▼‐08
先生は、若い頃に間違いを犯したのだろうか。
力ずくに物事を決めて、傷ついたことがあったのだろうか。
そんなことを唯ちゃんに尋ねてみても、
どうなんだろうねえ、と、気の抜ける答えが返ってくるのみだった。
「でもそうね、悩むのはここまでにしましょう。力ずくで解決するわよ」
普段のふるまいらしからぬ和ちゃんの言葉に、他ならぬ唯ちゃんが驚いていた。
「和ちゃんが非行少女に……」
「なんでそうなるのよ。この事件を解決するだけでしょう。
そうね、わたしたちはさっきこう言った――証拠が出揃っているかも不明、ってね」
「それを力ずくに解決するってこと?」
「既に全て揃ってることにしましょう」
「えっ、それで本当に大丈夫なの!?」
今度は美冬ちゃんが、その決断に大慌てしていた。
「第一全てのミステリー作品は、この問題からは逃れられない。
これに決着をつけるのが、例えば“読者への挑戦”だったりするのだけど、
まあ、この際そんな仕掛けもいらないでしょう」
和ちゃんは最後のページで開きっぱなしの台本に目を移した。
「次のページから解決編。わたしたちのできる謎解きは、これだけよ」
「なるほど、この余白を“読者への挑戦”だって仮定するんだ」
「それに、わたしたちは作品世界の外側にいる。
今後知るはずだったような証拠も、既に手に入れているのよ」
くつくつ笑うちかちゃんは、だったら、と付け加える。
隣で眉根を寄せている美冬ちゃんの肩を抱き、高らかに言った。
「それですら演じてしまうのが、演劇部の務めじゃない?」
「え、ちか……?」
「美冬、やろう。せっかくなんだしさ、やっちゃおうよ……即興劇!」
ちかちゃんは励ますように語りかける。
そこに乗っかったのは、姫子ちゃんだった。
「それ面白そうじゃん。即興劇なんて、やったことないけどさ」
「でしょ? ほら、四人ともどう?」
「わたしは賛成かな」
と、わたしも乗っかってみる。楽しそうじゃないか。
「じゃあ、わたしも……やろうかな」
「よーし、和ちゃんが探偵役だね!」
「なんでわたしが……まあやってもいいけど」
「だってさっきの劇の再現だって、和ちゃんが探偵役だったじゃん!」
「はいはい、わかったわ」
美冬ちゃんが呆然としている間に、事は進んでいく。
たった一瞬の閃きが、火花を散らして、大きな花を咲かせた。
「仕方ないわね……でも」
と言って、抱えられた身体を抜いてから、ちかちゃんの前髪を掻き上げる。
あらわになったそのおでこめがけて、美冬ちゃんはデコピンをひとつ打つ。
「いたっ!」
「まるで演劇部代表のように言うけど……あなたは演劇部じゃないでしょう、ちか」
「……えへへ、まあノリでねー」
▼‐09
さて、それぞれが演じる役は先程のものと同じだ。
つまり、以下のようなものになる。
#=========================================
加瀬田いずる ⇔ ラチェット(カセッティ) …… わたし
蛭田舞 ⇔ ヘクター・マックィン …… しずか
江戸川あすた ⇔ エドワード・マスターマン …… 姫子ちゃん
阿部なすみ ⇔ アーバスナット大佐 …… ちかちゃん
水阿利えな ⇔ メアリー・デベナム …… 美冬ちゃん
龍野こごみ ⇔ ドラゴミロフ侯爵夫人 …… 唯ちゃん
安藤れん ⇔ アンドレニ外交官 …… わたし
穂和呂るき ⇔ エルキュール・ポワロ …… 和ちゃん
#=========================================
当然片方は既に死んでしまっているため、わたしが二役やることに問題はない。
ところで、新たなシーンを即興で作り上げてしまう手前、
それぞれの口調などは再現が難しいんじゃないかという姫子ちゃんの提案で、
事実関係はそのままに、名前や口調は普段のわたしたちの通りにすることになった。
原作では喋り方も鍵になったけれど、今回それは必要ないだろうというのが、
この意見に賛同した和ちゃんの意見だ。
演劇ってなんだろう、とは思ったけど、
即興劇を設定に沿って演る技術なんて持っていないので仕方ない。
ちなみに、そうなるとわたしの名前が二人出てくるので、
死んでる方は劇中の名前と同じにした。
さて、劇が始まればここは教室ではない。
雪山の上にある、コテージの一室。
全員が一同に会してくつろげる、癒しの空間である。
ぱちりぱちりと、薪の小さな拍手を受けながら揺れ踊る暖炉の炎が、部屋中を暖めてくれる。
しかし実際ここに流れている空気はどうだろう、
息苦しくなりそうなほどに冷たく、身を引き裂いてしまいそうなほどだった。
殺人事件が起きたのだから、これも当たり前といえば、当たり前だろう。
「やっぱりさ、山を下りて大人を呼ばない?
どう考えても、加瀬田いずるを殺せたのは外部から鍵を持ち込んだ人だけだって」
そう主張するのは、姫子ちゃんだった。
空気が重い。当然と言えば当然のその意見にすら、巨大な圧力を感じる。
「だって密室を作ることができるのは、その人だけなんだよ?
これ以上なにを立ち止まる必要があるっていうのさ」
「そうだね、この家に鍵はたった一つしかない。それは間違いないよ」
家の所有者のちかちゃんも断言した。
こればかりは真実で間違いないんだろう。
一方、すぐさま山を下りるのは早計だと、和ちゃんは反論した。
「密室の殺人を成立させる方法は、なにも合鍵を持っていることだけじゃないわ」
「というと?」
「例えば犯行時、既に部屋が密室状態だったとき。
これは部屋の中に、自動で作動する仕掛けが施されていたり、
あるいは他殺に見せかけた自殺だったりする場合ね」
唯ちゃんが目を丸くして言った。
「え、そんなことあるの?」
「まあ、唯の意見が正しいわ。今回は間違いなく他殺であり、仕掛けもない。
それは現場検証で明らかなとおりね」
では、と和ちゃんは繋げた。
「他に密室を成立させる方法はなにか。
最も単純なものが、施錠する手段を持っていることね。
つまり、今回の件でいえば、外部の人間がもう一つの鍵を持ち出したという、
一番信じやすい推論が該当してるわね」
「それがわたしの主張する推理だね」
「でも姫子、結論はまだ待ってほしいの。
これの他にも単純かつ明快な、密室を成立させる方法があるんだから」
「それが一体なんなのか、教えてほしいな」
「至ってシンプルよ。……ところで、しずかはどこにいるかしら?」
言われてはっとした。
そういえば、さっきまでわたしの隣にいたしずかがいない。
周囲を見渡してみても、どこにもいない。
あのちっこい身体に隠れられては、こちらも見つけるのに一苦労だ。
考えていると、待ってましたとばかりに、頭の中でフラッシュが散った。
ああそうか――考えてみれば、実に単純なことじゃないか。
「気づいたみたいね。そう、しずか、出てきていいわよ」
物陰から、しずかがいそいそと現れた。
元々かわいい小人の彼女は、もっと小さくなろうと、背中を丸めていた。
「わたしが提案する、密室を成立させた手法はこれよ。
“あの時点で犯人は密室内にいたけれど、姿が見えていなかった”!」
一番動揺していたのは、美冬ちゃんだった。
「え、ちょっと待って! 一体どこに隠れていたっていうの!」
「クローゼットの中でも、ベッドの中でも、それは同じよ。
ただし、わたしたちに姿を見せていない誰かが犯人だということね」
思い返してみる。あの時点、加瀬田いずるの死体が発見された時点で、
あの場にいた人間を。
蛭田舞、阿部なすみ、水阿利えな、穂和呂るき。
つまり、しずか、ちかちゃん、美冬ちゃん、和ちゃん。
「ということは、犯人は……この三人のうちの、誰かってこと!?」
美冬ちゃんは三人を――姫子ちゃん、唯ちゃん、そしてわたしのことを、指さした。
「ま……待ってよ! わたしじゃない!
っていうか、そもそもその案が正しいとも限らない!」
「じゃあ外を見てみましょうか」
「外?」
「そう。そこには、まっさらな雪があるはずよ」
怪訝そうに外の景色を注意深く眺める姫子ちゃんの横で、
なぜかしずかが、顔を真っ青にしていた。
「ねえ、外の雪がなんだってのさ?」
「……足跡がないのよ」
「えっ?」
「昨日の夜、しずかが二階のベランダの柵上に乗っていた雪を落としたわ。
その場所にはちょうど窪みができていた。
そして今朝確認すると、その窪みは、そっくりそのまま残っていた……」
「……わたしたちが寝ている間に、雪は降らなかったんだね」
しずかが消え入りそうな声で呟く。
なにか事前に言われていたのだろうか。
「足跡や、他の跡でもいい。ともかく、昨日の猛吹雪が止んだ時点から今まで、
このコテージへの来客は“一人もいないということになる”」
「すると自動的に、和ちゃんの推理……犯人は部屋に潜んでいた、
というものを取らざるを得ないわけだ……」
「その通りよ、ちずる」
「でも待って」
疑問を投げかけてきたのは、ちかちゃんだった。
「密室を成立させる方法がたくさんあるように、雪に跡を残さない方法もたくさんあるんじゃない?
なら、それも一応考えた方がいいんじゃないかな?」
なるほど、雪に跡をつけない方法。
今回はあり得ないだろうけど、例えば犯人が空中浮遊してやってきたとか。
ヘリコプターで飛んで来たとか。方法はいくらかあるはずだ。
ところが和ちゃんは、一定の理解を示しつつも、自分の意見を譲らなかった。
「そもそも密室が成立してる時点で、外部犯の存在は怪しいと思っているわ」
「なんで?」
「密室にすることで、得するのは誰だと思う?」
「それは真犯人なんじゃないかな」
それ以外の解答はないと思っていた。
密室をわざわざ作り上げることに、それ以外の理由があるものか。
「ええ、わたしも同意見よ」
なら、と言いかけたところで、和ちゃんは言葉を続けた。
「つまり“犯人にとってプラスに作用するなら”、密室を用意するのよね」
「当然」
「今回、外部犯にとって密室はプラスに作用した?」
少し考えてみた。
密室が成立しており、これといった仕掛けも施されていない。
ならば、単純に考えれば、外部にあるもう一つの合鍵を使ったのだろう。
この場合、犯人は外部の人間で、外部の合鍵に触れられた人間になる。
そういうことか。
「そう、むしろ密室は外部犯の犯行を示し、
あろうことか“自分のことを突き止める手がかりになっている”。
もちろんどんな密室でも、そういった一面があることは認めるわ。
でもこれは“最も単純な解法”が、犯人にマイナスの影響を及ぼしてしまってるのよ」
難解な仕掛けによって密室が施してあるなら、
犯人は、それが解き明かされた際のリスクがあっても、
むしろ進んで密室を成立させようとするだろう。
ところがこれほど単純な解法によって、犯人が追い詰められるとしたら。
犯人にとって密室は、足枷にしかならない。
「ところが翻ってみれば、これによってプラスの作用を受ける人たちがいる。
そう――、わたしたちのような、コテージの中にいる人間よ」
居間中の空気がどよめいた。
周囲の全てが疑わしく、またこちらに刃を向けているように映る。
「まあ、これはこっちのほうが可能性があるってだけのもので、
なにかを証明したわけじゃないけれど。
でも、外部犯の仕業って決め付けるにはまだ早いって、わかってもらえたかしら?」
「じゃあ、仮に和ちゃんの推理が正しいなら、あの部屋に潜んでいたのは誰だと思うの?」
質問で前のめりになっていたわたしを、和ちゃんは手で制した。
「少し待ってもらってもいいかしら。他にも検証しなくちゃいけないことが一杯だから。
そうね、まずは死体の状況から」
「死体には複数の刺し傷があるって聞いたけど?」
「さらにモノが荒らされた形跡もなかった。むしろ本人は盗む側の人間だったのだけれど」
和ちゃんは当然、わたしのほうに視線を向けた。
先程挙がった容疑者リストに、わたしが入ってることは先の通りだ。
おやおやなんてことか、犯人はわたしなのだろうか。
「この犯行は怨恨によるものとみて間違いないでしょう」
「複数回刺されてるからね」
「ただ、不可解な点が一つ。出血が少なすぎる」
「出血が少ない? あんなに血まみれだったじゃない」
「ええ、二ヶ所から出た血は、凄まじいものだった。
でも他の四ヶ所からは、出血の跡がほとんど確認されなかったのよ」
「そんなことが起こるの?」
唯ちゃんは純粋な瞳で、和ちゃんを見つめた。
思い詰めた表情だった和ちゃんも、その顔が途端に朗らかなものになる。
ぎゅっと縛られていた糸が、ふわっとほどけたみたいだ。
「起こるのよ、唯。傷が時間差でつけられたのであれば、ね」
「時間差?」
「そう、時間差。つまりこの複数の傷は、ついた時間に差があるということになる。
……ますます外部犯の犯行が怪しくなってきたわね」
つまり犯人は二ヶ所をほぼ同時に刺した後、
時間を置いて、残りの三ヶ所を刺したということになる。
外部犯の仕業だとすれば、侵入して、しばらく家に居座ったということになる。
「さて、さっきこの事件は怨恨によって起こされたと仮定したわね。
怨恨によるものであれば、複数の傷や、物盗りの形跡がないことに説明がつく。
しかし複数の傷がついた時間にはズレがあったことも事実」
そこで、と和ちゃんは挟んだ。
「もう一つわたしは仮定するわ。この傷は、一人の犯人によってつけられたものではない」
「それって……、犯人は複数だということ?」
和ちゃんは頷いた。
「恨みを持った人間が複数いて、それらが一度に犯人へ制裁を加えられないのなら、
このような時間のズレがある傷も、説明がつくんじゃないかしら?」
「それはそうだけど、無駄が多いんじゃない?
最初の一人が殺せば、全て丸く収まるんだからさ」
「自分の手でやってやらなければ、気が済まなかった。
……そんな理由なら、いくらでも挙げられると思うけれど?」
胸が、膨らんだ風船に詰められて圧縮されるみたいに、しゅるしゅると締め付けられる。
積もった気持ちを爆発させて、怒りのこもった反論をしてくれる人はいない。
被害者がそれほどに――といっても殺人は行き過ぎだけれど、なんにしても“悪”であったからだ。
「一人で何個の傷をつけたのかまではわからない。
けれど、一人でこの傷を全てつけたとは思えない」
「なら犯人は、さっき挙げた三人ってこと?」
姫子ちゃんは自分のことを少し前に出して、そう言った。
つまり、姫子ちゃんを含める、あの部屋に密室を施せた三人のことだ。
「犯人のうち一人以上はあなたたちの中にいるでしょうね。
でも、他のメンバーまでその中にいるとまでは言ってないわ」
「わたしたちの中に一人以上は、ね」
「心配しないでも、こう質問すれば簡単に済むことよ。
今朝、わたしが部屋を出たあと、部屋を出て行った人を見なかった?」
三人が、そう問われた。
と言われても、わたしたちに答えようがないのはわかりきってるはず。
ここで新しい設定を安易に作るわけにもいかない。
即興劇といっても、ただの即興劇ではないんだ。
和ちゃんはどうしてそんなことを聞いてきたんだろう。
「ああほら、そのとき寝てたよね確か」
助け舟を出してくれたのは、ちかちゃんだった。
「わたしが部屋に和ちゃんを呼びに行ったとき、
他の三人は確かに寝ていたよ。それなら、見てなくても仕方ないんじゃないかな?」
「ん、それもそうね」
助かった。ちかちゃんの機転が無ければ、わたしたちはとんでもないことを言っていたかもしれない。
劇をひっくり返してしまうような、とんでもないことを。
「なんでこんなことを聞いたの?」
「当然の質問だと思うけれど」
こちらの焦りなどどこ吹く風、というような返し。
だからといって、和ちゃんに自覚がないとは思えない。
自然と不自然が入り混じるこの空間にルールはあるのか。
「わからないなあ、和ちゃん。
さっきから和ちゃんは仮定に仮定を重ねてるだけ。
例えば、外部犯がわたしたちの仕業に見せるための、偽装工作なんじゃないの?」
「密室の問題のことかしら?」
「そうだよ」
強気のちかちゃんに、和ちゃんが珍しくたじろいだ。
そうか、いくら和ちゃんでも、これは即興の劇。
全てを考えて話しているわけじゃないんだ。
「……そうね、少し考えさせて」
わたしたちを吊っていた糸が切られた。
たるんだ糸はもうわたしたちを拘束できるほどの力はない。
緩んだ気持ちから、唯ちゃんが姫子ちゃんと雑談を始める。
「でも友だちの別荘にお泊りなんて、いいよね~」
「そうだね。こんなことさえ起きなければ、ね」
「わたしがムギちゃん家の別荘に行ったときはね、
皆でおんなじ部屋に布団敷いて寝るから、絶対安心なのです」
「というか、軽音部がこんなことに巻き込まれるわけないと思うけど?」
「でへへ、そりゃそうだね~」
こらこら、一応これは即興劇。軽音部なんて、メタなもの出しちゃいけません。
とか思ってたら、和ちゃんの表情が一変した。
「そう、それよ! なんでこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!!」
「ど、どうしたの和ちゃん!?」
普段見ない和ちゃんのはしゃぎっぷりに、唯ちゃんも戸惑いを隠せないようだ。
「ねえちか、加瀬田いずるが外部犯に殺されるとしても、このタイミングは無かったんじゃないかしら」
「どういうこと?」
「だって本来あの部屋は“複数人で寝ているはずよ”」
ちかちゃんがなにかはっとした表情をした。
「そう、そうなのよ。あの部屋に他の人物がいれば、殺人は実効されない。
目撃される可能性が極めて高いのだから。リスクが高すぎるわ。
でも、それが実行されているということは、犯人はあの部屋に加瀬田いずるが一人でいることを知っていた」
「でもこのコテージの電話は繋がらず、携帯も同様……」
「この状態で加瀬田いずるが部屋に一人でいることを知れるのは、
コテージにいる人間だけだった!」
実に単純な話だった。
この部屋割りは当初予定されていたものではなく、
あの日あのとき、はじめて決まってしまったものなのだから。
「これに気づいていれば、密室の話はいらなかったかもね」
「……そうとも言い切れないわ、美冬。
だってコテージの中にいる人にも、密室は作れることを証明したんだから」
和ちゃん、微妙に負けず嫌いだ。
「さらに部屋に一人でも……例えば元々一緒のはずだった姫子や、
それ以外のわたしや、そういう人たちが中に入ってもまずかった」
「それはどうして?」
「あの布団を見たでしょう。例え掛け布団の上からでも、只事じゃないことがよくわかる。
つまりこの状況は、犯人に作られたものなのよ」
これに反論したのはまたしてもちかちゃんだった。
「冷静に考えてみて。この状況を作ったのは他でもない、“加瀬田いずる本人なんだよ”。
それがどうして犯人に作れたっていうの?」
「そうね、それこそ犯人にとって強固な壁であり……弱点でもある。
この状況を作り上げることが、加瀬田いずる以外に作れたとすれば、それは誰か!」
和ちゃんが鋭い視線を送ったのは、わたし――の隣で小さくなってる小人。
最終更新:2015年04月02日 22:48