【じゅうしち日】
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
紬「…」キュ
唯「ムギちゃん!」
紬「‥‥あら、唯ちゃん。どうしたの?」
唯「ムギちゃんが部室に来ないから迎えにきたんだよ」
紬「そう…」
唯「窓ガラスに指で何か書いてたんだね。‥‥ふたまるひとにい?」
紬「ええ‥‥唯ちゃんに意味がわかるかしら?」
唯「えーっと2‥0‥1‥2‥‥‥わかった! 今年のことでしょ」
紬「ええ、正解。それじゃ部室に行きましょうか」
2分前
憂(あれ、あの人‥‥)
憂(間違いない。紬さんだ)
憂(窓に何か書いてるみたい‥‥)
憂(あっ、お姉ちゃんがきた)
憂(二人でお話してるみたい。邪魔しちゃ悪いよね‥‥)
憂(‥‥)
憂(‥‥)
憂(こっちに気づかないまま行っちゃった)
憂(‥‥ちょっと寂しいな)
憂(そういえば紬さんは何を書いてたんだろ?)
憂(えっと‥‥ふたまるひとにい)
憂(これって‥‥)
2時間後
憂「‥‥」
紬「あら、憂ちゃんじゃない」
憂「‥‥紬さんも信じてるんですか?」
紬「‥‥なんのこと?」
憂「さっき窓ガラスに書いてるの見ました」
紬「2012年?」
憂「20時12分」
紬「憂ちゃんも、なんだ」
憂「はい」
紬「地球が滅びるって信じてるんだ」
憂「はい」
紬「仲間ができちゃったね」
憂「はい」
紬「仲間、かぁ‥‥」
憂「よかったら少しお話しませんか」
紬「それなら部室にこない?」
憂「紅茶でもいれてくれるんですか?」
紬「ええ。‥‥でも憂ちゃんは晩御飯の用意があるんだっけ?」
憂「ひとはちさんまるぐらいまでなら大丈夫です」
紬「その言い回し気に入ったの?」
憂「はい。少しだけ‥‥」
紬(憂ちゃんは不思議な子です)
紬(見た目は唯ちゃんそっくりだけど中身は全然違います)
紬(しっかりもので、なんでもすぐできるようになる天才肌)
紬(そういう人は得てして周囲に圧迫感を与えるけど、憂ちゃんにはそれが全くありません)
紬(憂ちゃんのまとっている空気はとっても柔らかく、周囲を和ませてくれる)
紬(能ある鷹は爪を隠すって言うけど、憂ちゃんは鷹なんかじゃない)
紬(もっとかわいらしい何かです)
紬(だから憂ちゃんが予言を信じているというのはちょっと意外)
紬(世界滅亡を信じる人の多くは、心のどこかでそれを望んでいるから‥‥)
12分後
紬「おまたせ」
憂「ありがとうございます」
紬「どうかしら?」
憂「とっても美味しいです」
紬「憂ちゃんにそう言ってもらえると凄く嬉しいわ」
憂「どういう意味ですか?」
紬「だって憂ちゃんはなんでもできるでしょ?」
憂「なんでもはできません」
紬「そう?」
憂「こんなに美味しい紅茶を入れることだってできませんし‥‥」
紬「教えたら次の日にはマスターしちゃいそうだけど」
憂「‥‥」
紬「ごめんなさい。気を悪くしちゃったかしら?」
憂「いいえ。でも‥‥」
紬「ん」
憂「あんまり良い気分でもありません」
紬「それは本当にごめんなさい‥‥」
憂「だから少しだけ話を聞いてもらえますか」
紬「‥‥私でよければいくらでも」
憂「探してたんです。世界が滅びて欲しいと願ってる人のこと」
紬「‥‥どうして?」
憂「仲間がいないと寂しいから」
紬「そう‥‥」
憂「梓ちゃんも純ちゃんもぜんぜん信じてませんでした」
紬「そうでしょうね」
憂「もちろんお姉ちゃんも」
紬「唯ちゃんは怖がってくれたわよ」
憂「怖がるだけです」
紬「そうね。りっちゃんと澪ちゃんも笑ってたわ。あと‥‥和ちゃんも」
憂「はい‥‥和さんも」
紬「それで、仲間を見つけた憂ちゃんはどうするの?」
憂「お話、しませんか」
紬「してるじゃない」
憂「毎日です」
紬「毎日、この時間に?」
憂「はい。駄目ですか?」
紬「いいえ」
憂「それじゃあ決まりですね」
紬「ええ、これからよろしくね」
憂「こちらこそ宜しくお願いしますね。紬さん」
【じゅうはち日】
紬「それじゃあ憂ちゃんは21日派なんだ」
憂「はい。‥‥紬さんもそうですよね」
紬「ううん。私は23日派」
憂「えっ、でも、窓ガラスに20時12分って」
紬「データから計算すると日本では21日の20時12分が冬至。マヤのカレンダーが終わる時」
憂「はい」
紬「でも23日説もあるでしょ。フォトンベルトとか」
憂「そうなんですか?」
紬「ええ」
憂「それじゃあフォトンベルト説を信じてるんですか?」
紬「ううん。23日説なら、21日に滅びなくても、22日に滅びなくても、まだ滅びるかもしれないってワクワクできるじゃない」
憂「そんな理由で‥‥?」
紬「気に入らない?」
憂「そんなことありません。でも、納得はできないかも」
紬「そう」
憂「紬さんも21日説に乗り換えませんか?」
紬「いいよ」
憂「えっ‥‥」
紬「あっさりすぎる?」
憂「‥‥はい」
紬「別にこだわりはなかったから」
憂「ですか‥‥」
紬「これで揃ったね」
憂「ふたまるひとにい」
紬「じんるいめつぼー」
憂「するといいですね」
紬「ええ」
【じゅうく日】
紬「今日はお菓子を作ってきてみたの」
憂「手作りですか?」
紬「ええ、唯ちゃん達には好評だったのだけれど」
憂「クッキー‥‥」
紬「食べてみてくれる?」
憂「‥‥レーズン」
紬「嫌いだった?」
憂「ううん。美味しいです」
紬「ほんとう?」
憂「でも、少しだけ砂糖を減らしたほうがいいかも」
紬「そうなの? レシピ通りに作ったのだけれども」
憂「あまりいいレシピじゃなかったのかも。でも‥‥」
紬「うん?」
憂「お姉ちゃんはこっちのほうが好きかもしれません」
紬「そっかぁ」
憂「はい」
紬「うふふ」
憂「ふふふ」
紬「じんるいほろびたら唯ちゃんも死んじゃうね」
憂「そうですね」
紬「いいんだ?」
憂「紬さん、意地悪です」
紬「ごめんね」
憂「お姉ちゃんが死んでいいわけありません。でもみんないっしょなら」
紬「いいんだ?」
憂「やっぱりよくありません」
紬「難しいんだね」
憂「乙女心は複雑です」
紬「憂ちゃん乙女だったのね」
憂「紬さんも処女でしょ?」
紬「そうだけど、恋はいいかな」
憂「紬さんは女の人が好きだって聞きました」
紬「‥‥女の子が仲良くしているのを見るのが好きなの」
憂「自分では?」
紬「恋は‥‥いいかな」
憂「どうしてですか?」
紬「どうしても」
憂「それじゃあ、私と付き合いましょう」
紬「どうして?」
憂「仲間がいないと寂しいからです」
紬「その言葉、前にも聞いたような気がするわ」
憂「言ったかもしれません」
紬「明後日には世界が滅びるかもしれないんだよ」
憂「だからです」
紬「そういうことなら‥‥いいよ」
憂「これで恋人どうし‥‥」
紬「キスでもする?」
憂「それはまだ早いです」
紬「そうなの?」
憂「乙女心は複雑なんです」
憂(紬さんは変わった人です)
憂(最初はお姉ちゃんとちょっと仲の良い先輩、という印象しかありませんでした)
憂(自分とは縁のない人だと思っていましたから)
憂(でもお話して、一緒の時間を過ごしてみると、とてもおもしろい人だとわかりました)
憂(紬さんは心が弱い、他人が傷つくのをどうしても直視できない人です)
憂(だからこそ靭やかに生きていくことを知っています)
憂(お姉ちゃんとも和ちゃんとも全然違う、優しい人)
憂(私と一緒にせかいのめつぼうを願ってくれる人)
【はつ日】
紬「いよいよ明日だね」
憂「世界、ほろびるでしょうか?」
紬「どうだろう?」
憂「信じてるんじゃないんですか?」
紬「信じているけど、信仰を押し付けるのは趣味じゃないから」
憂「なら仕方ないですね」
紬「ええ、そうなの」
憂「‥‥ぷっ」
紬「うふふ」
憂「どうして紬先輩とお話するとこうなっちゃうんでしょう」
紬「どうしてかしら。でも‥‥」
憂「ええ、嫌いじゃないです」
紬「憂ちゃんとこんなにお話する日がくるなんて思ってなかったわ」
憂「私もです。一番遠い人だと思ってました」
紬「遠い?」
憂「縁がない」
紬「そっか。私はそうでもないと思ってたけど」
憂「そうなんですか?」
紬「ええ。唯ちゃんの妹だから」
憂「なるほど‥‥」
紬「一度、一緒にお菓子作りしてみたいと思ってたの」
憂「お菓子作り、ですか?」
紬「憂ちゃんの技を盗みたいなって」
憂「紬さんはひどい人です」
紬「それはどうも」
憂「恋人同士なんだから、もっとらしいことしましょう」
紬「そういう設定もあったね」
憂「設定じゃありません」
紬「そうなの?」
憂「乙女心を裏切ったら針千本です」
紬「ぷくー」
憂「ほっぺたを膨らませて‥‥ハリセンボンの真似?」
紬「ぷくー」コク
憂「全然笑えませ‥‥ぷっ」
紬「あっ、笑った」
憂「だって紬さんの顔。あははははは」
紬「‥‥そんなに笑われると傷ついちゃう」
憂「はははは」
紬「もうっ‥‥」
憂「ごめんなさい、紬さん」
紬「別にいいけどね。ねぇ、憂ちゃん」
憂「どうしました?」
紬「キスしない?」
憂「はい」
紬「えっと‥‥どっちの意味?」
憂「こっちの意味です」
チュ
紬「キスって軽いね」
憂「そうですね」
紬「甘くも酸っぱくもなくて‥‥ちょっとだけ空虚」
憂「紬さん詩人ですね」
紬「憂ちゃんはどう感じた?」
憂「ちょっとだけ甘かったかもしれません」
最終更新:2012年12月22日 00:34