#8.エピローグ~放課後とそれぞれの輝き~
夢のようなお祭りが終わってから数日、私達はそれぞれの生活に戻り、日常を過ごしていました。
でも、なにもかも元に戻ったわけではなくて、そこには確かに、輝きがあった。
あの時、あのライブでみんなが見た輝き。
それはきっと、これからも続いていく――。
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【アイドル事務所】
ライブから数日が経ったある日、久々にPastel*Palettes全員が集まったということで、その日は事務所にて律とパスパレによるミーティングが行われていた。
律「おはよー、みんな先週はお疲れ様~」
彩「律さん、お疲れ様です!」
一同「お疲れ様です!」
律「ガールズバンドパーティーも終わってようやく一息と行きたいとこだけど、まだアイドルコンサートも控えてるから、みんな、これからも気を抜かず頑張ろうなー」
一同「はいっ!」
律「それじゃー、来週からのスケジュールを確認するけど……」
麻弥「律さん、前のライブから雰囲気変わった感じがしますね」
千聖「ええ……忙しい合間を縫って私達と一緒にいて下さることも増えてきたし……本当に心強いわ」
イヴ「マネージャーさんというよりも、お姉さんって感じがします♪」
彩「お姉さん……かぁ、確かにそうかも♪」
日菜「あ、あのねっ! 律さん、私達からいっこ、律さんにルンッ♪ ってなる発表があるんだ♪」
律「発表……? 一体どんな?」
日菜の言葉に顔に疑問符を浮かべ、律は言葉を返す。
彩「はい、律さん達のライブを見て、私達、話し合って決めた事があるんです」
千聖「これからのパスパレの夢……その具体的な目標を立ててみました」
イヴ「私達の目標……目指すべきターゲットは……!」
麻弥「これですっ!」
ばさっと、イヴと麻弥がカバンから一つの幕を取り出し、大きく広げる。
そこには――。
一同「――武道館!!」
とても力強い、『武道館』という一文字が書かれていた。
律「………………っっ……」
その文字を見た律の眼が一瞬大きく見開かれ……様々な記憶と共に目頭が急速に熱を帯びて行くのを感じていた。
律「………ふっっ……ふふふっっっ………」
麻弥「……律、さん?」
律「っっっ! ……ぶ、武道館って……っっ! ……っっ!!………っっ!!」
目元から込み上がってくる涙を誤魔化すように、律は顔を覆い、声を押し殺して笑い続ける。
彩「やっぱり……今の私達には無謀だったのかな……?」
千聖「ううん……きっと、そうじゃないと思うわ……」
イヴ「はい……リツさん、すっごく嬉しそうにしてくれてます」
日菜「あれー、もしかして律さん、泣いてない?」
律「な、泣いてなんかいねーっ! ……いやいや……ちょっとびっくりしたけど……けどお前らな~、今のまんまじゃ武道館なんて夢のまた夢だってーの!」
千聖「でも、私達なら、きっとどんな夢でも叶えられると思いますよ」
麻弥「そうですね、ジブンも、この5人ならきっと何だって乗り越えられるんじゃないかって思いますっ♪」
イヴ「一心精進、精一杯がんばります♪」
日菜「武道館かぁ……ふふふっ♪ 今からルルルンッ♪ ってしてきたなぁ~♪」
彩「私ももっともっと……もーーーっっと頑張らないと!」
律「みんな…………っ……」
律(なあ、みんな……私達の夢……いいかな、この子達になら、託してもいいかな……!)
ここにいない“4人”に向けて、律は言う。
仮に4人がここにいたら、きっと構わず良いって言ってくれるんだろうと思いながら、律は顔を上げ、少女達を見つめていた。
律「よーっし! それじゃあ時間まで音合わせやるか! 今日はあたしもとことん付き合うよ!」
彩「はいっ♪ よろしくお願いします♪」
律「目指せ武道館……! Pastel*Palettes、いっくぞーーっ!!」
全員「おーーっっ!」
スタジオ内に、一際賑やかな音が鳴り響く。
それは、自らが打ち立てた夢に向かい、邁進する輝き。
少女達は今日も夢に向かい、歩いて行く――。
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【羽丘女子学園 2-A教室】
授業も一区切りつき、昼休みとなったある日のこと。
ひまり「う~~ん……やっぱ、私も黒髪ロングにしよっかなぁ……」
ファッション誌を眺めながら、ひまりは一人、云々とぼやいている。
そんなひまりの様子を見ながら、蘭達は机を並べ、各々が昼食を取っていた。
蘭「ひまり、今朝から何を唸ってるんだろ」
モカ「あ~、なんか、ひーちゃん黒髪にしようか悩んでるらしいね~」
巴「黒髪ロングって……やっぱり、澪さんに憧れて……か?」
蘭「ああ、なるほど……」
つぐみ「ふふっ、黒髪にしたひまりちゃんも、きっと可愛いんだろうね」
ひまり「やっぱりつぐもそう思う? いやー、私もそうだと思ってたんだよね♪」
モカ「でも、もしそうなったらひーちゃん、おたえちんや燐子さん、美咲ちん達と被っちゃわないかな~?」
ひまり「い、いいのっ! 私、澪さんみたいにクールでかっこいい大人になるって決めたんだもんっ!」
勢いよく立ち上がり、ひまりは宣誓する。
巴「はははっ、ひまりがクールでかっこいい大人……ねぇ」
蘭「ふふっ……それじゃあ、まずはその性格も変えなきゃね」
モカ「あのねーひーちゃん、澪さんは間違っても『えい、えい、おー』をやる人じゃないと思うよー?」
つぐみ「あはははは……」
ひまり「も~~~、みんなバカにして~~! いいもん! ぜったい、ぜーったいに澪さんみたいなステキでかっこいい女性になってやるんだから~~っ! はむっ!」
ひまり「ん~~♪ 今日のご飯もおいしいっ♪」
二度ひまりは叫び、昼食を口に運び続けていた。
そして……。
ひまり「ごちそうさまっ♪ 今日もおいしかったな~♪」
モカ「やっぱり、ひーちゃんはいつになっても、『いつも通り』のひーちゃんだと思うよー」
ひまり「もー、モカったらまたバカにして~」
巴「ふふっ……ああ……でもさ、あの人達と知り合って、アタシ、ひとつ思ったことがあるんだ」
つぐみ「巴ちゃん?」
巴「……10年後……アタシ達は、どんな大人になってるんだろうなってさ」
モカ「10年後かぁ……あたしたちは27歳……ずいぶん先の話だね~」
蘭「……大人になったあたし達……か」
ひまり「想像もできないよね……ほんと、どんな大人になってるんだろ……」
巴「きっとその頃にはみんな、仕事したり、結婚したり、ひょっとしたら、子供が出来てたりしてるのかも知れないよな」
つぐみ「うん……そう、だね」
そして、優しい顔で巴の言葉は続けられる。
巴「時には、前みたいに擦れ違ったり、環境が変わって、離れ離れになる日だって来るかも知れない」
巴「いつかそんな来ても、アタシ達はずっと同じ、『いつも通り』のアタシ達でさ、これだけは変わらないよな」
蘭「うん、もちろん……あの日、みんなで見た夕日のように変わらない、あたし達はいつまでも『いつも通り』のあたし達だよ」
モカ「ふっふっふ~、それじゃーあたしは、もし大人になった時に離れ離れになっても、蘭が寂しくならないように、お嫁さんにもらってあげよー♪ なーんてねー」
蘭「モカったら……今は茶化す所じゃないでしょ……」
モカ「えへへ~」
つぐみ「私達もなれるかな……あの人達みたいに……いつまでも輝いていられる、そんな大人にさ」
モカ「あの人達みたいに……かぁ~」
蘭「…………」
つぐみの言葉に蘭はしばし考え込んでいた。
蘭「……違う、それじゃダメだと思う」
ひまり「そうだね、あの人達のようにじゃなくって……あの人達以上にならなくっちゃ……ね」
巴「ああ……誰にも負けない、『いつも通り』のアタシ達で……だよな」
つぐみ「うん……えへへっ、そう、だよね♪」
ひまり「ていうか……あ~、もうこんな時間! そろそろ次の授業の準備しなきゃ! 遅れちゃう!」
巴「え? あ、もう?」
つぐみ「私、次の授業の準備お願いされてるんだった、私ももう行かなくっちゃ!」
蘭「だってさ、巴、急がないと置いてくよ」
モカ「トモちん、はやく~♪」
巴「も~、待ってくれよー! みんな、アタシを置いてくな~~っ!」
少女達の笑い声は休まず続き、教室は一層賑わっていった。
既に幾度も立てた誓いを再度掲げ、少女達は未来へと向かい、今日という日を歩きだす。
『今』を生きる少女達の輝き、その光はいつまでも色褪せることなく、広がっていく――。
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【琴吹グループ 役員室】
ガールズバンドパーティーが終わった翌週のこと、紬と菫の2人はまた以前のように、相次ぐ仕事にその身を追われていた。
菫「お嬢様、午後からまた会議がありますので、お急ぎ下さい」
紬「ええ、いつもありがとうね、菫ちゃん」
車に乗り込むと同時に菫の足がアクセルを踏み、車は発進していく。
その車内では、携帯電話で通話をしながら得意先へのメールを打ち続ける紬の姿があった。
紬「はい……ええ、こちらこそありがとうございます。 はい、でしたら再来週、ええ、お待ちしてますね……」
――ピッ
紬「ふぅ……メールも打ち込んだし……あとは、今日の会議の資料の確認ね……」
菫「はい、ダッシュボードの中にタブレット端末がございますので、そちらをご覧ください」
紬「うん……ありがとう……」
菫「すみません、私の力が至らないばかりに、お嬢様に無理を強いてしまってます……」
紬「そんな事ないわ、菫ちゃんが頑張ってくれたから、私もライブに専念できたんだもの」
紬「菫ちゃんの苦労に比べたら、これぐらいなんてことないわ♪」
菫「お嬢様……」
苦労を微塵も感じさせないほどの明るい顔で紬は返す。
その顔に若干の罪悪感を感じながらも、菫の足はアクセルを再度踏み込んでいた。
そして、長時間に及ぶ会議がようやく終わり、遠くに沈む夕日を見ながら、紬達がしばしの休息を取っていた時の事。
紬「んんん……なんとかまとまったわねぇ」
菫「ええ……お疲れ様です、お嬢様」
紬「でも、まだ終わりじゃないわ……帰ったら今日の会議のことで何点か確認しなきゃいけなくなっちゃったからね」
菫「はい……今日も、長くなりそうですね……」
紬「さて、そろそろ行きま…………あら?」
菫「……お嬢様、如何なさいましたか?」
――そろそろ移動を決めようとしたその時、ある光景が紬の視界に入り込んでいた。
紬「ねえ、菫ちゃん……もうちょっとだけ、寄り道してかない?」
菫「寄り道って言われても……あまり時間は……」
紬「いいじゃない、ちょっとだけ……ね」
紬の指がある広場の一点を指し示し、その指の先を見た菫の顔に、優しい笑みが灯る。
菫「……ちょっとだけだよ、お姉ちゃん」
紬「うんっ♪」
広場の方から遠く、賑やかな歌声が聴こえる。
その歌声は、聴く者全てを子供の頃に返す、笑顔の歌……。
音楽で世界を笑顔にする、輝きの音色だった――。
声「みんな、いくわよ~♪ ――ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ♪」
――いぇーーーーーい♪
―――
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【某ライブハウス】
ガールズバンドパーティーの開催から既に数ヶ月の月日が流れた頃。
夜の帳が降りる時刻、とあるライブハウスに、友希那達Roseliaの姿があった。
リサ「いよいよ来たね♪ 梓さんとおじ様のジャズライブ♪」
あこ「うんうん♪ 凄いな……お客さん、どの人も大人って感じがして、ワクワクしてきちゃった♪」
燐子「うん……あこちゃん……楽しみ……だね♪」
紗夜「皆さん、あまり騒がないように、いつものライブとは違うんですから、こういう所では慎みを持って行動しましょう」
あこ・リサ「はーい!」
友希那「時間はそろそろね……来たわ……梓さんとお父さんよ」
友希那の言葉通り、ギターを手に梓がステージに姿を表す。
その様子を見守るように、梓の両親と友希那の父もまた、ステージの脇で梓の様子を見つめているのが伺えた。
そして、梓の司会により、ジャズライブの始まりが宣言される。
梓「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます! 最高の一時をお届けするので、最後まで楽しんでってくださいっ」
梓「そして、今日はなんとゲストの方にも来てもらってます、そちらの演奏も楽しみにしてて下さいね!」
――ぱちぱちぱちぱちっ
決して歓声は上がらず、静かな拍手だけが梓の声に答えていた。
梓「それじゃあ、まずは一曲目、聴いて下さい♪」
――♪ ~~~♪ ―――♪
静かに、ゆったりとしたジャズ特有のギターの旋律が紡がれる。
梓「~~♪」
リサ「凄いね、梓さん、楽しそうにギター弾いてる♪」
紗夜「ええ……ライブに来てくれた全てのお客さんに楽しんで行ってもらおうっていう気持ちが伝わってきますね」
あこ「いいなぁ……大人な感じがして、かっこいいなぁ」
友希那「梓さん……」
軽快に奏でられる梓のギターの音は、以前のライブで聴いた音とは全く違う音色だった。
だが、全身で楽しさを表現しようとするその音は、『音を楽しむ』という梓の気持ちが十二分に感じられる音でもあった。
聴くだけで自然と身体が動くような感覚がし、それは、観客として聴く友希那達にもにも楽しさが伝わってくる程だった。
そして程なく、一曲目の演奏が終わり、二度目の拍手が沸き起こっていた。
梓「―――――……♪」
――♪ ―――♪ ――……♪
――ぱちぱちぱちぱちぱちっ!!
そして、拍手が静まった頃合いを見て、梓の後ろでメンバーが楽器を構える。
今度はドラムにサックス、友希那の父のギターも交えた演奏となり。その音は、会場中に更なる興奮と、楽しさを響かせていくのであった。
梓「~~♪」
梓(ふふふっ……楽しいな……♪ 音を奏でるのが、こんなに楽しいだなんて……っ♪)
そして、梓達の奏でる音は、観客の耳を絶えず虜にしていくのであった。
【帰り道】
リサ「いやー、ジャズもなかなか良かったね~♪」
あこ「うんっ♪ あこも今度お姉ちゃんと一緒に聴いてみよっと♪」
燐子「ですけど……やっぱり……途中で帰る事になってしまったのは……残念です……」
紗夜「仕方ないわ、未成年が入れる時間はこの時間までなんですもの」
紗夜「……でも、私も久々に、心が洗われましたね」
友希那「ええ……みんな、明日からまた猛練習よ」
言葉を紡ぐ友希那の眼に、静かな闘志が宿る。
友希那「『FUTURE WORLD FES.』までもうすぐ……みんな、最後まで、気を抜かずに頑張りましょう」
一同「――はいっ!」
そして友希那達は歩き出す。
その眼が映す情熱の輝きは、その夢の舞台に立つその日まで、決して消えることはないだろう。
Roseliaの夢への進撃は、これからも続いていく――。
最終更新:2019年12月15日 08:35