【月曜日】
梓「よーし…」
純「どうしたの梓?」
憂「気合い十分だね」
梓「今日こそきちんと練習しようと思ってね」
梓「最近、部活の雰囲気がたるんでるんだよ」
純「軽音部としてはそれが通常運転じゃないの?」
梓「うっ…」
梓(言い返せない…)
梓「さ、最近特にそうなの!」
梓「だから、今週だけでもティータイムをなくして、みっちり練習するんだよ」
純「ふーん…ほんとになくせるのかなぁ?」
純「憂のお姉ちゃんとか律さんとか手強そうだけどなぁ」
梓「や、やるったらやるもん!」
梓「うんしょっと…」
梓「じゃあ部室行くね」
純「まぁやるからにはがんばりなよ梓〜」
憂「ファイトだよ、梓ちゃん」
梓(部室にクーラーが付いてから、まともに練習しない日が続いてる)テクテク
梓(このまま夏休みに入っちゃったら、もしかしたら唯先輩は難しいリフやコードは全部忘れちゃうかもしれない…)テクテク
梓(こんなことじゃダメだよ!私たちは軽音部なんだから!)ブンブンッ!
梓(先輩たち、わたしが行く前に練習してくれてればいいんだけど…)テクテク
梓(そんなわけないか…きっと先にティータイム始めちゃってるよね)テクテク
梓(練習の音は…やっぱり聞こえない)テクテク
梓(今日からがんばらないと!)フンスッ
梓「こんにちは!」ガチャッ
唯「…」
律「…」
澪「…」
紬「…」
梓「…?」
梓(なに…?この張り詰めた空気)
梓「あの〜…?」
律「唯…本当のことを言ってくれ」
唯「…!」ピクッ
律「お前…タイムリープしてるだろ」
唯「…っ」
律「唯、どうなんだ…?」
唯「…わたしは…」
律澪紬「…」
梓「え…」
梓「…えっ?」
紬「思えば一年生の時からおかしかったのよね」
澪「テストの結果がまったくダメだったと思ったら、一夜漬けの勉強だけで追試を満点でパスしたり」
澪「完全に覚えてたはずのリフを次の日には忘れてたり」
律「最初は唯だからって理由で納得してたんだ。でも、それにしても不自然なことが多すぎた」
紬「それで思ったのよ。もしかして、唯ちゃんはタイムリープしているんじゃないかって」
律「どうなんだ、唯」
律「お前はいったい…どこから来たんだ?」
梓(…どうしよう、いきなり過ぎてついていけない)
梓「せ、先輩方…」
唯「バレちゃったら…しょうがないね」
澪「唯…」
紬「唯ちゃん…」
唯「わたしと…そして憂は、未来人なんだよ」
梓(はっ!?)
紬「ええっ?」
律「憂ちゃんもなのか?」
唯「うん…わたしたちは、ある任務の為に、この時代にやって来たんだ」
紬「ある任務って…」
唯「それは…」
唯「あずにゃんを守ることだよ!」ビシッ
梓「ひっ」ビクッ
律「あ、梓を!?」
澪「梓、いたのか!?」クルッ
梓「は、はぁ…」
紬「どこから聞いてたの!?」
梓「えっと…タイムリープの辺りから…」
律「唯、どうして梓を守ることが任務なんだ?」
唯「…遠くない未来、人類対ロボットの戦争が起こるんだ」
紬「人類対ロボットの!?」
律「戦争だって!?」
梓(こんな話、どこかで聞いたことあるような…)
唯「そしてあずにゃんは、人類側の軍隊を率いる、リーダーとなる人物なんだよ…!」
律「なんだってー!」
紬「そ、そんな、梓ちゃんが…」
梓(やっぱり聞いたことあるような…)
唯「ロボットたちは、重要人物であるあずにゃんを抹殺しようと計画したんだ…」
唯「でも未来のあずにゃんはしっかり守られてるの…。だから過去に飛んで、この時代のあずにゃんを消してしまおうと考えた」
唯「わたしと憂はそれを防ぐ為に、この時代に送り込まれたんだよ」
唯「わたしは部活中のあずにゃんを、憂は授業中のあずにゃんを守る為にね」
律「まさか…梓がそんなに重要な人物だったなんて…」
梓「…」
唯「わたしがいつもあずにゃんに抱きついていたのも、あずにゃんの盾になる為だったんだよ」
唯「でもわたしの力不足で、何度も何度もあずにゃんの護衛に失敗したんだ」
紬「そうだったのね…」
唯「その度にわたしはタイムリープして、過去をやり直し、あずにゃんを守ってきたんだよ」
梓「…」
唯「でもね、わたしがタイムリープできる回数は、あと一回だけなの」
律「なっ…そうなのか!?」
唯「うん…そしてその一回は、わたしたちが未来に戻るために残してある一回なんだ」
唯「だからね、ここで完全に敵を撃退しなきゃいけないんだよ」
律「完全に…」ゴクッ
紬「撃退…」ゴクッ
澪「……」紅茶ゴクッ
梓(なんだこれ…)
梓「えっと…みなさん」
唯「はっ!」ガタッ
梓「え?」
唯「あずにゃん!あぶなーい!」ダッ
梓「ええっ!?」
律「梓ー!」ガタッ
紬「梓ちゃん!」ガタッ
唯「伏せてっ!」ダキッ
梓「わっ!」
ギュウウゥ…
一同「…」
シーン…
唯「ふぅ…」ムクッ
唯「危機は…去ったよ」
紬「やった…!」
律「良かったー!」
唯「あずにゃんは助かったよー!」
律「人類の未来は救われたぞー!」
律「ムギっ!祝杯の準備だ!」
紬「ただいま!」
梓「…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「だからみなさん」ムクッ
梓「なにやってるんですか?」
〜〜〜
紬「はい、梓ちゃん」コトッ
梓「ありがとうございます」
唯「ねぇねぇ、ドキドキした?あずにゃん」ルンルン
梓「全然です」
唯「えぇ〜」
紬「頑張ったのにねぇ」
梓「頑張るところが違います」
律「澪も途中から全然喋んなかっただろー、真面目にやれよな〜」
澪「そもそも真面目のベクトルが違うだろ」
梓「そうですよ、まず練習の方を真面目にやってください」
唯「まぁまぁ、練習の合間の息抜きだよぉ」
梓「合間も何も、最初から息抜いてるじゃないですか」
律「わかってないなぁ梓、今の時代を生き抜いてくには、適度な息抜きが必要なんだぞ?」
梓「まったく上手くないですね」
律「バッサリだぁ!」バタッ
紬「えっと…?」
唯「りっちゃ〜ん、今のどういう意味〜?」
律「聞くな唯っ!自分で言ったギャグの説明ほど虚しいことはないんだっ!」
澪「『生き抜く』と『息抜き』を掛けたんだよ。上手くないけど」
律「そこっ!わざわざ説明しないでいただきたい!あと一言余計だ!」
唯「おぉ〜、なるほどぉ」キラキラ
紬「りっちゃん、凄いわぁ」キラキラ
律「むぐぐ…悪意がないとわかっている分心がえぐられる…」
梓「そもそもなんだったんですか、あのお芝居…」
唯「気になる〜?ふっふっふ、あれはね〜」
唯「ズバリ!あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」
梓「…はぁ」
梓(なんのこっちゃ…)
唯「はぁあ〜、でも今回は失敗だったなぁ」
唯「どうやったらあずにゃんをドキドキさせられるんだろう」
律「今回はちょっと唯のセリフが長すぎたよな」
紬「全体的に間延びしちゃったわよね」
唯「えぇ〜、頑張って喋ったのにぃ」
梓「そもそもあの話、どこから持ってきたんですか?」
唯「あ〜あれはね、昨日の夜やってた映画を見て思いついたんだよ!」
梓「やっぱり…」
律「次はもう少しシンプルに行くか」
唯「シンプル〜?」
紬「う〜ん…じゃあもっとわかりやすい話にしてみようか」
澪「お前ら」
澪「梓が目の前にいるのに、話し合いの内容が筒抜けじゃ意味ないだろ」
一同「…」
唯律紬「はっ!」
梓「コントですか…」
梓(もしかしてまだお芝居続いてるのかな…)
紬「梓ちゃん、今の話し合いの内容は忘れて?」
梓「忘れてって言われても…」
律「そうだ唯、こんなときこそタイムリープでやり直しだ!」
唯「任せてりっちゃん!」
唯「ふむむむむ…!」
梓「なにやってんですか」
澪「馬鹿なことやってないで…ほら、練習始めるぞ」
唯「うぅ〜、過去に飛べない〜…」
律「頑張れ唯隊員!」
梓「唯先輩も律先輩も、早く準備してください」
唯「はぁ〜い」
律「ちぇっ、わぁったよ〜」
【火曜日】
梓(今日は日直で遅くなっちゃった)テクテク
梓(昨日は練習はできたけど、結局ティータイムの後だったんだよね…)テクテク
梓(まさか昨日の今日で、変なお芝居は挟んでこないだろうし)テクテク
梓(今日こそ、最初からしっかり練習するぞ!)フンスッ
梓(…というか)テクテク
梓(部室が近づいてきたのに、相変わらず練習の音が聞こえてこない…)テクテク
梓(また先にお茶してるんだろうな…)ハァ…
ガチャッ
梓「すみません、日直で、遅く…なっちゃって…」
梓「…」ジトー
唯律澪紬「…」ジー
梓「…どうしたんですか?」
梓「みんなでトンちゃんの水槽を覗き込んで…」
律「あっ梓ちゃん!やっと来たのね」
澪「梓…落ち着いて聞いてくれ」
梓「え…なんですか、まさかトンちゃんに何か…!」
律「実はな、さっきトンちゃんが…」
梓「トンちゃんが!?」
律「喋ったんだ」
梓「喋っ…た…」
梓「…」
梓「はい?」
トンちゃん「…」スーイスイ
梓「すみません、意味がわからないです」
律「だからぁ、トンちゃんが喋ったんだって」
律「あたいトンちゃん!いつもかわいがってくれてありがとう!ってさ」
梓「はぁ…もういいですから」
梓「馬鹿なこと言ってないで、今日こそ真面目に練習…」
「馬鹿なことって失礼だね!あたいほんとに喋れるようになったんだよ!」
梓「」
梓「ええ!?」
梓「ど、どこから…」キョロキョロ
律「お〜!また喋った!」
梓(まさか、誰かがトンちゃんのふりして声出してるんじゃ…)ジトー…
紬「トンちゃん!梓ちゃんも来たわよ!」
律「ちょっと挨拶してやれよ!」
「梓ちゃんこんにちは!いつも一番あたいの世話してくれてるよね!ありがとう!」
梓「…」
梓「だ、誰も口を動かしてなかった…」
梓(机の陰とかに、だれか…隠れてない)
梓(まさか…こんなおかしなこと、起こるわけないよ…)
梓(も、もしかして…!)
梓「だ、誰か私のほっぺをつねってください!」
律「え?いいけど…」
ギュー!
梓「いはいいはい!いはいれす!」
律「あ、悪い…つねりすぎた?」パッ
梓「いえ…大丈夫です…」ヒリヒリ
澪「どうしたんだ梓?」
梓(この痛さ…)ヒリヒリ
梓「夢じゃない…」ヒリヒリ
梓(でも…さっきから何か違和感が…)
梓(なんだろう…)
紬「トンちゃん、どうして喋れるようになったの?」
「いつもみんながかわいがってくれてるお礼が言いたいと思ってたら、いきなり喋れるようになったんだよ!」
律「へ〜、こんなこともあるんだなぁ」
澪「この話を元に新しい詩が浮かびそうだな…」
梓(…そうだ)
梓「あの…唯先輩?」
唯「ふぇ?なぁにあずにゃん?」
梓「さっきから、一言も喋ってないですよね?」
唯「え?そ、そうかな?」ビクッ
梓「おかしいですね、唯先輩がいちばんトンちゃんをかわいがってるのに」
梓「いつもの唯先輩なら真っ先に大騒ぎして、私に抱きついてきそうなものですけど…」
唯「いやぁ〜、いきなりのことだったから、ちょっとビックリしちゃってさぁ〜…」オドオド
梓「そういえば唯先輩、昨日より少ーし髪が伸びてませんか?」
唯「え〜?き、気のせいじゃない、かなぁ?」アタフタ
梓「あれ…いつの間にかトンちゃん静かになっちゃいましたね」チラッ
唯「あ、あれぇ〜、おかしいねぇ、急に恥ずかしくなっちゃったのかなぁ」ドギマギ
梓「もういいですから、唯先輩」
梓「いや…、憂」
〜〜〜
憂「ごめんね、梓ちゃん」ペコリ
憂「お姉ちゃんに協力してって言われたら、断れなくて…」
梓「憂は唯先輩に甘すぎるよ」
紬「はい、憂ちゃんも紅茶どうぞ」コトッ
憂「ありがとうございます、紬さん」
梓「だいたい腹話術なんてどこで習ったの?」
梓「まさか、このお芝居のためにわざわざ…」
憂「あはは、まさか〜」
憂「一昨年、私がまだ中学生のときに、お姉ちゃんがうちで軽音部の皆さんや和さんとクリスマスパーティーを開いたことがあってね」
憂「そのとき、パーティーの余興で一人一芸を披露するってお姉ちゃんに聞いて、練習したんだ」
梓「…つまり独学ってこと?」
憂「うん」
梓(やっぱり憂って天才肌だな…)
梓「…それはともかく、先輩方」ジロリ
梓「よくまぁこんなお芝居を思いつきましたね」
唯「えへへぇ、照れるなぁ」
梓「褒めてませんよ…」
律「昨日、次はシンプルって言ってたのを梓に聞かれたから、裏をかいて凝った内容にしたんだけどな〜」
紬「あと一歩だったのにねぇ」
唯「ぶー、でもわたし、ずっと倉庫の中でつまんなかったよ〜」
澪「しょうがないだろ、憂ちゃんが梓の前で唯のふりしてたんだから」
紬「でも、あそこで唯ちゃんが倉庫の中から飛び出してきたら、唯ちゃんが二人いる!って梓ちゃんをドキドキさせられたかもねぇ」
唯「あ〜、それおもしろそう!」
律「なるほど、ドッペルゲンガーか…じゃあ次は
ホラー路線で」
澪「ぜったいやめて」
ワイワイキャイキャイ…
梓(また私の前で話し合い始めて…内容が筒抜けだよ…)
梓(昨日今日のお芝居の目的って、私をドキドキさせることのはずだよね?)
憂「お姉ちゃんも皆さんも楽しそうだねぇ♪」
梓「そうだね…」
梓(ほんとに楽しそう)
梓(目的を忘れて、盛り上がってるよ…)
梓「皆さん、目的を忘れてませんか?」ガタッ
唯「ほぇ?目的って?」
梓「私をドキドキさせる為に作戦を立ててるんじゃないんですか?」
律「そうだけど」
梓「じゃあ、私の目の前で話し合いしてちゃダメじゃないですか」
唯律澪紬「…」
唯律澪紬「はっ!」
梓「だからコントですか…」
梓「こんなことじゃまだまだ私をドキドキさせられませんよ」
憂「ねぇ梓ちゃん」
梓「なに?憂」
憂「言いにくいんだけど…梓ちゃんも目的を忘れてないかな」
梓「え?」
憂「梓ちゃんの目的って…、皆さんにドキドキさせられるってことじゃなくて」
憂「軽音部でしっかり練習することじゃなかったの?」
梓「…」
梓「はっ!」
最終更新:2015年04月17日 08:10