音楽への情熱を取り戻し、大好きな歌を歌うため、バンドを結成するために邁進する少女。
様々な困難を乗り越え、音楽にひたむきに、一生懸命に向き合う主人公の姿に感化され、次々とバンドメンバーが集まり、遂にそのバンドは結成され、少女達は更なる夢を追い続ける……という内容だった。
モカ「蘭も読んでみるー? ライブのシーン、結構面白いよ~」
蘭「……うん、ちょっと見てみるよ」
モカから文庫本を手渡され、蘭は栞の挟んであるページを開く。
そのページは、その物語の見せ場の一つ、ライブのシーンだった。
少女達の音楽に対するひたむきな姿勢にどこか感情移入しつつ、蘭は一心に物語を読み進めていた。
蘭「…………」
そしてしばらく、蘭はページを閉じ、文庫本をモカに手渡しながら口を開く。
蘭「…………うん、良かったと思う。モカ、ありがと」
モカ「いいえ~、どう、面白かったでしょ?」
蘭「そうだね……ライブの描写もそうだけど、演奏する登場人物の気持ちもしっかり書かれてて、結構本気で読めたよ」
モカ「うんうん~、この主人公の子、なんとなーく蘭に似てるよね~♪」
蘭「ふふっ……どうかな……あたしはここまで不器用じゃないと思うけど」
蘭「……なんだか演奏したくなってきた……っても、今からじゃ演奏できないし、帰ったら曲造り進めてみようかな」
つぐみ「私も、もう一度演奏の確認しとかなきゃ」
巴「そういえば、あこの自主練に付き合う約束してたっけな」
ひまり「ふふっ……結局、みんなバンドの練習はお休みでも、音楽そのものはお休みにはならなさそうだね」
そしてしばらく、話題は読書の話から、音楽の話へと移行する。
ひまりの言う通り、練習は休みでも、皆が皆、好きな音楽を休むことだけはしなさそうだった。
―――
――
―
蘭「そういえば、昨日の練習、なかなか良かったね」
巴「ん~、アタシはまだ少し不安かもな……もう少し自主練しとかないとな」
ひまり「あまり無理はしないでね? 巴、一人だと頑張りすぎる時あるから」
巴「大丈夫だよ、あこもいるし、そんな無茶しないって」
モカ「そういえばつぐ、なんだか昨日はいつもよりツグってたよね~」
つぐみ「うん、ライブも近いし、私も頑張らなきゃって思って♪」
蘭「そうだね、ライブまであと4日……もうすぐだね」
巴「ああ、アタシもだ、今からすっげー楽しみになってきた!」
モカ「お~、あついあつーい、蘭とトモちんが燃えてるー」
ライブへの期待を顕にする蘭と巴。そんな二人の様子を見るモカ、ひまり、つぐみの3名また、ガールズバンドパーティーへの期待を確かに高めていた。
ひまり「ライブ……澪さんにがっかりされないように、私も頑張らなきゃっ……う~! やっるぞーーっ!」
拳を上に突き出し、威勢良くひまりは叫ぶ。
モカ「あのねーひーちゃん、気持ちはわかるけど、ひーちゃんは頑張りすぎず、いつも通りでいいとモカちゃんは思うよー?」
巴「はははっ、モカの言う通り、ひまりはいつも通りが一番かもな」
蘭「うん、ひまりが頑張りすぎて空回りするの、よくある事だもんね」
ひまり「も~、みんなひどーい! せっかくやる気出したのに~!」
つぐみ「あはははっ。でも、ひまりちゃんの気持ち、分かるよ……あのお姉さん、私達の演奏楽しみにしてくれてたもんね」
ひまり「うん……だから、澪さんにも精一杯楽しんでもらえるように、私ももっと練習しとかないと……蘭もそう思うでしょ?」
蘭「…………」
ひまりの問いかけに蘭はしばし口を閉ざし、自身の考えを巡らせる。
蘭「…………別に、誰が来てもあたし達のやる事は変わらないよ」
蘭「いつだって……どこでだって、あたし達はあたし達、『いつも通り』のあたし達で……ライブでも『いつも通り』、全力で歌う……そうでしょ」
言葉を紡ぐ蘭の眼に、確かな決意が宿る。
巴「ああ……蘭の言う通り、だな」
モカ「あたし達はあたし達の、『いつも通り』の歌を……だね」
つぐみ「うん! ライブ、みんなで頑張ろうね!」
ひまり「えへへへ……うんっ! そうだね!」
蘭の意思に呼応するように、4人の胸中に決意が宿る。
それは、少女達が抱く純粋な想い。
いつだろうと、何処だろうと、誰の前であろうとも変わらない、彼女達が今を生きる輝きだった――。
ひまり「よーし! みんなやるよ! えい! えい!……」
蘭「………………」
巴「いや……それは何か違わないか?」
つぐみ「あまり大声で騒ぐと、お母さんに怒られちゃう……」
モカ「ひーちゃん空気読めてな~い」
ひまり「も~~~~!!! みんなのばか~~~~!!」
顔を膨らませ、ひまりは叫ぶ。
そんな彼女を、4人の優しい笑い声が包み込む。
静かな店内は、今日もいつも通り変わらない、5人の笑い声で賑わっていた――。
―――
――
―
それぞれの学校が終わってからすぐの事、こころ達ハロー、ハッピーワールド!もまた、CiRCLEでライブに向けての調整に勤しんでいた。
こころの思いつきにはぐみと薫が便乗し、それを美咲(ミッシェル)と花音が宥めることの繰り返し。それが、普段のハロハピの練習光景であった。
……だが、その日の練習は普段以上に慌ただしく、和やかな練習となっていた。
【CiRCLE カフェテリア】
美咲「うぅ……今日は本気で疲れた……」
着ぐるみを脱ぎ、私服に戻った美咲はカフェのテーブルで一息つく。
花音「美咲ちゃん、お疲れ様。アイスティー買ってきたんだ、良かったらどうぞ」
美咲「ああ、花音さん。……ありがとうございます」
差し出されたアイスティーを有り難く受け取り、一口流し込む。
程よく冷やされた紅茶が火照った身体をクールダウンさせ、練習で疲れた美咲の身体を内側から癒やしてくれていた。
美咲(そういえば……ここって何故か足湯があったっけ……あとで浸かってみよっかな)
花音「今日のこころちゃん達、すごく楽しそうだったね」
美咲「ええ……こころのやつ、いきなり予定にないことやるんですもん……抑えるの大変でしたよ……」
花音「あははは……本当にお疲れ様だったね……」
美咲「花音さんもありがとうございました、私一人じゃあの子達を抑えるのキツくて……」
花音「ううん、私は大丈夫だよ。でも、ライブまであと3日かぁ……なんだか、あっという間だね」
美咲「……緊張、してます?」
花音「うん……少しだけだけどね」
美咲「まぁ、私も全然緊張してないって言えば嘘になりますけど……あの3人を見てると緊張も吹き飛ぶと言いますか……そんな余裕もないって感じです」
乾いた笑いを浮かべながら、美咲は隣のテーブルで話し込んでいる3人を見る。
こころ「演奏の最後には花火でドーン!ってやって、5人でお客さんの所に飛び込んでいくっていうのはどうかしら?」
はぐみ「うんうんっ! こころん、それ、すっごく面白いと思う!」
薫「ああ、なんて儚く、粋な演出だろうね……」
美咲達の苦労を他所に、こころ達はライブの演出の話で盛り上がっていた。
美咲「こころってば……またとんでもない事言いだしてるし……」
花音「あはははは…………」
こころ「ねえ美咲! 私達の演奏が終わったら、最後にみんなで……」
美咲「却下だよ、花火やった上に客席にダイブだなんて危ないこと、できるわけないでしょ。誰かケガでもしたらどうすんの?」
こころ「……それもそうね、美咲、ありがとっ!」
はぐみ「みーくんすごいねー、こころんが言おうとしてた事、全部分かってたみたいだよ」
薫「フフッ……美咲には、人の心が読めるのかも知れないね」
はぐみ「えーー! すっごーい! みーくんってそんな能力があったの!?」
美咲「いやいや、私にそんな能力ないから。ていうか、あんだけ大きい声で話してりゃ誰だって聞こえるって」
そんなやり取りも交えつつ、こころは再びはぐみと薫と共に演出の案を出し合っていた。
こころ「それじゃあこういうのはどうかしら? 演奏の途中で私とミッシェルが……」
花音「ふふふっ……みんな、本当に楽しみにしてるんだね」
美咲「多分ですけど……ほら、前にパーティーで会ったあの人達……」
花音「うん……紬さんと菫さん、だったよね」
美咲「あのお二人が来てくれるって言ってたからだと思います、こころ達がライブに向けてあんなにはしゃいでるのって」
花音「うん、きっとそうだね……あの人たちだけじゃなく、来てくれる人たち全員の期待に応えられるように、私達も頑張らないとね」
美咲「ええ……そうですね」
互いに美咲と花音は頷き合い、ライブへの決意を固めていく。
そして――。
女の子「ふぇぇぇん……おかーさん、おとーさん、どこにいっちゃったのー?」
カフェからやや離れた街道、そこを、一人の女の子が泣きながら歩いていた。
はぐみ「ねえねえこころん見て! あそこに泣いてる子がいるよ!」
こころ「あら……迷子かしら? みんなで笑顔にしてあげましょ!」
薫「ああ……笑顔パトロール隊、久々の出動だね♪」
こころ「ええ、そうね♪ 美咲! 花音! 行きましょ、笑顔パトロール隊、出動よっ♪」
花音「ふえぇぇ……みんな、ちょっと待ってよ~」
美咲「ちょっとみんなー、いきなり飛び出したらあの子もびっくりするでしょー! おーい、待ちなってばー!」
こころ達は走り出す、一つでも多くの笑顔を咲かせるために。
場所を、人を問わず、こころ達は、今日もありのままでいる。
その笑顔が放つ輝きは、今日もまた、世界を笑顔に変えていくのであった―――。
―――
――
―
ライブに向け、個々のバンドの準備は着実に進んでいく。
それは、青き薔薇の紋章を掲げた彼女達……Roseliaも同じである。
彼女達の練習は連日のように行われており、他のバンドのそれとは比較にならない程の熱が込められていた――。
【某スタジオ】
――♪ ――――♪ ――……♪
あこ「……っ! あっ……」
友希那「ストップ。あこ、また外したわよ」
あこ「すみません! もう一度お願いします!!」
友希那「……これで3回目よ……もっと集中して貰わないと困るわ」
あこ「ごめんなさい……」
あこの謝罪をやれやれと言った様子で受け入れ、友希那は再度マイクの前に立ち、息を整える。
そんな友希那に向け、リサが声を上げていた。
リサ「待って友希那っ、あのさ……一度休憩にしない?」
紗夜「今井さんに賛成です、明らかにパフォーマンスが下がってきているようですし、一旦休憩を挟むべきだと思います」
友希那「リサ、紗夜も……でも、まだ始めてからそんなに時間は……」
リサ「初めたばかりって……もう2時間以上もぶっ通しで練習してんだよ? アタシもそろそろ限界だよー」
燐子「私も……できれば少し……休憩を……」
皆の声に友希那は壁にかけられた時計を見る。
確かにリサの言う通り、既に練習を始めてから2時間半もの時間が経っていた。
友希那「……そう、もうそんなに経っていたのね……全然気付かなかったわ」
友希那が背後のメンバーを見る。すると、確かにメンバー全員の顔に、疲労の色が伺えていた。
このまま無理に練習を続行するのは、却って演奏の質を落としてしまう事に繋がるだろう。
練習を続行したい気持ちを抑え、友希那は3人の提案を快く受け入れていた。
友希那「……分かったわ、このまま続けても悪い流れになりそうだし……少し休憩にしましょう……あこも、さっきは悪かったわね」
あこ「そんな……あこの方こそすみませんでした」
リサ「はいはい、二人ともそのぐらいにしときなって。そうだ、アタシ、クッキー焼いてきたからさ、みんなで食べよ、ね?」
あこ「うんっ、リサ姉のクッキー、楽しみだなぁ♪」
リサの言葉に先程の様子とは一変し、嬉々とした様子で準備に取り掛かるあこだった。
その様子を見た燐子と紗夜もまた、テーブルを並べては休憩の準備に取り掛かっていた。
友希那「…………私もまだまだね……少し、外の空気を吸ってくるわ」
リサ「うん、お茶の用意しておくから、気をつけてね」
スタジオの扉を開け、友希那は席を外す。
普段とは違う、やや疲れを感じさせるその足取りを、静かにリサ達は見守っていた。
リサ「友希那……大丈夫かな……」
紗夜「湊さんに限って身体を壊す程の無理はしないと思いますが……それでも、少し心配ですね」
あこ「最近の友希那さん、特に集中してますよね」
リサ「あ~、それは、たぶん前にあの人に会ったからじゃないかな」
あこ「あの人って、前に桜が丘で会った……」
リサ「うん、あの人と話してから友希那、前以上に音楽にのめり込むようになったみたいでさ……今度、ちゃんと身体休ませるように言っておかなきゃ」
紗夜「集中する事は悪いことではないですが……身体を壊してしまっては元も子もないですからね」
あこ「今度、みんなでどこか遊びに行きたいですね」
リサ「そうだねー、気分転換に旅行なんてのもいいよね♪」
などと言った会話をしつつ、休憩の準備は進められる。
それから程なくして友希那が戻ってきた頃、テーブルの上にはリサのクッキーと燐子の淹れてくれたお茶が並び、疲弊した身体と心を癒やす為の、ささやかなお茶会が開かれるのであった。
あこ「ん~~~~~……リサ姉のクッキーにりんりんのハーブティー、すっごく美味しい~~♪」
リサ「あはは♪ ありがと、たくさんあるからどんどん食べてね。ほーら、友希那も、可愛いネコさんクッキーだよ♪」
友希那「ふふっ……ええ、美味しいわ……ありがとう、リサ」
紗夜「今井さん、今度また、お菓子の作り方を教えてもらってもいいかしら?」
リサ「うん、いつでもいいよ♪ そだ、友希那も今度一緒にお菓子作り、やってみない?」
友希那「私は遠慮しておくわ、リサ程上手にできなさそうだもの」
リサ「こういうのは上手い下手とかじゃないよ、みんなで楽しくやるのが大事なんだって♪」
友希那「ふふふっ……そうね、機会があったら……是非見学させてもらうわ」
リサ「うん、それじゃあ近い内にね♪ 楽しみになってきたなぁ」
―――
――
―
燐子「そうだ……あこちゃん……今度のNFOのイベント……楽しみだね」
あこ「うんっ! ライブが終わった次の日に配信だったよね、確かタイトルは……」
紗夜「『黄昏の剣と蒼き荊棘の共闘』……ですね、私も少し興味があります」
リサ「それって、どんなイベントなの?」
あこ「うん、NFOの世界に黄昏騎士団っていうグループと、荊棘戦士団っていうグループが現れて。陣営を決めてその人達と対決したり、共闘したりして進めていくイベントなんだー」
あこ「……でも、『けいきょく』って、一体どういう意味なんだろう?」
紗夜「荊棘……いばらと読んで、中国語ではバラを差す言葉の事ね。『蒼き荊棘』とはつまり、青い薔薇っていう意味よ」
リサ「へ~、黄昏……つまり夕日と、青いバラの共演かぁ……はははっ、なんだか私達みたいだね」
紗夜「ええ、私達も以前、夕日を表す人達と共演したことがありましたね」
友希那「そうね、懐かしいわ……」
友希那達の脳裏に蘇る、以前繰り広げられた2マンライブ。それは、AfterglowとRoseliaの初めての共闘ライブの事だった。
燐子「あの時の皆さん……凄く……盛り上がってましたね……」
リサ「またやりたいよね、対バンライブ」
あこ「うんっ! お姉ちゃんとライブで演奏、すっごく楽しかったな~」
紗夜「ガールズバンドパーティーが終わったら、また美竹さんに提案してみるのもいいかも知れませんね」
友希那「……もちろん、『FUTURE WORLD FES.』に向けての練習も欠かさずにね」
一同「………………」
友希那のその言葉に、全員の表情が引き締まる。
『FUTURE WORLD FES.』……それは先日、Roseliaが苦労の果てにようやく掴んだ夢への挑戦権であり、Roseliaの目標の一つ。
そのイベントに出場することこそが友希那の以前からの夢であり、今の湊友希那が舞台に立ち、歌い続ける理由だった。
リサ「うん、みんなでようやく掴んだ夢だからね……!」
紗夜「はい、そのためにも、今以上に腕を磨かないと……」
あこ「はい! あこも、もっと、もっと練習します……いつか、お姉ちゃんにだって負けないぐらい……上手に……!」
燐子「私も……更に上を目指さないと……」
友希那「ええ……でもまずは、ガールズバンドパーティーを成功させることが先決よ、ライブまであと2日、みんな、最後まで気を抜かずに頑張りましょう」
友希那の言葉に頷き、Roseliaの5人は決意を込めて立ち上がる。
リサ「うん、さーってと……練習頑張ろっか」
あこ「へへへ、リサ姉のクッキーとりんりんのお茶のおかげであこ、HP満タンだよ♪」
燐子「ふふっ……あこちゃん……ありがとう……」
紗夜「湊さん、曲の出だしはどうしますか?」
友希那「そうね、もう一度、さっきの所から始めましょう」
再び彼女達は楽器を手に、音を紡ぐ。
少女達の魂が、輝きが……楽器を、喉を通してスタジオ中に響き渡る。
頂点を目指す少女達が放つその情熱の輝きは、今日も強く、また鋭く……研ぎ澄まされていく――。
―――
――
―
放課後になり、彼女達はすぐさま一つの場所を目指し、歩み始める。それが彼女達の、ここ最近の日常だった。
――Poppin'Partyの5人は、今日も市ヶ谷有咲の蔵に集まり、練習に明け暮れていた。
【市ヶ谷家 蔵】
――♪ ―――♪
香澄「やったぁー! 今の演奏、完璧だったね!」
沙綾「うんっ♪ みんな、歌も演奏も大丈夫だったと思うよ」
りみ「通しで演奏、緊張したぁ~……」
有咲「ああ、もう衣装も仕上がったし、あとは明日に備えてみんな、身体を休めておいた方がいいんじゃねーか?」
たえ「有咲の言う通りだね……どう香澄、大丈夫? 疲れてない?」
香澄「だいじょーぶ! 平気だよ、おたえ、ありがとうっ♪」
たえの言葉に香澄は元気良く返す。
ここ数日、学校生活と並行して練習しているにも関わらず、香澄は微塵も疲れた様子もなく、練習に向き合っていた。
りみ「ふふっ、香澄ちゃん、すごく気合入ってるね♪」
香澄「うんっ! 唯さんも見に来てくれるって言ってたし、もう明日が楽しみで楽しみで……♪」
沙綾「あははっ、香澄、ホント唯さんのことになると元気だよね」
有咲「元バンドのギタリストでしかもメインボーカル……まさに香澄からすりゃ大先輩ってとこだもんなぁ」
たえ「うん。そのおかげで、前以上に香澄の演奏、上手になったよね」
沙綾「そうだね、難しいリフもどんどん弾けるようになってたし……香澄、この1週間で凄く成長したと思うよ」
有咲「香澄ー、分かってると思うけど、お客さんは唯さんだけじゃないんだからなー、そこんとこ、ちゃんと覚えとけよー?」
香澄「だいじょーぶだよっ、唯さんだけじゃなくって、聴きに来てくれるお客さん全員のためにも頑張るからさっ!」
有咲「ならいいんだけどな……」
元気に返す香澄を見やりつつ、やや寂しそうに有咲はぼやいていた。
たえ「やっぱり有咲、少し妬いてる?」
有咲「だから誰も妬いてねえっての! ……ったく、なんか一気に疲れて来た……なあみんな、明日に備えて、今日はもう早めに練習切り上げようぜ」
香澄「うん、そうだねっ」
沙綾「私、今日もいっぱいパン焼いてきたから、みんなで食べよっか」
りみ「わぁ……沙綾ちゃん、いつもありがとう♪」
有咲「私、お茶でも淹れてくるよ。おたえ、手伝ってくんねーか?」
たえ「うん、いいよ♪」
有咲の提案に乗り、全員で休憩の準備に取り掛かる。
和やかな空気が蔵全体に流れ込み、安らぎに満ちた一時が訪れる。
それから程なく、香澄と沙綾は仲良く談笑をし、その傍らではりみとたえが課題の続きをやったりと、各々が自由に過ごしていた時の事だった。
香澄「それでね、その時あっちゃんがね~」
沙綾「あはははっ、そんな事があったんだ」
りみ「ねえ有咲ちゃん、数学のこの部分なんだけど……教えてくれないかな?」
有咲「どれ、ちょっと見せてみ……ああ、ここか、これはこのxの所をyでくくってだな……」
りみ「あ~、そっか、うん! 分かったよ、ありがとう有咲ちゃん♪」
たえ「有咲、この漢文なんだけど……」
有咲「あ~~、ちょっと待て、一旦ゲーム中断する」
たえとりみの声に有咲はスタートフォンの画面を閉じ、二人の宿題に向き合うことにする。
こうして各メンバーの勉強を見ることも、優等生としての有咲にはよくある光景の一つだった。
そして、ひとしきり宿題も終えた頃――。
有咲「あーくそ、またフルコンミスった……」
たえ「ねえ有咲、さっきから何のゲームやってるの?」
有咲「ああ、音感の鍛錬になると思って音ゲーをな」
有咲が画面を見せながらたえに返す。
有咲がプレイしているゲーム……それは今、学生世代を中心に流行っているスマートフォン専用の音楽ゲームだった。
たえ「これ、今テレビでCMやってるやつだね」
有咲「ああ……最初は簡単だと思ってやってたんだけど、やってみたらなかなか本格的でな、ストーリーも結構面白いし、結構楽しくってさ」
香澄「それ、クラスの子もやってたよ、私も前から興味あったんだ~」
りみ「そのゲーム、前にテレビで特集してたけど、結構難しそうなんだよね」
沙綾「へ~、今はこういうゲームが流行ってるんだね」
有咲のゲームに興味津々と、全員がスマートフォンの画面を覗き込んでいた。
たえ「あ、この曲知ってるよ、昔流行ったアニメの歌だよね?」
香澄「懐かしいなー、よくあっちゃんと一緒に見てたよ、このアニメ」
有咲「結構有名どころの歌もカバーされてるからなぁ。だからなのか、プレイヤー層も小学生から大人まで、結構幅広いんだと」
たえ「ふ~ん、ねえ有咲、ちょっとやらせてもらってもいいかな?」
有咲「別にいいけど……」
たえは有咲からスマートフォンを受け取り、有咲の指示に従いながら画面を操作する。
有咲「演奏だけど、青いシンボルはタップで、緑はラインに沿ってスライド、赤はタイミングに合わせてフリックさせて、黄色は必殺技の発動で……」
たえ「……? うん、よくわからないけど、とりあえずやってみるよ」
ゲームの簡単なレクチャーを受けたたえは『フリーライブ』と表示された部分をタップする。
その画面には、ゲーム内に収録されている、様々な曲が並べられていた。
たえ「あ、この曲懐かしい、これにしよっと」
たえの指が一つの曲で止まる。
最終更新:2019年12月15日 08:12