—30分後—


唯「ゼェ…ゼェ…」

律「着いたぜ」

4人で30分、がむしゃらに走り続けた結果、私たちは山の中にいた。

なんていうか、ドラえもんに出てくる「学校の裏山」的な
街からそう離れていないお手頃な山だ。

紬「ここが到着点…?」

唯「ここが合宿所?」

澪「なんだ、小学校の時、遠足で来た山じゃないか」

澪「こんな近くにお前の家の別荘があるの?」

律「アレを見な」


唯「あ…」


りっちゃんがドヤ顔で指差した先には


ドラえもんに出てくるような、


空き地に置いてある



土管が



3本



寝かされていた。



澪「なんだ こりゃ」

律「別荘だ」

土管には「たいなかりつ」と油性マジックで書いてあった。


—2秒後—

私はりっちゃんを殴ろうと思って石を拾った。

見れば澪ちゃんもムギちゃんも漬物石みたいな大きさの石を手に抱えている。

律「おっ、枕か?」

澪「確かにお前を永遠の眠りにつかせるために役立つ道具ではある」

紬「ホッ」

ムギちゃんが石を投げつけると、りっちゃんはウォンフェイフォンみたいに
飛び蹴りでガッと投石を蹴り飛ばした。

ウォンフェイフォンとは中国版宮本武蔵的な伝説のカンフーの達人で叔母に劣情を催すことで有名らしいよ。


律「そんなことより土管は3本しかない。早い者勝ちだぞ?」

唯「りっちゃんが何を言っているか分からない」

律「ベッドいらないのかよ」

りっちゃんは土管を指差した。

澪「アレはベッドじゃない。土管だ」

律「!!」



律「ベッ土管ってワケか…」


ポン


律「さすがだな」

りっちゃんは感心したような表情で澪ちゃんの肩に手を置いた。

澪ちゃんは冷たい目をして、りっちゃんの手をふり払った。

りっちゃんの話によれば
ここはりっちゃんが子供の頃から利用してた秘密基地であり
休みの日はいつも1人でここでお菓子を食べたり漫画を読んだりしてたらしい。


紬「他にやることは無かったの?」


律「無い」


今でこそ明るいりっちゃんだが、寂しい子供時代だったのだろうか。


律「ま、そんなこたぁどーでもいいさ」

律「この合宿でミッチリ練習して、武道館ライブの礎としようぜ!」

唯「でも、りっちゃん。楽器が…」


私たちはギターやベースを持参しているが、りっちゃんのドラムは持ち運び出来る大きさじゃない。

別荘に替わりのドラムがあるのか気にはなっていたけれど…

というかアンプどころかコンセントも無い山の中では私たちの楽器も…

すると—りっちゃんは旅行カバンからお茶碗とお箸を取りだし、チャカポコ叩き出した。
チンッ チンッ

澪「お前、まさかそれをドラムだと言い張る気か」


律「ワンツースリーフォー」カンッ カンッ


りっちゃんがお箸でお茶碗をカツンカツン鳴らすと

律「せっかく海に来たんだから泳ごっぜー!!!!」

律「ぬおおおぉおお!!!!」


りっちゃんは初めてセックスする童貞猿のように服を乱雑に脱ぎ捨て水着に着替えて山奥に走り去って消えていった。

澪「帰るか…」

唯「そだね」


—うしろ—

律「ハッ」

バッ

紬「あっ!?」

見えなくなったと見せかけ、茂みに隠れていたりっちゃんは突如、私たちの荷物を奪ってまたもや走り去った。

澪「おいっ、どういうつもりだ!?」

紬「待って!荷物返して!!返せ!!殺すぞ!!?」

律「ギギギ」


ムギちゃんが本性をさらけ出して澪ちゃんにドン引きされる中、走り続けた私たちの前に


古ぼけた、だけどよく見ればわりとキレイな山荘が姿を現した。


紬「え…」


澪「なんだ、これ…」


律「嘘だ」


唯「へぁ?」


律「あの土管はフェイクで、これがアタシの真の別荘なのさ」



別荘って…

りっちゃんは山荘の玄関前の3段ほどの階段下にある鉢植えを
ゴソゴソ漁って鍵を取り出した。

その鍵でカチャリと玄関の扉を開けて、中へと入っていく。

唯「はぁ〜、別荘は本当にあったんだね…」

紬「ステキ…。私、こういう汚ならしい山小屋に泊まるの夢だったの〜!」


りっちゃんの名誉のために言っておくと、ここは至極まっとうな宿泊施設に思えるが

大金持ちの娘のムギちゃんには
お風呂にも入らない毛むくじゃらの山男が暮らしているような、薄汚い豚小屋に見えるらしい。

澪「でもここ、本当にアイツの家の別荘なのか…?」

唯「ほぇ?」

紬「鍵の隠し場所知ってたから、りっちゃんの家の別荘だと思うけれど…」

澪「でも以前、この建物の周りで遊んでいて、たまたま鍵の隠し場所を見つけただけかも知れないぞ」


唯「えっ、じゃあ これ、知らない人の別荘で私たちは不法侵入者?」

紬「まあ、いざとなったら私たちは彼女に騙されていただけだって言えばいいんじゃないかしら」

唯「そうだね」

澪「よーし、何かあったら律を警察に引き渡そう!」

唯紬律「おー!」


私たちは頷きあって、別荘(仮)に足を踏み入れたのだった…


—別荘内—

別荘は特別広いワケでも豪奢なワケでもないが、2〜3日なら充分快適に過ごせる家具や調度品が備えつけられていた。

寝室にはちゃんとベッドメイキングされていて、花瓶には花が活けられているし
食堂のテーブルの皿にはみずみずしいキュウリまで盛ってあった。

…どうせならフルーツが盛ってあればいいのに。


紬「ねえ。ホコリ1つ落ちてないけど、誰か管理する人いるの?」

律「カッパが…」

澪「ん?」


律「河童がやってくれるんだ」


紬「……?」

唯「りっちゃん、カッパって…」

律「ぬおおおぉおお」


りっちゃんは


律「こっちに来いよ。練習するところもあるんだぜ」


りっちゃん


(゚ヮ゚)


—練習へや—

奇妙なテンションのりっちゃんに案内されたのは6畳ほどの部屋。

畳に障子の和室だが、ちゃんとアンプやドラムが設置されている。

唯「わ〜、すごいよ、りっちゃん!山荘の和室で軽音ってなんだかシャレてるね!」

澪「でもこの和室、絶対、防音壁とかじゃなさそうだよな。デカイ音出して大丈夫なのか?」

律「なあに、気にすんなって!」

律「このあたりはアケビも採れるからな!」

紬「うん」

唯「でもソレ、防音じゃなくても気にしないでいい理由にはなってないよね」

律「よっしゃ!」

りっちゃんは窓から飛び出してシュシュッと樹に勢いよく登って消えてった。


澪「一体、どうすればいいんだ」


唯「ねえ、こんな山の中なら大きな音を出しても近所迷惑にはならないんじゃないの?」

澪「どうかなあ」

紬「別荘って、ここの一軒だけなのかしら」

唯「あ〜、近くに他の別荘があったら迷惑になっちゃうね」


紬「まあ、別荘なんて一年中、人が住んでるワケじゃないだろうけど…」


澪「よし、ちょっと辺りを散策して様子見しよう。着いてすぐ練習というのもなんだしな」

紬「そうね!」

唯「さんせ〜い!」

紬「ぎっ」

唯「!!」

ムギちゃんが私の方を見据え、澪ちゃんと二人きりになるのが夢だったのオーラを醸し出していた。

気のせいかムギちゃんの守護星座、蟹座のコスモまで感じた。

紬「唯ちゃん。蟹座の散開星団プレセペは中国では積尸気と呼ばれているわ」

唯「うん…」

紬「積尸気とは積み重ねた死体から立ちのぼる燐気のことで
私はこの積尸気を操り唯ちゃんを冥界へといざなう事も可能なのよ」

紬「具体的には青酸カリで」

唯「積尸気どうなったの!?」

とにかくムギちゃんと澪ちゃんのお邪魔をしたら冥界に送られちゃうらしい…

私は見たいテレビがあるのでまだ死にたくはなかった。


唯「私、歩き疲れたからここで休んでるよ〜」

澪「そうか?なら、私も残ってようか?」

紬「びゅびっ」

紬「澪ちゃんが残ったら唯ちゃん、気をつかってよく休めないかも…」

澪「あ、そんなもんか。ムギは気を利くなぁ^ヮ^」

ニッコリと美少女澪ちゃんに笑顔を向けられムギちゃんは…


紬「んんッ…」


紬「〜〜〜ッッッ!!」



ムギちゃんは



絶頂に達した。



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最終更新:2015年06月20日 08:32