「Fun fun fun」


「Fun fun fun」 the beachboys


梓「じゃあ澪先輩、失礼します」

澪「ああ。気をつけてな」

そう言うと、女の子は真っ赤な車でハンバーガースタンドの駐車場を走り抜けて行きました

唯「あの……澪ちゃん」

澪「え???って、唯じゃないか。なんだ、唯も店内に居たのか」

声をかけてくれればいいのに、と微笑みます

唯「宿題してたからさ、ここで。……さっきの女の子は?」

澪「ああ、中野梓って言う子だ。私達の一個下だよ」

唯「あ、そうなんだ」

中野梓ちゃん、か

澪「梓がどうかしたのか?」

唯「え?いや、えっと……その、格好いい車乗ってたなって思ったから」

澪ちゃんはきょとんとして、それから微笑んで

澪「Tバードっていうんだ、あの車」

唯「へぇ」


澪「OCRって梓に良く似合う色だと思わないか?」

唯「うん。可愛いよね」

そう言うと、澪ちゃんがニヤニヤしてて

唯「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて!」

澪「わかってるって」

笑いながら、澪ちゃんが言いました

澪「明日も梓、ここに来るんだ。もし暇なら、唯も来てみなよ」


翌日
梓「それじゃあ、始めましょうか!」

律「おう!今日は負けないぜ?」

紬「天気も良いし、絶好のレース日和ね」

梓ちゃんがお店を出て車に向かうと、りっちゃんとむぎちゃん、そして何人かの女の子が連れだって出て行きました

姫子「ねえ、梓ちゃん。もし梓ちゃんに勝てたら」

梓「え?……はい。いいですよ」

いちご「梓ちゃんとデートなんて、最高の賞品ね」

姫子「今日こそは私とデートしてもらうわよ?」

いちご「絶対に勝つ」

梓「いいですよ。……絶対に負けませんから」

それぞれ車に乗り込んで、駐車場に並びます

梓「それでは、いつも通り。ここからストレートで500M先の信号までですよ」

紬「わかったわー」

律「あー、梓?私が勝っても、デートとかは別に……」

梓「わかってますって。律先輩には澪先輩が居ますもんね」

律「そ、そういうわけじゃ!」

梓「っていうか、そんな心配しなくても、私が負けるわけありませんから」

律「言ったな、梓」

澪「はーい、じゃあいいか?よーい」

駐車場の入り口に立つ澪ちゃんが、手を上げました

澪「スタート!」

手を振り落とすと同時に、車が走り出しました

先頭はやっぱり真っ赤なT-バードです

カーラジオから流れるロックンロールがどんどん小さくなっていく

唯「速いね」

澪「居たのなら私達の所に来ればいいのに……」

唯「んー、梓ちゃんは私のこと知らないしね。居心地悪くしちゃうかもしれないし」

そんなことないのに、と澪ちゃんは呟きました

唯「……レースで梓ちゃんが負けると、他の子とデートしちゃうの?」

澪「ん?ああ、そうなるな」

ぐーっと伸びをして、澪ちゃんが言います

澪「ここら辺で最高の女の子だからな、梓は。可愛いし、足も細いし」

澪「だからみんな追いかけるんだ。彼女を捕まえようってね」

唯「そっか……」

澪「最高の時間を過ごしてるんだよ、梓は」

もうすっかり小さくなった道路の先の車を眺めながら、澪ちゃんは言いました

澪「ほら、律達がカモの赤ちゃんみたいに梓のTバードの後ろに続いてる」

澪「いつもこうなんだ」

唯「……」

澪「……大丈夫だよ」

私の肩に手を置いて、澪ちゃんが笑いました

澪「今まで誰も、梓を捕まえられなかったんだ。今日だってそうさ。真っ赤なT-バードが一番だ」

唯「……うん」

澪「店に戻ろう。律が戻ってくるのを待たなきゃいけない」

澪「……シェーク奢るからさ。元気出せって」


数日後

唯「あ、梓ちゃんだ」

澪「そうだな」

唯「……なんか、元気無い?」

澪「ああ。車を取り上げられたって」

唯「え?」

澪「図書館に行くからって、親父さんのTバードを借りてたんだけどさ」

澪「遊びに使ってるのバレちゃったって。キーも取り上げられて、落ち込んでるんだ」

唯「……」

澪「行きなよ、唯」

唯「え?」

澪「梓は今、最高の時間が過ぎ去ってしまったと思ってる」

澪「でもそれは、違うんだろ?」

唯「……うん」

澪「じゃあ、声をかけないと。また最高の時間をプレゼントするために」


唯「あの……」

梓「はい?……あ、唯先輩」

唯「あ、あれ?私の名前……」

梓「え?あ、その……み、澪先輩から聞いてて!」

唯「あ、そうなんだ。えっと、平沢唯と言います」

梓「は、はい。中野梓です」

唯「……元気無いね」

梓「ええ。車のキー、取られちゃいましたから……」

深呼吸して、声が震えないように意識して

唯「こ、これから二人でお出かけしない?」

梓「え?」

唯「車を取られても、楽しい時間は終わりじゃないよ」

唯「その、私と一緒ならきっと楽しめると思う。車も持ってないけど……」

唯「でも、Tバードが取りあげられちゃっても、私たちなら最高の時間が過ごせるよ」

梓「……はい」

唯「え、いいの?」

梓「もちろんですよ。……車が取られちゃっても」

梓「唯先輩となら、最高の時間が過ごせそうです」



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最終更新:2015年03月25日 07:46