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─────12月22日 放課後─────
ガチャ…
澪「ごめん、少し遅れた…って」
唯「あっ、澪ちゃんお疲れ~」
梓「先輩っ、お疲れ様です」ペコッ
澪「…練習、してるのか」
唯「ま、まあね~」
梓「あ、唯先輩。ここのコードは──」
♪~─~─~
澪(……関心関心)ウンウン
澪(でも、聴いたことないコード進行だな……)
澪(ふわふわでもなければ、ふでペンでもホッチキスでも……ん?)
紬「ん~~~~……」
澪「……ムギ?」
紬「ん~~~~……」
澪「……ム~ギ」ポンッ
紬「っわあ! み、澪ちゃん……いつからそこに?」
澪「今来たところだ、どうした? 難しい顔して」
紬「っえ!? え、いや……なんでもないわぁ」ニコッ
紬「そうだッ! お茶にしましょう?」
澪「あ、うん。そうだな」ニコッ
澪(怪しい……)
澪(……あれ、そういえば──)
澪「律はどうした? 確か、私より先に教室でたと思うんだけど…」
♪~─……
唯・梓・紬「……」シンッ─
澪「? ……?」
澪(なんだ、いきなりみんな黙り込んで……気味悪いな…)
澪「ど、どうしたんだよみんなッ。揃いも揃って静かになっ──」
ガチャ…
律「おーっす……」
唯・梓・紬「……」
澪「…おお、律。なんだ、どこかいって──」
律「っしょっと……」ドサッ
澪「えっ」
澪(……ダンボール?)
律「あ~ぁ疲れたなっと……ムギ、お茶ちょうだい」
紬「う、うん……」カチャカチャ
律「……あ、澪お疲れっ」ニコッ
澪「え、ああ……って、律。あのダンボール──」
唯「澪ちゃん、練習…しよ?」
澪「え……あ、そうだな」
澪(なんだこの感覚……モヤモヤする)
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♪~─~─~ ♪~─~─~ ♪~─~─~
澪(唯のギターの音に元気がない…)
澪(梓も……気のせいか分からないけど、ツインテールの位置が少し下がってる気がする)
律「ふ~飲んだ飲んだ」
紬「じゃあ食器は──」
律「ああいいよ、自分で洗う」
紬「あ……、……ッ」
澪「!?」
澪(律が自ら食器洗いだと……!? いつも結局私が洗うことになるのに……)
律「……」ゴシゴシ…
唯「……りっちゃん! もういい──」
梓「唯先輩ッ! ……ッ」
澪「…ちょっとみんな、私なにが何だか……」
律「……おし、みんなで合わせようぜっ」
紬「……そうねっ、それがいいわ」
律「多分、〝最後〟の──みんなでの演奏だ」
澪「!!」
唯・梓・紬「……」
澪(え、今……〝最後〟って)
律「おーしッ! たったくぞー!!」
澪「律。どういうこ──」
律「澪! ……終わったら、話すよ」
澪「ッ……」
唯・梓・紬「……」
澪(なんだよ……〝最後〟って)
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♪~─~フワフワタ-イム─~ ♪~─フワフワタ-イム~─~ ♪~─フワフワタ-イム~─~
律「はぁ……はぁ……」
澪「っ……っ……」
澪(4曲続けてセッションって……私ららしくない、な……)
律「っ……澪」
澪「なんだよ、律……」
律「……私、転校することになった」
唯・梓・紬「……」
澪「……え」
嫌な予感は、私の思った以上のショックを運んできた。
律の口から放たれた一言は、確実な重さを持って、
私の全身を舐めまわすように駆け巡り、
律の淋しげな笑顔は、まるで絶望に拍車をかけるかのように、私の心にひどく突き刺さった。
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律「悪いみんな、つき合わせちゃって……」スタスタ
唯「ドラムって、運ぶの大変だよね~」スタスタ
梓「桜高祭のときも大変でしたし、ね」スタスタ
澪「……」スタスタ
紬「み、澪ちゃん……」スタスタ
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澪「転校……?」
律「……お父さんの仕事の都合、でさ。九州に転校することになったんだ」
澪「……いつ」
律「……一月の、中旬かな」
澪「っ!!」
唯・梓・紬「……」
律「だからこーやって、ドラムを回収しに来たんだ。
冬休み前ってことで……みんな、手伝ってくれるか?」カチャカチャ
紬「も、もちろんよ~……」
梓「は、はいっ…手伝いますっ」
唯「よ~しやりますか」
澪「……」
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澪(私の、誕生日前後……)
澪(神様……こんなプレゼント、いらないよ)
律「よ~し、ここらでいいよ。玄関まで車で迎えがくるからさっ」
唯「うぅ~~ん、ドラちゃ~~ん……」
律「ってどこの人気漫画のロボットだよっ」ペシッ
唯「いてっ!」
紬「…ふ、ふっふふ」
梓「あは、アハハ……」
澪「……ハハッ」
私は必死に、無理やりにでも明るく振舞おうとした。
だけど私には、深い悲しみのベールが覆いかぶさっていて、
それから逃れることができなかった。
作り笑い──私の乾いた笑いは誰の耳に届くことはなく、
静かに空気の中にとけていって、消えた。
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澪「……嘘だよな、アイツが転校なんて」
澪「そうか、嘘か! いやぁ~また騙された、律のやつ明日になったら……」
澪「……明日になったら、殴ってやる」
澪「……」
『バンドやろーよ! バンドッ!』
澪「……」
『み~お!』
澪「……」
『みお~!!』
澪「……」ジワッ
澪「……うぅ…………っく……」ポロポロ
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─────終業式──────
律がドラムを持ち帰って、みんなでセッションも出来なくなった私達は、
冬休みに入るまで、部室でずっと駄弁っていた。
今ある時間を大切にするため、
〝律〟といる残りの時間を大切にするため、私は変わる決心をした。
澪(いつまでも律に頼ってちゃいけない……)スタスタ
澪(依存しちゃだめだッ……でも正直、こわいな)スタスタ
澪(アイツがいなくなったら、アイツがいたから……今の私があるのに──)スタスタ
律「おっと、澪……」バッタリ
澪「……おぉ律、まだ部室にいかないのか?」
律「んぇ!? あ、ああちょっとしたら行くけど……」
澪(せめて、律の前ではもう泣き言はいわない、どうしようもないことは忘れる)
澪「新曲が出来たんだ。部室行ったら、ちょっと見てくれよ」
律「……なにー? ま、期待しないで読むよっ……」
澪「どういう意味だそれはっ!」
律「はははっ、んじゃ部室で~」
澪(せめて、残りの時間ぐらい楽しめるように……)
澪(もう律に…迷惑かけないようにしなくちゃ……!)
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─────クリスマス──────
梓「じゃあ、私達はここで…」
紬「メリークリスマスッ!!」ノシ フリフリ
澪・律「メリークリスマス!」
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──
律「はぁ~~……楽しかったッ!!」
澪「そうだなっ」
律「やっぱり憂ちゃんの料理は格別だ……」
澪「……そうだな」
律「……」
澪「……」
律「なぁ、澪?」
澪「なんだ、律」チラッ
律「やっぱり、私がいなくなって……淋しいか?」
澪「……そりゃあな、淋しいさ」
律「……」
澪「だけどさ、決めたんだ。〝たとえ律がいなくなっても、強く生きれる人間になろう〟って」
律「……おいおいそれじゃ、まるであたしが死んだみたいじゃん!」
澪「ふふっ、ははは……っ!」
律「なんだよ、調子くるうなぁ……ワァーハハハッ!」
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──
律「はぁ…笑いすぎた……」
澪「わ、私も……」
澪「……いつでも、会えるよ」
律「だって、今ならメールもある」
律「ま、まぁな」
澪「そうだ律! 文通をしようっ」
律「えぇっ。文通~? メールがあるじゃん!」
澪「……九州だろ? だったら高速にのればすぐじゃないかっ!」
澪「飛行機だって……なんだってあるんだっ!」ジワッ…
律「澪……?」
澪(ダメだ……また律に迷惑かける…)
澪「逢えないなんてことないッ……だって、だってぇ……!!」ブワッ
律「え、ちょっ、どうしよう……澪~? 泣くなよ……」
澪「だ……ダメだ、律ッ……やっぱり私は、ダメらしいッ……」
澪(大人ぶって律に迷惑かけないなんて……そんなの無理だ)
やっぱり律との別れが、どうしても嫌だった。
寒空の中、私はなかなか泣きやめないままで、律はとにかく近くにいてくれた。
身体は触れ合っていないのに、その思いやりは触れ合う以上に暖かくて……。
優しく抱かれるかのような、私はそんな心地になった。
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─────1月4日──────
澪「えーっと、他に買うものは……あっ」
澪「おーーい! 聡~!」
聡「」ビクッ
澪「ひさしぶ──」
聡「……スマン、澪ねーちゃん!」ダーー!
澪「エエェェェーーーー……」
澪(エエェェェーーーー……)
ポツーン…
澪(私……聡に嫌われるようなことしたっけ?)
澪(アイツも……もしかしたら転校のことで、悩んでるのかな?)
澪(そっとしておいた方が…いいのかもな)
澪「……さて、買い物の続きっと…」
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澪「『で、今日聡に逃げられたんだ…私なんかしたかなー?』っと」
ピロリーン♪
澪「……1月の中旬っていうと、あと一週間と少し……」
澪「…………ッ」
澪「ダメだダメだ! クリスマスでもう止めるって決めたんだッ!」
澪(そうだ、これは逆に神様がくれたプレゼントなのかもしれない)
澪(律を私から離して、私がどう生きていくか……)
澪(大人への第一歩……最近挫折したばっかりだけど…)
ピロリーン♪
澪「おっ……」ピッ
律『きっとアイツも、転校するし、澪のことを思い出したくなかったんじゃないかなぁ…』
澪「やっぱりそうか……聡らしいっちゃらしいけど」クスッ
澪「えっと…『そういえば、最近みんなで会ってないな 宿題とか個々にやってるんだろうな?』っと」
ピロリーン♪
澪「最近、みんな用事があるな……暇で宿題やってるのは私だけか」
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──
澪「メールが返ってこない……さては律のやつ、さっきのメールで宿題に気付いたな?」
澪「私自身じゃなくて、逆に律が心配になってきた……」
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─────始業式──────
ガチャ…
澪「おつかれ~…って、あれ」
唯・梓・紬・律「……」
澪「……な、何やってんだ?」
律「!? み、澪ッ。いつからいた」
澪「今来たばかりだけど……」
律「そうか……」
唯・梓・紬「……」ホッ…
澪「? ……?」
あっというまに、一日一日は過ぎていった。
もう泣くことはなかったが、それはまたそれで、自分が逃げている気がしてならなかった。
でもそれが、本当の大人ではないってことぐらい、分かっていた。
最終更新:2013年01月16日 21:21