『 バレッタン 』


梓「例えばこのガムを複数人で味わう場合、どういう手段を取りますか?」

唯「ジャンケンとか」

梓「そう、これからは味覚すら共有できる時代なんですよ」

梓「このバレッタンを使って!」

梓「味覚野へ伝達される一次感覚細胞構成を頭部装置にて観測、
  解析した情報を腕部リングへ転送したのち、
  同装置装着者とのハンドシェイクで味覚刺激を追体験できるアイテムです」

唯「はあ」

梓「理解不能なときの生返事やめてください」

唯「ほい」

梓「つまり、これを装着して握手をするだけで味覚を共有できるんです!」

唯「お得!」

梓「それではこのガムを私が食べて味を」


ぎゅっ


梓「」

唯「?」

梓「………」

唯「あずにゃん」

梓「おぁい!?」 ビクッ

唯「はやくガム食べてみてよ」

梓「たたた食べますよ!?」 カァァァァァ

唯「味がぜんぜん伝わってこないけど」

梓「はいっ!? なんでですかね!?」

梓「伝達率が足りないんですかねぁ!?」

唯「手の繋ぎかたが悪いのかな?」 ギュ

梓「じじっじゃあ、あれやってみますか!?」

梓「あの、指をこう、交互にはめ込む感じの……」

唯「恋人つなぎってやつ?」

梓「っ………!!」 ボシュゥ

唯「えっ、大丈夫?」

梓「………」 プシュー

唯「……?」

梓「……まどろっこしいので口移しにしましょう」 ガシッ

唯「は!?」

梓「ほら!ガムの味を知りたいんでしょ!?」 フーフー

唯「いやいやそうじゃなくて」

梓「これがファーストキスの味ですよ!!」 オラァ

唯「やめろ!!」


バチン


梓「というわけで、装置の効果はよくわかりませんでした」

唯「あんまり変な道具ばっか買ってこないでよ」

梓「キスの味もわかりませんでしたね」

唯「してないからね」

梓「下心がバレッタン」

唯「帰るよ」

梓「はい」



『 ガチャポーター 』


唯「あっ、ガチャガチャのやつだ」

唯「……」

梓「……」

唯「……」

梓「なんで回さないんですか!!」

唯「いや、あからさまに怪しい機械だったから」

梓「これは健全なやつですよ」

唯「また変なの買ってきたんでしょ」

唯「下手に触るとロクなことが起きないからね」

梓「これはガチャポーターという未来派ガチャガチャマシーンです」

梓「量子空洞力場を装置外部に展開、
  同空洞を経由し対象物を量子的に吸い上げることによって
  亜光速物理転送を実現した装置となります」

梓「つまり、これを起動すれば何でも瞬時にお取り寄せできるのです!」

唯「仕組みは全くわからないけど、とにかく凄い自信だ」

梓「夢の機械のやつです」

唯「それで何を取り寄せできるって?」

梓「こちらの装置、ダイヤルに触れた者の脳波を検知して
  本人が欲しいと思っている物が転送されてくるのです!」

唯「夢の機械のやつだ!」

梓「回す前にちゃんと欲しいものをイメージしてくださいね」

唯「犬とか」

梓「カプセルに収まるサイズの物で」


ガチャリ


梓(このガチャポーターに脳波受信機能など搭載されていない!) ニヤリ

梓(転送されてくるのは、私が事前に設定した物質のみ)

梓(一度回せばもはや言い逃れは不可能)

梓(あなたは深層心理の奥底で後輩の下着を欲した変態として、
  私と生涯を共にするのです……!)

コロリ


唯「出てきた」

梓「じゃあ開けてみてください」

唯「? なんかハンカチみたいな物が……」

梓「ふふ、唯先輩は潜在意識下でいったい何を欲しがっ

梓「ちょっと見せて下さい、なんか柄が違うような……」

唯「これパン……」



ガラッ



澪「やっぱりお前か……!!」 ゴゴゴ

梓「澪先輩!?」

唯「これ澪ちゃんの?」

澪「唯だけならともかく、私まで妙な事に巻き込むな!!」

梓「違うんですよ、これは唯先輩が ぶっ!? バチーン

澪「いいから返せっ!!」

梓「返します」

澪「この変態が!!」 ペッ

梓「ありがとうございます!!」


バタン


唯「……」

梓「……」

唯「いやいや、違うからね」

唯「私、ぜんぜん違うものイメージしてたからね!?」

梓「どうですかねえ」

梓「唯先輩の頭の中は見れませんからねぇ」

唯「さりげなく酷いこと言われたし」

梓(転送物質の設定をミスったのかな……?) ガチャガチャ

梓「じゃあもう一度回してみてください」

唯「これ本当に大丈夫なやつなの?」

梓「同級生の下着を欲した変態ではないと、思考で証明してみてください」

唯「うぅ……」


ガチャリ


唯「……」

梓「……」


ガラッ


澪「おい!!」

梓「はいっ」

澪「おいっっ!!」

梓「えっ私じゃな ぐっ!? スパン

澪「はやく返せ!!」

梓「違うんですよ、だから唯先輩が!!」

唯「ちょっ澪ちゃん、あんまり暴れ回ると」

梓「澪先輩、スカートの中身が見えてますよ」

澪「!?」 バッ

梓「ウソですけど」

澪「殺すぞ!?」



『 パンティロッティ 』


梓「本日集まってもらったのは他でもありません」

梓「これよりHPT計画に関する会合を始めます」

律「HTTじゃなくて?」

梓「HPT!!」

梓「(H)平沢唯に (P)パンツ (T)食べさす 計画会議!!」

律「バカかよ」

さわ子「また騙された」

梓「すでに平沢家の食器は徐々に小さい物にすり替え、
  弁当箱に至っては20%ほどの縮小に成功しました」

梓「唯先輩は常に一定の空腹感に苛まれる状態に突入しています」

梓「ここまで実に半年かかりました」

律「何やってんだよお前は」

さわ子「いくらお腹が空いててもパンツは食べないと思います」 ハイ

梓「確かに、パンツは直に食べれないですからね」

梓「そこでこれを仕入れてきました」 ズルリ

律「なんでパンツ持ち歩いてるんだお前は」

梓「一見何の変哲もない女子高生のパンツですが、
  これはもち粉由来の特殊繊維で構築されており……」

さわ子「ほう」

梓「熱湯に5分ほど潜らせることにより
  もち粉繊維の分解と再構築が同時に行われ……」 コトコト

梓「モチモチ食感のスイーツへ変化するのです!」

律「ホントかよこれ」

梓「これが新開発された非常食兼用下着、パンティロッティです!」

さわ子「食用可でもパンツは食べないと思います」 ハイ

梓「確かに」

梓「そこでこのようにオシャレに手を加えて」 ササッ

梓「新種のマカロンのように擬態させます」

律「ただの丸めたパンツじゃねーか」

梓「外国のお菓子とか言っとけば絶対に食いつきますよ」

律「言うほど擬態できてないけどな」

梓「パンツは食べられない物という先入観……
  知恵と倫理を持ち合わせた我々だからこそ起こり得る問題ですが、
  この先入観こそが本計画最大の障壁でした」

律「倫理のカケラもない計画」

さわ子「薄いモチみたいな食感」 モッチ

梓「って あああああぁ!! なに食ってんですか!?」

さわ子「パンツ」

梓「食うな!!」

さわ子「もう無いのこれ?」

梓「ありますけど渡しません」

さわ子「いま穿いてるのは食べれないやつなの?」

梓「あげません!」

さわ子「ちょっとくらい良いでしょ! パンツ! パンツ食べたい!!」

梓「これは唯先輩に食べさせるパンツです!!」

梓「ぜったい脱ぎませんからね!?」


ギャー ギャー ウォォォォ


唯「………」 バタン

澪「どうした」

紬「帰るの?」

唯「ちょっと具合が悪くて……」



『 ネコセボーン 』


梓「えっ、私がですか?」

唯「あずにゃん2号が可愛いって言ったの」

梓「私をペットにして飼ってみたいと…?」

唯「2号の話だってば」

梓「その願い、叶えられないこともなし」 スチャ

唯「違うからね」

梓「こんな事もあろうかと、こちらを購入してきました」

唯「なにこれ? ネコ耳がついた…背骨?」

梓「これはネコセボーンという器具です」

梓「周辺空間の有する猫スペクトルから非実在キャッツを仮想的に構築、
  装着者に対し動作トレースを行うことで猫の動きを再現させます」

唯「猫スペクタルを」 ゴクリ

梓「例えばこれを澪先輩に装着させれば、
  澪先輩をネコとして飼うことができるわけですね」 ガシン

澪「!?」

唯「今これ、ネコになってるの?」

梓「澪先輩はネコですか?」

澪「誰がネコだ」

澪「なんだこれは」

唯「なってないよ?」

梓「ええと、これは構築した仮想猫データを体内に巡らせて
  脊椎から尻尾部まで通すことで猫化するんですよ」

唯「どうやったら巡るの?」

梓「ネコ耳の辺りにあるボタンを押してですね……」

澪「どうやって外すんだこれ」 カチ

梓「あっ」

澪「えっ」


ギュィィィィィィン


唯「なんかネコみたいな霊体が澪ちゃんに」

澪「………」 スッ

唯「ネコ!?」

澪「ンナァァァァァ……」

唯「なんか思ってたのと違う」

梓「これは、遊びが無いタイプのネコ……!」

澪「オァァァァァァン」 トトト

唯「ひっ!?」

梓「ネコのサイズじゃないから圧がすごい」

澪「グルルゥゥゥゥゥゥゥゥ」 スン

唯「膝の上に乗ってきた!」

梓「なついてるって事なんですかね」

唯「重い……」

澪「シャアッ」 シュバッ

唯「棚の上に!」

梓「あっ、トンちゃんの水槽に!?」


ドガァ バシャァ


澪「ぐふっ!?」

唯「澪ちゃん!?」

澪「ンナァァァアァァァァ!!」 シュババ

梓「走り去って行ってしまった」


キャァァ! キャー! ワー ギャァァァ


律「あれ、澪は?」

唯「ええと、なんて説明したらいいのこれ」

梓「ネコ耳つけて走り去って行きました」

律「そうか」

唯「そうだけど」



3
最終更新:2022年08月11日 11:59