第22話    「魔法瓶」


とある日の保健室


梓「ハァー…。今日の体育 身体測定かー。いやだなー……」

純「えー、そうかな? 走ったりとかするよりはさ、疲れないしいいじゃん。むしろ私は大歓迎!」

梓「イヤなものはイヤなの。 はぁ……、なんか憂うつ…」

純「あっ、まさか梓。身長計るのが嫌だとかー?」ニヤニヤ

梓「うっ」ギクッ

純「あっ、ゴメン。もしかして図星だった…?」

梓「ちっ、違うよ!! そんなことないもん!!」

梓「とにかく、身体測定はいやなのー!!」

純(やっぱり身長測るのが嫌なんだな…)

・・・・・・

身体測定 終了後

憂「あ、純ちゃんもう身長測り終わった?」

純「うん。今年は1cmくらいしか伸びてなかったけどね」

憂「私は1.5cm伸びてた!」

純「おっ。憂選手やりますなー。夢の160cm台いっちゃうんじゃない?」

憂「もう、純ちゃんったら。流石にそれはないよー」

アハハハハ……

梓「あははははは……」ドヨーン…

純「うっ…。何やらすごい負のオーラを携えた人が…」

憂「あ、梓ちゃんは何cm伸びてたの?」

梓「1mm……縮んでた…」

憂純(気まずい……)


純「そ、そんなに落ち込むなって梓。きっとこれから急速に伸びてくって!」

憂「そ、そうだよ!きっと梓ちゃんは大器晩成型なんだよ!」

梓「……じゃあいつ急速に伸びるようになるの?」

純「えっ……そ、それは……」

梓「何月何日何時何分何秒!地球が何回回ったとき!?」

純「小学生か!!」


憂「で、でも私は小っちゃいのもかわいくていいと思うけどな」アセアセ

梓「それは憂が身長伸びて余裕があるから言えるだけでしょ」

純「ダメだ。完全にふてくされちゃってる」

憂「これはしばらくそっとしておいた方がいいかもね…」

梓「ふてくされてなんかないもん!!」

純「わかったわかった。とりあえず、ホームルーム遅れないように早く着替えよ」

梓「……ぬぅー」

放課後


梓「くそー、純と憂めー。ちょっと身長伸びたからって……」ブツブツ

梓「はぁ…。でもいつまでも身長のこと気にしてても、仕方ないか」

梓「これから部活だし、切り替えていかなきゃね!」

梓「よーし!頑張れ私! 身長がなんだ!!今日はたくさん練習してやるです!!」ガチャ



梓「みなさん こんにち……」

唯「えー、澪ちゃん今年は2cmも伸びたの!?」

律「すげーな。165とかいっちゃうんじゃねーか!?」

紬「明日お祝いのケーキ持ってくるわね!」

澪「そ、そんなに持ち上げるなよ〜///」

梓「」

唯「あ、あずにゃん。やっほー」

律「おー。梓来てたのかー」

律「……そういえば、2年も確か今日が身体測定だったよなー?梓は何cm伸びたんだ?」

梓「うぐっ」グサッ

紬「……?梓ちゃん、どうしたの? 具合悪いの?」

澪「梓、大丈夫か。顔真っ青だぞ?」

梓「い、いえ!私は大丈夫ですから! さ、さぁー皆さん今日も張り切って練習しましょー!!」


律「ははーん? さては梓。今年もあんま身長伸びなかったんだろー?」

梓「ぐっ…!そ、そんなことありません!! 私、今年はそこそこ伸びましたから!」


唯「へぇー。何cmくらい伸びたのー?」

梓「へっ? え、えっと…」

唯「?」

梓「じゅ、十センチくらい…?」


唯「えっ……?」

澪「じゅ、10cm…?」

梓「はっ…!(つ、つい強がってしまった!!)」


律「いや流石に10cmはねーだろ…。どうみてもいつものサイズだし」

唯「あずにゃん?無理しなくていいんだよ? あずにゃんは小っちゃいからこそあずにゃんなんだから」

梓「……むぅ」


部活終了後


梓「うぅ…。あの後もみんなして身長の話して……。 もう泣きそう…」

梓(ハァ…。なんで私ってこんな身長低いのかな……)

梓「何か身長伸ばす方法ないのかなーっ、っと…。……ん?」

カァー カァー

梓「あっ! カラスがまたゴミ捨て場あらそうとしてる!まったくもう……」タッタッタ

梓「こら!あっちいきなさい!!しっし!」ブンブン

カラスたち「カァー!カァー!」バサバサバサ…


梓「ふー…。なんとか追い払えた…」

梓「よかった…。ゴミ袋とかも破けてないみたい」ホッ

キラッ

梓「……ん?今何か光ったような…?」

梓「これかな…? 魔法瓶…?」

梓「まだ新しい……。これを捨てるなんて勿体ないことするなぁ」

梓「まったく。バチ当たりな人もいるもんだね。魔法瓶くんっ」キュッキュッ


モワモワモワ……

梓「!? ゲホッゴホッ!!ま、魔法瓶から煙が……!?」

魔人「よぉーっす!」

梓「ブッ!!ちょ……!えっ…!!? 魔法瓶から人がっ!?」


魔人「そんなに驚かないでよ。アンタが呼び出したんだからさ」

梓「よ、呼び出した…!?何の話?」

魔人「ほら、アンタ魔法瓶こすってくれたでしょ? いやー、おかげで何年かぶりに社場に出られたよー」

梓「は、はぇっ……!?」

魔人「またまたー。そんな何も知らないような素振りしてるけど、本当はアタイの魔法目的で呼び出したんでしょ?」

梓「ま、魔法!? なんのことですか!?」

魔人「なんだい、知らないで呼び出したの? 魔法ってのは願い事を3つまで適えるっていう魔法ね。ほら、よく御伽噺とかにあるあれだよ」

梓「…私、夢を見てるのかな…」ツネー

魔人「ちょっと失礼だな!まぎれもない現実だって!」


梓「そ、そんなこと言われても…。にわかには信じられないというか…」

魔人「まあ無理もないかもね。魔法瓶から出てくる魔人なんて、普通の人は見たことないだろうしね」

梓「そりゃそうですよ! ていうかこんなの漫画の世界でもありませんよっ!」

魔人「あはは。で、アンタ名前はなんていうの」

梓「……中野梓です」 

妖精「梓っていうのかい! とりあえずよろしくな!!……っても私の姿はアンタ以外には見えないんだけどね」


梓「え?そうなの…?」キョロキョロ


「ちょっと…。あそこのゴミ捨て場で一人でぶつぶつ言ってる子がいるわよ」ヒソヒソ

「最近急激に寒くなってきたからかしらねぇ」ヒソヒソ


魔人「なっ?本当だろ?」

梓「……そうみたいだね」グスン


梓「とりあえず、元の場所に戻して、と……」コトッ

魔人「ってオイオイオイ!!ちょっと待てよ!! まだ願い事聞いてないぞ!」

梓「でも急に願い事なんていわれても……」

魔人「遠慮すんなって! あるだろ?願い事のひとつやふたつくらいさ」

梓「そんなこと言われても……。本当に私は願い事なんて……」

梓(……あっ)


純『あ、まさか梓。身長測るのがいやだからとかー?』ニヤニヤ

律『さては梓。今年も身長あまり伸びなかったんだろー?』ニヤニヤ


梓「……本当に、願い事かなえてくれるんですか?」

魔人「そりゃもちろん!アタイの力を信じろって!! 但し三つまでだけどな」

梓「じゃあ、あの…。ここでは言い辛い願い事だから…」


魔人「OK。どこへでも連れてきな。アタイはそれまで中で寝てるからさ」スゥー…

梓「あ、中に戻れるんだ…」


梓「でも本当にこんなのが願い事かなえてくれるのかなぁ?」ジトー

魔人「こんなのとは失礼だな!アタイの怒りの魔法を浴びせてやろうか」ヌッ

梓「わー!ごめんなさい! 信じますから!許してください」

魔人「冗談だって。さ、行くんなら行きな」スゥー…

梓(何かとんでもないことになってしまった……)


・・・・・・

サーン…

マジンサーン…

魔人「んあ?」

梓「魔人さーん!」ノゾキッ

魔人「うわぁっ!!びっくりした! そんな蓋の隙間から覗かないでくれよ!」

魔人「魔法瓶をこすればすぐ行くから!次からはそうしてくれ!」

梓「あっ…。ごめん」キュッキュッ

魔人「ふぅ…。心臓止まるかと思ったよ」

梓「魔人にも心臓とかあるの?」

魔人「教えてあげてもいいけど、願い事一つ分と交換な」

梓「そ、それはダメ!」

魔人「あははっ。ジョーダンだってぇ。……で?願い事ってのは何だい?」

梓「実は……」


・・・・・・

魔人「なるほどね。要するに背を大きくして、みんなを見返してやりたいってことか」

梓「お恥ずかしながら…」

魔人「よし。アタイに任せときな!みんなの前に堂々と出られるようにしてやるぞ!」

梓「よ、よろしくお願いします!」

魔人「よーし。じゃあちょっと目瞑ってろよー?アデニングアニンシトシンチミン!!」

魔人「はっ!!」モワーン…

梓「ゲホッ…ゴホッ…!ま、また煙が…!」

魔人「はいお疲れさん。これで願いがかなったはずだよ」

梓「これだけでですか? 一見何も変わってないように見えますけど……。私、本当に大きくなったんですか?」


魔人「あ!梓まだアタイの力を信じてないね!? 気づかないかい?見える世界が変わってることに」

梓「そういわれてみれば……。何だかいつもより目線が高くなってるような……?」

魔人「だろ? 鏡見てごらん。自分の変わりっぷりに気づくはずだよ」

梓「…! 本当に背が高くなってる!」


魔人「ついでにサービスで服のサイズも直しといてやったからさ。明日は堂々と学校に行ってくるといいよ」

梓「!! あ、ありがとうございます!このご恩は一生忘れませんっ!」

魔人「おいおい照れるからよせって///」


魔人「…で。あと願い事2つ叶えられるけど。そっちのほうはどうする?」

梓「あ……。それはまだ決めてないんですけど…」

魔人「そっか。じゃあ決まったら起こしてくれ。それまでアタイは例のごとく寝てるから」

魔人「じゃ、決まったら呼んで」スゥー…



梓「……夢じゃないよね?」サスサス

梓「今まで背伸びしないと届かなかった棚にも簡単に手が届く…」

梓「ほんと、夢みたい…」

梓(これなら明日からは健康診断でも背の順で並ぶときでも何であろうが堂々としていられる!)

梓「きっと私のこの姿を見たらみんなも…」

純『えー!? 梓すっごい背高くなってるじゃん! モデルみたい!』

憂『梓ちゃん、格好いいー!』

和『私 生徒会に行って梓ちゃんファンクラブの設立を早急に申請してくるわ』

さわ子『新しく梓ちゃん用の衣装を新調しなきゃ〜!』

紬『明日お祝いのケーキ5個くらい持ってくるわね!』

律『きぃーっ!悔しいけど羨ましいぜっ』

澪『なんだか梓の方がお姉ちゃんみたいだな///』

唯『背が高いあずにゃんも可愛いー!』ムギュー


梓「なーんてことになったりしてね///」

梓「……うへへ」



アズサー、ゴハンヨー

梓「(あっ、もうそんな時間だったんだ……)い、今いくー!!」

梓(ふふっ、なんか明日学校に行くのが楽しみになってきた!!)


・・・・・・

翌日


梓の教室


純「でさー、それで兄ちゃんがさー……」

憂「へぇー、そんなことあったんだー」アハハ

ガララッ

純「あっ、誰か来た」

憂「随分背の高い子だねー。あんな子このクラスにいたっけ」

純「転校生かなんかじゃない? あれ、こっち向かってくるよ?」

憂「というか見慣れた顔と髪型の子のような……」

梓「おはよう、純。それに憂」

純憂「……えっ?」


純「あの……。転校生の方ですか?」

梓「失礼な!! 私だよ私!」

憂「この声…、この髪型…。まさか本当に梓ちゃんなの!?」

梓「そうだよ。何、どうしたの二人とも?」ニヤニヤ

憂「な、なんというかびっくりした……」

純「てか急に背高くなりすぎじゃない!?一体何があったのよ」

梓「私もいろいろと大きくなる努力したんだよ。ふふ、もうこれで純たちに小さいとは言わせない!」

純「いや、別に小さいとか言ってないし。…てか何か違和感がすごいというか……」

憂「何か梓ちゃんじゃないみたいだね……」

梓「ちょっ!?せっかく大きくなったのにその反応ひどくない!?」

純「そんなこと言われたって……。急にそんな姿になられても、すぐには受け入れ難いというかさ…」


純「てかまさか梓……。ネットとかで怪しい薬買って飲んだんじゃないよね? あるいは手術したとか……」

梓「! そ、そんなわけないじゃん! ほ、ほら私にも急成長期がきたのっ!!」

純「…本当かなー? 何か小細工でもしてるんじゃないのー?」ジロジロ

憂「私は前の梓ちゃんの大きさも結構好きだったけどなー」

梓(ぐぬぬ……!まさかの大不評!!)


キーンコーンカーンコーン……

純「あ、もうすぐ授業だ。ほら、梓も憂も席戻りな」

憂「うん。じゃあまたね、梓ちゃん」スタスタ

梓「……むぅー」ポツーン

・・・・・・


放課後


梓「はぁー……。背が高くなったのはいいものの……。思ったより皆の反応が微妙だったな……」

梓「でもまだ軽音部のみなさんたちがいるです! 先輩方ならきっと大きくなった私をほめてくれるはず……」

梓「……ほめてくれるよね?」

梓「いけないいけない! 戸惑うなんて私らしくもない! だめだめ!自身を持てわたし!」パシパシ

梓「よしっ!やってやるです!!」ガチャ



梓「皆さん、こんにちは!!!」フンスッ

唯「あーずにゃ……ってあれ?」

梓「どうしたんですか唯先輩?いつものように抱きついてくれてもいいんですよ?」ニヤニヤ

唯「いや……、その……。ど、どちらさま……?」

梓「」



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最終更新:2015年02月10日 23:51