通学路
唯「外はまだ寒いねぇ」
憂「お姉ちゃん達が卒業する頃までには暖かくなるよきっと」
唯「卒業か……うん、卒業するんだよね私」
憂「卒業は嫌?」
唯「んーん、嫌じゃないよ。ただ、少しだけ寂しいかな」
憂「……私も寂しい」
唯「憂はまだ卒業しないじゃん」
憂「そうじゃなくて。もう少し経ったらこの通学路を一人で歩くんだと思うとね」
唯「でも、歩かなくちゃいけない」
憂「……」
唯「私とはもう歩けないけどさ、
良かったら次はあずにゃんと一緒に歩いてあげて欲しいな。あと、純ちゃんも」
憂「梓ちゃんも純ちゃんも通学路違うよ?」
唯「そういう意味じゃなくて……うーん……上手く言えない」
憂「冗談だよお姉ちゃん。ちゃんと分かってるから」クスッ
唯「そう? 良かったぁ」
『卒業しないで』
唯「ほえ?」クルッ
憂「どうしたのお姉ちゃん」
唯「今、どこかからか声が……」
憂「声……? 何も聞こえなかったよ」
唯「……気のせいかな?」
通学路
律「おーい澪ー!」ダダダッ!
澪「遅い」
律「ごめんな、なんか今朝からちょっと体調悪くて」
澪「……風邪か? なら、今日は戻って休んだ方が良いんじゃ……」
律「平気平気、言うほどは悪くないし」
律「それに、もう梓とは何日も過ごせないんだぜ? なのに休めるかよ」
澪「卒業……するもんな私達」
律「おう。別に一生の別れってこたぁ無いけどさ、
同じ時を過ごせるのは今しか無いじゃん?」
澪「なんか詩人だな律。やっぱり風邪か?」
律「どーゆー意味だっての」
澪「嘘だよ。私も律と同じ気持ちだ」
澪「でも、無理はするなよ。もし律に何かあったら梓が心配する」
澪「……もちろん、私も」
律「そう?」
澪「そう!」
律「……えへへ、ありが」
『いなくなるなんて嫌だ』
律「……え?」
澪「なに今の……声……か?」
電車の中
ガタン、ガタン……
紬「ふぅ」
紬「(私はあと何回、この電車に乗って学校に行けるんだろう)」
紬「(私はあと何回、五人だけのティータイムを過ごせるんだろう)」
紬「(私は梓ちゃんにとって良い先輩でいられたのかな)」
紬「(梓ちゃんは私達に『翼』をくれた。皆の天使でいてくれた)」
紬「(私は……私達は、梓ちゃんに何をあげられたのかな)」
紬「(何を……残してあげられたのかな)」
紬「……」
紬「卒業って、もっと遠い先のお話だと思っていたんだけど」
『もっと、もっと一緒にいたいです』
紬「!」ガダァッ!
乗客「……?」チラリ
紬「あ……あはは…… ///」スッ
紬「(なんだろうさっきの声は……)」
駅のホーム
紬「(気になるわ……さっきの声)」
紬「(他の人には聞こえてなかったみたいだけど)」
紬「(ただの空耳にしてははっきり聞こえたなぁ……)」
紬「(『もっと、もっと一緒にいたいです』……か)」
紬「あら?」
ジョセフ「だーかーらッ! わしゃあ痴漢なんてしとらんと言ってるじゃろうがッ!」
駅員「ですが、現にこの人が貴方に確かに触られたと」
老婆「フンッ」
ジョセフ「HOLY SHIT! 可愛いギャルならまだしも、こんなババアの尻なんか触るかッ!」
老婆「なんだってェェェ!? アンタだって大概ジジイじゃないのさッ!」オゴォーッ
ジョセフ「痛ッ! や、やめんかッ! つ、杖は駄目ッ!」バシ!バシ!
老婆「もう良いわッ! 地獄に落ちろッ!」スタスタ
駅員「あ、待ってください! し、然るべき所でちゃんとお話をですね……」スタスタ
ジョセフ「いちちちち……」
ジョセフ「……クソッ、なんて災難じゃ。これだから日本の乗り物は……ブツブツ」
紬「……ジョジョさん?」
ジョセフ「む?」クルッ
紬「やっぱり! ジョセフ・ジョースターさんだわ!」
ジョセフ「君は……おお、ロンドンの時のガールズバンドッ!」
紬「放課後ティータイムの
琴吹紬です。覚えててくれたんですね」
ジョセフ「もちろんヂャ、わしは良い音楽とべっぴんさんのこの二つだけは絶対に忘れんよ。
そして君達はその二つを兼ね備えておったからな」
紬「こんな所でお会い出来るなんて、凄い偶然です。
改めてその節はありがとうございました」
ジョセフ「当然のことをしたまでじゃ。気にせんでええわい」
紬「いえ、受けた恩は決して忘れるなと育てられましたから。日本にもご旅行で?」
ジョセフ「女房と一緒に日本の家族に会いにな。
そのあと、各地の美味い飯屋でも回ろうかと思ってたんじゃが……」
紬「何かあったんですか?」
ジョセフ「女房の奴、もう良いトシの癖に落ち着きの無い奴でなァ」
ジョセフ「ちょいと目を離した隙にどっか行ってはぐれてしまったんじゃ」
紬「大変! どこでいなくなったんですか?」
ジョセフ「あー、探すのは別に良いんじゃ。どうせ使用人と一緒じゃし、万一は無かろう」
ジョセフ「わしはわしで適当に観光でもしてればどこかで会えるさ」
紬「(お気楽な人だなぁ)」
ジョセフ「さて、どこをうろついたモンか。ここは『サクラガオカ』か」
紬「……」
紬「ジョジョさん」
ジョセフ「ん?」
紬「もし宜しければ、助けていただいたお礼も兼ねまして私が桜ヶ丘を案内しましょうか?
せっかくここで会えたんですし、きっと何かの縁だと思いますわ」
ジョセフ「申し出はありがたいがその制服、君は学生じゃろう?
これから学校じゃあないのかな?」
紬「あ、そうだった! でも……うーん……」
紬「(可愛いのォ)」
紬「じ、じゃあせめて私の学校まで一緒に歩きませんか?」
紬「それなら道すがら、桜ヶ丘の良い所もお教え出来ますし。
もちろん、ジョジョさんが宜しければですけど……」
紬「それに他の皆もジョジョさんが桜ヶ丘にいると知ったら、
きっと会いたがると思います!」
ジョセフ「そ、そうか?」
紬「はい!」
ジョセフ「まぁ、それなら断る理由も無いが」
紬「良かった! では行きましょう!」
ジョセフ「(……意外と強引な娘じゃの)」
学校の部室
梓「おはようございます」ガチャリ
梓「……」
梓「誰もいない……」
梓「まだ朝だから当然と言えば当然だけど」
梓「……」
梓「でも、もう少しで本当にいなくなっちゃうんだよね……」
梓「そ、そしたら、この部室も広くなっちゃうなぁ。お花でも置いてみようかな?」
梓「ぬいぐるみとかも良いかも。じゃないと寂しいし」
梓「あ、でも色んなもの置きすぎて唯先輩みたいなことになったらどうしよう」
梓「『こら梓ー!』だなんて澪先輩に怒られちゃったりして」
梓「って、その頃には先輩達は卒業して居ないんだって私! あはは」
梓「は……」
梓「……」
梓「……」
梓「……」
梓「なんで……卒業しちゃうんですか……」
梓「いなくなるなんてそんなの嫌ですよ……」
梓「もう練習しろだなんて、口うるさく言いません。
お茶ばっかり飲んでても怒ったりしないです。だから……」
梓「いなくならないでよぉ……」ぽろっ
ドドドドドドドドドド……
梓「……!?」ゾクゥ
通学路
ジョセフ「~」
紬「~」
ジョセフ「ウククッ! 面白い娘じゃのォ、唯ちゃんは」
紬「いつもそうやって、りっちゃんと一緒に笑わせてくれるんです」
紬「それを澪ちゃんがツッコんで、梓ちゃんが一緒に咎めて……」
ジョセフ「君はそれを眺めてニヤニヤする訳じゃな?」
紬「凄い! なんで分かるんですか?」
ジョセフ「カッカッカッ! 何故か分かっちまうんじゃよ、何故かな」
紬「うふふっ」
紬「あっ、あそこにあるのが私達の学校です」ビシィッ
ジョセフ「ほお、立派なモンじゃ。一枚写真に撮っておくか」カシャ
紬「この後はどうなさるんですか?」
ジョセフ「そうじゃなァ、とりあえず君が教えてくれた所を回ってみるとするよ」
ジョセフ「一通り回ったら……確か駅の近くに喫茶店があったな。
そこで休んでいると思うわい」
紬「じゃあ、学校が終わったら皆で会いに来ても良かですか?」
ジョセフ「モチロンじゃよ!」
ジョセフ「(モテ期再来か? わしもまだ捨てたモンじゃあないな)」
紬「では、また後でジョジョさん」
ジョセフ「オーケー!(ヒヒヒッ)」
ジョセフ「さ、ここから一番近いのは……」
キィィィィィィィィィィン……
ジョセフ「?」
ジョセフ「グオォッ!? な、なんじゃッ! 頭がッ!」ドサァッ
ジョセフ「(頭が割れるように痛いッ……!
こ、これは『音』か? なんて耳障りな『音』じゃッ!)」
ジョセフ「!」
紬「はう……」パタッ
ジョセフ「嬢ちゃんッ!」グニャアァァア
ジョセフ「(け、景色が歪んでッ!? イカン、意識が……)」
キィィィィィィィィィィン……
ジョセフ「うああああああ!」
ジョセフ「……」ガクゥッ
――――――
――――
――
ジョセフ「……」
ジョセフ「く……」ムクリ
ジョセフ「い、生きてるのか俺は……?」
ジョセフ「ッ! ……まだ頭がガンガンしてんなァ、クソッ」
ジョセフ「そうだ、嬢ちゃんはッ!?」
紬「……」
ジョセフ「おい嬢ちゃんッ! しっかりしなッ!」
紬「うう……頭が……」
紬「ハッ……貴方は?」
ジョセフ「おいおい、ジジイより先にボケてどーする。立てるか?」
紬「……誰?」
ジョセフ「本当にボケちまったかァ? ジョジョだよ、ジョセフ・ジョースター」
紬「ジョセフ……ジョジョさん? 貴方が?」ジィー
ジョセフ「なんだよ、人のハンサム顔をまじまじとよォ」
紬「……あの、失礼ですけどジョジョさんって、もっとこう……老けてませんでした?」
ジョセフ「老け? 何言って……」サワッ
ジョセフ「(!? ア、アゴのヒゲがねえッ! それにこの感じ……)」
ジョセフ「……て、手鏡とか持ってないか?」
紬「ありますけど……」サッ
ジョセフ「サンキュー」
ジョセフ「……」
ジョセフ「!」
ジョセフ「!!」
ジョセフ「!!!」
ジョセフ「オ――――――ノォ――――――!?」
ジョセフ「か、顔がッ! 体がッ! 若返ってやがるーッ!?」
ジョセフ「(どう見てもこの顔は十代の頃の俺じゃあねーか)」
ジョセフ「どうなっちまってんだァー!?」
紬「……」
紬「あの……本当にジョジョさんなんですか?」
ジョセフ「たりめーだぜッ!」
ジョセフ「俺がジョセフ・ジョースターだッ!」バァーーーン!
紬「!」
紬「確かにジョジョさんだわッ!」
ジョセフ「分かってくれたよーで何よりだぜ」
紬「ええ、ごめんなさい」
ジョセフ「……にしても、なんだってイキナリ若返っちまったんだァ?」
ジョセフ「(思い当たるとしたら、さっきの耳障りな『音』だが……)」
ジョセフ「(というか、そいつしか考えられねえっての)」
ジョセフ「(それに……この理不尽な展開にゃあ、理不尽覚えがあるぜッ!)」
ジョセフ「コイツは……『スタンド』かッ!」
紬「……スタンド? なにかしら?」
ジョセフ「この世の全ての生き物には生命エネルギーってのがある。
俺にも嬢ちゃんにも、その辺ほっついてる野良猫にもな」
ジョセフ「だがたまーに、目に見える形でその生命エネルギーが具現化することがあるのよ」
ジョセフ「その具現化した生命エネルギーのことを『スタンド』……
側に現れ立つって意味で『幽波紋 (スタンド)』と言うのさ」
ジョセフ「俺の体に起こったこの現象は明らかにその『スタンド』の攻撃によるものだッ!」
ジョセフ「ま、面倒臭けりゃあ、超能力って解釈でも良いのよん」
紬「まるでマンガみたいなお話ですね」
ジョセフ「お、おう、そーね……」
ジョセフ「オホン。とにかく、さっき言ったとおり、
『スタンド』は生命エネルギーからなっている」
ジョセフ「てことはよー、その『スタンド』を出している大元……
『スタンド使い』が俺達の近くにいるはずだぜ」
ジョセフ「(……一つ疑問がある)」
ジョセフ「(この若返りの現象は確かにどこぞの『スタンド』の力によるもんだ。
まず、間違いねえ)」
ジョセフ「(なのになあんで、嬢ちゃんには何にも起こらねえんだァ?)」
ジョセフ「(あの『音』を原因と仮定すんなら、嬢ちゃんも攻撃は食らってたはずだ。
現に俺の目の前で嬢ちゃんが倒れたのを見ているしよ)」
ジョセフ「(『音』の中に俺だけに通じる何かがあったのか)」
ジョセフ「(それとも……俺に分からねーだけで、既になんか影響を受けているとか?)」
ジョセフ「……」
紬「?」
最終更新:2013年01月30日 23:37