有咲「っておいおたえ、そのレベル、私もまだフルコンできないぐらい難しいレベルなんだけど……」

たえ「え、そうなの?」

 そして、EX26と表示されたレベルの曲が始まり……。


たえ「えっと、こう……かな、あ、できた♪」

 有咲の心配をよそにリズムに合わせ、たえは的確にゲームを攻略していく。

 流れるように上から降ってくるシンボルをはじめ、慣れていても躓くような変則的な難所も容易くクリアし、着実にたえはコンボを繋げていく。


有咲「うわ……あの難所もあっさり攻略しやがった」

たえ「始めてやってみたけど、結構楽しいね♪」

 そのまましばらく、たえはコンボを途切れさせることなくゲームをクリアした。

 曲を完走させたゲーム画面には『FULL COMBO!』という表示と共にハイスコアが表示されており、有咲は眼を丸くしてその画面を見ていた。


有咲「初見でフルコンとかマジかよ……おたえ、本当にこのゲーム初めてなのか?」

たえ「うん、似たようなゲームならゲームセンターでたまにやるぐらいだけど」

香澄「おたえすっごーい! ねえねえ有咲、今度は私にもやらせてみて♪」

有咲「別にいいけど……ちょっ! 香澄、近いっての!」

 まるで抱き着かんかと言わんばかりに距離を詰める香澄に向け、有咲は顔を赤面させながら声を上げていた。

有咲「あ、そういや……イベガチャ今日が最終日だったな……おたえのおかげでスターも溜まったし……一応回しとくか」

香澄「可愛いキャラクターがいっぱいいるねー、ねえねえ、今度は何の画面なの?」

有咲「ああ、イベントガチャだよ、今日が最終日だから、回しとこうと思ってな」

香澄「……ガチャ?」

有咲「簡単に言えばこのゲームでできるクジみたいなもんだよ、欲しいキャラがいるんだけど、これがなかなか引けなくてな~……」

香澄「へぇ~、そうなんだぁ」

 ぼやきながら、有咲はイベントガチャの部分をタップする。


香澄「…………♪」

有咲「わかった! わかったからそんなに見るなって! 香澄、やってみたいんだろ?」

 眼をキラつかせながら自分を見つめる香澄の視線に赤面し、有咲は香澄にスマートフォンを手渡していた。


香澄「えへへっ♪ うんっ! 私にまっかせて! こう見えて、クジ運は結構良いんだよっ♪」

有咲「初めて聞いたぞ……まぁいっか、んじゃ頼むわ」

香澄「ここを押せばいいの?」

 有咲の言葉に従いつつ、香澄の指が10回ガチャの部分をタップする。


有咲「ああ、ま、そうそう当たんねえけどな~」

香澄「わ~、虹色だー、キレイだね~♪」

有咲「ってマジかよ!?」

 香澄の言葉に有咲は食い付くように画面を覗き込む。

 見れば、画面上には虹色のサイリウムが揺らめいており……レアキャラゲットの確定演出が表示されていた。

有咲「いやいやいや……いくら確定してるからってそうそう当たったりは……」

 どうせ被りだろうと思う反面、でも香澄ならもしかして……とも期待しつつ、有咲はガチャの結果を見守る。

 すると……。


有咲「おおおおお!! ☆4来た! しかも私が一番欲しかったキャラ!!」

香澄「あはははっ、有咲、すっごく嬉しそうな顔してる♪」

沙綾「なんていうか……この子、香澄みたいなキャラクターだね」

りみ「うんうん、声の感じとか、このポーズも、香澄ちゃんにそっくりだね~」

たえ「有咲が一番欲しかったキャラって、香澄の事だったんだね」

香澄「えへへへ♪ いいよ、有咲にならいつ貰われても平気だよ♪」

有咲「…………っっ! ご、ごご誤解を招くような言い方すんじゃねえ!! ……ああでも……香澄……あ、ありがとな……」

香澄「ううん、どういたしまして♪」

 顔を紅潮させつつ、有咲は香澄に感謝の言葉を告げる。


香澄「えっと……んじゃあ、私この曲やってみよっと♪」

りみ「あ、有咲ちゃん、その……わ、私もやってみてもいい……かな?」

たえ「私も、もう一度やってみたいな♪」

有咲「ああ、つーか、いちいち許可取らなくてもいいんだけど……沙綾はどうだ?」

沙綾「ううん、私は平気、みんなのやってるのを見てるだけで楽しいよ」

 そして、各々がスマートフォンを回しながら、ゲームに興じていた。

 それはライブの前日とは思えない程にリラックスした空気であり、ライブ前の心境としては、この上なく理想のコンディションでもあった。

有咲「ったく……おたえはあっさりフルコンするわ、香澄は余裕で☆4引くわ……このゲームを長くやってる私は一体……」

有咲「でもま、こういうのも悪くないのかもな……」

香澄「ねー有咲ー、このスターショップってなーにー?」

有咲「ちょっ……! それは課金の画面だ!! やめろーーー!!」

 みんなで仲良くゲームで遊ぶ、そんな日があってもいいと思いつつ、有咲は4人と共に笑い合う。

 誰よりも、何よりも音楽を愛する少女達の純粋な輝きは、今日もまた、5人の心を照らし続けていた――。

―――
――

香澄「そうだ! あのさ、帰る前に、みんなでCiRCLEに寄ってかない?」

有咲「いいけど……何か忘れ物か?」

香澄「そうじゃないんだけど……みんなで見ておきたいんだ、明日、私達が歌う場所を……」

沙綾「うん、いいと思うよ。ライブ前だし、気持ちが引き締まりそうだもんね」

たえ「じゃあ、もう遅くなってきたから、早めに出よっか」

りみ「うんっ♪」

 自分達の明日の舞台に向かい、少女達は歩き出す……。

 その先で思いがけない再会を果たせる事になるとも思わず、少女達の足はCiRCLEへと進んでいた。

―――
――


  • ライブ前日 放課後ティータイム-

 香澄達が練習に励んでいたその時を同じくして、桜が丘のライブスタジオでは、放課後ティータイムの最後の練習が行われていた。

 社会人として仕事をこなしながらの練習は彼女達に想像以上の負担を強いていたが、それでも彼女達はめげずに集まり、ライブに向け、日々奮闘していたのだった。


 ――♪ ~~~♪

 最後のイントロを終え、唯が大きくフィニッシュを決める。

 そして音が鳴り終わったと同時、ステージ上の全員が大きな達成感を感じていた。


律「よっしゃああ!!! どうにか最後まで演奏しきったぞ!!」

澪「危ない所も多かったけど……なんとか当日までに完成できたな……あああ……良かったぁぁぁぁ……」

唯「わ……私、もうヘトヘト……」

梓「私も……ここまで大変だとは思いませんでした……」

紬「ええ……でも、これで終わりじゃないわ……」

梓「はい、いよいよ明日……ですもんね」

 流れる汗を拭いながら、明日への期待に胸を膨らませる5人だった。

 そんなステージの上の5人に向け、その練習風景を見ていた憂達からも労いの声が飛ぶ。

憂「皆さん、お疲れ様でしたっ!!」

純「梓も澪先輩もすっごい演奏だったなぁ……本当に久々なのかって思うぐらい凄かったですよ!」

菫「皆様お疲れ様です、すぐにお茶をご用意いたしますので、こちらへどうぞ」

直「先程の演奏、録画しておいたので見てみますね」

 そして、ステージを降りた唯達の眼前には美味しそうなお菓子とお茶が並び、かつて、幾度となく過ごした放課後が始まる。

 憂の手作りお菓子に菫の淹れるお茶……それは過去に、梓達わかばガールズが過ごしていた日の光景でもあった。


唯「ん~~~……憂のお菓子……お、おいしひ……」

憂「うんっ♪ たくさんあるからいっぱい食べてね、お姉ちゃん♪」

律「はははは……唯のやつ、泣きながら食べてる……」

梓「唯先輩と憂のこのやり取りも……凄く懐かしいですね……」

純「スミーレの淹れてくれたお茶も久々だなぁ……前よりもずっと美味しくなってるね」

紬「菫ちゃん、確かティーコンシェルジュの資格を持ってるのよね」

菫「はい、お陰様で、琴吹家にいらっしゃる来賓の方々にもご好評頂いております」

澪「さすが、琴吹家のメイド……」


直「すみません梓先輩、律先輩……動画のこの部分なんですけど……」

梓「あ……私も気になってたんだ、入りが少し甘かったよね」

直「ええ……私もそう思いまして」

律「ん~、だったら……唯のギターに合わせて、そこから梓が繋げてみるってのはどう?」

梓「そうですね、その方が良いかも知れませんね」

律「じゃあ、私もちょっとアレンジ変えてみっか……」

 直のノートパソコンを見ながら、音楽を生業としたプロによる、細かいチェックが行われていた。

 そんな3人を、純は尊敬の眼差しで見ながら呟く。

純「凄い……プロの会話って感じがする」

唯「りっちゃんも凄いよね、普段はあんななのに、音楽の事になると顔つきが変わるんだもん」

律「おーい、聞こえてるぞー」

澪「私もここ数日律と一緒に練習してきたけど、仕事の事になると急に真面目になるんだから驚いたよ」

紬「ええ……みんなで集まって練習してた時もよく携帯持ってお外でお話してたみたいだし、凄いと思うわ」

憂「芸能界のお仕事って、大変なんですね……」

律(だーから、聞こえてるっての……照れっからあんま褒めんなよな……)

 照れるような表情で律は頭をかく。

 尚も続けられる周囲の称賛の声を聞こえない振りをしながら、律は演奏のチェックを進めていた。

 そして、その作業も一区切りついた頃。


澪「いよいよ明日か……なんていうか、あっという間だったな……」

唯「うん……大変だったけど、でも、凄く楽しかったよね」

紬「……お祭りの前の楽しさ、そんな感じのする毎日だったわね」

律「個人的には、もうしばらく忙しいのは勘弁だなぁ……疲れすぎてお腹いっぱいだよあたしゃ」

梓「私もです……でも、唯先輩の言う通り、とても充実した1週間だったと思います」

菫「私、学生の頃の学園祭を思い出しました」

律「あ、それ私もだよ、クラスの準備に部活の準備……両方こなしながらもちゃんとできてたもんな、昔は」

唯「意外と、身体って動くもんだよね~」

律「べっつに、私達だってまだおばさんって呼ぶような歳でもないだろ……そりゃあ、明日の演者に比べたらかなり歳食ってる方だとは思うけどさ」

澪「はははは……確かにそうかも」

 律の声に笑いながら、澪は明日のことを考える。

澪「うん、確かに忙しかったけど楽しかった……でも、それも明日で終わりだと思うと、なんだか少し寂しい気もするな……」

律「みーお、それは違う、明日で終わりなんかじゃないよ」

唯「……うん、明日が終わったらまたそれぞれの生活に戻っちゃうけど、でも、それで終わりじゃないよね」

紬「ええ……またみんなで集まって、こうして演奏ができる日もきっと来るわよ」

梓「いつになるかは分かりませんけど、またやりたいですね……」

澪「みんな……」

澪(そうだ、明日で終わりじゃない……終わりにさせるのは、まだ早いよな)

 皆の言葉に、落ち気味だった気分をどうにか澪は食い止めていた。

律「でもまさか、最初はビビってライブに出るの渋ってた澪からそんな言葉が聞けるとはねぇ~」

澪「しょ、しょうがないだろ……? あの時はまだ決心がついてなかったんだし……」

律「ふふっ、けど、そんな澪をそこまで本気にさせたAfterglowの歌かぁ、パスパレのみんなとも仲良いみたいだし、確かに気になるよなぁ」

澪「私もライブを見たわけじゃないからまだはっきりとは言えないけど、あの子達の歌はきっと……ううん、絶対にみんなも盛り上がれる歌だと思うんだ」

律「Pastel*Palettesだって負けないぞー、澪もあの子達のライブを見れば絶対に盛り上がれるさ」

梓「……ふふっ、Roseliaの人達がどんな演奏をするのか、私、楽しみです」

紬「私も、こころちゃん達の……ハロー、ハッピーワールド!のライブ、今から楽しみだわ……♪」

唯「私、明日みんなでやる演奏もだけど、香澄ちゃん達の歌も楽しみなんだ~、Poppin'Partyのみんなにまた会えるの、楽しみだなぁ」

 皆が皆、明日のライブと、そのライブに出演する少女達の事を思い浮かべていた。


憂「ふふっ、お姉ちゃんたち、凄く良い顔してるね」

純「うん、私も、明日が楽しみになってきたよ」

菫「お姉ちゃん……皆さん、頑張ってくださいっ♪」

直「私達も、応援してます!」

 唯達と同じように、憂達4人もまた、明日への期待に心を踊らせていた。

―――
――

澪「それじゃあ、今日は早めに帰って、身体を休めとくか」

律「そうだなぁ……あ、待って、その前に私から一言いい?」

一同「……?」

 帰りの支度を始める澪を制し、律は立ち上がり、優しい眼差しを全員に向けつつ声を上げる。


律「みんな聞いてくれ。……もう私達にやれることは全部やりきったし、あとは明日、全部ぶつけるだけだ」

律「唯、澪、ムギ、梓……今日までお疲れさん、仕事も忙しい中、本当に頑張ってくれたと思うよ」

唯・紬「りっちゃん……」

澪「律……」

梓「律先輩……」


律「菫ちゃんや直ちゃん、憂ちゃんに純ちゃん達も本当にありがとう、こうして練習に付き合ってくれたり、色々と手伝ってくれたりして、凄く助かったよ」 

律「きっと、誰か一人でも欠けてたらこうはならなかったと思うんだ……だから私……いいや、私達、明日は全力で頑張るから……」

律「みんな……明日は、盛り上がってこーぜえっっ!!!」

一同「――うんっ!」

 その声に合わせ、皆が立ち上がり、大きく頷く。

 律の言葉……それはまさに、まさに宣誓と呼ぶに相応しい鬨の声だった。

 放課後ティータイムのリーダーとして、桜が丘高校軽音楽部の部長としての宣誓……。

 その言葉に込められた力は、疲労困憊にあった全員の気力を最大限まで引き上げ、明日への期待に大きく拍車をかけていた。


 そして、各々が帰り支度を済ませ、車で帰宅する為に駐車場へ向かい、歩いていた時。

澪「……まさか、律があんな事を言うだなんて思わなかったな」

律「ふふっ、あーゆー鼓舞はよくやるんだよ、私……まぁ、ライブ前の儀式みたいなもんだよな」

梓「パスパレの皆さん、幸せですね……こんな良い先輩にマネージャーやって貰えてるんですね」

紬「ええ、りっちゃんのおかげで私も、元気が出たわ……明日は頑張りましょうね」

律「へへへっ……ああ、楽しみだなぁ、明日の打ち上げのビールはきっと最っ高に美味いぞ~♪」

澪「……ふふっ、ああ、そうだな♪」


唯「あ、ごめんねみんな。私、ちょっと寄りたい所があるんだ」

澪「ああ……分かった。唯、明日は朝イチで花咲川に行くんだから、遅れるなよ?」

唯「うんっ! 大丈夫! 絶対に遅れずに行くから! じゃあ、また明日ね~!」

 別れの挨拶と共に唯は駅方面へ向かい、駆けていく。

 その背中を見送りながら、律達はそれぞれの車に乗り込んでいた。


澪「唯のやつ、一体どこに行くんだろう?」

憂「さぁ……お仕事の事で何か思い出したのかなぁ」

梓「……そういえば、本当に良かったんでしょうか、ライブへの参加のこと……演者の人達に言わなくても……」

律「ああ……いいんだよ、みんなライブの演者の子達とは知り合いなんだし、ならサプライズで驚かせるってのも面白そうだろ?」

澪「律のこういう子供みたいなところ、昔から変わってないよな」

憂「ふふっ、さっきの鼓舞もそうでしたけど、そういう所も律さんの魅力なんだと思います♪」

律「はははっ……今日はみんなよく褒めてくれるな~」

 そして、車は走り出す。

 そのハンドルを握る律の気分と同じように、軽快に夜道をひた走るのであった。

―――
――

【ライブハウス CiRCLE前】

 放課後が解散してからしばらく。

 明日のライブ会場、CiRCLEの前には唯の姿があった。


唯「なんとなくだけど来ちゃった……明日ここで、みんなとやるんだよね……」

 ライブハウスを前に、唯は一人、その決意を固めていた。


唯「あ……まりなちゃん」

 その時、フロントにいるまりなの姿を見かける。

 まりなに声をかけようと唯がドアの前に立ったその時、明日のライブの告知看板が目に入った。

 チョークで手書きされたそれにはRoselia、Afterglow、Pastel*Palettes、ハロー、ハッピーワールド!らの名前の他、明日出演する多数のバンドの名前が綴られており……。

 その中には、Poppin'Partyの名前と共に『スペシャルゲスト緊急参戦決定!』という煽り文句もはっきりと記されていた。


唯「ふふっ……スペシャルゲスト……かぁ♪」

声「あれ……? 唯……さん??」

 微笑みながらその看板を見ていた唯に向け、背後から声が投げ掛けられる。

唯「……? あ、香澄ちゃん♪」

 声に振り向くと、そこにはPoppin'Partyの全員が驚いた表情で唯の姿を見ていた。


香澄「びっくりしたぁー……唯さん、こんばんわっ♪」

有咲「どうも、唯さん、お久しぶりです」

沙綾「唯さんこんばんわ、先日はどうもありがとうございました♪」

りみ「でも、一体どうして花咲川に?」

たえ「何かお仕事の関係……ですか?」

唯「あ~いや……うん、ちょっと用事でね……それで明日、香澄ちゃん達、ここでライブやるんだなって思って、寄り道してたとこなんだー」

 出演について律に口止めされていた事を思い出し、咄嗟に話を誤魔化す唯だった。


唯「香澄ちゃん達は? もしかして……こんな遅くから練習?」

有咲「いやいや、さすがにそんな事は……、まぁ、香澄の思い付きで立ち寄っただけですよ」

香澄「明日になる前に一度……私達が歌う舞台をみんなで見ておきたいと思ったんです」

沙綾「ここに来たら、気が引き締まるって思って来たんですけど……でもまさか今日、ここで唯さんに会えるとは思いませんでしたよ」

唯「ふふっ、そうなんだ……」

唯(香澄ちゃんたちも、私と同じ事考えてたんだね……♪)

 そして、次第に談笑の雰囲気も夜風に流れたかのように静まり返った頃……。

香澄(――明日……ここで、唯さんに見てもらうんだ……私達の歌を……!)

唯(―――明日……ここで、香澄ちゃん達にも見てもらうんだね……私達の歌を……)

 胸に抱いた決意を確かめるように……唯と香澄達は、ただ無言でCiRCLEの建物を眺めていた。


唯「香澄ちゃん、明日のライブ……期待してるね♪」

香澄「……っ! はい! 私達、精一杯歌いますから、唯さんも応援、よろしくおねがいしますっ!」

唯「うんっ! 有咲ちゃんも、おたえちゃんも、りみちゃんも沙綾ちゃんも、みんな、がんばってねっ!」

一同「はーいっ♪」

 唯の声に明るい返事で応える香澄達だった。


香澄「それじゃ唯さん、お先に失礼します。明日、楽しみにしてて下さいね! あー、早く明日にならないかなぁ~、ねー有咲っ♪」

有咲「分かったからいちいち抱きつくな! ったく、浮かれるとすぐコレなんだから……」

唯「ふふっ……ほんと、みんな仲良しさんだねぇ」

 香澄達は足取り軽く帰路につく。

 その姿を静かに見送る唯に向け、今度は店内からまりなが声を掛けていた。


まりな「……あれ、唯ちゃん??」

唯「あ、まりなちゃん、お疲れ様~」

まりな「あれは香澄ちゃん達……そっか、そういえば唯ちゃん、香澄ちゃん達とは知り合いだったんだよね」

唯「うん、前に職場体験で私の務めてる幼稚園にあの子達、来てくれた事があって、それでね」

まりな「そうなんだ……あははは、世の中って案外狭いんだね~」

唯「そうだねー、もうびっくりしちゃってさ」

まりな「あ、よかったら入ってく? 立ち話もなんだし、良かったらお茶ぐらい飲んでってよ」

唯「ううん、私ももう帰るところだったから大丈夫だよ、ありがとね♪」

まりな「そっか……ねえ唯ちゃん、ガールズバンドパーティーに出演を決めてくれて……私達に力を貸してくれて、本当にありがとうね」

 唯に向け、まりなは深く感謝の言葉を述べていた。


唯「そんな……私の方こそお礼を言わせて! またみんなで……放課後ティータイムで演奏できるきっかけを作ってくれて、こらちこそありがとうっ!」

まりな「うん……明日……あの子達だけじゃなく、放課後ティータイムにも期待してるからね」

唯「……任せて、あの子達にも負けないぐらいの演奏をしてみせるよ」

唯「りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、凄く頑張ってたんだ……だから、明日はきっと最高のライブになるよ」

まりな「うん……楽しみにしてる、頑張って……ね」

唯「……へへへっ、うんっ♪」

 笑顔で言葉を発する唯のその瞳には、確かな決意と意思があった。

 明日への期待に胸を躍らせながら、唯は足取り軽く、家路を進む。


 そして……皆が待ち望んだこの日が遂にやってくる。


 彼女達の……少女達の様々な思い、希望、期待に満ち溢れたライブ。


 放課後と五色の輝きが交差するライブ……ガールズバンドパーティーは、いよいよ開催の日を迎えるのであった――。



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最終更新:2019年12月15日 08:14