─20分後─

唯「準備、案外はやく終わったね!」

澪「みんなでやれば早いな」

紬「でも、りっちゃんがまだだわ」

梓「本当にあの人はグズな先輩ですぅ」

がたがたっ

律「お、お前ら…」ハァハァ

澪「おい、もっと急げよ。律だけまだ半分も運び終わってないじゃないか」

律「そりゃお前らはギターやらベース1本運べば終わりだろうがアタシだけドラム一式を1人で運ぶって不公平じゃね?」

唯「仕方ないよ、自分の楽器は自分で運ばなきゃ。それが楽器に対する愛情ってもんだよりっちゃんぽんめん」

律「くそっ、人を麺類みたいに言いやがって!」

りっちゃんが汗だくでビチャッと私にハグしてきた。

唯「わぁっ!?ぐちょぐちょするよ~;o;」

梓「ふへへ」


紬「……舌切りスズメのつづらみたいなものだわ、りっちゃん」

律「んっ?」


紬「欲張って大きな楽器を選ぶからバチがあたったのよ」


律「アタシは別に欲張ってドラマーになったワケじゃねーんだが!?」

りっちゃんが汗だくでグチャッとムギちゃんにハグした。

紬「うひゅおお」

梓「…あの、ところで律先輩はなぜドラマーになったんですか?」

律「おお、それはだな」

梓「それよりこのままだと私の頭をとんかちで犯す罰ゲームを執行するのは律先輩になりそうなんですけど、どうにかなりませんかね」

澪「え?」

紬「あずさちゃんはりっちゃんにとんかちレイプされるの嫌なの?」

梓「え~っとですね」

梓「唯先輩は優しい人だから、なんだかんだいって私の頭を叩くの、嫌だと思うんです」

唯「ん~、まあね。正直、あずにゃんがかわいそうだよね」

梓「うひゅっ。だから、そんな人が悲しい気持ちで私の頭を殴ってくれるって、すごく光栄なことじゃないですか」


………?


紬「なるほど、確かに…」

澪「い、いや、私には分からない感覚だが」

唯「あずにゃん、怖いよ…」

紬「あずさちゃん変態じゃないの?」

あずにゃんはギィイイッて鳴いた。

怖いよぅ…

梓「そして澪先輩は別に優しくはないけど、痛いことするのもされるのも嫌いに違いありません」

澪「まあ、そうだな」

梓「だから、そんな人が全身を嫌悪感に襲われながら私の頭を殴ってくれるって、すごく興奮するじゃないですか」

紬「なるほど、確かに…」

唯「というか澪ちゃんはよく人を殴ってる気がするけど…」

澪「いや、とんかちで殴るなんてさすがに危ないだろ」

梓「それそれ!そういうきじゅかいィッ!?」ビクンッ


なんかあずにゃんが恍惚の表情でびくんびくんっってなりました。


梓「あと、ムギ先輩は」

紬「うんうん」


梓「省略します」


紬「なんでよッ!?」

ゲシッ

梓「ぱォっ!?」

瞬間、ムギちゃんの延髄蹴りが炸裂してあずにゃんは倒れました。

延髄蹴りとは相手の首の後ろあたりにある延髄を跳び蹴りで刈る、あのビンタおじさんアントニオ猪木さんの必殺技でした。

実際は延髄に直撃することはなく肩に当たったりするだけなので安心だね!

梓「っォぱ」

唯「!?」

私が安心していたらあずにゃんが跳ね起きて、油断した私のまたにしゃぶりついてきて


唯「うわぁああっ!?うわぁああああああん」

あまりの気色悪さにガチで泣いてしまいました。


─5分後─

紬「殺すぞ」

梓「ほ、本当にすいませんでした…」

澪「このクソッタレが。大丈夫か、唯?」

唯「う、うぅ…」ヒック

律「アタシのオッパイ揉んでいいから元気出せよ、唯」

唯「ムチャクチャ言わないでよぅ」

紬「りっちゃん、ありもしないものを揉めるワケないわ」

澪「屏風の中の虎が暴れるから捕まえろってくらいのムチャぶりはよせよ貧乳バカ律が」

梓「まったく身の程を知れですぅ」

律「お前が全部、悪いんだろうが!!」

りっちゃんはあずにゃん専用ギター、むったんにトマトケチャップをブビュッビュッってぶっかけた。

梓「あァ!?なにするんですか!?なにするんですか!!」

澪「でもお前のギターはもともと赤いから困らないだろ」

梓「それもそうですね!」

律「ところでギターで思い出したが唯のギター、今日は朝から1回も見かけてないけど、どこにあるんだ?」

唯「もぇ?」

澪「準備完了!みたいな顔してたけど、お前、なんっにも講堂に持ってきてないよな」

唯「え…私、持ってきたよねギー太」

紬「さぁ?」

唯「……」

唯「…あ?」

律「どうした?マヌケ面して」


唯「そういえば今日は学校来るとき、やけに体が軽かった気がしたけど、そっか!ギー太がいなかったからなんだね!」


澪「お、お前、ギター、家に忘れてきたのか!?」

唯「そうでございます」

律「ちょま!?今日のライブどーすんだよ!?」

唯「えへ」

梓「ゆ、唯先輩のバカぁああああっ!!」

唯「!?」

私が天使のようなスマイルでごまかそうとしたら、あずにゃんが飛びかかってきて私のまたにしゃぶりついてきて


唯「うわぁああっ!?うわぁああああああん」

あまりの気色悪さにガチで泣いてしまいました。


─5分後─

紬「まじ殺すぞ」

梓「けっ、命乞いなんかしねーですよ!」

律「お前、悪霊かなんかにとりつかれてんの?」

澪「それより唯、どーするんだ?」

唯「なにが?」

唯「あ、ギターかぁ…」

唯「あと二時間くらいあるし家にギー太とってくるよ」

紬「うん、時間的には間に合いそうね。あと二時間以上あるもの」

唯「家まで一時間もかからないしね」

律「早めに気づいて良かったなぁ」

梓「あ。でももっと簡単に、ジャズ研とかでギター借りてきたらどうですか」

唯「う~ん、ギー太以外のギターってなんかちょっと弾きづらいかも…」

梓「ひどい!私の意見なんか聞けないって言うですか!?」


逆上したあずにゃんが私のまたにまたしゃぶりつこうとしてきたので、しつけスプレーをあずにゃんの鼻面にシュッ!ってかけました。


梓「むォっ!?」


あずにゃんがしつけられました。


~ギー太をとりに帰る平沢唯ちゃん~

唯「らんららん♪らんららん♪ギー太を忘れちゃったよ~♪」

唯「私っていくつになってもダメな子だよ~♪」


唯「はぁ…」



唯「死にたい…」


しっかりものの澪ちゃんやムギちゃんは当然だけど、私より知能が劣っていると油断していたりっちゃんや変態あずにゃんでさえライブ当日に楽器を忘れるなんてドジやらかさないのに…

私はいつになったらシッカリ出来るんでしょうか…


唯「うぅ、かしこくなりたいよ!」

とみ「おやおや唯ちゃんどうしたんだい?」

唯「えっ」


見上げると、そこら辺の家の塀の上を、とみおばあちゃんが歩いていました。

まるでらんま1/2の主人公、早乙女らんまみたいです。

でもあれは漫画だから、人んちの塀の上をスタスタ歩いていても気になりませんでしたが

現実にそんな人がいると、ひきます。


唯「こんにちわ、おばあちゃん!そして、さよなら」

とみ「へぇ、唯ちゃんはかしこくなりたいのかい」

唯「さようなら!」

いいトシして塀の上を歩き渡るような人と知り合いだと思われたくないので、私はおばあちゃんを無視して走り出しました。

とみ「ははは。それはかしこい選択とは言えないねええ!」


おばあちゃんは塀の上を走りながら、私に火の玉を投げつけてきました。


ゴオッ!


唯「ゴオッ!じゃないよ!?おばあちゃんはファミコンとかに出てくる敵キャラなの!?」

とみ「頭の悪いコだねぇ。せめてスーファミって言いな!」


おばあちゃんはシュッと先回りして、私の前に立ちはだかっぱのです。


唯「え、かっぱ?」

とみ「な、なにが?」

唯「たちはだたっかた」

唯「は、だ、か」

唯「た」

唯「…?」

とみ「アメなめるかい?」

唯「いらない」

私はおばあちゃんの好意をかるく拒絶してやりました!


~3分後~

とみ「そうかい、演奏会なのに楽器を忘れたのかい」

唯「今日は間に合いそうだから良かったけど、そのうちなんかまた大事なものとか忘れたりしそうでこわいよぉ」

とみ「ははは。大丈夫だよ」


とみ「この先、唯ちゃんごときが大事なものを手に入れることなどありやしないんだから」


唯「それ、すごい悲惨な生涯に思えるけど大丈夫なの?」


とみ「モノは考えようだよ」

とみ「裕福だからこそ、大事なものを手放したくないがために、時間や地位に縛られ身動きがとれなくなってしまいがちだけどねぇ…」


とみ「でも唯ちゃんみたいに最初から大事なものなど何も持ってなければ、唯ちゃんはいつでもどこでも自由でいられるのさ」


唯「いやいや!私、大事なものあるよ!?」


とみ「おや、ナマイキだね。いったい、それはなんだい?」

唯「あぇ!?え、え~と、いきなり聞かれると、なんだろうなぁ…」


大事なものかぁ。

そんなこと、とくべつ考えたこともなかったけど…


私はとりあえず、自分の部屋にある、一番大切にしてるものはなんじゃらほいほいと考えてみた。

部屋にあるもので、とりあえず一番高いものはギー太だよね。

もうハッキリ覚えてないけどあのコ、20万円以上したし!

ミュージャシンとして愛用ギターが一番大切といったら、なんか私、すごくいい感じだよね私!

唯「おばあちゃん、私ギ…」

とみ「ギ…?」


あ、でもなぁ…


大切とかいいながら、今日は盛大に家に置き去りにしてきたし。

置き去りといえば、人造人間との闘いで天津飯に置き去りにされたチャオズみたいなもんだよね…


チャオズなんて悟空にまったく相手にされてなかったし、人生の一番のハイライトシーンはナッパ相手に自爆して、あのピッコロさんに「あのちびにしては上出来だ」って、褒められたところだったけど結局、ナッパはピンピンしてたし…


そんなチャオズみたいな立ち位置のギー太が私の一番大切なものっていうのは、なんか違うんじゃないかなあ。


それにギー太が自爆したって誰もそんなに困らないしね。

その辺りもチャオズそっくりだもんね。


私は自分の一番大切なもの候補からギー太を除外した。

となると、次にお高いものは……




プレステ2かなぁ。



買った時は4万円くらいしたし…


でも今プレステ2が自爆しても、やっぱりそんなに困らないしプレステ2もチャオズ枠だよねぇ…


そんなものを大切なものと宣言してはたして人として正しいことなのかなあ…

あと、自爆されたら困るものは……



うーん…


…………


……




唯「…あ」



ベッドだ!


机とかクローゼットなんかなくなったって困らないけど、今日、家に帰ってベッドが目の前で自爆されたら私はすごく悲しいよ!

寝れなくなるし!


疲れてるときにごろごろ寝ることほど、気持ちのよいことは他になかなかないもんね。


私はそろそろ面倒になったので、私の一番大切なものをベッドということに決定いたしました。


─10分後─

唯「あいすたべたいぃ」

とみ「10分考えた結果がそれかい」

唯「なにが?」

とみ「唯ちゃんに大切なものがあるかどうかって話はどうなったんだい」

唯「どうなったっけ」

唯「まあ、どうでもいいよ」


唯「あと、アレだよ。頭使い過ぎたから甘いもの欲しくなっちゃったんだもん」

唯「元はといえば、おばあちゃんが変なこと言い出したせいで色々考えて疲れちゃったんたから250円級のアイスをひとつ私にくださいな」

とみ「ははっ、仕方ないねぇ。唯ちゃ」

ペッ!

おばあちゃんはいきなりタンを道に吐き捨てて、空高く舞い上がって消えてゆきました。


私もいつか、あんなおばあちゃんになるのかなあ。



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最終更新:2015年06月20日 08:45