▼‐10


「しずか。あなたしかいないのよ」

「えっ、えっ……?」

「加瀬田いずるが部屋に戻ってから、わたしが鍵がかかっていることを確認するまでの間、
 あの部屋に近づけたのはしずかだけでしょう」

「で、でも鍵は!」

「既に密室成立のトリックが見破られてる時点で、
 鍵は加瀬田いずる以外の何者かが持っていたことは明らか。
 それが、その部屋で寝る予定だったしずかだった……簡単でしょ?」


 しずかは黙り込んでしまった。まさか、この小人が殺人を。


「……しずかは鍵を確認しに行くといって、実際には自ら鍵を締めにいった。
 そういうことで合ってる?」

「そうよ。そして、この事実から、もう一人の協力者が浮かび上がるわ」

「えっ!?」


 しずかの協力者……今度こそわたしなのか。
 と思って、そっと和ちゃんの目の行き先を追ってみると、それはわたしではなく、
 先程から反論を重ねていた、元気娘――の隣に辿り着いてしまった。


「美冬、あなたは昨晩寝ることができず、また一人も部屋から出て行っていないと言った」

「確かに言ったわ」

「それはおかしいのよ。まず、しずかが犯人の一人であることは間違いない」

「わたしが疑わしい理由が全く見えてこないんだけれど」

「でも、しずかは非常に華奢で非力。この出血の酷い二ヶ所の傷はいずれも深く、
 しずかにつけることは不可能でしょう」

「それをわたしがつけたって言いたいの?」

「いえ。わたしが言いたいのは、しずかは“密室作成時に被害者を刺していない”という事実よ。
 ならば、しずかがつけた“浅い”傷はいつ、どのタイミングでつけられたか」


 大方、しずかの力では致命傷を一撃で与えられるか不安があった、
 だから密室作成に留まった、そんなところでしょう、と和ちゃんは言った。

 全員の顔がしずかに向けられる。
 しずかはみるみるうちに小さくなって、ついにはしゃがみこんでしまった。


「わたしの見たことと証言を照らし合わせれば、それは一つしかない。
 そう、“就寝時間”に他ならない。
 でも美冬、あなたは一晩中起きていて、誰も部屋に出ていないと言った。嘘をついた!」


 なにか声を出そうとしたのだろう、美冬ちゃんは口を開けた。
 開けたまま、言葉は詰まって、外に現れてこない。
 反論が、できない。

 今までで犯行に関係していることが発覚したのは、しずかと美冬ちゃん。
 最も怪しい容疑者として、わたし、唯ちゃん、姫子ちゃんの三人のいずれか。
 一体ここからどれだけの人が事件に巻き込まれていくのだろう。

 わたしはひたすら息を殺し、その場を見守っていることしかできない。


「さらに美冬、あなたは言ったわね、寝れないことは普段から慣れっこだって。
 あなたはきっと不眠症だったのでしょう。でも、今回ばかりは睡眠薬を飲むわけにはいかなかった。
 それだけじゃない、きっとそれは加瀬田いずるを部屋に戻らせることにも、
 大いに役立ったんじゃないかしら?」


 睡眠薬をあらかじめ加瀬田いずるに盛り、先に部屋に戻らせ、
 密室を作れるようにする。
 これなら加瀬田いずるが本人から部屋に戻ったことにも説明がつく。


「さて、他の五ヶ所……このうち二ヶ所が、最も深く、そして命に拘わった傷ね。
 これは少なくとも就寝時間より前につけられたとみていい」

「出血量が違うから、だね」

「そう。じゃあ誰が、いつつけたのか。
 これを考え始めたとき、わたしはある一つの不思議な一致を思い出したわ。
 ねえ、しずか」


 すっかり縮こまってたしずかが、身体を飛び上がらせた。
 そこまで驚かなくても。


「あなたは加瀬田いずるの部屋に寝るはずだった。
 でも、結局ちかたちの部屋に寝ることになった。そうしたのは、どうして?」

「え、なんとなく……」

「違うわ。あなたは唯と喧嘩していたでしょう」


 視線の向かう先が、一挙に入れ替わる。


「え、わたし?」

「しずかが被害者を就寝時間に刺すための条件は、
 自分の部屋に協力者しかいない状態を作るか、協力者以外にもばれない方策をとるか。
 いずれにしても、わたしの部屋で寝るということはできなかった」

「そうだっけ?」

「だってわたしたちの部屋は、もう事前に寝る場所まで決めてあったのよ?
 ……わたしが、扉の前に寝ることまで、ね」

「あ……なるほどっ!」


 関心する唯ちゃん、素直でいいんだけど、自分の立場を覚えてるんだろうか。


「つまり、しずかが他のあらゆる要素を排し、至って自然に部屋を決定した、
 昨晩の喧嘩こそが仕組まれたものだったということよ!」

「そしてその協力者のわたしも、犯人グループの一味だったんだね!」

「唯……いつもと違って理解が早くて助かるわ」

「和ちゃん、わたしをちょっと馬鹿にしてない?」


 ついに自供し始めちゃった唯ちゃんはさておき、
 そうなると怪しいのが元気娘だ。
 元気娘、ちかちゃんは、犯人側が二人もいる部屋で寝ていたのだから。


「なるほど、次はわたしだね」

「別に楽しみにしてたわけじゃなさそうね」

「そりゃそうだよ、和ちゃん。
 探偵側は楽しいかもだけどね、わたしたちはたまったものじゃない」

「わたしこれでも、結構厳しい綱渡りしてるつもりなんだけれどね。
 じゃあ簡単に言ってしまおうかしら」


 和ちゃんは日常会話でもしてるかのようなトーンから、
 突然深く、わたしたちの心臓を握りつぶすトーンへと変化した。


「ちか、あなたも犯人側の人間よ」

「その証拠は?」

「あなたは証言で嘘をついたのよ」


 ちかちゃんは覚えはないね、といったふうに首を振ってみせた。


「さっき唯が犯人側の人間であることを証明したわね。
 では、唯は、“いつどのタイミングで加瀬田いずるを刺したのか”?
 まず就寝時間は、わたしがドアの真ん前で寝ていたから、除外されるわ」

「全く、厄介な寝方をしてくれたもんだね」

「わたし、しずか、そしてちかの三人で鍵を確認しに行っている間は、
 トイレの前に行っていたと誰もが証言している。
 事実、わたしたちはトイレの前で唯の姿を見たわ」

「そうだね、わたしも証人だ」

「これが疑いようもない事実だとすれば、残るタイミングはいつか?
 ……そう、“わたしたちが居間に戻ってから”なのよ」


 ちかちゃんの口元がわずかに動いた。
 わずかに読み取れた言葉は、なるほどね、だった。


「ちか、あなたは居間に戻った後、美冬に用があるといい、トイレの前まで移動した。
 その場面についてのちかの証言を要約すると、
 “美冬がトイレから出てきて、唯が入っていった。
 自分たちが話している間に唯はずっとトイレに入りっぱなしだった”。
 ……間違いないわよね?」

「まあ、大体そんなところだね」

「認めるのね、自分が犯人側の人間だってこと」

「一つだけ。わたしたちは唯ちゃんより先に、居間に戻った。
 これについてはどう説明するの?」

「その後すぐ、しずかがトイレに走ったでしょう。
 まさかちかたち二人が戻ってきて、しずかがトイレに走るまでの短い間に、
 全てが終えられるわけがないわ」

「ふむふむ……逃げ場なし、かな」


 まさか自分まで犯人側の人間だったとはね、と、
 ちかちゃんは困ったような笑みを浮かべた。

 まあ、正直、覚悟はできていたけれど。

 そんな呟きを添えて。


「さて、次だけれど……」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ」


 和ちゃんの先を進もうとする言葉に、思わずわたしも声を漏らす。
 だって考えてほしい。
 初めの、犯人が誰か全くわからない、あるいは外部犯の仕業かと思われたこの事件が、
 いつの間にかわたしたちの中の四人が犯人ということになってしまっている。
 七人中、四人。探偵役を除けば、三分の二が犯人側の人間ということだ。

 もうこれだけで十分多い。それでも、和ちゃんは、


「まだ犯人がいるっていうの……?」

「そうよ」


 まだ犯人側の人間をあげるのだという。
 驚きも一周すれば、妙な落ち着きに変わる。
 もはやここにいる全員が犯人でも、わたしは驚かないだろう。


「傷の出血量の差はさっき話したわよね。
 二ヶ所の傷が深く、そして出血量も多いということも」

「うん。それが一番初めにつけられた傷だって」

「これらは極めて短い時間の間につけられた、つまり一人の人間が続けてつけたものでしょう。
 さすがにこれほどの傷で、目覚めない人もいないだろうからね」

「一撃目で殺し損ねたことがわかったから、二撃目を加えたってこと?」

「そういうことになるわ。そして、一人目の殺人者を絞り込む上で、
 今まで犯人側の人間だと証明した人たちを検証するわ」


 わたしと姫子ちゃん以外の全員に、順々に視線を送る。


「まずしずか。しずかは就寝時間以外に殺せた時間はないから、違うわ」


 しずかはそっと胸を撫で下ろした。
 いやでもしずか、一応犯人であることは確定しちゃってるからね。


「続いて美冬。トイレにこもってる時間は、まず殺せない。
 これ自体が嘘というのも、例えばわたしが“居間に戻る前に”トイレへ行きたくなったら、
 一発でアウトになるのだから考えにくいわ」

「だとしたら、トイレから出て、ちかちゃんと二人で話していたっていう時間はどう?」

「まあ、あのタイミングだったら誤魔化しも効くでしょうね。
 ただわたしが考えているのは、あれはどちらかといえば、
 唯を守るという意味合いが強かったんじゃないかしら」

「どういうこと?」

「つまり、もしわたしが“居間に戻ってから”トイレに行きたくなって、
 そこに唯がいなくっても、トイレを終わらせるぐらいの時間はあったんだから
 二人が色々理由をつけられるでしょう?」

「なら、片方だけでもいいんじゃ……」

「それとは別に、本当に話しておきたいことはあったのよ。
 さらに言えば、ちかと美冬は就寝時間という最大のチャンスが活かせるのだから、
 このタイミングで殺しにいくというのはなおさら考えにくいわ」


 となると、残ったのは唯ちゃんと、まだ名前が挙がってない犯人ナントカちゃん。


「唯にそこまでの力はない。けれど、散々非力だと言われたしずかよりはある。
 かなり怪しいけれど、全くこの傷がつけられないともいいきれない」

「じゃあ……」

「ただ、押すことは出来ても、引くことができたかしら。
 押すだけなら体重をかけてやればできるけど、そこで殺し損ねたと気づき、
 すぐさま引くだけの力を……いや、それだけじゃないわね」


 和ちゃんはすぐそこの窓に近づき、拳の裏で二回ノックした。


「このコテージの壁は断熱に優れてる。防音にもね。
 ただ窓ガラスが直接揺らされた際の音なんかは、そうとも言い切れない。
 昨晩キッチンで、風の音と、風に揺れる窓の音を確かに聞いたわ」


 不意に姫子ちゃんが頷いた。そういえば、あの時一緒にいたのは姫子ちゃんだった。


「だとしたら、寝ていただけだとしたら、あそこまで……そうね、うん。
 しずか、あなたがわたしたちと二階に上ったとき、あなたは窓を強く叩いたわ。どうして?」

「え、だって中で寝てるから、起こそうと……」

「起こしたらこの計画は全て水の泡よ。そう、本当はそんなこと、恐ろしくて出来っこない。
 ならばどうして出来たのか。それは、あの時点で加瀬田いずるは必ず起きないことが
 わかっていたから……殺されていることがわかっていたから!」


 どよめきが広がる。当たり前だ。


「待って、和。それはおかしいわ」

「どうしてかしら美冬」

「さっき、しずかちゃんに最初の傷はつけられないと、和は言っていた。
 この説明自体はわたしも納得したし、異論はない。
 だけどそうすると、今度は誰もそのタイミングで加瀬田いずるに近づけないことになるわ」

「そうね……わたしもそこが気になっていたの。
 見取り図を見せてくれる?」




「この見取り図でわかるように、被害者の部屋へ行く場合は階段を上り、
 廊下を進んで、この扉から入るか、あるいは隣の部屋からベランダを使う、
 二通りの方法が考えられるわ」


 和ちゃんは二本の指を立てた。
 その、一見自信で満ち溢れている指を、美冬ちゃんは残念そうな眼差しで見ていた。


「でもしずかちゃんが戻ってから、和たちが部屋に向かうまでの間に、
 誰も二階に上ってない。和たちが行ってからなんて、まず無理な話よ」

「そうね、扉の前にわたしたちはいた。ちかが鍵を取りに行っている間にもね。
 そうなると、さっきの二つの方法は全く使えないことになってしまう」


 和ちゃんは二本の指を折り、手をあっさりと引っ込めてしまった。
 万策尽きてしまったのか。そう思ったときだった。


「ならば第三の方法を考えましょう」


 逆の手を前にだし、一本指を、さっきより真っ直ぐに立てたのだ。
 その一本指に宿る勇気は、指先から天井を突き破るほどに高く感じられる。
 和ちゃんはまだ諦めていなかった。


「要はわたしたちのいた廊下を通らず、あの部屋にたどり着けばいいのよ」

「そんなこと出来るわけ……」

「それが出来るのよ、とても原始的な方法で。さっき見つけた、この道具を使えばね」


 和ちゃんが取り出したのは、非常に丈夫そうな――ロープだった。


「待って、そのロープは――」


 咄嗟に吐きかけた言葉を飲み込んだのは、ちかちゃんだった。
 恐らくちかちゃんが言おうとしたことは、誰もが思ったけれど、誰にも聞くことのできないことだろう。

 そのロープ、いつ、どこから見つけてきたの?

 わたしたちに、それを知る術はない。
 いま証拠としてロープを持っている、和ちゃんでさえも。
 ただ一つだけわかっているのは、“あのロープが必ず劇中に出てくる”ということだけだ。
 和ちゃんは言っていた。

 “わたしたちは作品世界の外側にいる。
  今後知るはずだったような証拠も、既に手に入れているのよ”


「後は言わないでもわかるわね、ロッククライマーで怪力の女子高生さん?」


 ロッククライマーは、顔を俯かせて、押し黙っている。


「キッチンからあの部屋に辿り着くには、居間を通る必要がある。
 つまり居間のちずるにさえ見られなければ、アリバイは完璧に成立するってわけね」


 しずかが密室を作り上げる際、同時にロープをセットし、ベランダ側の鍵も開けておく。
 姫子ちゃんがキッチンからそのロープを辿ってベランダに上り、ロープを片付け、
 加瀬田いずるの部屋へと侵入、第一の殺人者となる。

 あの深い傷も、怪力のロッククライマー――姫子ちゃんなら、簡単に説明がつく。


「確認するわよ。まず姫子が今のようにして二ヶ所。次に、唯がトイレと偽って一ヶ所。
 その次は就寝時間になって、ちか、美冬、しずかの、同じ部屋の三人がベランダを通って、一ヶ所ずつ」


 合計すると、六ヶ所。死体についた傷の数と等しい。


「……以上が、わたしの推理よ。事件解決ね」


 ああ、ついに事件解決。一面のトップ記事になるこの事件の解決者、
 真鍋和探偵の写真を一枚収めようと、懐のカメラを取り出す。
 レンズを通して彼女の姿を見ると、するとどうだろう、これはなんだ。

 この違和感はなんだ。


「これはおかしい、ちがうよ」


 誰かがそう言った。誰が。

 わたしは、わたしが意識するより前に、違和感に正直になっていた。


「……ちがう、ちがう、断じてちがう!
 そんな、こんな“細かい一点でいい加減になる”なんて、らしくない!
 もっと不完全なところがある――和ちゃんはよく知ってるはずでしょ?」


 そこにいた誰もが、なにかに憑りつかれたようなわたしを、怪訝そうに見ていた。
 ただ一人、和ちゃんを除いて。


「そうね、ちずる。この推理には“続きがあるわ”。
 だけれどね、その前に一つ言わせて。この事件を解決する方法は“二つ”あるの」

「二つ……?」

「そのどちらを選ぶのか、わたしはある人に尋ねたいと思うわ」


 和ちゃんは一拍した。乾いた音は空間を捻じ曲げる。
 コテージかと思われていた空間から黒板や、机や椅子が見えてきたとき、
 わたしは劇の終幕を自覚した。


  ▼‐11


 姫子ちゃんと後輩ちゃんを経由し、和ちゃんはある人の連絡先を手にしていた。
 その通りに携帯のボタンをプッシュする和ちゃんの手は、
 どこか躊躇いが見え隠れしているような気がする。

 それでも立ち止まらない。
 ついにドアの前まで来た和ちゃんは、最後のインターフォンを押し、
 住人とのアクセスを開始した。

 コール音が機械的に繰り返される。――不意にその音が途切れた。


「もしもし」


 和ちゃんの電話は、後輩ちゃんの友人、脚本家へ繋がっていた。


「わたしは桜高生徒会の真鍋和。
 安心して、この電話のことはあなたの一番の友だち以外の、誰にも話してないから」


 思い切りわたしたちの前で話してるんだけど。


「そう、そうよ、その友だちが困っていて、巡り巡って、わたしのところに話が来たの。
 あなたが脚本を出し渋っているってね。
 ええ。じゃあ当ててみせましょうか、あなたがどうして脚本を出したがらないか。嫌でしょう?
 嫌なら、今から話すことをよく聞くことね」


 あれ、ちょこっと脅迫入ってないかなこれ。
 これからはカメラだけじゃなくて、ボイスレコーダーも常備しようかな。

 なんて思っていたら、和ちゃんが次に話したのは、なんと先程の推理だった。
 流石に話は手短に、ブラッシュアップされている。

 いや、そんなことは今はどうでもいいことだ。
 なにせ未完成の作品について、作者に読者がその答えを言っている。
 非常に奇妙な光景に映った。


「いい、これで六つの傷ができた。
 それでね、この事件の解決には二つの方法があるの」


 わたしたちと同じ場所に、いま脚本家は立った。
 そして、


「一つは“あなたが考えていた通りのもの”。
 でもあなたは、彼女が代わりの役者になると聞いて、これを止めなくてはならなくなった」


 あっという間に、わたしたちは置いて行かれた。


「違う? ……そう、違くない、当たっているのね。
 わたし個人として言いたいことは山ほどあるけれど、
 とりあえず自分勝手な理由でクラス全体を振り回さないことね。
 いまじゃ、あなたの方が余程――いえ、なんでも。……よく知ってるでしょう?」


 脚本家が急遽脚本の提供を止めた理由。
 それが一瞬のうちに、全くわたしたちにとっては不意打ちに、眼前に叩きつけられた。
 こんなもの、わたしのカメラでは捉えきれない。


「なら覚悟しなさい。わたしはお話づくりは得意じゃないの、だから無責任な提案だけしか出来ない。
 そう、そう、この提案こそが二つ目の解決方法。期待させたなら悪かったわ。
 だけど今更、あなたにそんなことを言う権利がある?」


 和ちゃんはわかってる。そしてそれは、きっとさっき感じた違和感。
 わたしは、勘でしかないけど、恐らく和ちゃんの次に、答えの近くにいる。
 考えろ、考えるんだ。脚本家になにが起きたのか。


「わたしからの提案はこれよ。……“探偵をありふれた人間にする”」


 探偵を、ありふれた人間に。その響きに、わたしは目を見開いた。
 驚きもあったけれど、それはきっと、意外なほどわたしには腑に落ちたからなのだと思う。


「細かい演出とか、話の流れは、あなたが考えなさい。
 一つ忠告しておくと、あなたのクラスメイトは、既に与えられているシーンの練習を、
 とても熱心にしているそうよ」


 それから最後に二言三言、言葉を交わしたかと思うと、
 和ちゃんは二人のアクセスを断ち切った。


「……ねえ、和ちゃん」

「どうしたのちずる?」

「あとで、二人で話がしたい。いいかな?」

「断っても聞かないって顔してるわよ」


 そうなのかな。そうなのかも。



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最終更新:2015年04月02日 22:51