誕生日に友達から電話の着信があったら、悪い気なんてするわけない。
それが誕生日当日に直接会えなかった友達だったら、尚更満更じゃない気分になる。
でも、その電話の着信が夜の十時過ぎだったのは、ちょっとどうなのかなあ……。
しかも、会話の内容が誕生日と全然関係が無いとなると、微妙な気分になっちゃっても仕方が無いと思う。


「明日、七時から部室で朝練しようよ。
あ、憂達にはもう連絡しておいたから、その辺は心配しなくても大丈夫だよ」


それだけ言って、私の返事も聞かない内に電話を切ったのは純だった。
相変わらずマイペースと言うか、人の都合を聞かないと言うか……。
折角の私の誕生日なのに、そんな事お構い無しみたいな純の声色には、正直ちょっと呆れてしまう。
私相手だから別にいいけど、こんな事を他の子にやってたら友達失くすと思う。
純ったら他の子にもこういう態度を取ってるのかなあ。
まあ、いつもの純らしいと言えば、純らしいんだけどね。

電話が切れた後、私はしばらく純の声を思い出して苦笑していた。
だって、純はいつでも、何をやってても相変わらずだと思ったから。
出会った時から……、ってわけじゃないけど、
それでも、純は私と友達になってから、いつもマイペースで遠慮が無かった。
連絡も無く私の家に訪問しては本だけ読んでゴロゴロしてたり、
こっちの都合も聞かずに休日に私を街中に連れ出したり、
私の目が回っちゃうくらい何度も何度も振り回された気がする。
ううん、気がする、じゃなくて、実際にすっごく振り回された。
三年に進級して純が軽音部に入部してくれて、
純と一緒に居る時間が増えて、余計にそれが身に染みて分かった。
純は私を振り回して楽しんでる節があるんじゃないかって。
そう思っちゃうくらい、純との軽音部の活動は大変だった。


「ふふっ……」


自分でも驚くくらい柔らかい笑い声が、私の口から漏れる。
気が付けば私の苦笑は普通の笑顔に変わってしまってたみたいだった。
友達になって以来、私は純に振り回された。
すっごくすっごく振り回されて、困らせられた事も一度や二度じゃない。
でも、やっぱり私はそれが嫌じゃないんだと思う。
唯先輩や律先輩と長く一緒に居たせいなのかな。
いつの間にか私は、危なっかしい人が居ると、つい放っておけないタイプになっちゃったみたい。

最近、特に純は危なっかしくて目を離せない。
何だかんだ言っても、唯先輩と律先輩は何処か安心して見られる所もあった。
ライブとかちゃんとする所はちゃんとしてくれる先輩達だったしね。
でも、純は違う。
純は同い年の同級生だし、音楽の実力も同じくらいだし、
何より唯先輩と律先輩に対する澪先輩みたいなフォロー役は、純には私以外に居ないもんね。
私がしっかりしなくちゃいけないんだもんね。
勿論、憂は頼りはなるけど、あの子は一歩引いて私達を見守ってる所があるから。
だから、私は純を見てなくちゃって思うし、いつの間にかそれが楽しくなっていた。

私の想像も出来ない事を始めるなんてよくある事だし、
それが不思議とプラスに働いて、助けられる事も何度もあった。
今回の電話だってそう。
学祭の終わったこの時期に朝練をするなんて、私には思いも寄らない事だった。
何をするつもりなのかはまだ分からないけど、
もしかしたら純は朝練をする事で、後輩二人に少しでも思い出を作ってあげるつもりなのかもしれない。
こう言ったら純は怒るかもしれないけど、不思議と純はそういう気配りが出来る子でもあるから。

うん、何だか私も、何とかしてあげなきゃ、って気分になって来た。
純が私の誕生日を憶えてなかったのは残念だけど、そんな事なんて今はどうでもいいよね。
今は私の思いも寄らなかった事を思い付いてくれた純に感謝するべきだと思う。
残り半年を切った高校生活、私はやれる事をやっておくべきなんだ。
まあ、純には放課後に鯛焼きでも買ってもらって、それを私の誕生日プレゼントにしてもらうけどね。
だって、私も純の誕生日は祝ったんだし、それくらいはしてもらっても罰は当たらないはず。

私はそんなちょっと不純な決心をして布団に入って、早起きして急いで部室に向かった。
今日の朝練頑張ろうって決心を胸の中に強く抱いて。
相棒のムスタングを腕の中に抱えて。

だけど、部室の中で私が目にしたのは少しだけ意外な光景だった。
部室の中には純が居た。
居たんだけど、居たのは純だけだった。
純は紙袋を抱えて長椅子に座って、
私の方……、つまり部室の扉の方を見つめていた。
これはかなり珍しい光景だったと思う。
滅多にしない朝練とは言っても、菫や憂は今までいつも私より先に来てたから。
毎回、純が来るのは、私と同じくらいか最後の方なんだよね。


「あれ? 憂達は? 散歩にでも行ってるの?」


私はムスタングを部室の壁に立て掛けてから純に訊ねてみる。
純が一番乗りで部室に到着してるなんて、いくら何でもちょっと変だ。
散歩っていうのは冗談のつもりだったんだけど、
もしかしたら本当に散歩に行ってたりするのかもしれない。


「憂達……って?」


純が紙袋を長椅子の上に置いてから、首を傾げて応じる。
その表情は何故だか少し愁いを帯びて見えた。
って、あの純が愁い?
自分で考えた事だけど、あの純にそんな事あるはずないよね……?
私は自分の心臓が少し激しく動くのを感じながら、もう一度純に訊ねてみる。


「何言ってるのよ、純。
今日、皆で朝練するんでしょ?
朝練なのに憂達がまだ来てないっておかしくない?」


「ううん、おかしくないよ、梓」


「どうして?」


「だって、朝練するって嘘だもん。
勿論、他の皆も呼んでないよ」


「えーっ……」


私は呆れた声を出して、思わずその場に崩れ落ちてしまう。
朝練が嘘って、純……。
自分が脱力するのを感じるのと同時に、私は胸を撫で下ろす気分も感じていた。
朝練なのに純が一番乗りしてるって妙な事態の理由は、
単に純が私以外の部員を呼んでなかったから、って事が分かったからだ。
純が私以外を呼んでなかった事は釈然としないけど、
少なくともちょっとした異常事態の説明は付いたんだもんね。
それならそれでよかったって思う所なんじゃないのかな。

ただ、勿論、それで完全に納得出来たわけじゃない。
私は床に両手を着いて、上目遣いに純を見ながら溜息混じりに訊ねてみる。


「じゃあ、一体、何をする気なのよ、純……。
こんな朝っぱらから人騒がせな事までして……」


「ごめんごめん、ちょっと梓と二人で話したい事があったんだよね。
でもさ、二人きりで話したい、なんて伝えたら、誰でも身構えちゃうでしょ?
ちょっとね、私はそれが嫌だったんだ。
梓には身構えずに部室まで来てほしかったんだよね。
でも、やっぱり梓には悪い事しちゃったよね。
嘘吐いちゃってごめん、梓」


「ううん、そういう事なら、まあ、いいけど……」


純が妙に真剣な表情を私に向けるから、私はそうやって頷く事しか出来なかった。
純が滅多に見せない真剣な表情。
私はその純の表情に気圧されてしまう。
純がこんな表情を見せる事なんて、今までほとんど無かった。
そう、確か、前に純が私にこんな表情を向けたのは確か……。


「まあまあ、梓もそんな所に座ってないでこっちにおいでよ」


気が付けば、純が私の傍まで近寄って、
崩れ落ちている私に手を差し伸べてくれていた。
私は「ありがと」と言いながらその手を取って身体を起こすと、
純のとても温かい手に導かれるままに、部室の長椅子に純と肩を並べて腰を掛けた。
純と肩が触れ合うのを感じて、私は何となく緊張してしまう。
……って、駄目駄目。
私ったら何で純相手に緊張しちゃってるの?
純が私を朝から部室に呼んだ理由をちゃんと訊かなきゃ……。
私は小さく深呼吸をすると、緊張で少し震える唇をゆっくり開いた。


「ねえ、純、今日は一体何のよ……」


「あ、ちょっと待って、梓」


「えっ?」


「これは嘘吐いちゃったお詫び。遠慮無く食べてよね」


純はそう言うと、長椅子の横に置いていた紙袋を私に手渡した。


「あったかい……」


想像してなかった紙袋の温かさに、私は思わず声を漏らしてしまう。
なるほど、純の手がとても温かったのは、この紙袋を触ってたからなんだ。
何が入ってるのかと思って紙袋の中の覗き込んでみると、餡子の甘い香りが私の鼻孔をくすぐった。
中に入っていたのは私の好物の鯛焼きだった。
数えてみると五つも入っている。
こんなに貰っていいのか不安になって視線を向けてみると、純は軽く微笑んで頷いてくれた。


「遠慮無く食べてって言ったでしょ?
嘘吐いちゃったお詫びなんだから、貰ってくれないと私が困るんだよね。
ここは私の顔を立てると思ってがっつり食べちゃって!」


「がっつりって何よ、がっつりって……。
まあ、そういう事なら遠慮無く貰っちゃうね。
それじゃあ、いただきます」


私は袋の中の鯛焼きを一つ掴み、頭から一口頂く。
鯛焼きの皮と餡子の食感が私の口の中に広がる。
すぐに気が付いた。
これは純と何度か行った私の好きな鯛焼き屋さんの鯛焼きだ。


「ねえ、純、これってあの店の……」


「そうだよ、それはあの店の鯛焼き。
昨日の内に買っといたんだ。
うちの電子レンジで温めたやつだけど、まだ温かいでしょ?」


「うん、温かいし、すっごく美味しいよ。
ありがとう、純」


「やめてってば、梓。
それはお詫びなんだしさ」


「あ、うん、そうだったね。
でも、こんな鯛焼きまで用意して、結局何なの?
私は別にいいけど、純って朝苦手だったでしょ?
それなのに、早起きしてまで、私に話したい事って何なの?」


「あ、一つ訂正させてほしいんだけど、私は別に朝が苦手なわけじゃないよ、梓。
髪型のセットに時間が掛かってるだけで、早起きが苦手ってわけじゃないんだから。
これでもジャズ研の朝練で鍛えられてるんだからね!」


その割には軽音部の朝練にはいつも遅刻ギリギリだった気がするけど……。
まあ、そこは今は突っ込まなくてもいい事だよね。
私は「ごめんごめん」と謝ってから、もう一度純に同じ事を訊ねてみる。
すると純は長椅子の下に置いていた鞄から、何枚かの紙切れを取り出して私に見せた。


「これは……、楽譜……?」


確かめるみたいに呟いてみる。
ううん、呟かなくても一目瞭然だった。
純が手に持っているのは楽譜だ。
それも五線譜の上に音符と歌詞が手書きされた……。
これは何かを食べながら見る物じゃないよね。
私は手に持っていた鯛焼きを一気に頬張ってから、またその楽譜に視線を向けた。

見る限りはギターの楽譜みたい。
何度も何度も消しては書き加えた跡がある。
工夫と苦悩と研鑽の跡がある。
そして、歌詞の筆跡に私は見覚えがあった。
授業中なのに、何度も回って来た手紙と同じ筆跡。


「もしかして、この楽譜は純が……?」


私が純の顔を見ながら訊ねると、純は頬を少し赤く染めた。
照れてるんだ。
純が照れるのなんて、何だか凄く久し振りに見た気がする。
純は自分の鼻の頭を軽く掻きながら、私の言葉に頷いた。


「まあね! 私ってば作詞・作曲も出来る子だからね!」


「純ってそんな事出来たのっ?」


「出来るよ! って言うか、新曲の作曲の協力もしてたじゃん!
見てなかったのっ?」


「打ち込みが珍しいから見てるだけかと思ってた……」


「梓が私の事をどう見てるかよく分かったよ……。
そりゃ私だって最初は興味本位だったけど、
打ち込みの協力とジャズ研の経験から、それなりに作曲出来るようになったんだよ……」


「ご、ごめんってば……。
そんな膨れ顔しないでよ、純……」


慌てて私が謝ると、純はすぐに笑顔になって私の頭に手を置いた。
軽く撫でながら、優しい声色で続ける。


「まあ、梓はドラムとか色んな手伝いしてたから、
私のやってる事までは気付かなくても仕方無いのは分かってるよ。
自分で言うのも何だけど、結構皆に隠れて作曲の勉強をしてたからね」


「皆に隠れて……、ってどうして?」


「そっちの方がカッコいいでしょー?
作詞も作曲も出来ないと思ってた先輩が実はその爪を隠したってやつ!
そういうのってすっごくカッコいいし、皆をびっくりさせられるじゃん?」


「確かにびっくりはしたけど……」


純はそういうカッコよさにこだわる所が結構ある。
それだけの理由で皆に隠れて作曲の勉強をしてたなんて、呆れるを通り越して感心しか出来ない。
こういう所は凄い行動力なんだよね、純って子は……。
でも、そこで私は一つの疑問に思い当たった。
何で皆をびっくりさせようと思ってたいたのか、ってその理由が分からなかったんだよね。
私がそれを訊ねると、純は「何言ってるの、梓!」とちょっと興奮気味に答えてくれた。


「卒業の時に後輩に曲を贈るのが軽音部の伝統行事なんでしょ?
だったら、私達もその伝統をしっかり守らないと!」


普段、古い行事なんて嫌いとか言っていながら、妙に自信たっぷりな言葉だった。
でも、それでよかった。
全然よかった。
凄く嬉しかった。
純ったら……、私の話を憶えててくれたんだ……。
二年生の頃、先輩達が卒業する時、私は先輩達から一つの曲を贈られた。
『天使にふれたよ!』って贈られる本人としてはちょっと恥ずかしくなるタイトルの曲。
でも、私の事を心から想って、先輩皆で作ってくれた曲だ。

その曲を贈られて、私はとっても嬉しかった。
とってもとっても幸せだった。
だから、今年、二人の後輩が出来た時に思ったんだ。
私も後輩達のために曲を贈ろうって。
二人を大事に大事に想って、心の底からの感謝を届けようって。

でも、私に作曲は出来ないから、そろそろ勉強しないといけないって思ってた所だったんだよね。
少しずつ勉強して、受験が終わった頃に集中して純達と作らなきゃって思ってた。
純はそんな私よりも先に、後輩達の事を考えて作曲を始めてくれてたんだ……。
気が付けば私は純の手を取っていた。
嬉しさでどうにかなっちゃいそうだった。
この気持ちを言葉にしなくちゃ、本当にどうにかなっちゃいそう。
私は純の瞳を見つめて、自分の今思う素直な気持ちを口に出した。


「うん、そうだよ! そうだよね、純!
伝統……、守らなきゃね!
私の話、憶えててくれたんだ!
ありがとう、純!」


「お礼を言うのは早いって、梓。
この楽譜は梓と憂に添削してもらおうと思ってるやつなんだからさ。
作曲は始めたばっかりだから、残念だけどまだ自信が無いんだよね。

でも、それでもいいかなって思うんだ。
私一人で完璧な曲が作れてもつまらないし、カッコよくないじゃない?
だからさ、私達三人で作りたいんだよね、あの子達に贈る曲を。
三人でいい曲を作って贈ろうよ、梓」


「うん!」


私は純の手を強く握って頷く。
思った。絶対にいい曲を作ろうって。
私達が贈れる最高の曲を作ってみせようって。
それがきっと卒業する私達が、あの子達に作ってあげられる最後の思い出なんだと思うから。
思い出に残る素敵な曲を作るんだ、三人で絶対に……!

……って、あれ?
私はそこで首を傾げてしまう。
それなら先にしなくちゃいけない事があると思ったからだ。
私は純の手を握っていた手のひらから力を少し抜くと、それを純に訊ねてみる。


「ねえ、純……?」


「どうしたの?」


「それなら私だけじゃなくて、憂も今日呼んでおいた方がよかったんじゃない?
三人で曲を作るんなら、ちゃんと憂にも伝えておかなきゃ……」


「ああ、その事。
うん、分かってるよ。
憂にはちゃんと今日の帰り道にでも伝えるつもり。
別に憂を仲間外れにしたわけじゃないんだよ。
今日、梓に嘘を吐いてまで来てもらったのはね、梓にもう一つ大切な話があったからなんだ……」


私にもう一つ大切な話がある?
何の話なんだろう?
少なくとも、私には後輩二人に贈る曲以上に大切な話が思い浮かばない。
それだけで十分過ぎるくらい、大切な話だった。
でも、純にはまだ私に話があるらしい。
一体、どんな話を私にするつもりなんだろう?


「えっとさ……。実はね……」


純がまた自分の鞄の中に手を突っ込んでから、珍しく頬を染めて言い淀んだ。
鞄の中に何かを入れてるんだろうけど、それが何なのかまでは勿論私には分からない。
ひょっとして後輩達に贈る予定の曲を演奏して、デモテープでも作ってるのかな。
それなら純が珍しく言い淀んでる理由にも説明が付くんだけど……。


「ええい、儘よ!」


漫画みたいな事を言ってから、純は鞄の中から何かを取り出して私に手渡した。
その何かは残念ながらと言うべきなのか、
私の想像してたデモテープじゃなくて、また数枚の紙……、楽譜だった。
憂に渡す方の楽譜かなって一瞬思ったけど、そうじゃないのはすぐに分かった。
よく見なくても、さっき渡された楽譜と今渡された楽譜の中身が違うのは一目瞭然だったから。
記号も音符の配置も歌詞も全然違っていたから。


「後輩に贈る曲の二曲目?」


私が首を傾げて訊ねると、純はちょっと肩を落としたみたいだった。
純は脱力した感じになって、絞り出すみたいに言葉を続けた。


「違うってば、梓……。
そう何曲も贈られたってあの子達も困るだけでしょ?
そんなのサプライズも思い入れも無くなっちゃうじゃない。
勿論、その楽譜はそんなのじゃなくてね、えっと……」


「何?」


「あー、もう、梓ってばホントに鈍いなあ!
それはプレゼントだよ、プレゼント!
梓への!」


「え? 私に? どうして?」


「それ本気で言ってる?
誕生日プレゼントだよ、梓!」


「えっ……?」


私は予期してなかった事態に言葉を失ってしまう。
誕生日を祝ってもらえる事は勿論嬉しい。
しかも、それが純の自作の曲だなんて、嬉しくないわけなんて無い。
すっごく嬉しいに決まってるじゃない。
でも、どうしてプレゼントをくれるのが今日なのか、私にはそれが分からなかった。
だから、私はいつの間にか、自分でも間抜けだって分かる質問を純にしてしまっていた。


「純、私の誕生日を憶えててくれたの?」


「勿論だよ、梓。
そりゃまあ、最近まで忘れてたけどね……。
でも、先月くらいから憂が梓の誕生日の話をするようになって、
それで私だってちゃんと梓の誕生日が近いんだって事を思い出したんだから。
プレゼントだって先月からずっと準備してたんだよ?」


純がまた頬を染めて、私から目を逸らしながらも私にそう話してくれた。
いつも奔放に見える純でも、私に誕生日プレゼントを渡すのは照れ臭い事みたい。
そんな純の横顔を見て、私は自分の胸が高鳴るのを感じる。
純ってば、私をそんなに大切な友達だって想ってくれてたんだ……。
やだな……、嬉しいのに何でだろう。
胸が詰まって、私、ちょっと泣きそうになっちゃってる……。

ううん、駄目駄目。
今泣いちゃっても、純を困らせるだけじゃない。
私は潤み始めた目尻を指先で擦って、照れ隠しに少し軽口を言ってみる。


「誕生日プレゼント、ありがとね、純。
私、すっごく嬉しいよ。
でもね、純、私の誕生日、昨日だよ?」


「うっ……」


2
最終更新:2012年12月17日 01:05