こころ「うふふっ♪ みんな笑顔で楽しそうね、私も嬉しいわっ」

こころ「……あっ!」

美咲「ん……?」

 ふと、こころが一組の来賓を見かける。

 こころのいる所から数メートル先、そこには赤いドレスを身に纏った金髪の女性と、その横には、スーツ服姿の金髪女性の姿が映って見える。

 2人の女性に向け、こころは駆け出し……後ろから抱き着いていた。


こころ「つむぎーーー♪ 会いたかったわ、つむぎーーっっ♪」

紬「きゃっ……こ、こころちゃん??」

 突然背後から抱きつかれ、思わずよろける紬だったが、抱きついてきた主が自分の探し求めていた人物だと知ると、その驚きは安堵に変わっていた。


紬「こころちゃん! 会いたかったわぁ……」

菫「こころお嬢様……どうも、ご無沙汰しております」

こころ「紬、菫♪ 久しぶりね、来てくれてありがとう♪ 2人とも元気だったかしら♪」

紬「ええ……うふふっ、こころちゃんもお元気そうね……」

 こころと紬、菫の3名が久々の再会を喜び合っていたその時、こころの後方より、美咲達が追いついてきた。

美咲「ちょっとこころ……急に走り出さないでよー」

花音「はぁ、はぁ……きゅ、急に走り出すからびっくりしちゃった」

薫「ふふっ、こころ、急に走り出したりして、一体どうしたんだい?」

はぐみ「わぁぁ、綺麗なお姉さん達だねー、こころんのお友達?」

こころ「そうよ♪ この二人は私のお友達の、紬と菫よ♪」

こころ「紬、菫、こちらは私のお友達なの♪ みんな、ステキな人達なのよ♪」

紬「まぁ……そうなのね」

 こころの目線の先にいる4名の少女達に向け、紬と菫は自己紹介をする。


紬「はじめまして、琴吹紬です、こころちゃんとは昔からお付合いをさせていただいてるの、どうぞよろしくね」

菫「斉藤菫と申します、皆様、どうぞ宜しくお願い致します」

花音「ま、松原花音です、よろしくお願いします」

薫「薫……瀬田薫と申します……ああ、なんて美しい女性達なんだろう……」

はぐみ「北沢はぐみですっ! つむぎさん、すみれさん、よろしくねっ」

美咲「どうも、奥沢美咲です……ん、『琴吹』って……もしかして、あの琴吹??」

 紬の名前を聞いた美咲の表情に、僅かな緊張が走る。

はぐみ「みーくん、知ってるの?」

美咲「知ってるも何も、超大手のグループ会社じゃん……はぐみだってテレビのCMぐらいは見たことあるでしょ?」

美咲「しかも、名前が紬って……もしかして、あの琴吹家の紬お嬢様……?」

花音「こころちゃん……すごい人とお友達だったんだね……」

美咲「ええ、とても凄い人だって聞いてます、……ああ、私、なんだか緊張してきた……」

 眼の前の女性が、過去に何度かテレビや新聞でも見たこともある女性だという事を思い出し、思わず息を呑む2人だった。

 そんな緊張気味な2人に向け、こころが話しかける。


こころ「2人とも何を固くなってるの? 紬は紬よ、私の大事なお友達よ? つまり、みんなのお友達よっ♪」

こころ「さあ、怖い顔してないで、美咲も花音も紬と握手しましょっ♪ これで2人も、紬のお友達よっ」

美咲「こころ……」

花音「こころちゃん……」

 こころに促されるまま、美咲と花音は紬と手を交わす。

 紬の手に2人の手が重ねられ、優しく握られた。

美咲「紬……さん、さっきは失礼しました。改めて、よろしくお願いします」

花音「わ、私も……よろしくお願いしますっ」

紬「ええ……ありがとう、美咲ちゃん、花音ちゃん……これからもよろしくね」

はぐみ「あー、みーくんもかのちゃん先輩もずるーい! 今度ははぐみと薫くんとも握手しよっ!」

薫「ふふっ……紬さん、どうぞ宜しく……」

紬「ええ、私からもよろしくね」

 次いで差し出されたはぐみと薫の手を優しく握り、紬は微笑む。

 その光景を満足そうにこころは眺め、笑顔を絶やさず続けた。


こころ「ふふふっ、みんなが紬と仲良くなれて、私も嬉しいわっ♪」

紬「うふふふっ……こころちゃん、ありがとうね」

こころ「……? 変な紬、私は何もしてないわよ?」

 眩しい程に輝くこころの笑顔を見て、紬はふと思う。

 こころは決して立場や状況を弁えず、空気を読まない。どこにいようが、常に等身大のこころでいる。

 そして、こころが持つ笑顔の輝きの前では、誰もが立場や権威を捨て、ありのままの自分に戻れる。

 それは、周囲の評価や立場に縛られた大人になってしまった紬には決して出来ない事で……それを容易くやってのけてしまうのが、弦巻こころの魅力であり、皆がこころを慕う理由でもあった。

 紬自身も、先程までの資産家らを相手にした立ち回りとは違う、等身大の自分でいられる事に喜びを抑えきれずにいた。

 そこにはもう、琴吹家令嬢としての『琴吹紬』はなく、ただ一人の女性としての『琴吹紬』がいるのみだった――。


こころ「うふふふっ、なんだか楽しくなってきたわね、そうだ♪ せっかくだし、みんなで今から踊りましょうっ♪」

美咲「えええ、いきなり? しかもここで?」

花音「ふえぇぇ、わ、私……こういう所で踊るダンスなんて知らないよぉー」

薫「大丈夫だよ、花音、さあ、私の手を取ってごらん……」

はぐみ「みーくんみーくん! みーくんも踊ろっ!」

美咲「あーもう……みんな、少しは落ち着きなってばー」

 それから程なく、こころの思い付きで、舞踏会が開かれる。

 自由に踊るこころ達の姿を見て、周囲では互いに手を取り、社交ダンスを行う者が相次ぐ。

 気付けばフロアの一角は優雅なダンス会場となり、互いが互いの手を取り合う場へと成り代わっていた。


紬「素敵なお友達ができたのね……こころちゃん」

菫「はい、あんなにも笑っていられるこころ様のお姿……私も久しぶりに見た気がします」

こころ「二人とも、何をしてるの? みんなで踊りましょっ♪」

紬「うん、行こう、菫ちゃん!」

菫「はい、お嬢様……」

紬「ううん、違うわ、今の私は……」

 『お嬢様』という堅苦しい呼び名ではない、今の私は、あなたと長い時を過ごした、たった一人のお姉ちゃんよ。

 言外でそう紬は言っている……言葉にしなくとも、菫にはそれが十分伝わっていた。


菫「そう……だね……うん、お姉ちゃんっ!」

 菫は叫ぶ。紬の妹として、親しみと敬愛を込め、紬の家族としての呼び名で叫ぶ。

 そこにいるのは既に紬の秘書でも使用人でもない。

 血の繋がりこそ無いが、それでも紬のことを長く『お姉ちゃん』と呼び親しんで来た、琴吹紬の唯一の妹としての、『斉藤菫』だった。

―――
――


 そして、こころの思い付きで開かれたダンス大会もほどなく終わりの気配が近付いた頃。


はぐみ「あーっ、楽しかったね~」

薫「ああ、とても儚い一時だったね……心が洗われるような時間だったよ」

美咲「あははは、慣れないことやったから脚がガクガクだよ……」

花音「私も……でも、楽しかったよね」

美咲「まぁ……悪くはなかったですよね」

はぐみ「ねえねえこころんー、そういえば、ミッシェルはどうしたの?」

薫「そういえば、今日はまだミッシェルを見ていなかったね……かくれんぼでもしてるのかな?」

こころ「それが、ミッシェルってば、今日はどうしても外せない用事があるっていうのよ」

紬「……ミッシェル?」

はぐみ「うん、ミッシェルっていうのはねー」

美咲「あー、まぁ、その話は今はいいでしょ? 今日は来れないって言ってたんだしさ」

 はぐみの言葉に美咲が被せる、ここで下手にミッシェルの話を膨らませて、どうしてもこころがミッシェルに会いたいと言い出しでもしたら、きっと黒服が動いて自分がミッシェルにならざるを得なくなるだろう。

 それはあまりにも面倒なので、こころとはぐみの気をどうにか紛らわせる事にする。

こころ「今度、紬にもミッシェルを紹介するわね♪」

紬「ええ、楽しみにしてるわっ」

美咲「……それにしても紬さん、本当にこころと仲良しですよね」

花音「うん、そうだね~」

美咲「あの、紬さんとこころは、どれくらい前からの知り合いなんですか?」

紬「私が高校生ぐらいの頃からだから……もう10年ぐらいになるのかしら」

こころ「紬のお家で、紬のお誕生日の日に私達はお友達になったのよ、懐かしいわねっ♪」

紬「あの頃はまだ背も小さかったのに……今じゃこんなに立派になって……うふふっ、こころちゃんも大きくなったのね……」

 こころの頭を紬が優しく撫でる。

 既にこころの気は、ミッシェルから紬へと移っていたようだった。

 ……その時。


はぐみ「つむぎさん……」

美咲「ん、はぐみ、どうかした?」

はぐみ「つむぎ……つむぎ………う~ん……」

 はぐみが一人、ぶつくさと独り言を繰り返していた。


はぐみ「つむぎ……つむぎ……むぎ…………ムギちゃん先輩!」

紬「えっ……?」

 はぐみの言葉を聞いた紬の眼が一瞬、大きく開かれる。

美咲「ちょっとはぐみっ、年上の人に失礼でしょ」

はぐみ「ごめーん、う~ん……でもなんか、そう呼んだらすごくしっくり来たんだ」

紬「ううん、い、いいの! はぐみちゃん、もう一度呼んでくれる?」

はぐみ「……? うん! ムギちゃん先輩っ!」

紬「……っ」

 『ムギちゃん先輩』と、はぐみが紬を呼ぶその声に、懐かしい日々が紬の脳裏に蘇る。

 かつて、制服を着て高校に通っていた頃。その高校で、素敵な仲間に出会えたこと。その仲間とともに、軽音部で青春を謳歌したこと。

 様々な思い出が紬の中を駆け巡り、懐かしい声が紬の記憶の中でこだまする。


 『――ムギちゃーんっ! 一緒に部活行こっ』

 『――おーいムギー! 今日のお茶も、楽しみにしてるからなー』

 『――二人とも、ムギに甘えすぎだぞー! ……ムギ、いつもありがとうな』

 『――ムギ先輩! 次のライブ、楽しみですね!』


紬(…………)

紬「……っ……っ」

 皆に気付かれぬよう、紬はそっと目元を拭う。

菫「お嬢……お姉ちゃん……大丈夫??」

紬「うん……ごめんなさい、ちょっと昔を思い出しちゃって……」

紬(懐かしいな……)

 紬の事をそのあだ名を呼ぶ人は、もう紬の周りには一人としていなかった。

 それが、ここで再びそのあだ名で呼ばれることになろうとは。

 突如訪れた不思議な偶然に、紬の口から感謝の言葉が囁かれる。


紬「……ありがとう、はぐみちゃん」

はぐみ「……? ムギちゃん先輩、どうしたのかな?」

―――
――


 それから、7人の話題は、こころ達の今の話に移っていった。


はぐみ「そうだ、ねえこころん、ムギちゃん先輩達にもハロハピの事、教えてあげようよっ」

紬「ハロハピ?」

こころ「そういえば紬はまだ知らなかったわね、私達は、『ハロー、ハッピーワールド!』っていうバンドを組んでるのよっ♪」

はぐみ「うん! みんなすごいんだよ!」

薫「ふふふ、音楽を通して世界中を笑顔に……なんて素晴らしく、儚い目標なんだろうね」

花音「私達、こころちゃんに誘われて、バンドをやってるんです」

美咲「まぁ誘われたというか……巻き込まれたって言っても良いですけどね」

 そして紬達はこの時初めて知った。

 こころ達が今、『ハロー、ハッピーワールド!』というバンドを結成し、音楽を通して世界を笑顔にするための活動を行っていることを。

こころ「みんな行くわよ♪ ハッピー! ラッキー! スマイル!」

はぐみ・薫・こころ「イェーイっ!」

花音・美咲「い、イェーイ」

 こころ達が声を合わせ、お決まりのフレーズを口にする。

 紬と菫も、その様子を見て優しく微笑んでいた。


紬「うふふっ、こころちゃんの作ったバンドかぁ……なんだか楽しそうね……」

菫「バンド……懐かしいですね、私も昔を思い出します」

こころ「そういえば、紬たちも昔、バンドを組んでたのよね?」

紬「ええ、そうよ、うふふっ、懐かしいわね……」

薫「それはそれは……不思議な縁だね、お二方とも、バンドをやってただなんて」

こころ「私、小さい頃に紬と菫の演奏を見たことがあるのよ! あの時の2人、すっごくかっこよかったわ! バンド名は……なんだったかしら?」

紬「放課後ティータイムと……」

菫「わかばガールズ……ですね、本当に懐かしいです」

美咲(ん……放課後ティータイム……? どこかで聞いたことあるような……)

花音「あ、あの! お二人のパートは何だったんですか?」

紬「私はキーボードで、菫ちゃんはドラムだったわよね?」

菫「はい」

はぐみ「じゃあ、かのちゃん先輩と、ミッシェルと同じだね!」

美咲「まぁ、厳密に言えばミッシェルはキーボードじゃなく、DJだけどね」

こころ「……そうだわ♪」

 突如、こころがパチンと手を叩き、弾けたように何かを思いつく。

美咲(うわぁ、すごく嫌な予感……)

美咲「い、一応聞くけど……こころ、一体何を思いついたの?」

こころ「ライブよ! 今からライブをやりましょう♪」

花音「え……ふえええええ!?」

美咲(やっぱり……)

薫「ふふふっ……ああ、私も今、こころと同じことを思っていた所だよ」

はぐみ「うんうん! どうせなら、ムギちゃん先輩とスミーレ先輩にも、はぐみたちの演奏を見てもらおうよ!」

菫「す、スミーレって……また懐かしいあだ名を……」

紬「こころちゃん達のライブかぁ……楽しそうね♪」

美咲「で、でもほら、ミッシェルはどーするの? 今いないんだよ?」

 言いながら美咲が目線をホールの端に寄せてみる……すると。


黒服(美咲様、ミッシェルの準備、いつでもOKです!)

 と、美咲に向け、親指を立てる黒服達の姿が見えた。


美咲「はぁ……やっぱ、やんなきゃダメか」

 観念した美咲が目線で黒服に了承し、その了解を受け取った黒服はこころに耳打ちをする。

黒服「こころ様、ミッシェル様ですが、たった今こちらに向かってるとの事です」

こころ「そう! ならよかったわ! 黒服さん、ありがとう♪」

こころ「みんなー! ミッシェルも今ここに向かってるわ! これからライブをやるわよー♪」

 こころは会場中に聞こえる声量で声を上げる。

 その声を聞き、会場中の来賓の間で、こころの催事への期待を寄せる声が聞こえてくる。


男性「おお、どうやら、これからこころお嬢様がご学友の方々と演奏会をするようですね……」

女性「まぁ……楽しみですわ、きっと、優雅な演奏会になるのでしょうね……」

美咲「演奏会って……みんな何か勘違いしてない……?」

花音「あははは……いいんじゃないかな……ガールズバンドパーティーも近いし、リハーサルも兼ねてってことでさ」

薫「こんな大勢の前でライブだなんて……胸が踊りだすよ、みんなが私の演奏の虜に……ああ、なんて儚いんだ……!」

はぐみ「えへへへ、はぐみも頑張るよ!」

美咲「まぁ、このメンツで集まってライブをやらないことの方が珍しいか……わかった、分かりましたよ」

紬「菫ちゃん、最前列で見ましょう! 私もこころちゃん達のライブ、見てみたいわ!」

菫「あの、お嬢様、言い難いのですがその……そろそろお時間が……」

紬「えっ? 嘘、もうそんな時間なの?」

 菫に言われ、紬が時計を見る。すると次の約束……紬と菫の高校の同窓会まで、既に1時間を切っていた。

紬「もっと早く、こころちゃん達に会えていれば良かったのに……残念だわ」

菫「私もです、楽しい時間が経つのはあっという間なんですよね……」

こころ「紬ー、紬達も見てってくれるわよね! 私達のライブ!」

紬「ごめんなさいこころちゃん……せっかくなんだけど、もう次の約束の時間が来ちゃったのよ……」

 時間が迫っていることを説明し、落胆した様子で紬はこころに打ち明ける。


こころ「あら、そうなの……? それは残念だわ」

紬「また誘ってくれる? 次は時間を作って、必ず行くから……」

花音「そっかぁ……残念ですけど次の予定があるなら、仕方ないね……」

美咲「ええ、紬さんもお忙しいようですし……次の機会に……ですね」

はぐみ「ムギちゃん先輩っ! だったら、今度はぐみ達がやるライブに来て欲しいなっ」

薫「そうだね……今日のライブは一旦お預けになってしまうけど……でも、次のライブは、今日以上に儚いライブになると、お約束しますよ」

こころ「そうね、紬、菫。来週やるガールズバンドパーティーには是非いらしてちょうだい! みんなで待ってるわね♪」

黒服「紬様、菫様、詳細につきましてはこちらを御覧ください」

 こころの声に合わせ、黒服より、ガールズバンドパーティーの告知フライヤーが紬に手渡される。

 数多の出演バンドの名前が連ねられたそのフライヤーには、ハロハピの名前も確かに書き留められていた。

紬「ええ、必ず行けるようにするわ、もちろん、菫ちゃんも一緒に……ね」

菫「はい、私も、皆様のご活躍を楽しみにしております」

紬「それと……美咲ちゃんっ!」

 そして会場を後にする間際、紬は美咲を呼び止める。


美咲「……はい? なんでしょう?」

紬「こころちゃんと、これからも仲良くしてあげて……ね」

美咲「……ええ、もちろんです」

美咲「今日は会えて良かったです……また、お二人にお会いできる日を楽しみにしてます」

 紬の眼差しに、美咲は笑顔で応え……改めて、固い握手を交わすのであった。

―――
――

 それから程なく、移動の準備を終えた二人は弦巻家の屋敷を後にする。

 しばらくしてから微かに聞こえてくるライブの賑わいに、僅かにうしろ髪が引かれる気持ちの二人だったが、迷いを振り切り、車は走り出す。


【琴吹家専用車内】

紬「こころちゃん達、本当に楽しそうだったわね……」

菫「ええ、私も、昔を思い出しました……」

紬「うん、早くみんなに会いたくなったわ、まだ着かないのかしら?」

菫「お嬢様、もう少々お待ちください……会場まで、後少しですよ」

紬「も~、違うでしょ、菫ちゃん……」

 むくれた子供のような顔で紬は言う。

 その言葉の意図を理解し、菫は僅かに溜息を漏らし、言い直す。


菫「……うん、もうじき着くから、少しだけ待ってて……お姉ちゃん」

紬「うんっ!」

 夕日に照らされる道路を、黒塗りの車はひた走る。

 二人の目的地は、すぐそこまで迫っていた――。



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最終更新:2019年12月14日 18:13