−来年・春−


えっと…みなさん、こんにちわ。

中野梓です。

おかげさまでなんとか志望校の桜ヶ丘高校に合格しまして、この春から高校生になりました。

一週間前に入学式も終わり、クラスでは話せる友達も少し出来て、とりあえずは順調な滑り出し、って感じです。

純「あ〜ずさっ♪」

ぎゅっ

梓「わっ、純…!!びっくりしたぁ…」

純「アハハ、驚かせた?ゴメンゴメン」

純「梓がお人形さんみたいにちっちゃくて可愛いもんだから、つい抱き締めちゃったよ」

梓「お人形ほど、ちっちゃくないもん…」

後ろから私に飛びついてきたのは、高校で新しくできた友達、鈴木純

知り合った初日こそは礼儀正しく、慎ましやかに振る舞っていたが、この一週間ですっかり馴れ馴れしくなったもので

今では私のパーソナルスペースにずいずい踏み込んでくる。

中学で仲のよかったコたちとは別々の学校になってしまい、高校でちゃんと新たな仲良しグループが作れるか、ちょっぴり不安だったけど
彼女の人なつっこい性格のおかげで、とりあえず今年一年はいわゆる「ぼっち」にならずにすむようだ。


純「ねぇ梓、部活って、どこにするかもう決めた〜?」

梓「部活…」

梓「純はもう決めたの?」

純「今、考え中」

純「色々やってみたいことはあるけれど、なかなか決まんないから人の意見も聞いてみよっかな〜って」

梓「そっか」

純「で、梓はどんな感じ?」

梓「うん、私は音楽系の何かに入部しようと思ってる…かな」

純「へえ〜、音楽系かぁ」

梓「親の影響でギターを弾いてるんだけど、もっと上手くなりたいから…」

純「ギター!?すごいじゃん!」

梓「い、いや、そんなに上手くはないから すごくはないけど…」

純「うん、社交辞令ですごい!って言っただけだから、そんなに謙遜しなくても大丈夫だよ?」

にゃんだと?

憂「…梓ちゃん、ギター弾くんだ」

梓「あ、憂」

高校で出来たばかりのもう一人の友達、平沢憂が教室に入ってきて、話にくわわった。

憂は純と違って、知り合って一週間経っても、礼儀正しく慎ましやかなまま。

私に対して緊張しているという感じではないから(たぶんだけど)、きっと彼女は素でおしとやかなんだろう。

純「そういえば憂のお姉ちゃんもギター弾くって言ってたっけ」

梓「え、そうなんだ!」

憂「うん、まあ高校生になって弾き始めたばかりの人間のくずだけどね」エヘヘ

純「え?」

憂「え?」

今なにか姉のことを「人間のくず」呼ばわりしたような…

私が憂の顔をおそるおそるチラ見するとニコニコと愛らしい笑顔で微笑んだままだ。

きっと私の聞き間違いに違いない。

そうであってほしい。


純「そ、それでさ〜、今日の放課後、新入生に向けての部活動紹介が講堂であるからさ、一緒に行かない?」

梓「あ、あ、うん。行く行く。行きたい」

純「よしよし。憂はどうする?」

憂「ごめんね、放課後はちょっと用事があるから」

純「そっかぁ」

憂「それにたぶん、部活はやらないと思うし…」

梓「そうなの?」

憂「親が共働きだから、家の事をちょっとやらなきゃだから」

純「家事やってるんだ!」 

憂「そんな大げさなものじゃないよぅ」

悩みなんかなさそうな天使みたいな笑顔を浮かべているけど、苦労してるのかなぁ…


梓「あれ、だけど この学校、部活には必ず入らなきゃいけないんじゃなかったっけ」

憂「そういえばそうだっけ」

憂「ん〜まあ、なんとかしておくよ」


どこかの部活に籍だけ置いて、幽霊部員になるとか、まぁ色々やり方はあるだろう。

それにしても親の都合で部活も出来ないなんて不憫だなぁ、って思ったけど、その家にはその家の事情があるんだ。

私が考えなしにアレコレ言うと逆に憂に不快な想いをさせてしまうかも知れない。

私は慰めるでもなく黙っているしかなかった。


純「よし、じゃあ自販機コーナーにジュースでも飲みに行くか」

純「憂にはオジサンが特別に好きなヤツをおごってあげるよ〜」

憂「え、オジサンって純ちゃんのこと?突然どうしたの?」

純「いいから、いいから〜」

純なりに憂に気をつかっているらしい。

私は良い友達が出来たなって思いながら、自販機コーナーに向かう二人の後を歩きだした。


—放課後ー

放課後になりました。

私と純は家に帰る憂を見送り、部活紹介が行われる講堂へ。

中には、それなりに人が集まっていて、私たちは空いていた後ろの方の席で紹介が始まるのを待っています。

純「へぇ〜、この学校って音楽系の部活が多いんだね〜」

入り口で渡された部活紹介スケジュールが書かれたわら半紙には
定番の合奏部、ブラスバンド部の他にジャズ研、軽音部の存在が示されています。

純「梓はどれに入る気なの?やっぱりブラスバンド?」

梓「え、なんでブラスバンドが優先っぽくなってるの?」

純「ごめん、テキトーに言っただけ」

梓「はぁ…」

梓「まぁブラスバンドは無いよ。だって私、ギター弾きたいもん」

純「あぁ〜アレってラッパとかトランペットとかそういう系がメインだっけ」

梓「気になるのは軽音部かなぁ。ギターが上手い先輩がいたら教えてもらえるかも知れないし…」

純「軽音部か〜。なんか、おっかなさそうなイメージもあるけどね〜」

梓「不良がバンドやってるとか?」

純「そうそう!」

梓「アハハ、そんなの一昔も二昔も前のイメージだって」

純「あ、でも…」

梓「?」

純「この学校の軽音部、去年の学園祭でクスリやって生徒を殴って停学になった人がいるって聞いたよ」

梓「え?」

梓「えええ!?」

純「おっ、いい反応だね!」

梓「え、あっ!冗談だったの?」

純「ん〜、話が嘘か本当かは分からないけど、私がその話を聞いたってのは嘘じゃないよ」

純「その時、他の軽音部のメンバーも3階から落ちて足の骨にヒビが入ったり、服を脱がされエッチなことをされそうになってたり信じられないくらい眉毛が太かったり、そりゃもう大変だったらしいんだから」

梓「眉毛が太いってなんなのさ」

純「知らない」

いい加減だなあ…

大体、クスリをやって暴れたなんて、停学どころか逮捕されて強制退学モンだよ。

純が聞いた噂なんてアテになるものじゃないよね、などと思っていると

ステージ上に赤いオシャレ眼鏡をした女子生徒がマイクをもって現れた。

司会進行役だろうか。

制服のリボンの色が水色だから、あの人2年生かな。

私と一歳しか違わないのに、なんだかお姉さんっぽい雰囲気が出てるなあ。

和「えー皆さま、本日はよくもおめおめと部活紹介にお集まりいただき、まことにこのドブネズミどもが」

ざわざわ…

和「個人的には毎日2時間以上も無意味な部活動に精を出すより、その2時間を苦手科目克服にあてた方が受験ではるかに有利だと思いますが、お前らはそんな事など気にせずムダな部活に励み、遠征先で知り合った他校の男子生徒とベッドで汗を流し夜の運動会に精を出したり精を中に出されたり好きに生きてください」

恵「ちょ、おま、待ちなさい」

和「それでは最初は、バット大好き一本でもニンジン一発でも妊娠中出しホームランこと桜ヶ丘高校ソフトボール部のビッチ、立花姫子さんによる部活紹介です」

姫子「び、ビッチとか何言ってんの!?」

和「事実よ。受け入れなさい」

姫子「事実じゃないし!」

和「でも私の目に狂いがなけれぱ、あなた確実に援助交際してるでしょ?」

姫子「確実に狂ってるよ!?アンタの脳みそは!!」

和「ではソフトゴールデンボール部、訳してやわらかきんたま部のみなさん、ありがとうございました。この愛すべき恥ずべきビッチに盛大な拍手を!」

姫子「これで終わり!?まだなんの紹介も…!!」

パチパチパチパチパチ


純「なんだったんだ今の…」

梓「ほ、本当の部活紹介じゃなくて、会場をあたためるためのコントみたいなものじゃないの?」

まぁコントだったとしても色々、倫理的に問題あると思うけれど。

和「続きまして、ユニフォームからハミ出る横乳がドスケベなバスケベットボール部の連中による部活紹介です」

信代「司会進行変えろ!!」

和「私の進行になにか不手際があったかしら」

信代「新入生のみんな、ウチはそんな変態なバスケ部じゃないからね!気楽に練習のぞきに来なよ!」

和「ではみなさん、彼女の3Pをのぞきに行ってあげてくださいね」

信代「スリーポイントシュートって言えや」

和「スリーインポシュート」

信代「死ね!!」

和「ではドスケ部のひでぶ、中島信代さん、ありがとうございました」

和「続きましては、おっぱいバレー部による部活動紹介です」

エリ「別におっぱい要素はないよ!?」

和「では、ありがとうございました」

エリ「まだ何ひとつ紹介してないよ!?」

和「ごめん、なんか急にトイレに行きたくてもうなんでもいいから早く終わらせたくてたまらないのよ」

恵「真鍋さん真鍋さん、トイレにさっさと行ってきなさい」

和「しかし曽我部先輩、この優秀な私がいなくなったら、部活動紹介はメチャクチャになってしまいませんか?」

恵「とっくにハチャメチャが押し寄せてきているわよ」

和「そうなんだ、じゃあ私、トイレ行くね」

恵「えー、みなさま大変ながらく失礼いたしました。それでは気を取り直して部活動紹介を続けさせていただきます…」

赤い眼鏡のヒトから司会が交替して紹介がスムーズに進行していくようになった。

あんな人がいるなんて、一瞬、私はなんてクレイジーな高校に進学してしまったんだろうと恐怖したけど、おかしかったのはあの赤眼鏡の人だけだったらしい。

よかった〜。

純「いや〜、でもさっきの人って、たぶん生徒会の人でしょ?」

純「生徒会すらあんな感じじゃ、こりゃ軽音部のあぶない噂話も信憑性が出てきたかも!」

梓「クスリやってたとかなんとかって話?いくらなんでもそれは無いって、常識的に考えて」

梓「それより純はやりたそうな部活、見つかった?」

純「ん〜、そうだねぇ…」

純「今のところピンとくるヤツはないかなあ」

梓「そうなんだ」

純「なにか楽器でも弾ければ梓とおんなじ部に入れたんだけどね〜」

梓「ぇ…!!」

友達と一緒に演奏…

いつもはお父さんに練習を見てもらったり、熱気バサラみたいに山に向かって一人でギターをかき鳴らし続けた私にとって
同年代の子と和気あいあいと練習するっていうのは、ちょっとした青春というか、何やら楽しそうなイメージが膨らんだ。

梓「あの、もし本気なら、わ、私で良ければギター教えるよ?」

純「ご、ごめん、テキトーに言ってみただけなんだ」

梓「わぁああん」

まぁ、いいけどさ!

私が入る部活にも、同年代の子の一人や二人はいるよ、きっと。


恵『では次はジャズ研究部による演奏です。』

梓「あ…」

純「ジャズ研だって。梓、ジャズはどうなの?」

梓「どうって言われても、語るほど詳しくもないし、思い入れもないよ…」

ジャジャジャ〜ぷっぷぷ〜♪

純「あれ、ギターだ。梓、梓!ジャズ研にもギターの人がいるんだね!」

忙しい人だなあ。

梓「そりゃいても不思議じゃないけど」

純「ねぇ、梓。なんだったら一緒にジャズ研入ってみない?」

梓「え、一緒に?」

梓「って、またテキトーに言ってる?」

純「いや、今度はマジだよ〜」

純「どうせ何かの部活には入らなきゃいけないし、楽器とか弾けたら格好いいかなって」

純「それにホラ、この学校のジャズ研って結構、部員数も多いから初心者の私がミスしたって目立たないっていうか」

梓「ふぅん…」

気のない返事をしたものの、内心は
スイングガールズのように、友達と一緒にジャズにのめりこむ高校生活も悪くないかな。って思う私もいたりする。

だけど…

このジャズ研の演奏、息ぴったりで調和がとれてるけど、なんとなく無理をしないで周りに合わせあっている気がする。

それはもちろん素晴らしいことだけど、小綺麗にまとまっていて無難というか。自由さがないというか。

芸術は爆発の岡本太郎が言ってたらしい。
調和と協調なんてクソくらえ、って。

万博のシンボル太陽の塔も、万博のテーマが「調和」で気持ち悪いから、あえてアンチテーゼ的な意味合いであんな奇っ怪な、調和と協調のかけらもないデザインにして、

そして太陽の塔だけが、今でも万博の跡地にそびえたっている。

私は普段は調和がクソだなんて思わないけれど、ギターに関してだけは、太陽の塔のような、突き抜けた境地に達したいような。


純「ねぇ、あとで部活見学に行ってみない?」

梓「う、うん…」

そんなジャズ研に物足りなさを感じつつ、私は曖昧に頷いた。

ま、いいか。

別に私は将来、音楽で生計を立てようなんて大それた夢を抱いてるワケじゃないし、誰からも理解されなくても我が道をゆく音楽の求道者でもない。

それに上手くなりたいからって、スパルタな顧問が怒鳴り散らすような、そんな殺伐とした部活は嫌だしね。

プャプァ〜♪

恵『ではジャズ研のみなさん、ありがとうございました』

恵『続きまして、桜ヶ丘高校軽音部、放課後ティータイムの部活紹介を兼ねた演奏です』

梓「軽音部か…」

純が色々好き勝手言ってたけど、実態はどうなんだろう。

純「さあ鬼が出るか蛇が出るか…」

梓「それ、どっちも悪いイメージしか…」


パッ

梓「あ」

真っ暗だったステージが

照明で照らされると

青と白のしましまパンティを

変態仮面みたいに頭に装着した

黒いゴスロリ服を着た変態がいた。


澪「みんなっ、座ってる場合じゃないぞ!!」


ジャカジャカギャギュギャギャギャギュリギュリリルリィィ〜

縞パン女のかけ声とともに激しくベースとギターがかき鳴らされ、ヘアピンをつけたギタリストが客席に向かってザリガニを投げつけた。

1000匹くらい。

唯「ほいほ〜い」

歓客「キャァアア!?」

足元にはウジャウジャとザリガニが這いまわり、私たちは思わず椅子の上に避難する。

律「盛り上がってきたぜ!!ワンツースリーフォーワンツー!!」カンッカンッ

ジャジャジャジャジャッジャッッ♪ジャッジャッ♪ジャッジャッ♪

ジャジャジャジャジャッジャッッ♪ジャッジャッ♪ジャッジャッ♪

澪「君を見てると〜いつもハートドキドキ♪」

澪「揺れる想いはマシュマロみたいにふ〜わふわっ♪」

唯「い〜つもが〜んばるっ♪」澪「いつもがんばる〜」

唯「き〜みの横顔〜♪」和「ゆ〜いの横乳〜♪」

和「ずっと見て〜ても〜気〜づかないよね〜♪」

恵「夢の中なら〜澪たんとのキョオオオWRYYYYYィィィィッッッ縮〜めら〜れる〜のになァァァアアアアッー!!!!!!」

澪「なんでお前らが歌うんだ!?」

唯「ふんす!」

ガッシャアアアァァン!!!

突如ステージに乱入した生徒会二人をクロスボンバーでダブルK.O.した縞パンの変態とザリガニの変態は「KO-んっ!!」とか叫んであっという間にステージから降りて講堂の外まで駆け抜けていった。

そしてキーボードを弾いていた信じられないくらい太い眉毛の人が「イッチバーンッッ!!」とか叫んで
失神した生徒会二人のパンティをひきずりおろし、裏面に無数のパンティが貼りつけられたマントのコレクションに二人のパンティを貼りつけて講堂の外まで駆け抜けていった。

ステージの上にはカチューシャをしたドラマーだけが残っていた。

律「あの、なんか、ごめんね」


律「騒がせたお詫びに、ウンコが出る瞬間、肛門がどんなカタチに変形しているかをお前らに見せつけたいと思いまーす!」

変態ドラマーがステージの真ん中でお尻を観客に向けながらスーッとパンツを降ろした瞬間、ステージの幕もスーッと降りて


ぶぢゅあっ

という不快な音だけが幕の後ろから鳴り響いた。


そして、静寂。

私がハッとして周りを見渡すとみんなイスから落ちてザリガニまみれの床に横たわって失神していた。

私は純を助け起こそうとしたが、純のモップみたいなモジャモジャした髪にザリガニが絡まって窒息死して泡吹いてぶら下がっているのを見て失神した。


ー翌日、教室ー

純「いや〜、昨日はひどい目にあっちゃったね!」

純「まあ、ちょっと面白かったけど」

梓「タフだなぁ」

憂「ひどい目って、なにかあったの?」

梓「ほら、昨日、部活動紹介見に行くって言ってたでしょ?」

純「口の悪い毒舌生徒会とか、あと、軽音部がなんか、メチャクチャだった」

憂「へぇ〜」

純「私なんて髪の毛にザリガニが絡みついて卵を産みつけられそうになったもんね!」

梓「あのザリガニはなんだったのかなぁ」

憂「ザリガニ…」



憂「あのブタ野郎が…」



梓「えっ」

憂「今夜は豚カツ作ろうかな♪」

きっと豚カツを作るって意味で「ブタやろうっと!」って言ったに違いない。


純「でもこれで決まりだね」

梓「なにが?」

純「軽音部はさすがに無いっしょ。入部ならジャズ研じゃない?」

梓「あ…」

梓「むぅ」

純「どうしたの?」

確かに純の言うとおり、入るとしたらジャズ研。

軽音部は怖くて、お近づきになりたくない。

だけど、演奏はすごかったな…

技術的には、あくまで高校生レベル、というか完成度ならジャズ研の方がちょっと上だと思うけど

実際、曲が耳に残っているのは軽音部の方だった。

うーん…

私はどうしたいんだろう…


ー放課後ー

純とジャズ研へ見学に行った。

練習の雰囲気はいい感じで、3年生も2年生も楽しげに曲を演奏していた。

私たち以外にも見学に来てる子達もいて、みんなで仮入部することになった。

梓「それで、純は楽器どうするの?」

純「へへ、実はベースがいいかなぁって思ってるんだ」

梓「へぇ〜。いいと思うけど、理由はあるの?」

純「最初はギターが格好いいと思ったんだけど」

梓「うんうん」

純「でも、それだと梓の後輩になったみたいで面白くないし」

梓「え〜、別にいいじゃん」

純「ベースもギターと一緒で格好いいし、梓とも対等でいられるし、ね!」

梓「…」

私と友達になったからジャズ研に入り、私がギターだから彼女はベースをやる。


梓「なにか悪い気がしてきた」

純「え、なにが?」

梓「純の高校生活、私に合わせてもらってる気がして」

梓「なんかゴメン」

純「なに言ってるんだか、大袈裟だなぁ」

純「それにそういう時は、謝るんじゃなくて『ありがとう』って言うんだよ」

梓「純…」


梓「別に感謝はしてないんだけど」

純「なにぃっ!?」


うそうそ。

彼女と友達になったおかげで、毎日が楽しいよ。

ありがとうね、純。

軽音部のことは気になってたけど、純がここまでしてくれるんだ。

私もジャズ研に心を決めよう。

純「じゃあ今日はそろそろ帰ろっか」

梓「そうだね」

純「あっ、ねぇ、帰り道にサーティワンアイスでも…」

梓「って、ちょっと待った!」

純「どうしたの?」

梓「今日、使った体操服、持って帰るの忘れたからあとで教室にとりに行こうと思ってたんだった…」

純「意外とおっちょこちょいだね」

梓「むぅ…」

純「じゃ、とりに行こっか」

梓「いーよ、また教室まで引き返させるの悪いし、純は先に玄関に行ってて」

純「ん、わかった。じゃ、ついでにトイレ寄っとくから急がないでいいからね」

梓「ありがと、じゃ玄関でね!」


廊下を走ってはいけないので、私は早歩きで教室に向かった。



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最終更新:2015年06月20日 08:36