『 ロッカくん 』


梓「ネットで携帯型ろ過装置というのを買ったんですけど」

唯「そんなのあるんだ」

梓「なんでも、見るだけで目が腐る世紀末級のドブ水ですら、
  氷窟から湧き出る大地の泉レベルまで浄化できるそうです」

唯「ふーん」

梓「ところで、なんで私の注いだ紅茶を飲まないんですか?」

唯「いや、その変なのから注いでたから」

梓「ろ過されてるから大丈夫ですよ」

唯「うん」

梓「ちゃんと浄化されてますから」

唯「原液の出どころが心配なんだけど」

梓「なんだって良いじゃないですか」

唯「さっきこれ持ってトイレから出てきたよね」

梓「私から放たれたドブ水ですらロッカくんの力で
  清純女子高生の桃色天然水に浄化されてるんですよ」

唯「これロッカくんって言うの?」

梓「大丈夫ですよ、ろ過したのはおしっこだけですから」

唯「おしっこならセーフみたいに言わないで」

梓「これはもともとサバイバルを想定して開発されたアイテムなんですよ」

梓「如何なる状況でも確保できる水源を有効活用して
  極限状態を生き抜くための発明品なんです」

唯「汚いなあ」

梓「手口がですか?」

唯「それも含めて」

梓「えらく拒否しますね」

梓「もしかして私のおしっこ飲みたくないだけなんじゃないですか?」

唯「その通りだよ」

梓「原液の出どころははっきりしたじゃないですか」

唯「よけい飲めなくなったでしょ」

唯「しかも何でよりによってレモンティーにしちゃったの」

梓「いいから飲んでくださいよ!」 グイッ

唯「ちょっ、汚い! おしっこ近づけないで!」

梓「汚くない! ろ過済! です! から!」 シュババ

唯「ちょっ、汚い! ホントに汚い!」

梓「汚い汚い言い過ぎじゃないですか!」

梓「こっちは難しいお年頃なんですよ!?」 ウェェェェ

唯「泣きたいのは私のほうなんだけど……」


紬「唯ちゃん」

唯「いたの?」

紬「見てた」

唯「見てたなら助けてよ」

紬「たしかに今日の梓ちゃんは常軌を逸しているわ」

唯「今日の?」

紬「本当は梓ちゃんだって素直に伝えたいと思ってるはずなの」

紬「でもそれ以上に不安なのよ」

紬「まっすぐ気持ちを伝えて、もしダメだったら……って」

紬「だからきっと、こんな方法を取ったのよ」

梓「ムギ先輩……」

紬「大丈夫よ梓ちゃん」

紬「唯ちゃんはきっと、受け止めてくれるから……」

梓「はい……」

紬「唯ちゃん」

紬「これが梓ちゃんの今の気持ちよ」 ゴト

紬「あとは唯ちゃんが決めてあげて」

梓「………」

紬「………」

唯「いや、飲まないけど……」

梓「何でですか!!」

梓「いま完全に飲む流れだったじゃないですか!!」

梓「何考えてんですか!?」

唯「あずにゃんが何考えてんの」

紬「だから途中でバラすなって言ったのに……」



『 クマタンダー2号 』


唯「あっと、ピックが」 コロリン

梓「きゃっ、ちょっと唯先輩!」

梓「いまスカートの中のぞきませんでした!?」

唯「好きの確率~ 割り出す~ 計算式~」 ジャガジャガ

梓「聞いてください」

唯「練習は?」

梓「今のように、我々女子高生は常にスカートの中身を窺われています」

梓「原因はこのスカートのヒラヒラ構造にあると思われます」 ピラッ

唯「さわんないで」

梓「この垂れっぱなしの薄布一枚の向こうに存在する
  下着への期待値が性犯罪者の劣情を刺激しているわけですね」 グッ

唯「離して」

梓「そこで仕入れてきたのがこちらです!」 ドゴォ

唯「クマタンダー2号?」

梓「宇宙に存在する謎の暗黒物質を操作して、
  局所的な範囲を不可視空間にすることが可能だそうです」

唯「……どういうこと?」

梓「つまり、空間に丸出しだった私の下着領域を暗黒物質で満たすことで!」

梓「こんな風にスカートの中身を防御できるのです!!」 ガバァ

唯「ちょっ、スイッチ入れて」


梓「という感じのパンチラ防止ロボなんですよ、これ」

唯「たしかにパンツは見えてなかったよ」

唯「だって何も穿いてなかったから」

梓「この装置に絶対の信頼を持っている証拠です」

唯「結果的に中身が丸見えだったけど」

梓「じゃあ次は唯先輩……」

唯「しません」

梓「装置を起動すれば大丈夫ですから」 ヴォン

唯「あっ本当だ、スカートの中が黒いので埋まってる」

梓「じゃあ唯先輩も」

唯「私は大丈夫だから」

梓「これさえあれば澪先輩がすっ転んで事故ることも無くなるし、
  ライブに遅刻してきた人が舞台によじ登る時だって安心なんですよ」

唯「うん」

梓「だからちゃんと機能するかどうか確かめておきましょう」

唯「機能してたじゃん」

梓「試しに唯先輩もめくってみてくださいよ」

唯「うん」

唯「大丈夫だから」

梓「この装置を信用してないんですか?」

唯「装置自体は信用できそうだけど」

梓「じゃあ早くめくってください」

唯「スイッチをこっちに渡して」

梓「突然スイッチが切れたら危ないじゃないですか」

唯「私もそれを心配してるんだよ」

梓「どういう意味ですか」

梓「私を疑ってるんですか」

梓「私が故意にスイッチを切ると言いたいんですか!?」

唯「うん」

梓「そうですか」

梓「次こそは必ず出し抜いて見せますからね!!」 ダァン

唯「もう少し建前を粘ってよ」



『 ダッシュたん 』


梓「唯先輩、タイツください」

唯「変態かな」

梓「唯先輩のはいてるタイツを渡してください」

唯「聞き間違いじゃなかった」

梓「実はネットで瞬間脱臭装置というのを買ったんですよ」

唯「うん」

梓「謎の電磁波を対象に照射することで
  あらゆるニオイ物質を瞬時に天界へ導くことができるそうです」

唯「へえ」

梓「なんと自走も可能!」

唯「自走は必要なの?」

梓「脱臭だけに」


梓「というわけでタイツをください」

唯「大丈夫だから」

梓「この子の脱臭効果を試すのに、唯先輩のタイツが必要なんです」

唯「自分ので試してよ」

梓「私タイツはいてないですし」

唯「靴下とかでいいじゃん」

梓「じゃあ脱臭しませんから脱いでください」

唯「建前がなくなってきてるけど大丈夫?」

梓「私は気にしませんからその辺で脱いでください」 キリッ

唯「ガン見されてるけど」

梓「ぜったい嗅ぎませんから」

唯「うそだ!」

梓「じゃあ私はパンツ脱ぎますから」 スルリ

唯「うわっ、ちょっ、ウソでしょ」

梓「私だって脱いだんですから唯先輩も脱臭素材を提供してください」

唯「えぇ……」

梓「唯先輩のタイツと私のパンツをひとつにして脱臭してみましょう」

唯「言い方がさあ」


梓「……なんで上履きしか脱がないんですか」

唯「脱臭素材があればいいんでしょ?」

梓「まあ今日はこれで我慢しましょう」 フガフガ クンクン スゥゥゥ フゥゥゥゥ

唯「嗅ぎすぎでしょ」

梓「確認しておかないと脱臭できたかどうかわからないじゃないですか」 スーハー

唯「うわぁ……」

梓「ドン引きしてるヒマがあったら早く私の匂いを確認しといてください」 フガッ

唯「うぇぇ?」

梓「私の目の前で私の下着を嗅いで、その感想を教えてください」 スゥハァ

唯「じゃあちょっとだけ……うわっ」

梓「………」

唯「………」

梓「ちょっ、何ですか、はっきり言ってくださいよ」

梓「女の子特有のいい匂いでしたよね?」

唯「うん、じゃあ脱臭してみようよ」

梓「しません」

梓「臭くないから脱臭しません!」

唯「そうだね」

梓「どういう笑顔なんですかそれ」

梓「なんで逃げるんですか」

梓「唯先輩!!」

梓「私のパンツの匂い、どうだったんですか!?」

梓「唯先輩!?」


澪「どこ行ったんだあいつら」

紬「変なメカも一緒に走っていったわ」

律「部室で何があったんだ……」



『 PEリザーバー 』


唯「あつい……」

梓「今日も暑いですねぇ」

唯「汗が止まんない」

梓「少し脱いだらいいんじゃないですか?」

唯「夏なんてなくなればいいのに……」

梓「じゃあちょっと脱ぎましょう」

唯「セクハラ後輩もいなくなればいいのに……」

梓「違うんですよ、今日は唯先輩のためにこれを持ってきたんです」

唯「なにそれ水着?」

梓「PEリザーバーという上下セットです」

梓「寒天由来の超高密度四次元網目構造樹脂で水分を吸収して、
  表面積を保持したまま約5リットルの保水を可能とします」

唯「……? うん…」

梓「私も着てますけど、わりと快適ですよ」

唯「それを着ると涼しくなるの?」

梓「つまり、汗をグビグビ吸収して不快指数を緩和してくれて」

唯「涼しくはならないの?」

梓「汗を吸収してくれるんですよ」

唯「そっか」

梓「着替えるの手伝いますから」

唯「涼しくならないならいい」

梓「汗を吸収するだけでだいぶ違いますよ」

唯「でもそれを着けてる部分だけでしょ?」

梓「それだけじゃないんですよこれ」

梓「実はここの排水弁から水分を放出する仕組みなんですけど、
  なんとこの水、ろ過処理済みで飲料水にもできるんです」

唯「ふーん」

梓「エコ!!」

唯「うるさいなぁ」

梓「とにかく着替えましょう」

唯「いいってば」

梓「ていうか脱ぎましょう」

唯「やめろ!!」

梓「そんなに嫌がることないじゃないですか!」

梓「私は暑さに苦しんでる唯先輩を救ってあげたいだけなんです」

梓「唯先輩の汗で一杯やろうと思っただけなんですよ」

唯「本心がろ過しきれてない」

梓「じゃあ私の排水弁から水分を補給してください」 ニュッ

唯「どこから出してんの、それ……」

梓「上の排水弁のほうがよかったですか?」 ニュ

唯「排水弁の位置がさあ」


ガチャ


律「うぃー、お疲れ……」

梓「ほら、いいから吸ってください!」

梓「下が嫌なら胸のほうでもいいですから!」

唯「うーん……」

律「………」


バタン



『 キルトハイド 』


梓「あまりの暑さにトンちゃんも脱皮してますよ」

唯「病気とかじゃなくて良かったね」

梓「というわけで私たちも脱皮してみましょう」

唯「後輩のほうは病気かもしれないなあ」

梓「今日仕入れてきたのはこちらの キルトハイド です!」 ドゴォ

梓「装置周辺における光の波動性を計測管理し、
  劣情を刺激する視覚情報に対し疑似立体映像を投影します」

梓「これを設置しておけば、仮に盗撮魔の視姦に晒されたとしても
  セクシーゾーンを死守することが可能なのです!」

唯「ダークマターのやつとかぶってない?」

梓「あれはクマタンダーです」

梓「こちらは劣情を刺激する部位の保護に特化したやつです」

梓「こんな風に全裸になっても黒いやつでちゃんと」

唯「隠れてないけど」

梓「えっ、スイッチ切りました?」

唯「動いてるよ?」

梓「空間に投影された黒い立体映像で隠れてますよね」

唯「上から下まで丸出しだけど」


唯「また誤解されるから、はやく服着てくれる?」

梓「……もしかして唯先輩、私の全裸に劣情を刺激されてないんですか?」

唯「?」

梓「ちょっと唯先輩、ためしに脱いでみてください」

唯「できるか!」

梓「装置が正常に起動しているか確認しないと」


ガラッ


澪「なんっ!? なんで全裸なんだこいつは」

唯「さあ」

梓「ほら見てください、ちゃんと黒いやつで隠れてますよね!?」 ガバッ

唯「ホントだ」

澪「めくるな!!」 バゴォ

梓「ほら、大丈夫でしたよね?」 プシュー

唯「頭大丈夫?」

梓「では2人とも、安心して脱いでください」

澪「お前は服を着ろ」

梓「待ってください、装置は正常に起動してましたよね!?」

梓「これはセクシーな部位が保護される装置なんですよ!」

梓「性的な刺激を与えるような視覚情報はシャットアウトされるんです!!」

梓「逆に言うとエロスを感じさせない部分だけ見えるんですよ!!」


梓「ほっといてくださいよ!!!」 ウォァァァァァァ

唯「情緒が不安定すぎる」

澪「とにかく服を着……おい、待て! 服を着ろ!!」


チクショォォォォォ  ダダダダダ


律「梓はなんで全裸で走り去って行ったんだ?」

唯「私が聞きたいよ」

澪「私は何も見なかった」


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最終更新:2022年08月11日 11:58