律(日曜日)
律(暇だったから外に出たけど何もやることがないとは)
律(誰かにメールでも……おっ)
律(あれに見えるはムギじゃないか)
律(ちょっと追いかけてみよう)
律(…消えた?)
律(…! これはあの時と同じ…)
律(よ~し、振り向いて……)
律「わっ!!!!!」
通行人「うおおおおっっっっ!!!!」
律「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
―――
―――
律「すいませんでした!」
通行人「まったく…次からは気をつけてくれよ」
律(見ず知らずの人を驚かせてしまった…)
律(恥ずかしすぎるって…)
律(はぁ…)
律(…そういやムギはどこへ)
トントン
律(うん?)
紬「わあっ!!!!!!!」
律「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
―――
―――
紬「大きな声が聞こえたと思ったら、そんなことがあったんだ」
律「あぁ、参ったよ」
紬「ごめんなさい。私がりっちゃんに気づいて、背後からこっそり付いていかなかったせいで…」
律「それは違うだろ」ポカ
紬「えへへ~」
律「ったく…叩かれて喜ぶなよ」
紬「嬉しかったから…」
律「…そういえばムギはどうしてここに?」
紬「うん。ちょっと用事があるんだけど…あっ、そうだ!」
律「うん?」
紬「りっちゃん、良いバイトがあるの。今からやってみない?」
律「バイト?」
紬「うん」
律「時給は?」
紬「りっちゃんたら内容の前に時給を聞いちゃうんだ…1780円よ」
律「かなりいいな…それで内容は?」
紬「子どもと戯れるだけの簡単なお仕事なんだけど」
律(保育園か迷子センターあたりかな…)
紬「どうかしら?」
律「あぁ、いいぞ。ちょうど暇だったし」
紬「それじゃありっちゃん、これに着替えて」
律「えっ」
―――
―――
紬「みんなー豆を持ったかな―」
園児達「は~い!」
紬「あそこにいる鬼さんめがけて投げつけるわよー」
園児達「は~い!!」
紬「おには―そと!」バシ
園児達「おにはーそと」パシ
律(まさか保育園で鬼の役をやるバイトだとは…)
律(しかしこのお面、デコが隠れてないんだが……)
律(……ひょっとしてナマハゲってことか?)
律(……)
紬「ふくはーうち!!」バシュン
園児達「ふくはーうち!」バシ
律「つぅ…」
律(お、おいムギ、本気で投げられたら痛い痛い痛いマジで洒落にならないから)チラッ
紬(ご、ごめんなさいりっちゃん)チラッ
律(おっ、アイコンタクトで伝わった?)
紬(手加減してあげないと…)
紬「おにはーそと!」ホワン
園児達「おにはーそと!」パシ
紬「ふくはーうち!」ホワン
園児達「……」
紬「ど、どうしたの?」
園児A「つむぎ先生、てかげんしてる?」
紬「ちょ、ちょっとだけ…」
園児B「私もてかげんするー」
園児C「私も―」
紬(わ、わ、ど、どうしよう)
律(…ムギが困ってるみたいだ)
律(こういうときは…)
律「豆を投げないならお前たちを食べちゃうぞぉ!!!!」ダッ
園児達「」ビクッ
紬「…!」
紬「大変! さぁ、みんな。思い切り豆を投げて―」バシッ
園児達「う、うん…」バシッ
律「くそっ、豆のせいで近寄れない」ジリッ
紬「おにはーそと」バシッ
園児達「おにはーーそと!!」バシッ
紬「ふくはーうち!」バシッ
園児達「ふくわーーうちっ!!」バシッ
紬(ありがとうりっちゃん)チラッ
律(どういたしまして)チラッ
―――
―――
律(ふぅ…やっと終わった)
律(園児の相手も大変だな…気を遣わないといけなくて)
律(ムギは……園児と戯れてるみたい)
先生「お疲れ様。お茶をどうぞ」
律「あっ、どうも」
先生「疲れたでしょ」
律「いえ、それほどでも」
先生「……」
律「……」
律(ちょっと気まずいな…)
先生「つむぎちゃんはね、ここでたまにお手伝いをしてくれるの」
律「そうなんですか?」
先生「ここの保育園はね、つむぎちゃんのお父様が経営してるの。そしてつむぎちゃんもここの出身だから」
律(ムギはこの保育園に通ってたのか…)
先生「人が足りないときは、たまに手伝ってくれるようお願いしてるの」
律「人が足りないんですか?」
先生「今回はノロウィルスで職員が三人もやられちゃって…。あなた達が来てくれて助かったわ」
律「はぁ」
先生「ふふふ。それにしてもあなたとつむぎちゃん随分気があってたわね」
律「まぁ、長い付き合いですから」
先生「へぇ~」
紬『りっちゃーん。ちょっと来てーー!』
先生「呼ばれてるみたいよ」
律「行ってきます」
―――
―――
律「どうしたんだ、ムギ」
紬「この子がりっちゃんに質問したいんだって」
幼女「……」ジー
律「…?」
幼女「おにーさんはつむぎ先生のかれしですか?」
律「…………はぁ?」
幼女「」ビクッ
紬「り、りっちゃん」
律「わ、わるい。でもいきなりだったから」
幼女「…かれしじゃないの?」
律「まず私は女だ!」
幼女「えっ」
律「女だ!」
幼女「だって……」チラッ
律「おい、今私とムギの胸を見比べただろ」
幼女「おんなは大きくなるとむねがふくらむって、お母さんがいってたもん…」
律「…」
幼女「ちがうの?」
律「そうだ…たいていの女はそうなんだ」
幼女「みんなじゃないの…?」
律「あぁ…私だっていつの日か、いつの日か膨らむと信じてたんだ」
律「その結果がこの有様だ…」シュン
幼女「おねえちゃん…げんきだしなよ」
紬「そうよ。りっちゃんは胸が小さくてもりっちゃんよ!」
律「ムギ、それ慰めになってないから」
紬「ご、ごめんなさい」
幼女「そっかぁ、ちがうんだ…」
律「あぁ」
幼女「せっかくつむぎ先生とこいばなできると思ったのに」
律「こいばなって…最近の園児はませてるな」
幼女「うん。だってわたしさくらぐみのあかねちゃんとつきあってるもん」
律「……おまえ女だよな?」
幼女「うん」
律「茜ちゃんも女だよな?」
幼女「うん」
律「女同士はいけないだろ」
幼女「愛さえあれば性別は関係ないってつむぎ先生が」
律「ムギ」ポカ
紬「痛っ…」
律「全く。こんな幼い子に何を吹き込んでるんだ」
紬「だって、愛さえあれば関係ないもん!!」
幼女「ないんだよ!!!」
律「こいつら…」
先生『つむぎちゃーん。田井中さーん。そろそろ隣の組をお願いしたいんだけど』
紬「もうそんな時間…りっちゃんいきましょう」
律「あぁ。……じゃあな」
幼女「りっちゃん先生はまた来てくれるの?」ジー
律「えっと…」
紬「う~ん。わからないわ」
幼女「そっかぁ」
紬「それじゃあまたね」
幼女「ばいばい。つむぎ先生、りっちゃん先生」
―――
数時間後
―――
律「終わったな」
紬「ええ、さすがに3クラスとなると結構疲れるね」
律「実労3時間で色をつけてもらって7千円」
律「こんなにもらってよかったのかな?」
紬「いいのよ。あそこは経営に余裕があるから」
律「そうなのか?」
紬「ええ、裕福な家の子供が多いから…」
律(そういえばムギもあそこに通っていたんだっけ)
紬「りっちゃんさえよければ、またやってくれる?」
律「考えておくよ」
紬「ふふふふ」
律「でも、ちょっと驚いたよ」
紬「うん?」
律「いや、保育園児って私が思ってるより大人だなって。私が子供の頃はもっと…」
紬「それはね、あそこが特別だと思う」
律「そうなのか?」
紬「ええ、裕福な家って躾が厳しいものだから…」
律「あ…」
紬「ちょっと遠慮がちでおとなしい子が多いんだと思う」
律「ムギみたいに?」
紬「私、遠慮がちでおとなしいかしら?」
律「……違うな」
紬「うふふ。りっちゃんのおかげで甘え上手になれたから」
律「…そんなこと」
紬「りっちゃんは甘やかせ上手だから」
律「そうか?」
紬「うん。だって、みんなりっちゃんに甘えてるじゃない」
律「う~ん。ムギぐらいじゃないか。澪や梓にはいつも迷惑かけてる気がするし」
紬「そんなことないわ。澪ちゃんも梓ちゃんも、りっちゃんに甘えてるんだから」
律「澪と梓が? それはないだろ」
紬「りっちゃんはわかってないのね」
律「むっ」
紬「あの二人が遠慮なくなんでも言えるのはりっちゃんぐらいなんだから」
律「…………そうかな?」
紬「そうだよ。だから…」
律「うん?」
紬「考えてくれると嬉しいな。バイトのこと」
律「…前向きに検討するよ」
紬「そろそろお別れかしら。もう遅い時間だし……」
紬「りっちゃん、今日はあり――」
律「ちょっといいかな」
紬「…?」
律「もうちょっとだけ話をしていかないか」
紬「…」
律「い、いやだったか?」
紬「う、ううん。びっくりしちゃっただけ。喜んでお付き合いします!」
律「じゃあ行こうぜ!」
最終更新:2013年02月07日 00:14