朝 3年生教室

唯「ふー」 ぐったり

澪「こら、唯。しゃきっとしろ」

唯「朝は眠いんだよ。私としては、まだ布団にくるまって眠ってる気分なんだよ」

律「それはどうかと思うが、眠いのは確かだな」

紬「寝る子は育つと言うし、このままだと唯ちゃんはどこまで大きくなるのかしら」

和「昔からずっとこんな感じだし、逆に寝たからこそ今の大きさになったかも知れないわね」

紬「それならやっぱり、唯ちゃんには寝ていてもらわないと」

澪「全く、二人とも甘いんだから」 ぱさっ

律「さりげなく上着を掛ける澪も、相当だと思うけどな」


唯「……どしたの、みんな」 むくり

澪「駄目だ、唯。まだ起きるな」

唯「いや。もうすぐHR始まるし。さすがに私も起きないと」

紬「まあまあ、お客さん。帰りのHRまでゆっくりしていって下さいよ」

唯「ど、どういう事?」

和「みんな唯が小さくならないか心配してるのよ」

律「誰も、小さくなるとは言ってないけどな」


   放課後、軽音部部室

澪「子守歌、子守歌歌うか?」

紬「私、背中ぽんぽんしてあげるわね」

律「それはもう良いんだ。そもそもみんな、甘い。甘すぎる」

唯「本当、甘やかしすぎると人間駄目になるよ」

律「お前が言うなと突っ込みたいが、その通りだ。これからの軽音部は、びしばし厳しく行くぞ」

澪「でも私達、そういうノリじゃないだろ」

紬「ええ。根本的に、そういう資質に欠けてると思うのよね」

律「その考え自体が甘っちょろいんだよ。まずは梓の教育からだな」

唯「私は、あずにゃんに教えられてばかりなんだけど」

紬「梓ちゃんは、本当に良い子よね」

澪「うん、うん」

律「まあ、それは否定しないけどな」


律「……いや。そうじゃない。厳しく、厳しく指導するんだ」

澪「で、具体的には?」

律「まずは呼び方だな。梓じゃない。中野だ、中野」

紬「中野ちゃん?」


唯「でも、今更呼び方を変えるのって難しくない?」

澪「大体本当に、梓に厳しく出来るのか?」

律「呼び方くらい、別になんて事は……」


   カチャ

梓「……済みません、遅れました」

律「ひっ」

梓「な、なんですか?」

澪「いや、大した事じゃない。ちょっと怪談話で盛り上がってただけだ」

梓「澪先輩もですか?」

澪「ああ。階段、段々、盛り上がるだ」

梓(1から100まで意味不明だな。いつもの事だけど)


唯「今日のデザートはケーキだけど、あずにゃんはどれが良い?」

梓「私は余った物で良いですよ」

唯「だったら私、ショートケーキね」

律「チョコトルテー」

澪「私はモンブランで」

紬「私はチーズケーキだから、梓ちゃんはバナナパイね」

梓「はいです」

紬「今、梓ちゃんのお茶入れるわね」 

梓(結局、私の好きな物を残してくれるんだよね)


律「ふー、食った食った。それにしても、やる事なくて暇だなー」

澪「おい」

律「冗談だよ、冗談。エネルギーも充填されたし、練習するか」

唯「あずにゃん、このパートちょっと難しいんだけど。このコードがへんてこりんで、指が付いていかないんだよね」

梓「そういう場合は簡素なコードで弾いても良いんですよ。……こんな感じですね」 じゃじゃーん

唯「わ、さすが。やっぱり、一家に一人あずにゃんが必要だね」

紬「ぐふふ♪」

梓(ぐふふ?)


   10分後

唯「嬉しいねっ」 じゃーん

律「結構良かったな」

澪「上手くなる近道なんてない。結局日々の練習こそが、上達への近道なんだ」

律「真面目な奴め。よし、調子も良いところでもう一曲行くか」

梓「ふぁーっ」

紬「梓ちゃん、眠いの?」

梓「す、済みません。6時間目が体育だったので、少し」

律「なるほどな。私もお腹が一杯になったせいか、少し眠くなってきたよ」

澪「仕方ない奴だな。一旦、練習中止だ」

唯「はーい」

紬「りっちゃん、梓ちゃん。タオルあるから、良かったら下に敷いて寝てね」

唯「床に? ちょっと小さくない?」

律「あのな。テーブルに敷いて、それを枕代わりにするって意味だよ」

唯「そう言いつつ、りっちゃんはやれば出来る子だよ」

律「さりげなく追い込むんじゃない」 ぽふ

澪、紬「あはは」


   5分後

梓「くー」

紬「やっぱり、疲れてたのね」

律「仕方のない奴だ」

唯「でもあずにゃんは小さいから、寝ると大きくなるかもね」

澪「梓が大きくなったら、可愛いと言うより綺麗になりそうだな」

唯「あずにゃんが大きかったら、それあずにゃんちゃう。あずやっ」

律「一体どこの、まんが王なんだよ」


唯「起きてるあずにゃんも可愛いけど、寝てるあずにゃんも可愛いなー♪」

紬「唯ちゃんは、本当に梓ちゃんが大好きなのね」

唯「だって見てよ、この寝顔。天使だよ、天使。天使オブ天使が、今私達の目の前に降臨してるんだよ」

澪「それは否定しないけどな」

律「いや、しろよ。とはいえ梓を起こすのも悪いし、どうするよ」

唯「りっちゃん、そこはエア演奏の出番だよ」

澪「……ちょっと苦しくないか?」

唯「確かに、エアがないと苦しいかもね」

紬「本当、エアって大切ね。AIR最高ね」

唯、紬「国崎最高だよねー♪」

律「幸せな記憶ばかり紡いでるな、お前らは」


   さらに5分後

梓「……済みません、完全に寝てました」

澪「眠い時は遠慮せずに言うんだぞ。無理して体調を崩したら、元も子もないからな」

梓「はいです」

唯「澪ちゃんは、なんか先輩っぽいよね。威厳もあるし」

律「生真面目だしな」

唯「ムギちゃんも包容力があるから、先輩って感じだよね」

律「世話焼きタイプって感じだしな」

唯「私達はどうだろうね」

律「先輩、ちょりーっす。みたいな感じかもな」

梓「何の話ですか?」

唯「何でも無い、何でも無いよ。今からバリバリ練習するから、あずにゃんも振り落とされないように付いてきてよ」

梓(相変わらず意味分かんないけど、やる気を出してくれるのは嬉しいな♪)


 10分後

じゃじゃーん

梓「唯先輩、2フレーズくらいずれてましたよ」

唯「私は時代の先を行く女だからね」

律「演奏が先に行っちゃ駄目だろ」

梓「律先輩もそれにつられて、リズムが走り過ぎな気がします」

律「私は時代を、常にリードしていくんだよ」

梓「2人とも、今の所を意識してもう一度お願いします」

唯、律「あ、はいです」

澪「もう、誰が先輩で誰が後輩なんだよ」

紬「でも、こうして張り切る梓ちゃんも可愛いわよね」

澪「そういう部分を引き出すために、敢えて失敗してるのなら良い先輩なんだが」

紬「良いわよね、そういうプレイも」

澪(プレイ?)

紬「ぐふふ♪」


 1時間後

唯「あー、疲れた。これ以上やると、指紋がなくなっちゃうよ」

梓「それは無いともいますが、今日は結構頑張りましたね」

唯「えへへ、褒められちゃった」

律「いや、後輩に言われる事じゃないから」

唯「でもあずにゃんの方が演奏上手いし、何でも知ってるし。ギターに関しては、あずにゃんが私の先輩なんだよね」

梓「はぁ。澪先輩達は、先輩とかいないんですか?」

澪「私達は、基本独学だよ。他のバンドをやってる子と練習もしたけど、やっぱり律と一緒にやる事が多かったな」

律「澪先輩、いつも厳しかったっす」

澪「上手くなるために、一生懸命練習するのは当たり前だろ」

律「泊まり込みの練習は、もう勘弁っす」

澪「そういう事を言う奴は、今日からまた泊まり込みで特訓だ」

梓(さりげなく仲が良いな、この2人)

紬「ぐふふ♪」


   夕方・商店街

唯「揚げたてコロッケ売ってるよ。あずにゃん、食べる?」

梓「食事前に食べるのは、あまり良くないですよ」

律「本当に梓は真面目だな。まるで澪を見ているようだ」

梓「それはむしろ褒め言葉です」

澪「うん、良く言った。そんな梓には、コロッケを買ってやろう」

律「いや、話がループしてるから」

紬「でも本当に美味しそうね。やっぱり、食べていかない?」

律「しゃーないな。済みませーん、コロッケ5つ下さーい」

唯「揚げたてのコロッケは、どんな食べ物に勝ってるからね」

紬「キャビアやフォアグラよりも?」

唯「言うまでも無いですな」

紬「こんな良い匂いだし、確かにそうかも知れないわね」

梓(ムギ先輩の匂い程では無いですけどね♪) くんかくんか


唯「やっぱり揚げたては最高だね」

紬「本当、これはフォアグラより上かも知れないわ」

律「マジかよ、おい」

澪「コロッケころころ夢が転がる、って感じの味だよな」

律(本気っぽいから、突っ込まないでおこう)

梓「でもお肉屋さんのコロッケは、特に美味しく感じますよね」

律「良い肉使ってるし、ラードだっけ。豚の脂で揚げてるのかもな。それに作ってるのはプロだし」

澪「それはバンドにも言える事だぞ。良い歌に良い楽器、そして何よりたゆまぬ努力が良い演奏を生み出すんだ」

律「コロッケ食いながら言われてもな」


唯「私、憂へのお土産に少し買っていこうっと」

澪「私もそうするか」

律「じゃ、私も」

紬「梓ちゃんはどうする?」

梓「私は良いです。勿論美味しいですけど、こうして先輩達と一緒に食べるから余計に美味しく感じられるんだと思いますし」

紬「うふふ♪」

澪「なるほどm確かにその通りだ。次の歌は、先輩とコロッケと私だな」

紬「私もホクホクの歌を、サクサクッと作るわね」

唯「まさに、アゲアゲの曲って事?」

律「大喜利じゃないんだよ、おい」


   夜   平沢家

憂「コロッケ、美味しかったね」

唯「憂が作ってくれたカレーも美味しかったよ」

憂「ありがとう、お姉ちゃん」

唯「ハンバーグカレーも良いけど、コロッケカレーも侮れないね」

憂「色々な物が重なり合って良くなっていくって事かな」

唯「そうそう。軽音部が、まさにそんな感じだよ」

憂「みんなそれぞれ個性的だけど、軽音部としてはすごくまとまってるよね」

唯「でも高校に入るまでは全然知らない人ばかりだと考えたら、結構不思議な気もするんだ」

憂「ふふ♪」


唯「やっぱりあずにゃんが入部してきた時が、一番運命的って気がしたよ」

憂「梓ちゃんだけ、後輩だもんね」

唯「だけど何をやってもあずにゃんの方が上手だし、むしろ先輩って気もするんだ」

憂「私はいつでもお姉ちゃんの事を、お姉ちゃんって思ってるよ」

唯「そかな」

憂「優しいし、頑張ってるし、温かいし。私にとって、自慢のお姉ちゃんだよ」

唯「憂ー♪」

憂「お姉ちゃん♪」


   翌朝   3年生教室

唯「という訳で、憂に褒められました」

和「憂も、たまに見る目が無いわね」

唯「しどいよ、和ちゃん」

和「それに知らない人が見たら、憂の方がお姉ちゃんって思うんじゃ無いかしら」

唯「それはそれで、私は嬉しいよ」

和「本当に、この姉妹はもう仕方ないわね♪」


律「うーっす。昨日のコロッケ、美味しかったな」

澪「でも買い食いは、色々と良くないぞ」

唯「あずにゃんが言ってたみたいに、ご飯前だから?」

紬「まあ、そういう理由もあるだろうけれど」

和「揚げ物だから、太りやすいわね」

澪、紬「うっ」

和「でも我慢するとストレス太りになるって言うし、どんどん食べれば良いんじゃ無くて?」

律「地味に追い込むな、おい」

和「そう? 私朝食を食べ忘れたから、卵サンド食べるわね」

律(鬼じゃないだろうな、この女)


   2年生教室

憂「お姉ちゃん、梓ちゃんの事褒めてたよ。私よりも先輩みたいだって」

純「唯先輩って、さらっとそういう事言えるよね」

梓「でも結局、怖がられてるって気もするんだけど」

純「たまに角生えてるからな、梓は」

梓「そ、それは唯先輩とか律先輩が、羽目を外すから」

憂「ふふ♪ 純ちゃんはジャズ研の先輩と、どんな感じ?」

純「普通に怒られるし、指導されるし、でも頼りになるし。世間一般の先輩って感じかな」

梓「そういう先輩もいるんだね」

純「普通、そういう先輩しかいないと思うけどね」


梓「私、角が生えてるように見える程怖いかな」

憂「それは冗談だよ。ね、純ちゃん」

純「まあね。結局梓は真面目だから、ちょっとした事でも許せないんじゃないの」

梓「そうかな」

純「余裕っていうかさ、もっと遊び心があっても良いと思うよ」

憂「リラックスだよね、リラックス」

純「そうそう。まずは笑顔笑顔」

梓「こ、こう?」 にこっ

純「牙が見えてるよ」

梓「なっ」

憂「ふふ♪」



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最終更新:2015年03月23日 22:25