律「……眠れないなぁ」

律「今日朝起きるのが遅かったからか?」

律「あーあ、なんかおもしろいことないかな」

律「そうだ澪にいたずら電話を……」

プルルル――


律「ぐへへ、お姉ちゃんこれからデートしない?」

紬「……りっちゃん?」」

律(やばっ!! 間違えてムギにかけちゃった!!)

律「ご、ごめんムギ。寝てたか? 起こしてごめん」

紬「ううん、今日はお月さまが明るくて眠れなかったところなの」

律「そ、そうなのか(絶対嘘だ。声が寝起きだし…… 悪いことしちゃったな)」

紬「ところでりっちゃん。デートのお誘いしてくれるなんて嬉しいわ」

律「えっ、いやこれはその……」


紬「もしかして嘘なの?」

律(そんな寂しそうな声出さないでくれ)

律「い、いや嘘じゃないさ。そのムギが良かったら……」

紬「もちろん行く!!」

律「即答だな」

紬「どこ待ち合わせ場所にする?」


律「えっと……(やべ、何も考えてねぇ)」

律「とりあえず学校の近くの公園に集合って言うのは?」

紬「いいわよ。ぎりぎり終電でいけるわ」

律「んじゃ、公園に集合な」

紬「了解で~す」


ピッ――


律「は、早く支度しないと」


慌てて家を出る
夜空の真下、一人の少女が公園と向かっていく


~~~~~~~~~~~


律「うぅ~ 寒い。やっぱ、この時期じゃ夜は冷えるなぁ」

律「着いたけどムギはまだか……」


誰もいない公園に一人ベンチに腰掛ける


律「当たり前だけど誰もいないな」

律「……静か」


口に手を当てて、白い吐息で体を温める


律「ムギまだ来ないの……」

紬「わぁ!!!!」

律「!!!!!!」


後ろの茂みから飛び出し、紬が律を驚かす。
驚いた拍子で体勢を崩す律を見て、彼女がほほ笑む


紬「ふふ、驚いた?」

律「あ、あったりまえだ!!」

律「こんな夜の公園に一人でいたら……」

紬「心細くなっちゃう?」

律「う、うん」


紬「なんか澪ちゃんみたい」

律「へっ!? いや、澪と一緒にするなよ」

紬「だいじょーぶ、わかってるわ」

紬「それよりせっかく公園に来たんだから遊ばない?」

律「いいけど何して?」

紬「私、ジャングルジムに登るのが夢だったの~」

律「ちょっ、引っ張らなくても逃げないって」

紬「早く、早く」

紬「よいしょ、よいしょ」

律「おーい、大丈夫か? ムギ?」

紬「平気よりっちゃん。それより頂上の眺めって最高」

紬「りっちゃんも早く来て」

律「はいはい」


紬「ほら、良い気分でしょ? お月さまに近づけた感じ」

律「そうだな、綺麗な満月だ」

紬「今日はいつもより明るく感じるわ」

律「そうかな?」

紬「感じない?」

律「いつも通りな気がするけど」

紬「きっと夜でも私たちが遊べるように照らしてくれてるのよ」

律「ムギは詩人だなぁ」

律「感受性が豊かなんだな。羨ましい」

紬「本当!? えへへ、うれしいな」

紬「ねぇねぇ、次はブランコ乗りたい」

律「そんな子供みたいにはしゃがなくても」

紬「私小さい頃は自分のお庭で遊んでいて、こういう公共の公園で遊んだ機会がないの」

律「そうなのか」


紬「だから楽しくって」ツルッ

紬「あっ……」


紬がジャングルジムから足を滑らす




律「ムギ!!!」


ガシッ―――

危機一髪のところでムギの手を掴み、落下を塞ぐ

紬「あ、ありがとう。りっちゃん」

律「ジャングルの名は伊達じゃないな」

紬「冒険しているみたいにハラハラドキドキしたってことね」

律「解説はいいから、ブランコん所行くぞ」

紬「はぁい、次は気をつけます」


~~~~~~~~~

紬「りっちゃん。すごい!! すごい!!」


紬の倍はブランコをこぐ律
その力は一周してしまうかというぐらいだ

律「へへ、これぐらいわけないよ」

紬「どうやったらそんなにこげるの?」

律「力いっぱいこぐ」


チェーンをカチャカチャ鳴らしながら答える律
紬も同様に力いっぱいこいではいるが律のようにはいかず
チェーン音しか真似できない


律「ちょっとコツがいるのかもな」

律「後ろから押してあげるよ」

グイッと力いっぱい柔らかい紬の背中を押す

紬「うわぁ」

律「どうだ?」


紬「すごい早い!! 気持ちいいよ!!」

律「よかった。それ!!」

紬「キャッ」

紬「夜風をきれるのってバイクだけだと思ってわ」

紬「無料でこんなアトラクションがあるなんて素敵ね」

紬「遊園地に来たみたい」

律「おまけに貸し切りだしな」


少しずつスピードをゆるめ、ブランコを止める

律「満足した?」

紬「もっと♪」

律「欲張りだな」


律「じゃあ、次はブランコじゃなくてシーソーはどうだ?」

紬「いじわる……」

律「?」

紬「あんな残酷な秤、御免よ」

紬「私、鉄棒がいいな」

律「あ、あぁ。じゃあ鉄棒にするか」


~~~~~~~~~

律「よっと」

紬「逆上がり出来るんだ。すごい!!」

律「ムギは出来ないのか?」

紬「私、鉄棒って苦手で」

律「まあ、逆上がりぐらい出来なくても死にはしないよ」

紬「でもひとつだけ得意なのがあるわ」

律「おっ、なになに!?」

紬「よいしょ」

紬「ブタの丸焼き」

律「……」

律「……くっ、くく」

律「あははは、それ、最高だよ。ムギ!!」


紬「///」

律「いや、それにはやられた。鉄板だよ、ホント」


律の笑いにつられて紬も共に笑いだす
夜の公園には二人の笑い声が響き合った



~~~~~~~~~~~~


律「少し遊び疲れたな」

紬「あそこのベンチで休みましょう」


ベンチに腰掛ける二人
少しの沈黙の後、律が先に口を開いた


律「遊んだから、喉乾いたな」


律「なんか飲み物でも買ってくるよ」

紬「待ってりっちゃん」


そう言い、鞄から水筒をだす


律「準備いいな」

紬「暖かいミルクティーよ。どうぞ」

律「ありがとう」


気温差で湯気が立ち込めるミルクティー
湯気と同時に香りも広がり、彼女を喜ばせる


律「良い香り、いただきます」

紬「どうぞ」


律「うんめぇ、体が温まるよ」

紬「よかった。持ってきたかいがあったわ」

律「ムギのお茶はやっぱり最高だな」

紬「そんなこといってくれるなんて嬉しいわ」

紬「でもこんなに幸せで運を使い果たしちゃったかもね」

律「んな、おおげさな」

紬「ううん、それぐらい今この時間が幸せ」

律「まぁ、公園を貸し切って遊ぶのは私も初めてだけど」

律「一人占め出来てスカッとするからな。ある意味幸せ者か」

紬「貸し切ってるのは公園だけじゃないわ」

律「えっ!?」ドキッ

紬「ねぇ、寒いからもっとそばによってもいい?」

律「いや、そのいいけど」

紬「ふふ、温かいね」

律「う、うん」


紬「この広い公園だというのに」

紬「わずか60センチぐらいしか場所を使ってないね」

律「く、くっついているからな」

紬「最高の贅沢ね」

律「バチがあたるかも」

紬「それでも後悔しないわ」

紬「この瞬間が幸せだから」

律(ち、近い……)

律「そ、そういえば次はどこに行こうか?」

紬「次?」

律「だってデートの約束だろ?」

紬「そうだった。つい楽しくて」

律「でもこの時間じゃほとんどお店は閉まってるしな」


紬「そうなの……」

律「カラオケとかは24時間営業だけど……」

律「そうだ、学校にいかないか!?」

紬「学校!?」

律「一度、夜の学校に行くのが夢だったんだよ」

律「肝試しみたいでおもしろそうじゃん!!」

紬「いいわね、行きましょう!!」


再び目を光らせる紬


律「いやー、ムギが話のわかる奴でよかったよ」


律「去年、中学卒業する前に澪と二人で夜の中学校行こうぜって誘ったんだけど」

紬「澪ちゃん、怖がりだもんね」

律「そう、絶対に行かないの一点張りでさ」

律「肝試しが一緒に出来る仲間が出来て嬉しいぜ」

紬「ふふ、夜の学校ってどんな感じか楽しみ。早く行きましょう」

律「あぁ」


~~~~~~~~

校舎前



紬「着いたわ」

律「あぁ」

紬「けっこう昼間と違って迫力あるわね」

律「思ったより怖そうだな」

紬「でも学校中鍵がかかってるはずよね? どうやって入るの?」

律「その点は大丈夫」


律「この桜が丘には噂があって体育館裏のトイレの鍵が壊れているらしいんだ」

律「職員の人はそれにまだ気づいていないらしいから」

律「体育館裏のトイレから誰でも出入り自由になってるんだって」

紬「へぇ~」

律「あった、ここだ」

紬「本当だ、窓開けっぱなしだ」

律「おまけに入ってくださいと言わんばかりにブロック塀が積み重なっている」

律「これを使えば、窓に届くな」

紬「なんか泥棒さんみたいね」

律「たしかに良いことじゃないよな」

律「でも荒らすわけじゃないし、たまにはいいだろ」

紬「ふふ、ドキドキね」


ブロック塀の上に乗り、軽々と窓に飛び移る律


律「ムギ、行けそうか?」

紬「が、頑張るわ」

紬「えいっ」

律「掴まれ」

紬「ありがとう」


二人は学校へと侵入し、教室のある方へ向かう


律「いやー、真っ暗だな。非常口の明かりと外からの明かりしか頼りになるものがない」

紬「電気つけちゃう?」

律「それじゃあ、肝試しの意味がないよ」

紬「そうね」


律「教室はこっちだっけ? 暗くてよく……」

紬「りっちゃん。待って」

律「ごめん、ごめん。早かったか」

律「お互い見づらいし、手を繋いでおくか」

紬「う、うん」

律「こんな寒い日でもムギの手って温かいんだな」

紬「そうかな。ありがとう」

律「さぁて行こうぜ。ワクワクしてきた」


しばらく歩き、次第に目も慣れてきた頃――


律「きっと澪ならこんな所に十秒もいられないだろうな」


紬「そうかもね」

律「なにせ、筋金入りの怖がりだからな」

律「あいつ、小学校の修学旅行の時、皆で怖い話した後」

律「怖くなって一人でトイレに行けなくなったんだ」

律「それで結局、おもらしして班のみんなの笑われ者になってさー」

紬「あらあらあら」

律「あっ、そういえばこの話はするなって言われていたんだ」

律「ムギ、このことは秘密な」

紬「ふふ、わかったわ」

律「話が少しそれたけど澪は怖がりだからきっと夜の学校には来れないな」


紬「もし来たら?」

律「きっと金切り声をあげながらこう……」


『きゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』


紬「!!?」

律「な、なんだ? びっくりした!! 何だよこの悲鳴!?」

紬「私たち以外にも誰かいるのかしら?」

紬「それとも幽霊?」


律「んな、馬鹿な」


『いやあぁあぁぁ、助けてえぇぇぇっぇ!!!!!』


律「わっ、まただ」

紬「待って、りっちゃんこの声って澪ちゃんじゃない?」

律「澪? 言われてみれば確かに…… でもなんで学校に?」

紬「教室の方から聞こえたみたい、行ってみましょう」

律「あぁ」



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最終更新:2015年02月15日 09:13