ー土曜日、夕方ー
ピンポーン
憂「はーい、…あれ? 律さん!」
律「おじゃましまーす…唯、いる?」
憂「おねえちゃんですか? すみません、今日は澪さんと遊ぶって出かけちゃいましたけど…」
憂「もしかして律さんとも約束してましたか?」
律「ううん、そういうわけじゃなかったんだけどちょっと近くに用事があってさ、」
律「帰り道ボケーっと歩いてたらアレ? この辺なんか見覚えあるなーって思ったら唯の家の近くで、」
律「たまたま通りかかったんだよ? いやほーんとたまたま、」
律「たまったまなんだけど。すっごい偶然もあるもんだなぁーって、」
律「偶然ってすごいよね。いやほんとたまたま。でもせっかくだしちょっと顔出さないと悪いかなって、本当にね、偶然なんだけど」
憂「へぇー…」
律「いやぁ偶然! ハハ…そっかぁー唯いないのかぁーザンネンダナァー」チラッチラッ
憂「…」
律「…」
憂「…」
律「ご、ごめんね~いきなり来ちゃって…ゆ、唯がいないなら帰ろっかな…」ハハハ
憂「あの…」
律「…え」
憂「おねえちゃん、もうしばらくしたら帰ってくると思いますし、よかったら上がって待ちます?」
律「…いいの? でも悪いよ、唯いないのに」
憂「遠慮しないでください。おねえちゃんの友達ならわたしにとっても大切なお客様ですから!」
律「ありがと…それじゃ遠慮なく…(よぉし!)」ヨッシャー!
憂「…なにか言いました?」
律「ナ、ナンデモナイヨ!(声に出てた…)」
ーリビングー
憂「座ってゆっくりしててください、今からお茶とお菓子用意しますね」
律「そうじゃ遠慮なく…そうだ、これよかったら」つケーキ
憂「あ! これ駅前の」
律「そ、新しくできたとこ」
憂「知ってます。わたしも行ってみたいなーって思ってて」
律「そうなんだー、こないだ澪と行ってきたんだけどすっごくおいしかったんだよね。おすすめだよん」
憂「すみません、気を遣わせちゃって」
律「いいのいいの。遊びに来るのに手土産なし、ってのなんだろ?」
憂「あれ…でもたまたま通りかかったんじゃ…?」
律「…」
憂「…」
律「…」
憂「…」
律「…えっと」
律「アレだよ」
憂「アレ?」
律「そうアレ」
憂「なんですか?」
律「……アレだ。いつ誰の家にお邪魔しても失礼じゃないように常備してるんだよね…」
憂「へぇー…」
律(苦しかったか…)
憂「律さんって準備がいいんですね!」ニッコリ
律「それほどでもないよ…ハハ(満面の笑顔ゲット……)」
ー30分経過ー
憂「おねえちゃん、帰ってこないなー。すみません、6時には帰って来るって言ってたんですけど…」
律「いいっていいって! わたしなら全然大丈夫だからさ! よかったらゲームでもする? パワプロ持ってきたんだけど」
憂「律さん、ゲームも持ち歩いてるんですか?」
律「ま、まぁねー…!」
ー1時間経過ー
律(後半一安打も打てなかった…)
律「憂ちゃん、このゲームやったことある…?」
憂「はい。梓ちゃんの家に遊びに行った時に一回だけ」
律(一回だけかよー!)
律「すげーなー、憂ちゃんってなんでもできちゃうんだな」
憂「そんなことないですよー、たまたまです。たまたま」
律(けっこうやりこんでるつもりだったんだけど…)
憂「普段そんなにゲームしないんで楽しかったです」
律「ハハ…楽しんでもらえたなら何よりだね…(ボロ負けでも)」
ブィーンブィーン
憂「おねえちゃんだ」
憂「あと30分くらいで帰って来るみたいです。おまたせしちゃってすみません」
律「いいよいいよ全然! いきなり来たわたしが悪いんだし」
憂「でも退屈させちゃって…」
律「全然退屈してないって! お茶もおいしかったし、ゲーム楽しかったし、憂ちゃんと二人で遊んで退屈なんてするはずないよ!」
律「それにわたしの方こそ、無理に付き合わせちゃったみたいで…その…」
憂「そんなことないですよ、わたしも律さんと二人で遊べて楽しいです」
律「ほ、ほんと……?」
憂「ほんとですよ。嘘なんてつきません」ニコ
律(もしかして結構いい雰囲気なんじゃね……?)
律(……これはチャンス…チャンスなのか……?)
律(澪がうまいこと唯を引き止めてくれてるっぽいし)
律(二人きりでいられる数少ない機会……)
律(今だ、今しかない……今こそッ!)
律「憂ちゃん!」
憂「は、はい…(どうしたんだろ急に大声出して)」
律「実は憂ちゃんに伝えたいことがあるんだ」
憂「はぁ…」
律「今日ここに来たのは偶然じゃないんだ」
憂(なんとなくわかってたけど)
律「あ、会いたくてさ…」
憂(…おねえちゃんに、だよね??)
律「えっとあの…ういちゃん……、……す、……す、……す、……す、」
ガチャ
唯「ただいまー」
律「木田!」
唯「なに言ってんの? わたし平沢だけど」バカナノ?
律(かえってくんのはええよ……!)ムスッ
唯「りっちゃん変なかおしてるー」アハハー
憂「おかえりおねえちゃん。律さん、ずっと待ってたんだよ」
唯「えー、それならメールしてくれたらよかったのにー」
律「いやーわるいわるい」
唯「てゆーか、りっちゃんにも電話してたのに、繋がんないんだもんなー。澪ちゃんと一緒に駅前のケーキ屋さん行ってたんだよ? あの新しくできたとこ」
律「あ、ああ…朝からずっと圏外でさ。それで唯んち来たんだ」
唯「ウチじゃなくてケータイショップいきなよ」
律「じゃ、わたし、そろそろ帰るわ」
憂「いいんですか? せっかくおねえちゃん帰ってきたのに」
律「ああ、だいぶ長居しちゃったし。それにもうすぐ晩ご飯だろ? 邪魔しちゃわるいよ」
唯「えーどうせなら晩ご飯食べていきなよー」
憂「そうですよ。大したおもてなしもできませんけど、よかったら食べてってください」
唯「憂の手料理おいしいよー」
憂「おねえちゃんに聞きましたけど、律さんってお料理上手なんですよね? よかったら教えてほしいです」
律「………!」
唯「りっちゃん、お料理だけは得意だもんねー」
律「そんなわたしなんて憂ちゃんに比べたら…(ん、まてよ)」
律(憂ちゃんの手料理そして…)
律(二人ではじめての共同作業…)
律「じゃあ遠慮なく!」ニマー
唯「りっちゃん、顔キモい」
ー夕食後ー
唯「ごちそうさまー」ゲップ
律「ごちそうさま!」
憂「ごちそうさまでした。律さんのハンバーグ感激しました!」
唯(そーいえば前にりっちゃんちで食べたのもハンバーグだったなぁ)
律「そんな大したもんじゃないって! 憂ちゃんのゴーヤーチャンプルーこそ絶品だったよ!」
唯(ゴーヤーチャンプルーにハンバーグ、って絶対おかしいと思うんだけど)
憂「誰かと一緒にお料理するのって楽しいですね、今度はハンバーグ以外も教えてください!」
唯(もしかしてりっちゃん)
律「あ、ああもちろん…」
唯(ハンバーグ以外作れない…?)
律(ハンバーグ以外も作れるようになろう)ギュ
唯「それじゃりっちゃん、お風呂沸いてるしお先にど~ぞ~」
律「いや入んねーし。もう帰るし」
唯「えぇ~、せっかくだから泊まっていきなよ~そんで夜はおふとんの中で恋バナしよ~よ~」
律「しねーし。第一着替えももってきてないし」
唯「わたしの貸すよ!」
律「えー、あのヘンなロゴ入ってるやつか…」
唯「なに? なにか不満でも?」
憂「今日は両親もいないですから気兼ねも要りませんし、明日は学校も休みですし。
おねえちゃんもこう言ってますから遠慮なく泊まっていってください」
律「あ、うん…」
唯「りっちゃん着替えどれがいい? “ラブハント”? それとも“いなかの米”??」
律「もっと普通のデザインのはないのかよ……」
憂「よかったらわたしの着替え貸しましょうか?」
律「ありがとう!(ヤッタァァァァァァ!!!!)」ニマ~
唯「りっちゃん、どんどん笑顔キモくなってくね」
ー入浴後ー
律「いいお湯でしたー。お先いただいちゃってごめんね」ホカホカ
憂「いえいえ、お客様ですから。パジャマのサイズ、大丈夫でした?」
律「うん、ぴったり。(胸のあたりが若干スカスカだけど…若干……若干…ということにしておこう)」
唯「じゃあ次! わたしが入ります!」フンス!
憂「はーい」
唯「りっちゃんの残り湯残り湯~」フンフン♪
律「オイ、やめろ」
唯「りっちゃんの残り湯~ばっちぃばっちぃ残り湯~」フンフ~ン♪
律「ちゃんと身体洗ってから湯船入ったつーの!!」バッチクナイヤイ
ー唯、入浴中ー
チャポーン
キミニト~キメキコイカ~モネアワアワ~♪
律(唯…ちょっと歌声大きすぎないか…)
憂「おねえちゃん、律さんが泊まりに来てくれたからテンション上がっちゃってるんですよ」
律「あ、ああそう…」ハハ…
オニクオ~ヤサイヨクバ~リコイゴコロ~♪
律(ん。よく考えたら今ふたりっきりじゃん)
ダイスキコ~トコ~トニコンダカァレ~♪
律(チャンスだ…今こそ再びチャンス!)
スパイスフタサジケイ~ケンシチャ~エ♪
律(今こそ! 想いを伝えるとき!)
律「憂ちゃん!」
憂「は、はい…(どうしたんだろまた急に大声出して)」
律「さっき言えなかったことなんだけど…」
律「わ、わたし……う、ういちゃんの…こと……が…」
律(……ん、待てよ)
ダケドゲ~ンカイカラス~ギテモォダァメェ~♪
律(もしここで告白してOKならなんの問題もない)
律(でももしフられた場合どうする…)
律(ご飯も食べて風呂にも入ってパジャマまで借りた…)
律(失礼しましたじゃあ帰ります…ってわけにいかないぞ)
律(ってことはフった相手とフられた相手が一晩共に過ごすことになるわけで…)
律(き、き、き、気まずい~、めっっっっちゃくちゃ気まずい~~~!!!!)
ピーリーリー♪
律(いやしかしこれがチャンスなのは間違いない)
ピーリーリー♪
律(告白なんて勢いがなきゃ簡単にできるもんじゃない。特にわたしの場合)
ピーリーリー♪
律(想いを伝えられず人知れず失恋するか…)
律(想いを伝えた結果、玉砕するか…)
Oh…No No No No No No…♪
律(……)
カァレ~チョッピリ♪
律(よし!)
ライスタァプリィ!
律(決めた!)
憂「………………?」
律「スキだ!」
唯「わかるわかるわたしもスキだよ、お風呂あがりのアイス。りっちゃんの分はないけど」ホカホカ
憂「おねえちゃん、独り占めはメッ! だよ!」
唯「ちぇー、じゃありっちゃんにはナポリタン味のあげるね」ハイ
律「」
ー月曜日、学校。二年教室ー
憂「ということがあったんだー」
梓「へぇー」
純「あやしい…」ボソ
梓「…は?」
純「だってあやしくない? 急に憂の家に来るなんて」
梓「んー、どうだろ?」
憂「そ、そうかな…」
純「たぶんだけど…律センパイ、憂のおねえちゃんのこと好きなんじゃない?」
梓「えぇー…そーかなー?」
憂「うぅーん…」
純「ねぇ梓、部室だとふたりってどんなかんじなの?」
梓「いっつも練習しないでじゃれてばっかり」
純「ほら、仲良いんじゃん!」
梓「でも律センパイといえば澪センパイじゃない?」
純「……そっかぁ…たしかにむしろそっちか」
梓「普通に考えたらそうだよね」
憂「でも恋に堕ちるのに付き合いの長さは関係なくない? ほら、一目惚れとか」
純「一目惚れねぇ…もしかして憂、誰かに一目惚れした?」
憂「い、一般論だよ!」
梓「それより憂はいいの?」
憂「え?」
梓「ほら、大好きおねえちゃん取られちゃうわけでしょ?」
憂「うーん」
梓「しかも律センパイだよ? 澪センパイみたいにかっこいい人ならともかく」
憂「んー、好きだから大丈夫かな」
純「好きって、律センパイのことが?」
憂「うん」
梓「正気?」
憂「正気だよ」
梓「えぇー…どこが??」
純(梓ってぜんっっぜん律センパイのこと尊敬してないな…)
憂「ほら、律さんって年上なのに気取らないから一緒にいても緊張しないし、」
憂「それでいてこっちが楽しくなるように自然に気遣いしてくれて、」
憂「お料理教えてくれたりお姉ちゃんっぽいとこもあるし…」
憂「こないだ遊びに来てくれたときもね、この人と一緒だと楽しいなーって思ったの」
憂「なにより明るくて笑顔が素敵だし、ドラム叩いてるときはかっこいいし」
純「へぇー、ずいぶんよく見てるんだね」
憂「お、おねえちゃんの友だちだから!」
梓「たしかに律センパイ、ちゃらんぽらんだけどたまにちゃんとしてるし意外と乙女なのもかわいいし。一緒にいて楽しい、っていうのはわたしも同感」
純(なーんだ、梓も尊敬してるとこはしてるじゃん)
梓「でもあの人、バカだよ」
純(前言撤回)
憂「梓ちゃんは厳しいなあ…でもね。わたし、律さんのこと好きだから、」
憂「おねえちゃんと律さん、ふたりが両思いならわたしもうれしいな、って」
梓「そっか」
純「…」
純「よし」
梓「…どうしたの、純」
純「わたし達でふたりをくっつけようよ!」
梓「……え」
純「だって唯センパイと律センパイ、両思いなんでしょ? だったら上手くいったほうがいいに決まってるじゃん!」
純「それにふたりがくっつけば憂だってうれしいんでしょ!」
憂「う、うん」
純「憂がうれしいならわたしだってうれしい! だから協力するの! わかった梓?!」
梓「…………うん、」
ー放課後、体育館裏ー
紬「どうしたの梓ちゃん、こんな人気のないところに呼び出すなんて」ハァハァ
梓「とりあえずムギセンパイが考えてるようなことはありえませんから呼吸を落ち着けてください。
実は…」カクカクシカジカ
紬「ふむふむ…唯ちゃんとりっちゃんがねぇ…」
梓「どう思います?」
紬「唯ちゃんはなにかとりっちゃんりっちゃん言ってるものね。十分にあり得る話ね…」
梓「律センパイはどうです?」
紬「りっちゃん? 憂ちゃんの話と普段の様子からすればない話じゃないと思うわ」
梓「わたしはてっきり律センパイは澪センパイと…」
紬「それは100%ないから大丈夫」ニッコリ
梓「え、あ、そうですか…(なんで断言できるんだろ?)」
紬「わたしも色々探りを入れてみるわ!」フンス!
紬「ところで梓ちゃんはいいの?」
梓「はい?」
紬「唯ちゃんのこと。りっちゃんとくっついちゃっても」
梓「わ、わたしは別に……」
紬「……ほんとに?」
梓「……ほんとうです!」
紬「……そっか」
最終更新:2016年02月28日 21:30