唯「…じゃあ、パンツはテキトーに選んであとは自分で片付けるから。憂は先にリビングに行ってて」
憂「……うん」
パタン
唯「…………」
クローゼット(…………)
唯「…………」
クローゼット(…………)
唯「…………」
クローゼット(…………)ギィィ
唯「言いたいことはわかってますごめんなさい……」
梓「…とりあえず言い訳くらいは聞いてあげます」
梓「…………唯先輩は普段から憂とああいうことしてるんですか」
唯「そんなことないよぉ! あっ、あれは…その…ああでもしないとバレちゃうと思って…とっさに!」
梓「それにしては慣れてるように見えましたけど? それにパンツも交換してるとか?」
唯「ないない! ないよ! …憂が高校生になってからは…してないもん!」
梓「つまり中学まではしてたんですね」
梓「それで…キスは今でもしてる、と」
唯「そっそれは…」
梓「してるんでしょ」
唯「いやぁ…うーんと」
梓「はっきり言ってください! してるんでしょ!」
唯「あ、あんまり大きい声出すと憂が…」
梓「答えて! してる! してない! どっち!?」
唯「してます! ごめんなさい! してます!」
梓「サイッテーです………」
梓「ハァ…どーりで…はじめてのはずなのに舌を入れてくるなんて…、とか思いましたけどそりゃそうですね、しょっちゅうキスしてるベテランさんなら手慣れてて当然ですよね、はい。よくわかりました」
唯「…ベテランなんかじゃないもん」
梓「……」キッ
唯「ひっ」
梓「ベテランでしょーが! ……わたしなんて、はじめて……だったのに」ジワ
唯「わ、わたしだって…」
梓「…なんですか」ギロッ
唯「あずにゃん先輩こわいっス……」ブルブル
唯「わたしだって…憂以外とするのははじめてだし…和ちゃんとだってしたことないし…。
それに………憂はちがうもん。憂とは子供の頃からチューしたりしてじゃれてるだけだし。恋人のチューとはちがうよ。ぜんぜん。
あずにゃんは別だもん。特別。あずにゃんとのチューは特別なの。全然ちがうの!」
唯「わたしも………すっごく緊張したんだよ?
うまくできるかな、先輩だからリードしなきゃ、やさしくしなきゃ、って。一生の思い出になるでしょ? はじめて…なんだもん。
だからさ、あずにゃんの唇にふれた瞬間、うれしすぎて呼吸とまるかとおもった。
まだ…いまでも残ってるよ、あずにゃんの唇の感覚。あまくて、やわらかくて、ずっとそのままでいたくて…
とにかくあずにゃんはわたしにとって特別なの! 全然ちがうの!」
梓「……」
唯「わかって…くれた?」
梓「…わかりました」
唯「…ふぅ」
梓「証明してください」
唯「えっ」
梓「わたしと憂はちがうって。わたしは特別だって。証明してください」
唯「いいよ」
今度はもう、早かった。
お互いの唇が触れ合った瞬間、相手を貪るように、吸い尽くすように、はげしく。絡めあっ…
トントントントン…
憂「おねえちゃーん! まだー?」
唯梓「「!!??!???!?!?!」」
唯「とりあえずあずにゃん! クローゼットのなかにっ」
梓「は、はいっ!」
パタン
こうしてわたしは再び闇の中へと吸い込まれた。
コンコン
憂「おねえちゃん? 入るよ?」ガチャ
唯「はーい…ど、どうしたの? どうかした?」
憂「それはこっちのセリフだよ…ちっとも降りてこないから」
唯「へ? あ、うん…パンツをしまう順番で迷っちゃってさ…」タハハ
憂「もぅ…へんなおねえちゃん!」
唯「アハハ…もうすぐ片付くから心配しないでよ」
憂「うん。あ、そうだ、ちょっと気になることがあったんだけど」
唯「えっ、な、なに!?」
憂「シンクの洗い物、すごいことになってたんだけど」
憂「あれ一人分じゃないよね」
唯「」
クローゼット()ガタッ
唯「あれは…」
憂「カレーもずいぶんたくさん作ったみたいだし…」
憂「誰か来てた? ひょっとけいおん部のみなさん?」
唯「うっ、うん! そうそう~憂がいなくてさみしいからみんな呼んじゃってさ~そんでカレーパーティーしたんだよね~!」
憂「へぇー、じゃあけいおん部のみなさん全員集まったんだー」
唯「そうそう、そうだよ! りっちゃんに教わりながらカレーつくったんだー!」
唯「ムギちゃんがかぼちゃプリン、澪ちゃんは栗羊羹もってきてくれてぇー」
憂「あれ? 紬さんがかぼちゃプリン持って来てくれたのって、こないだのハロウィンのときじゃなかった?」
唯「えっ、うそっ? まちがえたっ」
憂「ん? ”まちがえた”ってなぁに?」
唯「そ、それは…」タラタラ
憂「それにシンクの洗い物、たしかに山盛りだったけど、五人分にしては少なすぎるよね。
だいたい律さん、紬さん、澪さん、梓ちゃんが来て、洗い物を手伝いもせず帰るなんて考えにくいし…」
唯「みみみみんな忙しいみたいで…」アタフタ
憂「忙しい。へぇぇ~~そうなんだ。でも誰か来てたのは本当なんだね。その誰かは忙しくて洗い物をする暇がなくて…」
唯「だから帰っちゃったんだってば!」
憂「うーん…」
唯「…うい」
憂「どうしたのおねえちゃ………ん」
眉をよせ、顎に手をあてた険しい表情の憂が顔をあげた。
一瞬。
けれどわたしがその隙を見逃すわけもない。唇を盗む。
憂「んっ…あっ、ん…ふぅ…」
唯「んん…」
どれくらい、唇を重ねあっていただろう。
深く深く。奥へ奥へ。ねじ込んでいた舌を引き抜いた。
ぬらっとした糸を引き、こぼれ落ちる唾液。
互いに混じり合ったそれは、もうどちらかひとりのものではありえない。
唯「ほら、いい子だからもう戻ろ?」
憂「……うん」ポー
唯「わたしはパンツ片付けたらすぐそっちいくから。洗い物もわたしがやるから。いい子で待ってて、ね?」
憂「……うん」ポー
瞳をうるうるとさせ、頬を赤らめた憂の頭を撫でる。
憂はうれしそうにこくんと頷き、ふらふらした足どりで部屋を出ていった。
唯「…ふぅ」
梓「ちょっとぉ唯先輩っ!なんなんですかあれはっ!?」バタン
梓「さっきのあれはどう説明するつもりですかっ! 誰が見てもなかよし姉妹のチューじゃないでしょう!」
唯「まあまああずにゃん落ち着いて」
梓「これが落ち着いていられますかっ!」
唯「興奮するのはわかるけどさ、もう済んだことはいいじゃん。それよりこの場をどう打開するか考えようよ」
梓「よくないです! 誤魔化さないでください!」
唯「ああもぅ…しかたないなぁ…」チュ
梓「!??」
チュッチュッペロペロクチュクチュチュパチュパジュルジュル
唯「ふぅ」
梓「……」グッタリ
唯「よし。じゃああずにゃん。これから事態をどう打開するか考えよう!」
梓「……わかりました」ポー
梓「ハッ、いやちょっと待ってください」
唯「あずにゃん、正気に戻るの早いね」
梓「そもそもなんですけど、わたし、隠れる理由なくないですか? 別に泥棒ってわけでもないんですから」
梓「ご両親ならともかく憂は唯先輩の妹ですし、それにわたしは憂と友達ですし…話せばちゃんとわかる、っていうか、むしろ隠す方がマズイですよ。なんか悪いことやってるみたいに思われます」
唯「そっか…、そう言われてみるとそうだね…わたしたち何も悪いことしてないもんね。つい反射的に隠しちゃったけど…」
梓「そうですよ。今から二人でリビングに降りて説明しましょう!」
唯「うーん、でもなんであずにゃんが泊まりに来てるのか、どうやって説明しようかなぁ…」
梓「それは…まぁ付き合ってるんですからそういうこともある、ってわかってもらえますよ」
唯「あー、そこからかぁ。そこからだよねぇ…」
梓「?」
唯「いやね。憂はね。わたしとあずにゃんが付き合ってる、ってこと知らないだよねぇ…」
梓「は?」
梓「ちょっとちょっと。どうして憂に言ってないんですか」
唯「黙ってたわけじゃないんだけどね、ほら、聞かれてもいないのに言うのも…ねぇ?」
梓「…都合が悪いから隠そうとしたわけですね」
唯「いやいや…そうじゃなくてぇ…」
梓「唯先輩、憂としょっちょうチューする関係ってこと、わたしに隠してましたよね?」
唯「それも隠してたんじゃなくて聞かれなかったから言わなかっただけ、っていうか…」
梓「つまりアレですか。わたしにも憂にも、ふたりに隠しておいて、上手に騙し通して二股かけてやろう、っていう…」
唯「ちっちがうよっ! そんなこと考えてないっ!」
梓「唯先輩、わたし、これから憂に会って全部話します」
唯「待って! あずにゃんよ~く考えてみて!」ムチュチュー
梓「またチューしてごまかそうったって、そうはいきませんよ!」グイー
唯「(…バレた)そうじゃなくて! じゃああずにゃんこそどうして自分から憂にわたしのこと話さなかったの!?」
梓「それは…」
梓「だって憂っておねえちゃん大好きだから…なんか悪いな、っていうかなんていうか、その、タイミングがなくて…
大事な友達だからちゃんと言わなきゃ、って思ってはいたんですけど…
でも唯先輩のほうからもう言ってるのかな、とも思ってわたしからは特になにも…」
唯「なるほどね。わたしもね、あずにゃんと憂を二股にかけようなんてそんなこと、
全然、まったく、一ミリも、一瞬も、100%、神様にちかって、想像すらしてなかったけどね。
でもこの状況で憂にわたしたちのことを説明しても、正確に理解してもらえるかわからないよ」
唯「あずにゃん。憂はわたしにとってもだいじなだいじな妹なんだ。
だからさ。わたしたちのこと、きちんと伝えたいって思ってる。
ちゃんとね、それにふさわしいタイミングを見て、三人で話をしたいって。
でも今日はそういうタイミングじゃないでしょ?」
梓「そう…ですね」
唯「よし! じゃああらためてげんじょーのダカイサクを考えようよ!」
梓「そうですねぇ。いちばんいいのは憂がお風呂に入ってる間にこっそり帰っちゃうことじゃないですか」
唯「おっ、そだね。さっすがあずにゃん! てんさい!」
梓「それくらい誰でも考えつくでしょう。第一、荷物はリビングに置いたままなんですからそれを回収しないと帰れませんし。それに靴だって玄関に………あ、」
唯「…どしたのあずにゃん」
梓「あ、あ、あの…唯先輩………」
唯「?」クルッ
憂「…」ニコニコ
梓「」
唯「…あ」
憂「…梓ちゃん、いらっしゃい」ニコニコ
梓「…おじゃま……してます」ペコリ
憂「帰ってきて玄関に梓ちゃんの靴がある時点で気づいてたんだよね。
いつ本当のこと言ってくれるのかな? って待ってたんだけど。おねえちゃんはごまかそうとするし、梓ちゃんは出て来てくれないし」
唯梓「「すみませんでした…」」
憂「どうして謝るの?
なにか悪いことしてたの?
そもそも隠れる、ってことはなんなの??
普通に遊びにきただけなら隠れる必要ないよね?
もしかしてなにかわたしに言えないことでもあるの?
ふたりはどういう関係?
ねぇ。
ちゃんと教えてくれないかな?」
梓「えっと…それは…」
唯「ないよ! 隠しごとなんてなにもないよ! 悪いこともしてない!」
憂「おねえちゃん、それほんと? わたしの目を見て言える?」ジツ
唯「いっ、いっ、いっっいえ、いえ、いえま………せんごめんなさい」
梓(唯先輩よわっっっ!)
梓「じつはかくかく……」
唯「しかじかで……それであずにゃんが泊まりにきてて……」
憂「ふぅん、そっか、そういうことだったんだ」
唯梓「「はい……」」
憂「かなしいなー梓ちゃん。わたし、梓ちゃんとは親友だと思ってたのに。なんにも言ってくれなくて」
梓「ごめん……」
憂「かなしいなーおねえちゃん。血を分けたたった二人の姉妹なのに隠しごとされるなんて」
唯「ごめん……」
憂「ま、いいよ。誰にだって言いにくいことくらいあるだろうしね。ところで梓ちゃん、もう夜ご飯食べたんだよね?」
梓「あ、う、うん…」
憂「それならもう か え る だ け だ ね ! はいこれ荷物! じゃあまた明日学校でね!!!」
梓「えっ、えっ」
唯「ちょ……うい………」
憂「はい! さっさと帰って……ね!!!!」
憂「な~~んちゃって! 冗談だよっ☆彡」テヘ
梓(うそだ………目がマジだった)
唯「」グッタリ
憂「じゃ、梓ちゃんお風呂入っちゃって」
梓「え、あ…うん」
唯「それじゃわたしも……」
憂「どうしたのおねえちゃん? お風呂は梓ちゃんに譲ってあげて。いちばんはじめは、お客さんに入ってもらわないとでしょ」
唯「あ、いや…その…ね? わたしもあずにゃんといっしょに…ね? お風呂入りたい…なぁ? なんて、ね?」
憂「あはは。なに言ってるのおねえちゃん。冗談つまんない。そんなのダメだよ」
唯「ど、どうしてっ?! いいじゃんお風呂くらい! 憂のけちんぼ!」
憂「わたしがダメと言ったらダメなの。………わかった?」
唯「…………はい」
梓(よわいなぁ……)
憂「それじゃあおねえちゃん。わたしと梓ちゃんがお風呂からあがってくるまでいい子で待っててね。それとパンツも早く片付けて」
唯「…………はい」
梓「あれ? わたしと…って、憂もいっしょに入るの?」
憂「あはは、梓ちゃんなに言ってるの? 当たり前じゃない」
憂「だってもし一人づつお風呂に入ってたらさ、わたしが入ってる間、おねえちゃんと梓ちゃんがふたりっきりになっちゃうでしょ?」
憂「そんなのダメだよ。ぜったいダメ」
唯梓「「………はい」」
最終更新:2016年11月14日 20:58