空港

唯「りっちゃん、りっちゃん! 見て見て!」

律「マジか! 本当にあんな鉄の塊が飛んでるよ!」

梓「さすがにここまで来たらテンション上がりますね!」

澪「な、なぁムギ」

紬「何? 澪ちゃん」

澪「トイレどこかな?」

紬「お手洗いだったら、この先を左よ」

澪「本当に?」

紬「え? うん」

律「なにそんなに疑ってるんだよ」

澪「いや、私この空港初めてだし、ちょっと不安になるじゃないか」

律「ムギはここに何回も来てるだろうから大丈夫だろ」

澪「トイレこの先左なんだな?」

紬「間違いないはずだけど」

澪「本当にこの先左なの?」

紬「え、ええ……」

律「ほら、早く行って来いって」

澪「ってかさ、右の可能性はないの?」

紬「えっと、もしかしたら右にもあるかもしれないけど……」

澪「ほらぁ~! やっぱりぃ~! 危うく騙されちゃうところだったよ~」

澪「あっぶね! あっぶね!」

紬「澪ちゃんどうしちゃったの?」

唯「ちょっと朝からテンションおかしいんだって」

梓「ロンドンに一番行きたがってたのは澪先輩ですからね」

紬「まぁまぁ、たかが海外でそこまでテンションがおかしくなるほど
  変になっちゃうなんて逆に羨ましいわ」

梓「あ、ブン殴りたい」

紬「ぶって!!!!!!」

唯「あずにゃん、ムギちゃんにとってはご褒美になっちゃうからやめといた方がいいよ」

梓「ですね」

澪「おいぃ~、緊急事態の私を放ったらかしにして
  そっちでなんか楽しい感じになるなよぉ~」

澪「この私のおしっこ我慢してる最中の
  クネクネした動きにもちょっとは触れてくれよぉ~」

律「もうそんなんになってるんだったら早く行ってこいって」

澪「だ~か~ら~、左に行けばいいのか右に行けばいいのかって話だろ」

律「左に行けばあるんだって」

澪「そりゃいずれはあるだろうけどさぁ
  重要なのは実際左と右とではどっちの方が近いかってところだろ」

澪「もう限界きちゃってるんだから、遠い方に行っちゃったら
  大変なことになるんだぞ!」

律「だったらそんなん言ってる間にもう左に行ってこいって!」

澪「私から選択肢を奪うなよ! お前は何様だ!」

律「ああ! もう! なんなんだよ!」

澪「あ……」

律「あ?」

澪「えっと……うん。なんかトイレはもういいや……」

律「いやいやいや! 待て待て!」

澪「安心しろ。こんなこともあろうかと大人用紙オムツを穿いてきてるんだ
  準備は万全にしとかないとな」

律「女子高生が想定するような事態じゃねーし」

澪「でも、なんか凄く気持ち悪いから速攻脱いで捨ててきたい」

律「さっさと行ってこい」

澪「おかげでなんでオシメが濡れると赤ちゃんが大泣きするのかわかったよ」

澪「またひとつ大人の階段を上っちゃったな」

律「私には滑り落ちているようにしか見えないがな」

澪「りつぅ~。ついて来て」

律「やだよ、ひとりで行ってこいって」

澪「お漏らししたんだぞ!? そんな人間をひとりで行かせるのか!?」

律「なんだか澪の将来が心配になってきた」

澪「うぅ~……」

律「ったく、仕方ないな」

澪「やった! 律大好き!」

律「よ、よせやい!///」

澪「あ、律! この空港限定のスイーツだって!」

律「じゃあ、オムツの処理のあとに買ってやるよ」

澪「わーい! やっぱり律が一番だよ!」

律「3つ買ってやろうな、3つ」

梓「私は将来律先輩が悪い大人に騙されたりしないかの方が心配になります」



 ロンドン ヒースロー空港

唯「やっと着いたね~」

澪「あ~、間違いなくロンドンだな。この空気感は」

紬「とりあえず、荷物もあることだし
  先にホテルにチェックインして荷物預けてから観光しましょ」

梓「そうですね」

律「じゃあとりあえず外に出てタクシー拾うか」

 ウィ~ン ビュォォォォォォォォッ

唯「寒っ!」

澪「ロンドンの寒さだ」

律「あ、あっちにあんのタクシーじゃね?」

梓「そうみたいですね」

唯「なんか可愛い~」

澪「おい、ちょっと待て」

律「え? なに?」

澪「私が渾身のボケを放ったっていうのに見事にスルーか」

律「え? な、なんか言ったっけ……」

澪「『ロンドンの寒さだ』って言ったんだぞ」

澪「私、ロンドン初めてなのに」

律「あ~、うん……」

澪「初めてのくせになにロンドン上級者気取ってんの?
  ってツッコミ入れるとこだろ!」

律「いや、私もロンドン初めてだから、へ~、これがロンドンの寒さなのかって」

澪「なに逆に感心しちゃってるんだよ」

澪「しかもその前にロンドンの空気感
  とかおかしなこと言ってネタ振りしていたにも関わらず」

律「こっちも初ロンドンでテンション上がってるからそこまで気づかないっていうか」

澪「ロンドン行きの希望が叶った私がテンション上がりすぎてついつい出たボケを
  しっかりツッコんでくれないとこれ以降テンションだだ下がりになっちゃうだろ!」

澪「今までどれだけ律のボケを私が拾ってきたと思ってるんだよ!
  たまには私のボケにも付き合ってくれてもいいだろ!」

律「わ、悪かったって」

澪「じゃあもう一回」

律「やり直すの!?」

 ウィ~ン ビュォォォォォォォォッ

澪「ロンドンの寒さだ」

律「お前ロンドン初め……」

唯「ロンドンの空!」

澪 カシャ

唯「ロンドンのタクシー!」

澪 カシャ

唯「ロンドンの英語!」

澪 カシャ

唯「ロンドンに居る~、私たち!」

澪 カシャ

律「……おい」

紬「これが本物のトリオ漫才」ゴクリ…

梓「これから大丈夫かな……」

 … … …

律「なんかお腹空いたな」

唯「結構色々と歩いたしね」

澪「ホテルの場所間違えるわ、梓が調子乗って新しい靴なんて履いて来るから靴擦れおこすわ」

梓「すみません……」

澪「いや、私も調子に乗ってロックっぽい服とか言っちゃったからおあいこだな」

澪「ロックっぽい服なんて一切興味もないのに
  ちょっとロンドンっぽさを出すためについつい言っちゃった」

梓「そ、そうですか……」

紬「ところで今夜のディナーは何にする?」

律「そろそろそんな時間だもんな」

澪「私は何でもいいよ、お寿司でも」

律「ロンドンに来てまで寿司かよ」

澪「いや、とりあえず言ってみただけだから。基本何でもいいよ」

唯「ロンドンって言ったらあれだよね。えっと、チャゲアンドアスカだっけ?」

梓「もしかしてフィッシュアンドチップスの事ですか?」

唯「そうそう、それ」

律「間違え方が大雑把すぎだろ」

梓「でも、いくらイギリスだからってちょっと安易じゃありませんか?」

澪「まぁ、私は皆に合わせるから好きに決めてくれてもいいよ
  別に寿司でもいいけどな」

律「ここは海外の経験が多いムギの意見を聞いてみよう」

紬「そうね~。別に地元ってことにこだわらなくてもいいんじゃない?」

紬「正直、イギリスは食事には期待できないし」

律「そっか~。そういうもんか」

紬「だからいっそのこと中華とかタイ料理にしてみるとか」

澪「それがアレだったら寿司でもいいしな」

律「あえて焼肉とかな」

澪「焼肉でもいいし、寿司でもいいし」

律「お前本当は寿司しか食いたくないんじゃないの?」

唯「あ! 見て見て! SUSHIって看板があるよ!」

梓「回転寿司ですね」

紬「回るの!?」

澪「あ~もう、他探すの面倒だし、なんかムギが興味津々だし
  私はとくにこだわりはないけど、もうここでいいんじゃないかな」

律「どうしてもお前は自分の提案で寿司が食いたいってことにしたくないんだな」

澪「だって、もし不味かったら提案した人間の責任問題になっちゃうだろ」

律「どこまでネガティブ思考なんだよ」

唯「でも、もう私お腹空いちゃったよ~」

梓「私もです」

律「そうだな。逆にロンドンで寿司ってのも有りっちゃ~有りかもな」

律「お手並み拝見させてもらおうか。ロンドン!」

 … … …

澪「ロンドン怖い……」

梓「酷い目にあいましたね……」

律「結局何も食べさせてもらえなかったしな」

澪「そこだよ、そこ」

唯「どうしたの? 澪ちゃん」

澪「普通はライブのお礼に何か食べさせてくれてもいいだろうに
  終わった瞬間に追い出された」

紬「でも、私たちはラブクライシスじゃなかったから」

澪「いや、演奏が終わって追い出される瞬間まであっちは私たちのことを
  ラブクライシスだと思ってたはずだ」

澪「だから先に本家ラブクライシスが入っていって演奏したとしても
  同じように終わった瞬間サンキューゴーホームって展開だろう」

澪「それっておかしくないか?」

律「た、確かに……」

澪「イギリス人は紳士だって話だけど、とんだ嘘っぱちだな」

澪「開店祝いに演奏した人間に対して寿司折りのひとつも持たせずほっぽり出すなんて」

澪「ケチなんて表現じゃ、もはや生温い」

紬「でも、あの支配人さんっぽい人、なんかジェントルマンを捨てた感じだったわよ」

梓「それは私も思いました」

澪「そっか。やっぱりどこの国でもオカマは厚かましいんだな」

律「あ、あんまりそういうこと言うなよ」

澪「もうなんかロンドンに来てからいいことひとつもないよな」

律「まだ、これからだって」

澪「明日だって、観光部分はテーマソングの間に適当にやっちゃう感じだろ?」

律「そういうことも言うなって……」



 翌日

澪「いや~、ロンドン堪能したな~」

澪「具体的に言うとワンコーラスの長さくらい堪能したな」

律「だから、そういうこと言うなって」

澪「結局アビィロードも渡ったのかどうか全然わかんなかったし」

澪「印象に残ったのは唯が犬の糞を捨てる奴に手を突っ込んでたってくらいだし」

澪「今の段階ではロンドン=糞のイメージしかないわけだけど」

唯「でもそこの公園のリス可愛かったよね~」

澪「確かにあのリスは可愛かったけど、ちょっとリスには乗れないしな」

澪「あと、唯はそれ以上近づくなよ」

唯「ふぇぇ~。りっちゃん、澪ちゃんが冷たいよ~」

律「いや、わかったから、それ以上近づくなって」

唯「ムギちゃん、あずにゃ~ん」

紬「ちょっと、それ以上は……」

梓「とりあえず、今日お風呂入るまでは離れていてください」

澪「お風呂入ってからもう一度親友としてやり直そう」

唯「うん、わかった……」

澪「ところで唯」

唯「なぁに?」

澪「さっきリス可愛いって言ったけど」

唯「うん」

澪「それちょっと重複してるぞ」

唯「重複って、なに?」

澪「表現が2重になっちゃってるってこと」

律「いや、なってないだろ」

澪「リスって言えば可愛いし、可愛いと言えばリスだろ」

律「リスは可愛いけど、他にも可愛いものなんていっぱいあるだろ」

澪「あと、この際だから言っとくけど、唯の作詞したごはんはおかず
  あれも、色々と炭水化物と炭水化物で重複しちゃってるからな」

律「それはそういう歌だろ!」

澪「だったらあれか!? 私も夜の夜霧とかそういうような詞を作ってもいいのか!?」

律「それは完全に重複してっから!」

澪「金持ちのムギ」

唯「あ、重複してる!」

律「してないしてない」

澪「焼き鳥にしたら美味しそうな鳥」

律「もうなんなんだ、それは」

澪「なんかそこに鳥がいっぱい居るから」

梓「可愛いですね」

澪「まぁ、乗れないけどな」

澪「その点馬はいい。乗れるから」

律「さっきから言ってるけど、お前の動物の基準は乗れるか乗れないかだけなの?」

澪「でも、怖いから馬にも乗らないけどな。怪我とかしたら嫌だし」

律「結局乗らないんだ……」

澪「いや、だって過去にあんなことがあったんだぞ
  だから乗れるような動物にも乗れなくなって当たり前じゃないか」

紬「何があったの?」

澪「いや、ちょっと恥ずかしいことだから……」

梓「聞きたいです!」

澪「なんなの? 恥ずかしいエピソードに極端に喰い付いてくる梓はいったいなんなの?」

澪「なんか前に私が着崩したときもひとり頬を染めて『おおっ!』とか言ってたし
  空港でのノーパン疑惑のやりとりの中でもほんのり良い感じに赤くなってたし」

澪「梓はあれか? そういうのなのか?」

梓「そ、そういうのじゃないです……」

澪「嘘つけ! あずキャットなんて可愛い愛称付けられて調子に乗ってるけど
  私に言わせれば梓はあずファックだよ!」

澪「あずファック! あずファック!」

梓「や、やめて下さい!」

澪「あずファック! あずファック!」

律「お、おい、澪。もうやめてやれって」

澪「いや、なんかちょっと声に出して言うと気持ちいいぞ」

唯「あずファック! あずファック!」

唯「本当だ! 声に出して言いたい日本語だよ!」

律「日本語か?」

紬「あずファック! あずファック!」

律「ムギまで……」

紬「本当……。すごくキレがいいわ! ぜひりっちゃんも言うべきよ!」

律「そ、そうか? じゃあ……」

律「あずファック! あずファック!」

律「マジだ、超気持ちいい」

澪「だろ?」

唯「あずファック! あずファック!」

紬「あずファック! あずファック!」

律「あずファック! あずファック!」

唯「あずファック! あずファック!」

紬「あずファック! あずファック!」

律「あずファック! あずファック!」

唯「あずファック! あずファック!」

紬「あずファック! あずファック!」

律「あずファック! あずシット!!」

唯「あれ? 澪ちゃんはもう言わないの?」

澪「ああ、私はもういいよ。それより」

「オー ジャパニーズ ゲイシャガール ソークレイジー」

澪「お前たちが日本女性の権威を相当貶めてしまったぞ」

律「……」

梓「そんな事より澪先輩の恥ずかしい話はまだですか!?」

紬「梓ちゃん逞しくなったわねぇ」

梓「澪先輩の恥ずかしい話の前では些細なことです」

澪「やっぱり、梓はそういう奴だったんだ」

梓「決してそういうんじゃありません!」

澪「そうか……」

澪「まぁ、いいや。そこまで聞きたいなら話してあげるよ」

澪「そう、あれは確か……」

律「……」

唯「……」

紬「……」

澪「ま、昔の話だよ」

梓「言えよ! 口パクパクしてただけじゃん!」

澪「お、鋭いツッコミだな」

梓「恐縮です」

澪「律も見習えよ」

律「嫌だよ」

紬「で、結局話してくれないの?」

澪「ムギも喰いつくねぇ」

唯「私も聞きた~い」

澪「でも、本当に恥ずかしいんだって」

律「そんなこと言わずに聞かせてくれよ」

澪「まぁ、律がそこまで言うなら」

唯「さすが幼馴染!」

紬「澪ちゃんの心の故郷!」

律「いや~、どもども」


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最終更新:2013年01月06日 01:54