍋にしよっか」
唯「やった! わたしも手伝うからね~」
憂「うん、お願いするね。ありがとう」
ピカッ!
唯憂「!!」
ゴオオオオオオンッ
フッ……
唯「あっ」
憂「停電……」
唯「あー……こたつが……」
憂「すぐに点けばいいんだけど……」
唯「……憂、怖くない?」
憂「えっ?」
唯「ふふ~……たまにはお姉ちゃんらしくかっこいいところを見せないとね!」
憂「(あっ……)……えへへ」
唯「?」
憂「お姉ちゃんがいるから怖くないよ」
唯「そう? ならよかった」
パッ
唯「あ、点いた。びっくりしたからお腹すいたよー……」
憂「(お姉ちゃんはずっとお姉ちゃんなんだね……)」
唯「よーし、じゃあ作ろっか!」
憂「うん!」
おわり
最終更新:2014年12月23日 17:58