唯「ムギちゃん。ちょっといいかな」

紬「あっ、唯ちゃん」

唯「ちょっとお話があるんだけど」

紬「なにかなぁ?」

唯「えっとね…」

紬「うん」

唯「それがねぇ…」

紬「…もしかしてここだと話しにくいことだったりする?」

唯「…うん」

紬「じゃあちょっと人が少ないところへ行きましょうか」



―――
紬「ここならいいかな」

唯「あっ、うん…」

紬「それで、どうしたの?」

唯「あのね、ムギちゃん。最近私おかしいんだ」

紬「えっと…ノロウィルスかしら?」

唯「そういうんじゃなくて…うん、そのね…」

紬「うん」

唯「和ちゃんを見てるとね」

紬「うん」

唯「こう、頭が…」

紬「頭が?」

唯「軋むって言うか…」

紬「軋む?」

唯「う~ん! うまく言えないよ!!」

紬「えっと、和ちゃんを見てると、どうにかなっちゃうのはわかったわ」

唯「うん。例えばね。和ちゃんと澪ちゃんがお喋りしてるとするでしょ」

紬「…うん」

唯「昔はね、仲よきことは善き哉ー、って思えたんだ」

紬「うん」

唯「でもね、今は頭の奥のほうがもやもや~ってするの」

紬「なるほどねぇ」

唯「ムギちゃん、何かわかったの?」

紬「唯ちゃん。和ちゃんのことどう思う?」

唯「どうって…和ちゃんはしっかりやさんんで優しくて実はとっても優しくて…………//」

紬「どうしてそこで赤くなるの?」

唯「あっ、なんでだろー」

紬「うふふふ」

唯「む、ムギちゃん」

紬「唯ちゃんはね、きっと和ちゃんに恋してるの」

紬「それで唯ちゃん。告白のご予定は」

唯「ないない。ないって。だってまだよくわかんないし」

紬「そう。でも和ちゃんは違う大学よ」

唯「…」

紬「ごめんね…」

唯「ううん。わかってるよ」

紬「唯ちゃん…」

唯「ねぇ、ムギちゃん。また何かあったら相談に乗ってもらっていいかな」

紬「ええ、私でよければ喜んで」

唯「ありがとうムギちゃん」



―――
紬「澪ちゃん、きてくれたんだ」

澪「そりゃあ来るよ。だって…」

紬「来てくれないかもしれない、って心配してた」

澪「ムギでもそんな心配するの?」

紬「うん。澪ちゃんのことはいつも心配」

澪「ごめん」

紬「澪ちゃんが謝ることじゃないよ」

澪「そうなの?」

紬「うん。だって私が勝手に不安がってるだけだから」

澪「だけど、その理由は私にあるんだろ」

紬「そうじゃないの。澪ちゃんのことはとっても信頼してるし」

紬「それでもね。澪ちゃんが来なかったらどうしようって心配しちゃうの」

澪「ムギ…」

紬「澪ちゃんごめんね。こんなの全然私らしくないよね」

澪「そんなことないと思う。そういうのも全部ひっくるめてムギだと思うし」

澪「そういうムギだからこそ私も好きになったんだ」

紬「澪ちゃん…」

澪「ムギ…」

チュ

紬「あっ…」

澪「もういっかいいいかな」

紬「ええ」

チュ

紬「しあわせ…」

澪「私も…」

紬「…」

澪「…」

紬「あっ、そうだ」

澪「どうしたの?」

紬「…」

澪「ムギ?」

紬「…うん。話しちゃおう」

澪「…?」

紬「あのね、これから話すことは秘密にして欲しいんだけど…」

澪「うん」

紬「実は唯ちゃんに相談されたの」

澪「唯に?」

紬「うん。最近和ちゃんのことを考えるっと頭が軋むって」

澪「厨二病?」

紬「ううん。恋だと思う」

澪「恋で頭が軋むの?」

紬「少なくとも私はそうだったから」

澪「えっ、そんなの全然知らなかった。知ってれば…」

紬「うん?」

澪「毎日ムギの頭を撫でてあげたのに…」

紬「それは今からでもお願いしたいけど、それでね」

澪「あぁ、わかってるよ」

紬「たぶん和ちゃんも…なんだよね」

澪「直接本人から聞いたことはないけど、そうなんだと思う」

紬「そっかぁ」

澪「うん」

紬「私達に何かできることはないかしら」

澪「それは…難しいかもしれない」

紬「やっぱり?」

澪「うん。和はさ…唯から離れるのを喜んでるっていうか…」

澪「自分から離れても一人でちゃんとやっていける今の唯のことを嬉しいって言うんだ」

紬「うん」

澪「なんていえばいいのかな。自分の役割はもう終わったとでも言いたげな感じなんだ」

澪「私達と仲良くなればなるほど、唯と和が一緒にいる時間は減るだろ」

紬「そうだね」

澪「和にとってそれは悲しいことのはずなのに、嬉しいって言う…」

紬「それは多分…」

澪「…?」

紬「和ちゃんにとって唯ちゃんが大切すぎるからじゃないかな」

澪「大切すぎる?」

紬「うん。唯ちゃんのことを一番に考えちゃうから」

澪「独り立ちできるようになった唯を見て喜んでる?」

紬「うん」

澪「…」

紬「澪ちゃん?」

澪「いや、本当にそうなのかな、って」

澪「聞いたんだ。『大学に入ったら留学とかもしたい』って」

澪「『前向きに進んでる唯を見てると自分も頑張らなきゃって思えるの』って」

澪「でも、それってちょっと違うんじゃないかな、と思うんだ」

紬「どういうこと?」

澪「だって和は今でも十分頑張ってるじゃないか。生徒会長なんて半端なことじゃできない」

紬「そうだね」

澪「和と唯の話をしてるとさ、時々自分に言い聞かせてるんじゃないか、って思えることがあるんだ」

紬「うん」

澪「たぶん和は無理してでも唯から離れようとしてる」

紬「気持ちを押し殺すため?」

澪「あぁ。それが今の和なんだと思う」

紬「…うん」

澪「私、決めつけすぎかな?」

紬「気になるなら、聞いてみればいいんじゃない?」

澪「えっ」

紬「うん。そうしましょう。和ちゃんに直接聞いてみましょう」



―――
和「それで私を呼び出したのね」

澪「うん…」

紬「ええ、そうなの」

和「はぁ…」

紬「それでまず聞きたいんだけど、和ちゃんは唯ちゃんのこと好きなの?」

和「…言う必要はないわ」

紬「そう」

澪「えっ?」

紬「澪ちゃん。答えがないのも答えのうちだから…」

和「…」

紬「それで和ちゃん。留学の話はどうなの?」

和「それは関係ないわ」

紬「本当に?」

和「えぇ」

澪「でも和、留学の話をしたとき、ちょっとだけ寂しそうな顔してた」

和「気のせいよ」

澪「だけど!」

和「唯を見てるとね、私も何かやらなきゃ、って気持ちになったのは本当」

和「大学で自治会に入る予定はないから、それなら何かやりたいなって話よ」

和「別に…」

紬「別に?」

和「なんでもないわ」

紬「そう?」

和「ええ」

紬「ねぇ、和ちゃん。和ちゃんはもし唯ちゃんから告白されたらどうする?」

和「そんなことありえないわよ」

紬「…もし告白されたらの話よ」

和「ありえないわ」

紬「どうしてそう言い切れるの?」

紬「今の唯ちゃんがあるのは和ちゃんのおかげでもあると思うし」

紬「それほどありえないことではないと思うのだけれど」

和「ありえないわ。だって逆だもの」

澪「逆?」

紬「…なるほど」

和「わかっちゃったの?」

紬「ごめんね」

和「ムギと話してると調子が狂うわ」

澪「…どういうこと?」

紬「澪ちゃんには後で説明するわ」

和「話はこれくらいでいいかしら」

紬「ええ。でもこれだけは覚えておいて」

和「…?」

紬「理屈は感情に勝てないってこと」

和「…そうなんだ。じゃあ私生徒会に行かなきゃ」


澪「行っちゃった…」

紬「そうね…」



―――
澪「どうしたんだ唯? ジーっと和の席を見て」

唯「あっ、澪ちゃん。なんでもないんだよなんでも。決して和ちゃんに恋してるわけじゃ――」

澪「いいよ。ムギから聞いたから」

唯「あっ、そうなんだ」

澪「いいのか?」

唯「うん。ムギちゃんが話したほうがいいって思ったんなら、それはきっと正しいし」

澪「信頼されてるんだな。いや、餌付けされてると言うべきか」

唯「餌付けなんかじゃないって!」

澪「あはは。まぁ、どっちでもいいけどさ」

澪「唯は和のことが好きなんだな」

唯「うん」

澪「和と話してる私に嫉妬しちゃうぐらいに」

唯「ムギちゃん、そこまで話しちゃったの?」

澪「うん。ちょっとムギはしゃべりすぎかもしれない」

唯「でもそうなんだよ…」

唯「ムギちゃんと話をしてから考えてたら、どんどん自分の気持ちが分かっちゃって…」

澪「そっかぁ」

唯「それでね、どうやって告白しようか考えてたの」

澪「そのままの気持ちをぶつければいいんじゃないかな?」

唯「そうなの? ムギちゃんに相談して作戦を立ててもらおうと思ってたんだけど」

澪「ムギも和も色々難しく考えちゃうところがあるけれど、恋愛ってもっとシンプルでいいと思うんだ」

唯「シンプルでいい?」

澪「うん唯の素直な気持ちをぶつければそれでいい」

澪「少なくとも、私の場合、それでうまくいったから」

唯「えっ、澪ちゃん誰かと付き合ってるの?」

澪「あ、あぁ」

澪「とにかくさ、私も最初は色々理屈つけて断られそうになったんだ」

澪「『りっちゃんはどうなの』とか『梓ちゃんのほうが』とか…」

澪「『私とつきあっても楽しくないかもしれないよ』とか…」

澪「でもさ、そういうの関係ないと思う」

澪「だって好きになったら、もうしょうがないだろ」

澪「どんな障害があったって突き進むしかないんだから」

唯「うん、澪ちゃんの言ってることすごくよくわかるよ」

澪「だよな!」

唯「大切なのはフィーリングだね!」

澪「うん!」

唯「それじゃあ今から和ちゃんに告白してくる」

澪「うん」

澪「…ってあれ、今日って和の誕生日だよな」

澪「唯、ちゃんと覚えてるんだろうか?」



紬「うふふふ」

澪「…! ムギ?」

紬「惚れ直しちゃった」

澪「えっと…これでよかったのかな」

紬「うん。それでいいんだよ」

澪「ちょっと自信がないけど…」

紬「自信なんていらないって、私達まだ高校生だもの」

澪「なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

澪「和と話した時に言ってた『逆』ってなんのこと?」

紬「ずっと前、澪ちゃんが言ってくれたでしょ」

紬「『ムギにいろんなことを話すと楽になれる。そのおかげで私は――』って」

澪「…うん//」

紬「でもね。それは逆でもあるの」

澪「どういうこと?」

紬「澪ちゃんの支えになれてるってことは、私にとって、私を形作る大切な一つだってこと」

澪「そうなの?」

紬「えぇ、和ちゃんが言ってたのはそういうこと」

澪「なるほど…」

紬「和ちゃんの場合はちょっと複雑でね、それがコンプレックスでもあると思うの」

澪「コンプレックス?」

紬「中学生の頃の唯ちゃんって今ほど楽しそうになんでもやる子じゃなかったんでしょ?」

澪「あぁ、和はそう言ってた」

紬「『軽音部には唯ちゃんを変える力があったけど、自分にはその力がなかった』って和ちゃんは考えてるんだと思う」

澪「なるほど…」

澪「でも唯なら」

紬「えぇ、唯ちゃんならきっと大丈夫」

澪「そうだな。唯だからな」

紬「それじゃあ唯ちゃんの家に行って、和ちゃんの誕生パーティーの用意をしましょうか」

澪「あぁ」


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最終更新:2012年12月27日 20:40