ロンドンの寿司屋


「wonderful!」


パチパチパチパチ……


律「せ、せんきゅー!」

澪「私達は旅行に来たはずなのになんでこんな所で演奏してるんだろう……」

唯「きっと良い演奏しないとお寿司を食べさせて貰えないんだって。
  ね、ムギちゃん?」

紬「どうだったかしら~♪」

梓「心配なんですけど……」


ガラの悪そうな男「~!!!」ガダアッ!


澪「な、何!?」

唯「ムギちゃん、なんて言ってるか分かる?」

紬「えっと……『なんださっきの訳わかんねぇ、カリーだなんだって歌はよォーッ!』」

紬「『スシに合わねえんだよボケッ! 慰謝料払いなァァーーー!?』」

紬「だって」

律「おお、なんかムギの新たな一面を見れた気がする……」

梓「そんなこと言ってる場合じゃないです! 絡まれちゃったんですよ!?」

梓「異国の地ッ! ここ、イギリスはロンドンでッ!」

澪「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」


ガラの悪そうな男「~!!!」


律「ムギ、今度はなんて?」

紬「ちょっと早くて分からなかったけど、
  『金が払えないなら、ストレス発散に付き合って貰おうかア~ン?』て言ってると思う」

唯「一緒に遊びたいってことかな?」

梓「ええ、遊ばれますね確実に。仮に純粋な意味での『遊びたい』だったとしても、
  その台詞を女子高生に吐く時点でコイツはロクな奴じゃあありませんよ」


ガラの悪そうな男「~!!!」


手下a「~」ガダアッ!

手下b「~」ガダアッ!


澪「増えたー!?」

律「ちょ、誰か助け……見て見ぬフリですかーッ!?」

紬「私、こういうピンチに会うのが夢だったの!」

唯「なんだかよく分からないけどどうしようあずにゃん……」

梓「一つだけ手が無いこともありません」

唯「教えてあずにゃん!」

梓「逃げるんですよォーッ!」ダッ!

律「あ、一人で逃げんな!」ダッ!

唯「待ってあずにゃ~ん!」ダッ!

紬「映画! 映画みたいねこれ!」ダッ!

澪「お、置いてかないでェーーー!!!」ダッ!


ガラの悪そうな男「~!!!」ダッ!

手下a b「~!!!」ダッ!


寿司屋の店員「アリガトゴザイマシター♪」



梓「ハァハァ……ここまで来れば大丈夫ですかね」

紬「もう追ってきてはいないみたいよ」

澪「りじゅううう! 怖かったあああ!!!」

律「よーしよしよしよし、もう大丈夫だぞ澪ー」ナデナデ

唯「あずにゃあん……足疲れたぁ……」

梓「それくらいなんですか。私なんてさっきまで履き慣れない靴履いてたせいで、
  足の指先が痛くて痛くて」

唯「それは自業自得だよぉ」

律「どうする? ホテル戻るか?」

紬「仕方ないけどそうしましょう。さっきの人達にまた会ったら嫌だもの」

梓「でもお腹減りませんか? 結局、お寿司は食べ損ねましたし」

唯「私、カップ麺とか色々持ってきてるよ!」

律「準備良いな唯」

唯「憂が持たせてくれたんだよ。心配だからって」

紬「流石は憂ちゃんね。なら、ホテルに行きましょうか」

律「だな、行くぞ澪」

澪「こ、腰が抜けて立てない……おぶってくれ」

律「マジか。ほら背中に手回して……重ッ!」



梓「(はぁ……楽しい旅行のはずが、初日からこんな目に遭うなんてなぁ)」

梓「(明日は何も無いと良いんだけど……あれ?)」

律「どうした梓、早く行こうぜ。重くてかなわん」

澪「そんなに重い重い言わないで……」

唯「あずにゃんどうかしたの?」

梓「いや……あの、なんていうかあのですね」

梓「私のむったん……どこに置きました……っけ?」

紬「あらあら、何言ってるの梓ちゃん。さっきのお寿司さんに置きっぱなしに……」

紬「あっ」


「……」


唯「私のギー太!?」

律「マイスティックゥゥゥゥゥ!?」

澪「エ、エリザベェェェス!?」

紬「私の……! あ、私は関係無かったわ」

梓「い、急いで取りに戻りましょう!!」

澪「ででででででも、あの怖い男の人達がまだいたら……!」

律「いや……その心配は無用だぜ澪」

澪「なんで?」

律「もうそこにいる」


ガラの悪そうな男「~!!!」

手下a b「~!!!」


紬「『ヘッ! こんなトコにいやがったぜーーー!』」

紬「『俺らから逃げられると思ったのかよォ! このトンチキがッ!』」

紬「ですって!?」

律「ありがとうムギ!」

梓「くっ……ベタなやられ役の台詞を……」

律「逃げようにも私は澪を背負ってるしな……」

唯「私、もう走れないよ……」

澪「このままじゃ皆やられてしまう……律、私は置いてい」

澪「……やっぱり怖いからおぶってくれ。死ぬ時は皆一緒だ」

律「そこは勇気出せよ! 置いてかないけども!」

紬「絶体絶命ね……けいおん完ッ!」

梓「終わっちゃ駄目ですーーーッ!!!」


ガラの悪そうな男「~!!!」ニタニタ


紬「『覚悟しなァーッ!!!』!? きゃーっ!」

澪「嫌だああああああーーーッ!!!」



?「お、やっと見つけた。ジジイの体でこれだけのモンしょって追っかけるのはちと辛かったぞ」



唯「……だ、誰?」

ガラの悪そうな男「~!!!」

紬「『なんだァ? この老いぼれはよォ』」

?「嬢ちゃん達、さっきの寿司屋で楽器を忘れていったじゃろ?
  いかんのォ、楽器は音楽家の魂だろーに」

?「ほれ」

唯「ギー太!」

律「私のスティック!」

澪「エリザベスゥ……良かったよぉ」

梓「むったん……! ありがとうございます!」

?「実はわしもあの寿司屋にいてな、嬢ちゃん達の歌を聞いてたんじゃよ。
  なかなかにユニークだった」

紬「そういえば見かけたような気が……」

?「嬢ちゃん達は日本人か? それにその身なりからすると旅行者と見た」

梓「あ、はい。日本から二泊三日の旅行で……」

?「ふーん、ロンドンなんぞにわざわざ旅行で来るとは物珍しいのォ。
  わしはイギリス人じゃが、どちらかと言えばアメリカの方が好きじゃ」

?「といっても、人のことは言えんがな。実はわしも旅行者なんじゃ。わははは」

唯「おじいちゃんもなの? 仲間ですね!」

?「ふむ、ならばここは同じ旅行者同士、親睦を深めたい所じゃな」

?「(……最近の日本人の娘はレベル高いのォ。
   これはイギリスに来た甲斐があったというモンじゃ)」

ガラの悪そうな男「~!!!」ボアッ!

手下a b「~!!!」

紬「『俺達をムシしてペラペラ喋ってんじゃねー!
   老いぼれもまとめてやってやらぁーーーッ!』……はい!」

律「ムギのリスニングスキルがどんどん上がっていくな」

?「チッ! 空気を読まんか空気を!」

澪「お、おじいさん逃げましょう!」


?「なあに、心配は要らん。『隠者の紫 (ハーミットパープル)』」ビシビシビシィッ


ガラの悪そうな男「ぐげッ!?」ギュンッ

手下a b「!?」ギュンッ

律「な、なんだ? 急にあいつらが苦しみだしたぞッ!?」

?「わしもトシなんでな……あんたらみたいな若造と正面きってやるのは正直キツい」

?「で、だ! 少々卑怯じゃがわしのスタンド、『隠者の紫』を首に巻き付けさせて貰った。
  見えはせんと思うがのォ」

ガラの悪そうな男「ガガッ……!?」

手下a b「ゲェーーーッ!?」

澪「(スタンドってなんだろう)」

?「ちょいと『オチて』貰うわい」ギャギュウウゥ!


ガラの悪そうな男「――ッ!」バタァッ

手下a b「――ッ!」バタァッ


律「も、もがき始めたと思ったら、あっとゆーまに倒れたッ!?」

?「うーん……何の捻りも無しに倒すのもつまらんかったか」

紬「……やっつけたの?」

?「おお、もう大丈夫。ここらへんも治安が悪くなったみたいで困ったもんじゃよ」

澪「た、助かった……」

律「外国ってこえー……」

唯「おじいちゃん、ありがとう!」

?「いいってことよ」

?「(イカした女の子に感謝されるのはいくつになっても良いもんじゃッ!)」

? 「で……どこまで話してたんじゃったかな?」

唯「確か、おじいちゃんも旅行者ってとこまでだよ」

?「おー、そうだそうだ。それで女房と一緒に旅行に来てたんじゃった」

?「何を思ったか、『あなたの故郷へ行きたい』とか抜かしよってのォ」

?「そんで……そんで……女房?」

唯「?」

?「OH! MY! GOD! 女房を寿司屋で待たせたままじゃったァーッ!」

?「早く戻らんと何言われるか……さらばじゃ嬢ちゃん達ッ!」ダッ!

紬「ま、待ってください! 行く前にお名前を……」

?「名前? 名前か」ピタァ

?「わしの名は……ジョースター、ジョセフ・ジョースター!」




ジョセフ「かつて、『ジョジョ』と呼ばれた男じゃッ!」バァーーーン!




唯「じょせふ・じょーすたー……ジョジョさん」

律「ジョジョ……一度聞いたら忘れそうもない響きだ」

澪「うん」

梓「か、かっこいい……」


ジョセフ「では今度こそさらばッ! 縁があればまた会えるじゃろう!」ダッ!


紬「ジョジョさん! ……行っちゃった」

唯「優しい人だったね!」

澪「ああ、ジョジョさんがいなければどうなっていたことやら」

律「その場合は澪をおとりにして逃げてたかもな」

澪「おい」

梓「不思議な人でしたね……見ましたか?
  さっきのチンピラを倒した時、ジョジョさんの腕からイバラが生えていたのを」

律「イバラ? なにそれ」

紬「そんなの見えたかしら?」

唯「ううん」

梓「えっ! あんなにハッキリ出てたじゃないですか!」

梓「右腕からこう……ビシバシビシィィッ! って」

律「梓」ニコッ

澪「なぁ、私も梓も『疲れてる』みたいだからホテルに戻らないか?」

唯「そうだね。あずにゃん、『疲れてる』もんね。今日は一緒に添い寝してあげるよ」

紬「早く寝て『疲れ』を取らないと、明日の行動に差し支えちゃうわ」

梓「や、やめてください! そんな優しい目で私を見ないで!」

梓「本当に見えたんですって! ズギャアアアアアンって!」

澪「行こうか、律。おぶって」

律「お前、楽しようとしてないか? 実はもう歩けちゃったりするだろ」

紬「良いなぁ澪ちゃん……私もりっちゃんにおぶって貰いたいなぁ」

律「ほらー、澪が横着するからー」

唯「じゃあ代わりに私と手を繋いでこうよムギちゃん」

紬「いいの? やったぁ!」


梓「ええー……」

梓「(私の視力は1.5。見間違えるはずがない)」

梓「(あの時、『隠者の紫』とジョジョさんは言ってた。あれが関係してるのかな?)」


唯「あずにゃん行くよ。はいあずにゃんも手繋いで~」ギュッ

梓「(……どうでもいいか)」



梓の背後

?「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

――――――

――――

――

唯「……ってことが旅行中にあったんだ!」

憂「大変だったねお姉ちゃん……怖くなかった?」

唯「全然。さっきも言ったけどさ、
  そのジョセフさん……ジョジョさんがすぐ助けてくれたから平気だったよ」

憂「ジョジョさんかぁ。どんな人なんだろう? 私も会ってみたいな」

唯「とってもカッコいいおじいちゃんだよ。会ったら憂が惚れちゃうかもね」

憂「それは無いよォ」

憂「おっといけない、遅刻しちゃうよお姉ちゃん。早く学校行かないと」

唯「あれ? 学校あったっけ?」

憂「もお、今日は登校日だよ。忘れてたの?」

唯「そういえばそうだった……けどッ!」

憂「ッ!?」

唯「こ、コタツが私の足をガッチリ掴んで……ッ!」ガシッ ビイィィィィイン

憂「スイッチオフっ」カチッ

唯「ああん」


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最終更新:2013年01月30日 23:36