「The new girl in school」
「the new girl in school」 jan&dean
さわ子「みんなー、席についてー」
朝のHRのチャイムが鳴ると同時にさわちゃんが教室に入ってきた
落ち着かない雰囲気のクラスメイト達がそそくさと席につく
けれど、席についた後もみんなそわそわしていた
さわ子「あー、まあみんなもう知ってると思うけどね」
噂が広まるのって早いわね、とさわちゃんがため息をつく
さわ子「そうです。今日は転校生が来ます」
やっぱりー!と声が上がり、その瞬間、ざわつきは最高潮に達する
さわ子「しーずかにー!」
唯「ねえりっちゃん、やっぱり転校生来るんだね」
前の席の唯が振り返って楽しげにそう言った
律「あー、そうみたいだな」
和「何よ、興味なさげね」
左隣の和も会話に参加してくる
律「別に誰が来たって何も変わらないしー」
私は机に突っ伏してみる
どうせこの退屈な日常は変わらないんだ
転校生の一人や二人来たって、私には何の関係もないだろう
紬「あら、そんなこと無いんじゃないかしら」
後ろの席のむぎがそう言って背中をつついてくる
紬「……転校生の女の子、とても可愛いって噂よ?」
律「ふむ……」
少し考えてみる
とても可愛い転校生の女の子……
律「……いや、ダメだろ。そんなに可愛いけりゃ、姫子かいちご辺りが猛アタックするって」
可愛いっていいよなー、簡単に女の子と仲良くなれてさ
私なんて別に、そんな可愛くもないし
唯「そんなこと無いって」
和「そうよ、自信持ちなさいよあんたらしくもない」
紬「りっちゃん可愛いわよ?」
律「彼女持ちどもは黙ってろよー」
ちくしょう、なんで仲間内で私だけ恋人が居ないんだ
唯や和は年下で、むぎなんて年上と言うか禁断の愛を現在進行形で突き進んでる
こいつら毎日が充実してて幸せそうで
もう何というか、羨まし過ぎて泣きたくなる
さわ子「あー、もういいわよ」
ざわついたクラスを静かにさせるのは諦めたようだ
さわちゃん(生徒に手を出した教師)は腰に手を当てて
さわ子「じゃあ、入ってきていいわよ」
教室のドアに向かってそう言った
途端、静まりかえるクラスメイト達
全員が息を呑んでその瞬間を待ちわびる
一瞬の間の後、ゆっくりと教室のドアが開かれて
そして私は彼女と出会った
「ねえねえ秋山さん、誕生日はいつ?」
「好きな食べ物は?」
「趣味は何?」
「恋人とかって居るの?」
澪「え、えっと……」
昼休みになると同時に、クラスの連中は転校生の席を取り囲んだ
矢継ぎ早に質問を繰り返し、そのたびに転校生??
秋山澪はおずおずと答えている
唯「はやー、すごい人気だねー」
その光景を見て唯が呟く
紬「転校生っていうのもあるだろうけど……」
和「本当に綺麗ね、彼女」
そうだ
転校生、秋山澪はとても綺麗だった
身長は私より高くて、すらっと伸びた長い黒髪は光沢を持って腰まで届いている
睫毛も長くて目もぱっちりとしていて、少し冷たい感じがする横顔
これが綺麗じゃないっていう奴は、きっと目が腐ってる
律「綺麗……だろうけどさぁ」
綺麗なんだけど、何かがちょっと引っかかるような気がする
和「行ってこなくて良いの?律。彼女のとこに」
律「なんで私が……。別に興味ねーし」
和「またそうやって格好付けて……」
いちご『スリーサイズは?』
澪『え?え、えっと、上から』
律「……」
唯「めちゃくちゃ気にしてんじゃん……」
律「べ、別に気にしてねーし!」
ちくしょう、唯が茶化すから聞きそびれてしまった
律「……つーか、お前らこそ行ってくれば?そんな気になるんだったらさ」
唯「えー?いやほら、私達はねー」
和「憂と梓ちゃん待ちだから」
律「またかよ……」
嬉しそうな唯と和の様子に若干鬱になる
むぎはまた「さわちゃんとちょっと」とか言って空き教室行ってるし
律「また私はお前らカップルの中でメシ食わなきゃならないのか」
唯「いいじゃん。りっちゃん、あずにゃんと憂とも仲良いし」
律「いやほら、そういう問題じゃなくてさ」
場違い感というか、お邪魔虫感というか
……まあいいや
色んなことを諦めて、私は転校生の方へ目を向ける
相変わらず彼女は大勢に質問攻めにされて、その質問にいちいち律儀に答えていた
良いオモチャにされてるな、転校生
……なんつーか
律「……ちょっと都合が悪そうだな」
いちご『ねえ秋山さん、もしわからないことがあったら何でも言ってね』
姫子『校内案内するよ?私、色々と面白いスポット知ってるし』
下心丸出しで言い寄るバカどもに
『……ちょっと綺麗だからって良い気になって』
『大丈夫、今のうちよ。いちごも姫子も優しいのは』
『なんかちょっと冷たそうで、性格悪そうだもんね、彼女』
嫉妬丸出しのバカどもも居る
まあ、あれだけ可愛ければ僻み嫉みも受けるんだろうなぁ
そう思ったところで
梓「失礼しまーす」
憂「失礼します」
梓と憂ちゃんがやってきた
二人とも、弁当箱を二つづつ下げている
理由はまあ、言わなくてもわかるだろ?
唯「あー、あっずにゃーん!」
梓「きゃ!……も、もう、唯先輩ったら」
和「私も抱きついていいかしら」
憂「ひ、人前では恥ずかしいからちょっと……」
そんなことを言いつつも、梓も憂ちゃんも頬が緩んでる
ちくしょう、幸せカップルめ
梓「律先輩もこんにちわです」
律「よう、梓」
おざなりに手を上げて答える
憂「律さん、あの人だかりは?」
律「ああ、あれ?あれはね」
唯「転校生が来たんだよ!すごく綺麗なの!」
和「綺麗でその上、結構いい身体付きでね。そりゃみんなに囲まれるわ」
唯と和がそう言った時だった
梓「……すごく綺麗で」
憂「いい身体付き、かぁ……」
ふーん、とジト目になる二人
不機嫌オーラを発し出す梓と憂ちゃん
唯「い、いや、その、あずにゃん……?」
和「良い身体付きって、その、違うの。律が言ってただけで」
言ってねーよ私
梓「良かったですねー、綺麗な転校生が来て」
憂「触らせてもらったら?毎晩私にしてるみたいに」
唯「ちょ、違うって。あずにゃんほどの可愛さじゃあ……」
和「誤解があるようだから、ちょっと話合いましょう?その……とりあえず座って」
梓「憂、私達、教室で食べよっか」
憂「そうだね、梓ちゃん」
踵を返して教室を出る梓と憂ちゃん
唯「待ってあずにゃん!わ、私のお弁当は?」
梓「綺麗な転校生とお喋りしてればお腹空かないんじゃないですか?」
憂「本当、私というものがありながら信じられないね」
和「ち、違うわ憂!私はずっとあなた一筋……!」
二人を追って唯と和が教室を慌ただしく飛び出す
また違ったタイプのバカだな、こいつら
私のクラスにはバカしか居ないのだろうか
律「ふぅ……」
一人残された私が眺めるのは、やっぱり転校生の女の子
相も変わらず質問攻めで
ちらっと、壁にかけられた時計に目を向ける
……このクラスにバカしか居ないのなら
やっぱりここは、私がやるしかないか
深呼吸をして立ち上がり、転校生の席へと向かう
取り囲む大勢のクラスメートを掻き分け
席にたどり着くと、彼女の机を少し強めに叩いた
澪「ふぇ!?」
転校生がびっくりした表情で私を見上げる
質問を繰り返していたクラスメート達も、あっけに取られたように私を見る
律「秋山さん、だっけ?」
澪「は、はい」
律「購買、案内するよ」
来て、と転校生の手を取ると、私はそのまま歩きだした
澪「え?あ……」
何が起こっているのかわからないのだろう
転校生も大して抵抗はせず、時折こけそうになりながらも私に手を引かれるまま歩き出した
教室を出る時、ちらっと教室内を見る
下心丸出しのバカも嫉妬丸出しのバカも、口を開けたまま私達を見ていた
澪「あ、あの……」
教室を出て階段を下りてちょっと行ったところ
律「ああ、悪い」
ここまで来ればいいだろうと、私は転校生の手を離した
律「ごめん、ちょっと痛かった?」
澪「い、いいえ……」
戸惑いがちに握られていた手を胸に押さえながら転校生??秋山澪は言った
澪「わ、私、何か気に入らないことでもしました……?」
……は?
律「い、いや別に。……そうだな。いきなりで怖かったよね。ごめん」
素直に頭を下げておく
そうか。確かにいきなり連れ出すとかは無いよな
澪「あの……何か用事でも……」
こわごわと私を見る秋山さん
そりゃビビるよね
律「……ちょっと大変そうだったからさ。連れ出しちゃった」
澪「え?」
律「いやほら、秋山さんさ」
澪「う、うん」
律「昼ご飯、まだだろ?」
澪「え?」
あっけにとられたように、秋山さんは私を見る
律「ご飯食べなきゃなのに、あんなに質問攻めにあってたら昼休み終わっちゃうじゃん」
澪「……」
律「ごめんな。うちのクラス、バカばっかりでさ。でも悪気は無いから」
適当にフォローしておいて、購買にでも連れて行こうと歩き出したところで
そこである一つの可能性に気づく
律「……秋山さん」
澪「な、なんですか?」
律「もしかして、お弁当持ってきてた?」
しまった
その可能性を考えてなかった
弁当持参の生徒の方が多いこの学校じゃ、購買なんて弁当を忘れた時くらいしか利用しないじゃないか
参ったな
あれだけ派手に連れ出しておいて、その後すぐに二人して教室に戻れるわけがない
律「取ってくるよ。お弁当」
澪「え?」
律「鞄の中に入ってるよね?私が取ってくるから、ちょっと待ってて」
踵を返して、階段を上ろうとしたところで
澪「ま、待って!」
腕を掴まれる
見ると、秋山さんが私の腕を掴みながら私を見ていた
律「どうしたの?」
澪「お」
律「お?」
澪「お、お弁当持ってきてない!」
叫ぶように言われて、少なからず驚く
通りすがりの生徒達も、何事かと目を向ける
澪「ひ、引っ越したばかりで忙しかったから、ママがお昼は買って食べなさいって!」
律「ま、ママ……?」
途端、顔を真っ赤にする秋山さん
澪「おっ、お母さんっ!」
真っ赤な顔でじっと睨んでくるもんだから
律「……はは」
澪「わ、笑わないで!」
何故だかおかしくなる
こんなに綺麗でちょっと冷たい感じのするこの子が、ママだなんて!
律「ごめんね」
澪「……別にいいです」
少し目をそらしてむくれる彼女に、どこか安心する
何故だか少しだけ考えて、そして理解する
きっと目の前の彼女が本当の彼女なんだ
余所行きの表情じゃ具合が悪い
彼女に感じていた違和感は、きっとこのことだったんだ
律「……じゃあ、購買行こうか」
澪「え?田井中さん、お弁当は……」
律「今日持ってきてないんだ。だから一緒にお昼食べようよ」
律「静かに食べられる場所も知ってるよ。案内する。どう?」
静かな場所、ってのはちょっとした賭けだったけれど
澪「……うん」
嬉しそうに言う秋山さん
本当に嬉しかったよ
梓「こんにちわー」
憂「こんにちわ」
唯「あ、あずにゃん。いらっしゃい!」
和「今日も可愛いわね、憂」
昼休み
二人が来たので、急いで机を四つ、テーブルみたいにくっつけます
梓「あれ、律先輩と澪先輩は居ないんですか?」
唯「うん。今日もまた別の場所で食べるってさ」
憂「最近、律先輩と澪先輩に会えてないなぁ」
和「律が『今大事な時期だから!』とか言ってたわよ。あともう少しだって」
唯「あともう少しってねー。早く告白しちゃえばいいのに」
どうみたって澪ちゃんもりっちゃんのこと好きじゃん
姫子ちゃんやいちごちゃんだって、もう見守りモードに入ってるのに
梓「早く告白しちゃえって、唯先輩がそれ言います?」
お弁当を私の前に置きながら、悪戯っぽい微笑み方であずにゃんが言いました
梓「唯先輩だって、私にきちんと告白するのに何ヶ月かかったんですか」
唯「そ、それは!……ほら、タイミングとかが大事なんだって思って!」
梓「タイミングなんてたくさんあったでしょうに……」
まあいいですけどね、とあずにゃんは紙コップを取り出して、お茶をいれてくれます
梓「人それぞれですから。暖かく見守ってあげましょうよ」
唯「見守る側の気持ちにもなって欲しいよね。こっちがやきもきしちゃう」
和「あなたと梓ちゃんの時は、私と憂がやきもきしてたのよ。順番なんだから我慢しなさい」
憂「そういえば和ちゃんも私に告白してくれるのに結構かかったよね」
和「そ、そうだっけ?」
そんなことを話していた時です
さわ子「ねえ、みんなぁ……」
廊下側の窓から顔を出したのは、さわちゃんでした
さわ子「むぎちゃんどこ行ったのか知らない?空き教室で待ってても来ないのよぉ」
唯「え?あの、むぎちゃんならりっちゃんと澪ちゃんの後をついて行ったよ?」
和「『今日は告白の気配がする』って言ってました」
さわ子「そ、そんなぁ……」
私のお弁当……、と呟くさわちゃん
さわ子「とにかく探してくるわ。じゃあね……」
ふらふらとした足取りで廊下の向こうへ去って行くさわちゃん
和「……それにしても、紬がさわ子先生を放って置いてまで付いていくんだから」
唯「本当に今日にでも、進展があるのかもね」
律「本当にそれだけで足りるの?」
澪「うん。今ダイエット中だから」
彼女が購買で買った昼食は総菜パン一つに牛乳のパック一つだけだった
それだけが入った袋を下げて、澪は若干私に寄り添いながら歩く
少しだけ顔を赤くして、辺りを窺いながら中庭を通り抜ける
理由はわかっていた
私と澪は手を繋いでいたからだ
恥ずかしそうに、繋いだ手を自分と私の身体の間に隠している
まあどこからどう見てもバレバレだし、すれ違う生徒達からは好奇の目で見られていたりもするんだけれど
律「今日もいつものとこでいい?」
澪「いいよ。本当に静かだよね、あそこ」
初めて澪を昼飯に誘ったあの場所は、今では私達だけの秘密の場所になっていた
秘密といっても、たまに二人で昼飯を食べるくらいだけれど
普段は唯達と一緒だもんな
律「あのさ、澪」
澪「ん?」
律「話があるんだ。聞いて欲しいことっていうか」
澪「……うん」
澪が繋いでる手に、少し力をこめた
見ると、顔が赤くなってる
やっぱり、バレてるか
まあ、これから全部話してしまうんだ
別にいいさ。結果なんて、もう澪の中では出てしまってるに違いないんだから
少し深呼吸して、覚悟を決める
出会ってから、どれくらいたったのか
この告白が早いのか遅いのかはわからない
でもきっと、私達には私達のペースってものがある
何から話せばいいのだろう
まずはお礼だろうか
君が来てから、私の学校生活はすばらしく華やかになったのだと
君が来る前は、とてもとても退屈だったんだよ。ほんとうにさ
最終更新:2015年03月25日 07:46