#6.放課後と輝きの交錯
まさか、あの時の再会がこんなにも素晴らしい事になろうだなんて、あの時は誰にも想像できなかっただろうな……もちろん、私にだって想像できなかった。
些細な偶然が折り重なり、そしてその偶然は、やがて運命と呼べる程に膨らんでいき、私達を巻き込んでいった。
もうすぐ、始まる。
私達の放課後が、始まる――!
【花咲川駅前】
ガールズバンドパーティー当日の早朝、花咲川の駅前には。始発電車で移動を済ませた唯達5人の姿があった。
唯「ん~~……ねむい……」
律「おい唯、しっかりしろー」
澪「これからリハなのに、大丈夫か?」
梓「ほら、唯先輩、起きて下さい」
紬「唯ちゃん、おきて~」
唯「ん~~~…………」
眠い目を擦りながら歩く唯を引っ張りつつ、律達は人通りの少ない道を歩き、CiRCLEへと向かう。
彼女達が早朝から集まった理由、それは、主役の少女達が集まる前に、ライブに向けたリハーサルを行うためであった。
【CiRCLE ステージ】
まりな「や、みんなおはようー♪」
律「よ、まりな、今日は宜しくな」
まりな「うんっ♪ こちらこそよろしくね」
唯「んんん…………うわぁ~、広いステージだね~」
紬「唯ちゃん、やっと目が覚めたのね」
唯「うんっ♪ えへへへ、ステージ見たら一気に目が覚めちゃった」
律「唯も起きたことだし、それじゃー早速準備に取り掛かるか」
律の声に合わせ、各々が楽器の調整に取り掛かる。
そして数分後、演奏の準備が完了し、ステージ上にて放課後ティータイムのリハーサルが開始された。
まりな「それじゃあみんな、早速だけどお願いね」
律「ああ……みんな行くぞ。ワン、ツー、スリー!」
――♪ ―――♪
楽器の具合、音の反響や照明のチェック、各メンバーの立ち位置など、細かい点を確認するようにリハは続けられる。
途中、梓と律の確認により、中断を挟む場面も見られたが、それでも順調にリハーサルは行われていった。
そして1時間程の時が流れ、5人の最後の曲も問題なく終えられた頃……。
――♪ ~~♪
唯「ふぅ……どうにか演奏できたね」
澪「ああ、でも安心するのはまだ早いぞ、本番はあと数時間後なんだから」
律「ん~……4曲目の照明、もうちょっと落としても良かったかな?」
梓「はい……でも、あまり暗すぎると手元が見えづらくなりそうですよね」
紬「私は平気だけど……澪ちゃんや唯ちゃんは大丈夫かしら?」
入念にチェックを重ねる5人に向け、曲を聴き終えたまりなから、称賛の声が上がる。
まりな「みんなお疲れさまー。凄いね……本当にここまでやってくれるなんて」
律「ふふ……感動すんのはまだ早いぞ~、なんたって本番はこんなもんじゃないからな~」
唯「うんうん、本番はもっと凄くなるよ♪」
まりな「うんっ、楽しみにしてるね」
律「じゃあ、私はもう少し残ってまりなと話詰めとくから、みんなは先に上がっててくれ。あんまりここに長居して、あの子達と鉢合わせたらマズいだろうしさ」
澪「そうだなぁ……RoseliaやAfterglowのみんなももう来るかも知れないし、私達は先に上がってようか」
唯「うん、それじゃありっちゃん、まりなちゃん、また後でね~♪」
紬・梓「お疲れさまでしたー」
そして律を残し、唯達4人は退出する。
律とまりなが話を進めていたその10分後、澪の予想通り、早速一組のグループが楽器を手にスタジオの扉を開いていた。
友希那「おはようございます。Roseliaです、今日は宜しくお願いします」
律「っと、もう来たか……えらく早いな……」
まりな「あ、友希那ちゃん、おはよー。今日も一番乗りだね」
友希那「別に……ライブ当日の準備に念を入れるのは演者として当然の事ですから」
まりな「うんうん、感心感心。今日はよろしくねー♪」
律(ははは……すげぇやる気……)
まだ開場まで3時間以上も時間があるというのに、彼女達は既に準備万端と行った様子でスタジオに入っていた。
そんな友希那達……Roseliaの意識の高さに感心しつつ、律も退席を決めようと入口に向かう。
律「それじゃあまりな、後はよろしくね」
まりな「うん、それじゃあね」
律「っと、ちょっと失礼……」
リサ「あっ、すみません……」
友希那達の横を通り、律はスタジオを後にする。
そんな律の姿を片目で追いつつ、友希那達は本番前の最終チェックに臨んでいた。
リサ「……? あの人は……」
友希那「リサ、集中して」
リサ「あ、うん……ごめん」
律(さすがRoselia……貫禄もすげえな……)
単に隣を通り過ぎただけでも伝わる、Roseliaの気迫……彼女達が纏うその気迫には、大人の律ですら威圧されかねない程の雰囲気が滲み出ていた。
そんな彼女達に漂う空気に一瞬だけ身が竦むを感じつつ、律は唯達との合流のため、CiRCLEの建物を後にする。
―――
――
―
【ファミリーレストラン】
朝食がてらに最後の打ち合わせをしようと集まったファミレス、そこに放課後ティータイムの姿はあった。
まだ注文は済ませていないのだろう、各々の前には、未だに開かれたままのメニューが置かれていた。
律「よ、みんなお待たせ」
唯「りっちゃん、お疲れ様ー」
律「いやー、さっきスタジオでRoseliaと擦れ違ったけど……すげー迫力だったよ……ライブ前なのにあの気迫……もうプロ顔負けって感じでさ」
梓「……そんなに凄かったんですか、友希那さん達……」
律「ああ……ありゃー相当やべえぞ……私達も気合い入れて行かなきゃな」
澪「……律が珍しくやる気になってる」
律「あたしゃいつでもやる気十分だってのっ……てゆーか、腹減ったから早く何か頼もうぜ~」
紬「あ……私達はもう注文決めたのよ、りっちゃんは何にする?」
律「ああ、あたしカツ丼にする」
朝食メニューとは別にあるメニューを開き、律は即答していた。
澪「朝からよくそんな重いもの食べれるな……」
律「早朝から深夜まで食い続けられる胃袋がなきゃ人気アイドルのマネージャーは務まらないんだよ」
唯「芸能関係のお仕事って大変なんだねぇ……」
そして、呼び出しボタンを推し、店員にオーダーを済ませてからしばらく。
朝食を済ませた彼女達は、最後の打ち合わせを始めていた。
唯「それにしても……本当に凄いライブだね、朝から夕方までずっと続くなんてさ」
まりなから受け取ったライブのパンフレットを手に、唯は率直な感想を述べていた。
梓「はい……大人ならともかく、高校生が主体のライブでここまで長丁場なのも珍しいですね」
律「代表の5バンドなんかは特に凄いよな……朝の部に昼の部と出演数も多く割り振られてるし……一体1日に何曲歌うんだ?」
紬「それだけ……代表のバンド演奏には期待が持たれてるって事なのね」
律「ああ……出演するバンドの数も凄いよなー、この辺のガールズバンド、ほとんど全員集合してんじゃないかってぐらいの数だ」
澪「こ、これだけ大勢のバンドがいる中で、スペシャルゲストとして出るんだよな、私達……」
澪の声色が僅かに震える。
今更緊張で怖気付いたという訳ではないが、それでも……今日のライブに出演するバンドと、そのバンドを応援をするために駆けつけた人の数を想像するだけで、僅かに身が縮むような感覚がしていた。
そんな澪の様子をよそに、他の4人はライブへの期待をより強めていた。
唯「ふふっ♪」
紬「うふふふっ♪」
律「へへっ……唯もムギもやる気だなぁ」
唯「うん♪ これだけ多くの人の前で演奏できるって考えると、なんだか楽しくなっちゃってさ」
紬「私もよ……私達の演奏を、私達が一番輝いてた頃の音をみんなに聴かせてあげられるのが、凄く嬉しくって」
律「はははっ、まー、ここで怖気づいてちゃ私ららしくないしなー、この日の為に散々練習もして来たんだし、今更緊張も何もないよなぁ」
梓「はい……精一杯、やってやるですっ」
澪「私も……もう怖くないぞ……ライブ会場の全員に見せてやるんだ、私達の演奏を……!」
拳を握り込み、澪は決意を固める。
そんな澪の姿に感化されたのか、唯と律は再びメニューを手に叫んでいた。
律「よーし! ライブの途中でバテない為にもまだまだ食うぞ~! トンカツ定食追加だぁ!」
唯「私もっ! チョコレートパフェもういっちょ!」
梓「……あの、お二人共……気合の入れ方、何か間違ってませんか……?」
そうして、勢いのままにオーダーを済ませ、唯と律の2人は並べられた定食とデザートを瞬く間に平らげる。
開場まで残り3時間……刻一刻と、着実にその時は近づいて来ていた。
―――
――
―
【CiRCLE】
一方、所変わってCiRCLEには、既に数多くの演者達が揃い、相次いで開演前の準備とリハーサルに勤しんでいた。
特に大きなトラブルもなく開演準備は進められ……それからしばらく、各バンド共にリハーサルも一通り済んだ頃……。
まりな「はーい! それじゃあみんな、一度フロアに集まって!」
一同「はーーい!!」
まりなの声に、今回の主役であるバンド全員がステージのあるフロアに結集していた。
まりな「遂にこの日が来たね……みんな、本当にありがとう!」
香澄「はい!! 私達も、この日を凄く楽しみにしてました!」
こころ「私もよ♪ まりな、今日は笑顔の溢れるライブにしてみせるわ♪」
彩「香澄ちゃんやこころちゃんには負けないよーっ、私達、パスパレも頑張ります!」
蘭「うん、この日の為に練習だって欠かさず積んできたんだし……私達、Afterglowも、最高の歌を届けますよ」
友希那「ええ……Roseliaだけじゃない……ここにいる全員の力で、最高のライブにしましょう……!」
皆が皆、ライブに向けての期待を最高潮に高めていく。
そして――。
まりな「それじゃあみんな!! 今日はよろしく! これより、ガールズバンドパーティーを開催しますっ!!!」
全員「はいっっっ!! 宜しくお願いします!!」
まりなの声に合わせ、ガールズバンドパーティーの開催が告げられる。
そして、各メンバーの何人かが呼び込みや誘導、受付等に移り、次第にライブハウス内にも次々に人が入り乱れ、ますます賑わいを見せていく。
そんな中、何人かの少女達は、今日来る筈のゲストの話をしていた。
美咲「そういえば、ゲストの方々はどうしたんでしょう、少なくとも、朝の打ち合わせには来てなかったですよね?」
麻弥「そうですね……一体、どんな人達が来てくれるんでしょう?」
有咲「まりなさんも教えてくれなかったし、まぁ気になるっちゃ気になるよなぁ」
ひまり「もしかしたら朝の内に会えるかもって思ったんだけど、残念だなぁ」
まりな「まぁ、せっかくのゲストだし、みんなにもギリギリまで秘密ってことでね。大丈夫だよ、心配しなくても、みんな来るからさ♪」
リサ(今日のゲストってもしかして……今朝すれ違った人じゃ……)
顔に疑問符を浮かべる面々に向け、優しくまりなは答えていた。
蘭「……みんな、気になるのは分かるけど、いつまでも喋ってないで早く準備しようよ」
友希那「ええ、美竹さんの言う通り、今はゲストの方達の事よりも、自分達のライブに集中しましょう」
有咲「……友希那先輩の言う通りですね、それじゃ、私達も誘導行ってきます」
友希那の声に同調するように各々は散会し、準備を進めていくのであった。
【CiRCLE カフェテリア】
CiRCLEの外に隣接されるカフェテリアもまた、既に多くの人の姿で溢れ返っていた。
声「今日のライブ、ずっと待ってたんだ~、ポピパの演奏、楽しみだな~♪」
声「AfterglowとRoselia、またカッコよく決めてくれないかな~、前にやってた2マンライブ、超盛り上がってたしさ」
声「パスパレにハロハピも見逃せないよねー♪ あー、待ち切れないよ~!」
声「そういえば……スペシャルゲストって誰が来るんだろ? 私、そっちも気になってるんだ!」
声「私も! レベル高いバンドだといいねっ♪」
ドリンクを手に、推しのバンドの演奏まで時間を潰す者や、ライブへも興奮を抑えきれずにいる者など、様々な人で賑わうカフェを眺めながら、放課後ティータイムの面々は静かにその時を待っていた。
唯「うわぁ……凄い数の人だねぇ」
澪「ああ……本当に始まったんだな……」
紬「ふふふっ、ええ……楽しみになってきたわね……」
梓「緊張……じゃないですけど、なんだか体が震える感覚がします……武者震いって言うんでしょうか」
唯「ん~……りっちゃん、早く来ないかなぁ?」
唯達が用事で離れた律を待つことしばらく……ようやく律はその姿を現す。
律「よ、お待たせ」
唯「あ、りっちゃ……って、なーに? その格好」
梓「律先輩……随分雰囲気変わりましたね」
律「しゃーねーだろ、パスパレのみんなには今日出張でいないことにしてるんだし、変装ぐらいしないとすぐにバレちゃうからな」
唯の指摘に律はワックスで整えた前髪をいじりながら言う。
前髪を下ろし、服装も化粧も普段とは違う今の律の姿は、とても普段の彼女からは想像できない雰囲気を醸し出していた。
紬「うん、落ち着いた大人の女性って感じがして、私は良いと思うわ」
澪「ほんと、こういう格好してる時は律も別人だよな…………」
律「あの子達には普段スーツ姿で髪上げた格好しか見せてないからなぁ、これでグラサンでもかけりゃー……ほれ、ぱっと見で私とは分かんないっしょ」
言いながら持参したサングラスをかけ、律は笑みを浮かべる。
唯「お~、りっちゃんかっこいい!」
律「へへんっ、だろ?」
まるで有名モデルを前にしたような顔で唯は驚きの声を上げていた。
唯「そうだ! やっぱりあずにゃんもこうしようよ♪」
梓「ちょっ……唯先輩っ、何するんですか、やめてください!」
おもむろにカバンからヘアゴムを取り出し、唯は器用に梓の髪を2本に纏めはじめる。
唯「ふふふっ、練習の時もずっと思ってたんだけど、やっぱりあずにゃんの髪はこうでなきゃね」
澪「はははっ、梓のその髪型も懐かしいなぁ」
紬「うんうん♪ まだまだツインテールも行けるわよ、梓ちゃん♪」
梓「まったく……皆さん、歳を考えて下さい……さすがにこの歳でツインテールなんて恥ずかしいですよー」
律「あーずさ、諦めろ、私だって恥を忍んで髪下ろしてんだからな」
梓「律先輩と違って変装するわけじゃ……ああもう、分かりました、分かりましたよ!」
渋々ながら梓はヘアゴムで髪をきちんと2本に纏め、昔の髪型を再現していた。
その姿を感無量といった表情で唯は見つめ、和やかな空気が5人の間に流れていくのであった。
そして……。
憂「お姉ちゃん、皆さん、どうも♪」
唯「あ、憂! みんな~♪」
純「やっほー、梓、元気だったー?って……うわ~、懐かしい髪型だね」
梓「純……髪のことは放っといてよ……」
菫「お姉ちゃん、皆様、いよいよですね」
直「みなさん、頑張って下さいっ」
紬「菫ちゃん、直ちゃんも、来てくれてありがと♪」
憂達わかばガールズの面々も揃い、唯達サイドの面子も相次いで集合してきていた。
和「みんな、先日はどうも」
唯・憂「あ、和ちゃん♪」
澪「和、和も来てくれたんだ」
和「ええ、
秋山澪ファンクラブの会長として応援に来たわよ」
澪「ああ……ありがとう、和も楽しんでいってくれ」
和「そうだ、澪、あとで曽我部先輩も来るって言ってたから、来たら顔、見せてあげてね」
澪「曽我部先輩、懐かしいな……うん、必ず会いに行くって伝えといて」
和の言葉に懐かしい顔を思い浮かべつつ、笑顔で返す澪だった。
梓「そういえば……純、頼んでおいた衣装は?」
律「そだそだ、私と澪がお願いしといた物も持ってきてくれたよね?」
純「はい、律先輩、澪先輩、こちらをどうぞ……梓も大丈夫、衣装はバッチリ仕上がってるよ♪」
手に持った袋を澪と律に手渡しながら純は指で合図を送る。
その指の先に視線を送ると、そこには、疲労困憊の様相でこちらに歩いてくる元顧問の姿があった。
さわ子「はぁ……はぁっ……みんなお待たせ……い、衣装なら……ここにあるわよ……」
律「うわっ、さわちゃん……どうしたのそのクマ……」
唯「髪もボサボサだし……一体何があったの?」
さわ子「これよこれ……今日までに仕上げるの大変だったわよ……」
さわ子の手には大きめの紙袋が握られており、その中にはさわ子が今日の為に徹夜で仕上げた人数分の衣装が収められていた。
最終更新:2019年12月15日 08:16