・プロローグ


 私の生き甲斐はここにある。私の大切な人たちとの繋がりがここにある。

 どちらかといえば消極的な性格だ、て言われる私だけど。一緒に過ごしていれば胸のうちが自然とぽかぽかと温まる、そんな人たちがいる。

 さっきまで繋いでいた手に残る人肌の感触はとても心地良い。そっと手を握り締めたり緩めたりしていると、今でも繋がっているような錯覚を感じる。

 「…………」

 風が清々しく吹き通って、地面に散り敷かれた桜色をふわりと巻き上げて行方をくらます。その中の一枚が緩めていた手の平にちょこんと収まる。その色のかわいらしさに、無意識に笑みがこぼれた。少し眺めてから花びらを包み込むように手を握る。

 『バイバイ、お嬢様ー!』

 『また明日ねー!』

 公園の入り口、もしかしたらあっちは出口かもしれないけど、そこに佇む自転車侵入禁止のパイプ越しに、3人の女の子が自転車に跨って手を振っている。みんな、私の大好きな、元気な顔をしてる。

 ありがとう。女の子たちの元気の力に応えてあげなきゃ。

 「だから!メイドだってばー!バイバーイ!」

 そう応えると女の子たちはクスクスと笑って、颯爽と自転車を漕いで行った。「もう…」て呟いて小さく頬を膨らませてしまった。

 女の子たちの姿が見えなくなって、公園には私しか居なくなってた。習慣的に犬の散歩に来るお爺さんも、お昼に井戸端会議をしてたママさんたちも、居なかった。もうそろそろ夕日がオレンジの光で照らしてくれる時刻だもんね。

 私も、家の仕事に戻らないと。

 「…………」

 不意に足の間を風が抜けていく。温かい風を太ももに受けて、思わずスカートの裾を掴んで捲りあがらないように堪える。でもすぐに気づく。今、公園には私しかいないから隠す必要が無いってこと。

女の子たちにいたずらで脱がされかける心配も無い。それに女の子たちと一緒に遊んでたら、風に吹かれて困るのは私だけでもない。

 「良い季節になったね。ふふっ」

 見上げると、桜の樹から花びらが風に乗って散っていっている。淡いピンクの茂みに紛れて、もう、緑の芽が生え始めてる。早いなあ。もう少しでいいから、混じり気のない桜色を楽しんでいたかったな。

 季節は春。優しい色に包まれるこの時期を、私は好き。一人でぼうっと眺めるのは好き。近所の女の子たちや、同じ中学の女の子と桜の樹の下で遊ぶのも好き。桜色の絨毯で跳びはねて、白い肌にうっすら赤みを帯びた女の子がかわいい。

 「…………はぁ」

 けれど、いよいよ春を一概に喜んでもいられなくなってしまったな…。

 時間はあっという間に過ぎてしまう。大切な人たちといつまでも過ごしていたかったあの時間は。

 そして明日迎える、入学式。人生のイベントは時の流れを嫌でも思い知らさせてくる。中学の友達も顔を合わせに来る。少し成長した姿を見せて、少し大人びた、たわいない話をするんだろうな。

 ふと、掌にあの感触が無いことに気づく。やっぱり。さっきの花びらはいつの間にか地面に落ちて、桜の絨毯に紛れ込んでるみたい。さっきの春風に抵抗してスカートに気を取られた拍子に放しちゃったのかな。あの一枚に執着してるわけじゃないし、花びらなら地面にこれでもかっていうほど落ちてるから、欲しければ拾えばいいけど。

 でも、ちょっとした偶然で私の元に来たものだから、そのことだけはちょっとだけさみしい気もする。

 もっと言えば、地面に落ちて汚れる前に手に取れたものだから。

 桜の樹の下から桜の木の枝へ私の手の先を伸ばす。ピンと背をまっすぐにして、つま先で立って、きれいな桜色の花びらに二本の指を届かせる。

 けれどフッ、とその気にならなくなって手足の緊張を解く。新鮮な花びらが欲しくなったけど、まだ散らない花をもぎとるのは気が引けた。桜の下でジッと待っていれば、そのうち一枚くらい頂けるだろうね。けど今日はもう帰らないと。

 自由時間はこれでおしまい。ここからはメイドモード。本日分のお仕事に取り掛かってご奉仕しないと。お姉ちゃんはもう家に居ないけど、お姉ちゃんに仕えるつもりでキビキビと動こう。

 「……あっ、お姉ちゃんのお仕事……」

 軽音部に置いてあるっていう食器棚を、入学式がある明日、片付けないと。高校生になる私へ言い付けられて最初の仕事だもん、頑張ろう。

・教室

教師「~~~~~~~~~~~~~~~~~」

教師「~~~~~~!~~~~~~~~~~~!」

教師「~~~~……~~~~~~~~~……」

菫「…………」

菫(新しい担任の先生の挨拶…長いな。眠くなってきたよ…)

菫(入学式が終わって、あとはお姉ちゃんに託されたお仕事を済ませるだけなのに。ふぁ…)

菫(友ちゃんはどうしてるかな……あ、やっぱり眠そう)

菫(…………はぁ)

菫(…友ちゃん、ちょっぴり大人っぽくなった。春休みの間にイメチェンしたみたい。ネイルに色鮮やかなマニキュアを塗って、若干茶髪に染めちゃって……はぁ。友ちゃんの桜貝みたいな爪と黒い髪に憧れてたんだけどな)

菫(変わってない部分もあったけど。入学式前に再会したときは相変わらず、小さな身長でひょこひょこ動いて友達に挨拶し回ってた。そこがかわいい♪)

菫(一番かわいいところは、なにかと私に対して膨れ顔を見せるところだったりするの。子供っぽいところをからかわれがちで大人に見られたくて、元から背伸びしたがる子だった。だから日本人離れして身長の高い私が羨ましかったんだと思う)

菫(良かったね。友ちゃんはもう大人だよ、私から見れば)

菫(……ちょっとさびしいけどね)

菫「!」

菫(友ちゃんが手を振ってくれてる。こういうとこは高校生になっても変わらないね)ノシ







菫(やっと先生の挨拶が終わったよー……)

菫(うっ……配布物がたくさんある。早くお仕事させてください~)

教師「~~~~~、~、~、~、~、、~~~、~、~、~、~、~、~~~、~――」

菫(あっ、この先生、一人分をまとめて配ってくれる先生だ。助かった。一枚、一枚、配られると時間かかるからね…ほんと)

菫(ということは、きっと配り方も……)

菫(……良かったぁ。今度の先生は指を舐めないで配る人だ。安心して配布物に触れられる)

プリント「ピラッ」

菫(ん~と、このプリントはご主人様に、これはお父さんに)

菫(これは私が、これも、これも、)

菫(ん、部活紹介のプリント……)

菫(私には関係ないや。おうちのお仕事で手一杯だもんね)

菫(よし、配布物の整理終わり)

菫(他のみんなは整理に時間掛かってるね。早くお仕事したいんだけどなあ)

菫(暇だから友ちゃんを眺めてようかな)

菫(……うわあ……配布物で紙飛行機作ってるよ)

菫(……えっ、ちょっ、こっちに飛ばさないでぇ!)

紙飛行機「コツッ」

菫(んもう……先生に怒られても知らないよー)

菫(こっそり遊んでるつもりでも教壇から見たら、他の子と違うことしてると目立つんだから……ん?)

直「………………」ヌヌヌ…

菫(あの子、部活の紹介のプリントを食い入るように見てる…?)

直「………………」ヌオオ…

菫(高校生活を部活に捧げたい子なのかな?)

直「   」ヌンッ!

菫(ドヤ顔…なんで?)

菫(あまり見ていたら気付かれちゃうかもしれないし、これ以上見ないでおこう)

・放課後、部室

菫(やっと先生の話が終わった……。友ちゃんがいっしょに帰ろうって誘ってくれたけど、今日はお仕事あるからね。しかたないね)

菫(部活紹介のプリントには音楽準備室って書いてあったね。音楽室じゃなくて、うん)

菫(軽音部までの道のりが少し長い…。食器棚、持って帰れるのかな)

菫(ううん、お姉ちゃんから任された仕事だもの。ちゃんと完遂しないと怒られる)

音楽準備室のドア「キィィ……」

菫(……よし。誰もいない)

菫「失礼します…。広いところだな」

菫(で……これがその食器棚かぁ。大きいな……。私の背より大きい)

菫(そういえば食器棚の他にも色々お屋敷から持ち込んでいたような?そっちは置いておいていいのかな?)

菫(何も言われて無いし、いっか)

菫(それよりも、うーんと……食器棚を運ぶには……台車に乗っければ楽だけど持ってきてないし)

菫(あっ、じゃあ床に丸い棒を敷いていって食器棚をコロコロしていくのは、……そんな棒を持ってきてない)

菫(困ったよ…。どうしてキャスター付きの食器棚じゃないの……)

菫(というか、モタモタしてると軽音部の人が来ちゃう。さっさと運び出さないと…)

菫(お姉ちゃんに相談しようかなぁ。それだとメイド失格だもんねえ)

菫「………………仕方ない」



菫「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬー……」

食器棚「…………」

菫「動いてえ…………」

梓「窃盗の現行犯を目撃してしまった・・・」

憂「何やってるんだろうあの子・・・」

純「わっ、外国人!」

梓「純、あんたが話しかけてきてよ」

純「わたしに英語力を期待しないでくれる?あ、それとも私に澪先輩のイメージを重ねて!?とうとう私は澪先輩の境地に達したのね!」

梓「あんたに頼んだ私がバカだった。自分で言ってくる」

純「ちょっと何でよー」

憂「梓ちゃん…なにか道具持っていく?バットとか縄とか」

梓「いや、どうみてもあの子が凶悪犯には見えないからいい」

憂「やった、突っ込んでもらえた♪」

梓「そこでなぜ喜ぶ…」

憂「なんか突っ込んでもらったら嬉しくならない?」

梓「突っ込む側の気苦労をわかってほしい…」



菫(ふぇ~ん…大きすぎるよぉ……)

菫(早く運び出さないと軽音部の人たちが来ちゃうかもしれないのに…)

菫(これはお父さんたちに運び出す道具を貸してもらわないとダメかなぁ。でもお姉ちゃんが私にしか課してない仕事だし)

菫(担任の先生に貸してもらおうかな?あの先生、厳しい人には見えなかったけど…)

菫(もしだめなら音楽室の先生に借りるのも・・・あっ、あっちの扉の先が倉庫っぽい)

梓「あのー・・・」

菫「ヒャイッ!?」

梓「ギャッ!!」

純「なんつー声上げてんのよアンタ」

梓「急に大声上げられたんだからしょうがないでしょ!」

憂「また聞きたいな、梓ちゃんのかわいくない悲鳴」

梓「かわいくなくて悪かったね…」

菫(見つかった…ってあれ?この子…)

梓「あー…ハロー?わっとどぅーゆーどー?」

純(うわっ、これが日本なまり英語か)

菫(英語!?えっ、なんで、どうしよう…)

梓「あれ…?通じてない?」

純「あずさー、ジャズやってたくせに英語ヘタすぎない?」

梓「うるさい!!」

菫「あ、あいきゃんとすぴーく、いんぐりっしゅ…」

梓「喋れてないじゃん!」

菫「ヒャアッ!?ごめん!!」

憂「というより日本語が母国語っぽい?」

菫「は、はい…」

梓「なんだ…緊張して損した…」

菫(なんだろうこの子…高校生なのに小さくて可愛い……感情豊かなとこも可愛い…)

純「ねえねえ、私たち軽音部なんだけどさっきここで何やってたの?あ、もしかして入部希望の子だったり?」

菫「え、えっと、あの…」

梓「?」

菫「じつは食器棚を持ち帰ろうと……」

純「梓!やっぱりこの子は泥棒だ!私からお茶の時間を盗む気よ!」

梓「憂!すぐにさわ子先生を呼んできて!」

菫「ひぃっ!違うんですぅ!」

憂「まあまあ落ちつきなよ~三人とも」

純「あのね?あの食器棚は軽音部にとってなくてはならない大切なものなの、楽器よりもね」

梓「あんたの価値基準はよーくわかった・・・」

憂「あの食器棚は一応うちの備品なんだよ?」

純「入部希望の君には申し訳ないけど、立派にお茶を煎れられないと入部できないんだ(キリッ」

梓「ほう。なら真っ先に純を退部にしなきゃ」

菫「えと…お茶でしたら煎れられますけど…」

梓「えっ」

純「速っ」


*十数分*


さわ子「んまいっ!」テ-レッテレー

梓「いつの間にいたんですか!」

さわ子「美味しいものの気配を感じたら駆けつけるに決まってるじゃない」

菫(この人、先生なんだ・・・)

さわ子「本当に美味しい紅茶だわ・・・意識が天国まで一っ跳びしそう・・・はふぅ」

梓「先生がこんなになるなんてどんな紅茶を……」

菫「喜んでくださってうれしいです」

憂「凄いよ!どこで習ったの!」

菫「ひゃっ」

純「その金髪、地毛だよね!?眼も蒼いし!」

菫「え、は、はぃぃ」

梓「二人とも落ち着きなさいって。名前はなんていうの?」

菫「うん…斉藤菫っていうの…」

梓・純・憂(めちゃ普通の日本人名!)

菫「あの…あなたのお名前は…」

梓「私は中野梓。軽音部でギターを担当してるの」

菫「えっ、もう?凄い…」

憂「同じく軽音部員の平沢憂といいます」

純「ベースの鈴木純でーす★」

菫「あ、よろしくお願いします…」

菫(じゃなくてー!!軽音部の人に内緒で食器棚を運び出すはずなのに、なに親しくなってるのー!!)

菫(しかもなんか私が入部する流れになってるような…)

純「せっかくお茶があるんだからお菓子を買ってくれば良かったなー。グビグビ」

憂「今度から私がお菓子焼いてくるよ」

純「えっ、ほんと?ラキ☆」

梓「だいじょうぶ?受験生だけど時間ある?」

憂「大丈夫大丈夫。余ってるくらいだよ」

純「さすが優等生」

梓「それならお願いするね」

憂「…お姉ちゃんが家に居なくなってから、時間が余って、余ってしょうがないんだ。アハハ…」

梓「ご、ごめん」

菫(のんびりしてる部活だなあ)

純「あ、斉藤さん。紅茶をもう一杯もらっていい?」

菫「はい、かしこまりましたー」

梓「って、おおい純!?一年生をパシるな!」

純「パシってないヨー。斉藤さんが適役だと思ったんだヨー」

菫「あ、私はぜんぜん気にしてません。むしろ慣れてるから大丈夫だよ中野ちゃん」

純「ほら斉藤さんもこう言ってるし」

梓「あんたねー……」

憂「斉藤さん。良かったらお茶の煎れ方を教えてほしいんだけど、いい?」

菫「あ、はい。かまいませんよ」

梓「ねえ純」

純「んー?」

梓「なんか、おかしくない?」

純「べつにー。おっ、見てよ梓。このモデルのファッション、丈も色合わせも梓に似合わなそう」

梓「はい雑誌没収ー」

純「ちょっ!」

梓「マジメに聞きなさい」

純「しょうがないわねー。なにがおかしいって?」

梓「それが判らないから訊いてんの」

純「知らんわ!」

梓「むぅ…なによもう…」

純「それより勧誘するんでしょ?斉藤さん」

梓「うん。それは任せて。斉藤さんがすっかりこの緩い空気に溶け込んできて、けっこう良い流れだと思う」

純「おまけに上手にお茶を煎れられるスキルがある。捕まえる以外の選択肢はないね」

梓「斉藤さんは野生動物か何かか!」

純「私の人生計画が順調に進みそうだ。軽音部でのんびりお茶して、ときどき練習して、学園祭でパーッと成功して、受験も合格すれば完璧よ」

梓「そんなに上手くいくかねぇ」

純「そのためにも梓部長には活躍してもらいたい、てわけよ」

梓「…あんまり友達頼みにしてると友達なくすと思う」

純「うそうそ。この純様もビシバシ勧誘するよ。雑誌返してもらうよ」

梓「ああ不安……」

梓「っていうかちょっと待って!何が『のんびりお茶してときどき練習する』よ!」

純「梓だって『緩い空気に溶け込んで~』とか言ってたくせに」

梓「あ、あれは言葉の綾でっ!」

梓「もう部長は律先輩じゃなくて私なんだから、軽音部は練習に打ち込んでときどきお茶してくつろぐくらいでいいの!」

純「そう上手くいくかね~。おっ澪先輩そっくりの美人モデル」

梓「えっ、どれどれ」

純「これ。ね?」

梓「うわあ…おっきい…」

純「梓じゃ一生かけてもなれないスタイルだね」

梓「あんたはそのモップのせいでどのモデルにも似ても似つかないけどね」

純「人が気にしてることを!」

憂「二人ともおまたせ」

純「もしかして憂が煎れたの?やっほーい」

梓「ちょっとは遠慮しなさいよ」

菫「平沢先輩は凄いですよ。教えたことをすぐに実践できてしまうんです」

憂「そんなことないよ?菫ちゃんの教え方が上手だからだと思う」

菫「えっ私なんてそんな…」

梓(おおっ、憂はもう下の名前で呼んでる)

純「グビッ…んまいっ!」テーレッテレー

さわ子「ズズッ…うん。美味しい。合格よ」

憂「ありがとう菫ちゃん♪」

菫「あ、はい。どういたしまして♪」

梓「うん、本当に美味しい。菫はどこで紅茶の煎れ方を教わったの?」

菫「あ、うん。お父さんからちょっと手ほどきを受けたの」

梓「紅茶をプロ級に煎れられるお父さん?」

純「もしかして喫茶店のマスターだったりして」

菫「ま、まあ似たような感じです……(言えない……前年度に卒業したお嬢様の実家で執事やってますなんて言えない)」

純「ほんとに!?じゃあ今度軽音部で菫の家のお店に行こう!」

菫「えっ、あの、ふぇええ!?」

純「特典として梓がギターで弾き語りをします!」

梓「勝手に決めんな!」

菫「あぅあぅあぅ!」

憂「じゃあ私はお店のお手伝いします!」

菫「それは頼もし…いやいやいや!」

梓「純は調子に乗んな!憂も悪ノリしない!菫が困ってんじゃん!」

純「ごめんついつい☆」

憂「一度喫茶店のウェイトレスさんの制服を着てみたかった~」

菫(って、しまったー!!なに軽音部の人たちと親睦深めてるのー!!気付いたのこれで2度目じゃん!!)

菫(私はあくまでお姉ちゃんの任務をこなすために来た。今日はもう失敗は確定してるから…明日、この人たちより先にもう一回来よう)

菫(…もうちょっと中野ちゃん…梓ちゃんとお話していたいけど、しかたないね)

菫(あっ、お話なら別に今日に限らなくてもいいんだ。会おうと思えばいつでも会えるよ)

梓「たくもう…。菫、ごめんね?」

菫「あはは…」

梓「純は見てくれ通りにバカだし、憂は微妙に天然だし、今からこんなで大丈夫かなー」

純「ちょっとちょっと!菫に何吹き込んでんの!」

憂「天然かな?」

純「うん、主にお姉ちゃんのことで」

憂「そう?」

梓「自覚無いから天然なんだよ?」

憂「ふうん?じゃあ梓ちゃんも天然だね」

梓「えっ何で」

憂「だって梓ちゃん、去年の学園祭の出し物を決めるときに猫ミ」

梓「その話を菫の前でするなー!!///」

菫「ねこみ?」

梓「忘れてっ!!」

菫「うひぃっ!?」

純「うんうん、あのときに軽音部の本質を見抜いてしまったわけよ~」

梓「とにかくあれはわざとよ!クラスを盛り上げるためのわ・ざ・と!!」

梓「ああ……頭痛い……ていうか」

梓・憂・純(もしかして今の軽音部って常識人が私以外いない…?)

梓(だとしたら、何としても菫を勧誘して常識人を増やさないと!!)

純(斉藤さんは斉藤さんで食器棚泥棒になってたし、だいじょうぶか軽音部?)

憂(賑やかで楽しそうだからいっか♪)

菫「?」

梓「(そうと決まれば!)ねぇすみr」

菫「そうだ『梓ちゃん』、良かったら『梓ちゃん』のクラスを教えてくれない?ときどき遊びに行くから」

梓「違和感の正体はそれかーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

菫「ヒャーーーーッ!?」

純・憂「なにごと!?」



*10秒後*



菫「えっ、3年生なんですか!?」

純「リボンの色も私と一緒でしょ。さすがに気づこうよ・・・」

菫「すみませぇん!」

純「ほら梓ー。こうして謝ってるんだし赦してあげなよ」

梓「うい…わたしって成長してないのかな……」

憂「そんなことないよー…梓ちゃん、立派になったよー…」

梓「ういは優しいね……ははっ」

梓「…わたしが軽音部で過ごしてきた二年間ってなんだったんだろう…」

憂「あずさちゃぁん……」

純「ダメだこりゃ」

菫「本当にすいませーん!!」

菫「どどどどうしましょう…中野先輩を深く傷つけてしまいました…」

純「しかたないわねー。ほら梓」

梓「笑いたければ笑えばいいよ……私の時間は一年生の頃から止まってるんだ…」

純「んなわけないでしょー。それよりこのまま菫を放っておく気?菫が梓を落ち込ませたことで気が引けて他の部に入部するかもだぞー?」

梓「にゃっ!?こうしちゃいられない!!」

菫「立ち直った…」

憂「さすが純ちゃん」

純「ふはは!もっと褒めてくれたまえ!」



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最終更新:2016年04月17日 22:02