律「ふっふっふっ……」
ビバ長期休暇!
これぞまさに学生の特権であり、醍醐味だよな~。午前中からずっとゲーセンに居座ることができる!
ま、部活ももちろん大事だけど、たまには一人でいる時間を持つってのも大切だ。
日常のことは一切忘れてゲームに没頭する! 家とも部室とも違う有意義な時間の過ごし方だ。
──そして今日、私の新たな伝説が誕生する! 『スぺ4』頂上決戦の開幕だ!!!
『これより最強の格闘ゲーマー! 「スペース・ストリーム・ファイター4」ナンバーワン決定戦を行います!!!!』
司会が開催を宣言すると、瞬時に店内が興奮の渦に包まれた。
この熱気、高揚感……これだから止められないっ……!
全国でも屈指の激戦区だった(らしい)この店を制した私だ。どんな猛者が相手でも打ち倒してやる!
『それでは決闘士たちを紹介します!!!!! まずはこの店の王者ッ! RTS!!!!!!』
アイマスクを装着した私は舞台へと上がった。
ああ、バンドの時とはまた違った視線を感じる。「スぺ4」が好きでたまらない熱狂的なファンの眼……
だけど私が一番強いんだ! 今日はそのことを徹底的にわからせてやるぜ!
『……~!!!!! ……~~~~っ!!!!!!!』
\\\ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ///
ど派手な演出ともに司会が参加者の紹介を続けている。どこかで聞いたことのあるようなプレイヤーばかり
……まあ、全員私の敵じゃないけどな!
『そして、最後の決闘士!!! 突如として現れた超新星!!!! 新たな旋風を巻き起こすのか!!!! AZS!!!!!』
白煙の中から姿を現したのは小柄な女の子だった。
長いツインテールを揺らせながら大胆なポーズを決め、こう叫んだ!
「私こそ、『スぺ4』頂点に立つ覇者! AZSですっ!!!!」ビシィッ!
……うん、梓だ。どこからどう見ても梓だ。今日は参加者同士が個人情報保護のためアイマスクしているけど私にはわかる……
絶っっっ対に梓だ! まずい!
梓「ふっふっふっ!」
──いや、待てよ。何がまずいんだ?
ゲーセンに行ってることを隠してたわけじゃない。みんなとも部活終わった後にたまに行くし。
秘密にしているのは家でグータラしていることだけだ。梓に私が(お前もだぞ梓)ゲーマーだったってバレても……
梓「あなたの噂は聞いてますよ、RTSさん。今日は最高に熱い闘いをしましょう……!」スッ
マ、マジか! 梓のやつ、私だってことに気づいてない!?
あ、そうか。一人でゲーセンに来るときはいつも帽子かぶってるし、カチューシャも外してるからか……!
梓め、先輩である私に気づかないだなんて……絶対に負けないかんな!
律「よ、よろしく」スッ
梓「ふふふ……」
クソ、余裕見せてるな。お前普段とキャラ違い過ぎだろっ!
ともかく、私の方は声色も少しだけ変えたからバレてないな。
……なんか結局、隠し通す感じになっちゃったけどやるしかない!
<準決勝1組目>
ウアッ… ウァッ… ウァッ…
YOU WIN!
律「うっし!」
『勝者RTS!!!!! 準決勝まで他の決闘士を寄せ付けない圧勝!!!!! 決勝戦が楽しみです!!!!!!』
律「ふう……」
ここまでは順調だ。調子も良い。
問題は……
梓「おみごとです、RTSさん」
律「どうも」
スッ……
梓「私も負けませんよ……!」ゴゴゴゴゴ
梓がかなり手強そうだ。今から始まる試合も肩慣らしぐらいにしか考えてないだろう。
まさかここまでやるとは。何か弱点はないのか……?
<準決勝2組目>
梓「甘いですねっ! ここで“カウンター・ショックウェーブ”!!!」
『おおっと!!!!! AZSが反撃に転じたっ!!!!??』
……ダメだ、集中できない。そもそも数試合見ただけじゃ断定できないか。ぶっつけ本番ガチ勝負だなこれは。
つーか実況担当の司会者はともかく、お前が技名叫ぶのか……。軽音部で一切そんな色見せてないのに。
梓にもみんなに話してない秘密があったのか。
\ワアアアアアア!/
律「!!」
『勝者、AZS!!! 洗練されたテクニックの中には息を潜めた凶暴性が!!!! さあ、決勝戦はRTS対AZSとなりました!!!!!!』
梓「ふふふ……ようやくあったまってきました……!」
やっぱりまだ本気じゃなかったか。
私もフルで闘っていなかったとはいえ、勝てるかどうかわからなくなってきた。
だけど、ここで負ければゲーマーの名が泣くぜ! 燃えてきたっ!
<決勝>
『本日ご来店していただいた全国の「スぺ4」ファンのみなさま、お待たせしました!!! ついに決勝戦です!!!!!』
梓「勝負です、RTSさん!」
律「ああ、かかってきな……AZS!」
先輩として……いや、対等なゲーマーとして梓に負けるわけにはいかないっ!
どっちが真のチャンピオンか証明するんだ! 勝って魅せる!
『それでは試合……開始~っ!!!!!』
【RTS対AZS】
梓「……」スッ
律「おい、こないのか?」
梓「お先にどうぞ」
余裕な態度は試合中も変わらず、か。
律「ならこっちからいくぜっ」
『RTS、攻める!! 猛烈コンボだ!!!』
キィン キィンキィン
律「……!」
『しかし、AZSはすべてディフェンス!!! 序盤からなんてハイレベルなテクニックなんだーっ!!?』
梓「まっすぐ突っ込んでくる……とても単純ですが並みのプレイヤーと比べ遥かに強力……」
律「このっ、このっ!」
梓「さすがに数多いコンボを繰り出しますね。ですが私には無意味ですよ!」
律「!!」
梓「“カウンター・ショックウェーブ”!!!」
律「うぉっ!?」
『AZSのカウンター技が発動!!! それに対し、RTSはギリギリでジャンプで回避!!!!』
梓「ふふふ……飛びましたね!」
律「なんのっ!」バッ
空中対策も万全だ! 全部防ぎ切ってやる!
梓「(……ですが)“シャドウホール”……!」
ズズズズズズ……バシュッ!
『なななななんと!!!! 一度闇の中に姿を消したAZS!!!!! 真下から攻撃をしかけた!!!!』
梓「前後はともかく、『真下』の攻撃は防げない!」
律「しまった!」
ドゥン!
梓「まだまだ攻撃は続きますよーっ!」
ドカッ バキィッ
『怯んでしまったRTS!!!! AZSは追撃の手を止めないぞーっ!!!!』
厄介だ……カウンター型のプレイヤーだったのか……!
しかも、ディフェンスが完璧……オフェンス型の私にとっては最悪の天敵だ。
無理に突っ込んでもまた強力なカウンターが待っている。そんなの、ゲーマーでなくてもわかる当然のこと。
律「……!」
……多分、こっちもディフェンスに徹すればHPが0になることはない。わたしにもディフェンスの心得はある。
でもそれはタイムオーバーだし、残HPで劣っている私の負けになる。逃げ回っても負け……
そんなのはイヤだ。それに私らしくない。
キィン!
律「勝つには……」ボソッ
梓「ふふふっ!」
律「私が勝つには……!」
梓「さっきからどうしたんですか、攻めないと私には勝てませんよ!」
律「“もっと”無理をすることだっ!!!」
梓「!!」
『おおっ!? 防戦を強いられていたRTS!!! 先程仕掛けたコンボよりもさらに激しいコンボだ!!!!」
梓「~っ! “カウンター・ショックウェーブ”……からの“シャドウホール”!!」
『またもや真下からの攻撃っ!!!! RTSは一体どうするのでしょうか!!!!!』
律「ここだっ! ゲージ技“千脚・大車輪”!!!」
梓「あっ!」
ドカカカカッ!!!!
『RTS!!! 防御ではなく全方向攻撃で跳ね返した!!!!』
律「からの~“シュナイダー・キック”!」
梓「ぐっ……まだですっ!」
律「……」スッ
梓「“星正拳”!!!」
バチッ!
律「引っかかったな?」
梓「これは……カウンター技……!」
律「とどめだっ! “波動・鬼咆哮”」
キイイイイイイイイイィィンッ!!!!! ギャンッ! ボウウウウウウウウウウン……
ヌアッ… ヌァッ… ヌァッ…
YOU LOSE!
梓「そ、そんな……」
『試合終了!! 勝者はRTS!!! みなさま、今回の対決は滅多に見ることのできない大激戦であったことは間違いありません!!!!』
梓「……」
律「まさか私がカウンター技出すだなんて思いもしなかっただろ?」
梓「ええ、決勝までの対戦を見ていても攻撃特化型なのかなと……」
律「ま、攻撃重視が私のスタイルなのは当たってるけどな」
梓「私はカウンター型のスタイルでディフェンスにも絶対の自信がありました。それでも、防御を突破された上にカウンター技を受けるだなんて……」
律「ここぞという時には自分のスタイルを変える。そういう柔軟さを持ってこそ『真のゲーマー』だ」
梓「おみそれしました……私の負けです!」
律「いや、私もギリギリだったよ。いい闘いだった」
梓「今日は本当にありがとうございました、RTSさん!」グッ
律「こちらこそありがとう。また闘おう、AZS!」グッ
こうして熱い闘いは私の優勝で終わった。
今日の闘いは私のゲーマー人生の1ページに刻まれる出来事に違いない。
梓……いや、AZS! お前は私にとって最高のライバルだ!
数日後 ゲーセン
律「ふっふ~♪ やっぱりメダルゲームも案外ハマる……童心に返ってしまうなあ」
ジャラジャラ
律「(さすがに子ども向けのゲームだと高校生の私は恥ずかしいから干物姉姿~♪)」リッツーン
ドンッ!
律「あっ」
ジャラララ
律「あーっ! 私のメダルが!」
「あああ、すぐに拾わないと……!」
律「あー……」
「ごめんなさい、私がよそ見していたせいで……」
律「……はぇ?」
梓「……」アセアセ
律「(AZSゥー! じゃなかった、梓ぁーっ! どうしてお前がメダルコーナーに!?)」
梓「何枚か機械の下に入っちゃった……」
律「(ってか、このゲーセンの服装・格好だと、
田井中律とはバレなくてもRTSだと気づかれるんじゃあ……!!!)」
梓「ごめんね……って、ん?」
律「(あわわわわ)」カタカタ
梓「……」ジーッ
律「(あがーん!!)」
梓「か……」プルプル
律「……か?」
梓「かわいい……!」
律「え」
梓「(何このかわいい生き物……! かわいすぎる!)」ドキドキ
律「あ、あ、あ……(バレてない……? とにかくこれ以上一緒にいるのはまずいから……!)逃げろーっ!」バッ
梓「あっ、待って! メダル忘れてるよ~っ!」
ダダダダダダッ
梓「行っちゃった……(それにしても、かわいい子だったなあ。メダル返さないといけないし、また会えるかな……?)」
部室
律「……」
梓「♪」
唯「今日のあずにゃん、なんだかご機嫌だね」
紬「何かいいことでもあったの?」
梓「えっ、いや別にそういうわけじゃあ……」
唯「顔がニヤけてるよ?」
梓「はっ!」
唯「……嘘だけどね。引っかかった~♪」
梓「唯先輩~!」
紬「まあまあまあ」
澪「律、何かあったのか?」
律「ん? ああ、別に何も……」
澪「そっか」
律「(どうやら梓にはバレてないみたいだな……)」
梓「♪」
とある休日
タッタッタッ
律「(まさか新しいゲーセンができていたなんて! これは行くしかないだろ!)」
ウィーン
律「おお……目に映るすべてが新しい……!」
ジャラララ \確変!/ \もう一丁プレイできるドン/
律「さて、何から攻めようか……ん?(あれはまさか……)」
紬「ここに100円玉を入れるんですね? ありがとうございます」
律「(ムギだーっ! まさかムギも……ってさすがにそれはないか。この前みんなで行った時に『ゲーセンデビュー』って言ってたし)」
紬「えいっ!」チャリン
ジャララ
紬「出てきた~!」
律「おーい、ム……(あ、危ない……カチューシャ着けてなかった! 帽子も脱いどこっと)」スッ
紬「♪」
律「よ、ムギ」
紬「あ、りっちゃん!」
律「こんなとこで会うなんて珍しいな、どうしたんだ?」
紬「えへへ~。ここって最近できたばっかりなんでしょう」
律「みたいだな」
紬「だから先に一人で遊びに来て、今度みんなで来た時にはわたしがエスコートできるようにしたいなって!」
律「(優しすぎる……私も普段からこういう見えない優しさも受けてるのかな……)」
紬「りっちゃん?」
律「ああ、ごめん。ちょっと感傷に浸ってしまって……」
紬「? それでね、せっかくだから一緒に遊ばない?」
律「もっちろん! 何かしたいゲームある?」
紬「今メダルに両替したところだからメダルゲームで!」
律「OK! 私も両替するよ。今日は遊ぶぞ~!」
紬「うん!」
最終更新:2016年03月03日 15:38