【ひきこもり7日目】


「和ちゃーん……、暇だよー……。
何かして遊ぼうよー……」


再放送の二時間サスペンスを観終わった後、唯が唐突にそんな事を言い出した。
さっきまで夢中でサスペンスを観てたのに、変わり身の早い子よね……。
私は少し嘆息しながら、唯の頭に軽く手を置いた。


「あんた二時間ドラマをずっと観てたじゃない。
それでも、まだ暇って言うの?
あんなに夢中で観てたんだから、その余韻に浸ってればいいじゃないの」


「分かってないよ、和ちゃん!
ドラマはジェットコースターなんだよ?
観ている時は楽しんで、観終わったらすぐに気持ちを切り替える。
それが正しいドラマの観方なんだって、りっちゃんが言ってた!」


「確かに律なら言いそうな事だけど……。
でも、それってつまり、ドラマから学んでる事が何も無いって事よね。
それもそれで正しい観方なんでしょうけれど……」


「そんな事無いって、和ちゃん。
私、今回のドラマ、すっごく勉強になったもん。
和ちゃんも横目で観てたみたいだから、凄く勉強になったんじゃない?」


「ええ、それは確かにそうかもしれないわね。
真相編があまりに衝撃的で、私だって驚いたもの。
被害者に掴み掛かられたから突き飛ばして過失で殺してしまった、
ってドラマはよくあるけど、それを同じドラマで三回も繰り返すとは思わなかったわ……。
犯人は誰も殺す気が無かった可哀想な人だった……、
的な演出なんでしょうけれど、これはいくら何でもやり過ぎね。
私が犯人の弁護士なら、例え真実でも弁護を投げ出したくなるレベルよ……」


「だからね、和ちゃん、私、思ったんだ。
誰かに急に掴み掛かられても、出来るだけ突き飛ばさないようにしようって。
軽く突き飛ばしただけで三人も死んじゃったんだよ?
気を付けないといけないよねー……」


「それは学ぶ点を間違ってるわよ、唯……。
誰かに掴み掛かられたらちゃんと突き飛ばして、
それで万が一その誰かを過失で殺してしまったら、警察に自首しなさい」


「ええー……。
そうなのかなあ……って、そうじゃないよ、和ちゃん!
ドラマの事はいいから遊ぼうよー。
テレビゲームとかボードゲームとか持ってないの?」


「トランプと麻雀ならあるけど……」


「私、麻雀のやり方分からないよ、和ちゃん……」


「そうね……。
あんた小学生の頃、ドンジャラのやり方も理解してなかったものね……。
だからって、三人でトランプしてもね……」


言いながら、私は部屋の中を見渡してみる。
だけど、やっぱり他に遊べそうな物は見当たらない。
幼い頃から読書を趣味にして来た私にとって、
テレビゲームやボードゲームの類とはほとんど無縁な物だった。
唯が私の家に持って来たゲームを何度かしてみた事があるくらいかしら?

と、そこまで考えてから、私は少し思い直した。
唯は暇だと言っていた。単に暇なだけなのだ。
別に私と遊べなかったとしても、暇潰しになる何かがあればそれで満足してくれるだろう。
我が家に何か暇潰しになる物があっただろうか?


「あっ」


思わず声を上げていた。
そういえば一つ暇潰しになりそうな物があった。
唯が好むかどうかは分からないけれど、
こんな状況なんだから唯もそう大きな声で不満を口にはしないはずだ。
私は立ち上がってから、棚の上に置かれていたそれを取って唯に手渡した。


「何これ? ビデオテープ?
ひょっとして、呪いのビデオとか?」


「の、呪い……っ?」


何故か楽しそうに唯が言って、それを聞いた澪が怯えた声を上げた。
澪も暇だったから私達の会話に耳を傾けてたみたいね。
私は少しだけ苦笑してから、澪の肩に軽く手を置いて言った。


「安心して、澪。
呪いのビデオじゃないわ……、って私の家にそんな物があるはずないじゃない。
あれは昔録画した単なる普通のアニメのビデオよ。
古い作品だから、懐かしくて逆に楽しめるかと思ったの」


「なーんだ」と唯が残念そうに呟いて、澪が胸を撫で下ろしながら苦笑した。


「そうなんだ……、よかった……。
今時、ビデオテープなんか持ち出して来るから、
何か曰く付きの物なんじゃないかって思っちゃったよ……」


「今時……、って、私の家ではまだまだ現役なんだけど……」


「えっ」


「えっ」


「そ、それよりもさ、古い普通のアニメって何なんだ?
『キャンディ・キャンディ』とか?」


「話を誤魔化したわね……。
まあ、それは別にいいんだけど、
『キャンディ・キャンディ』ってそれは流石に古過ぎよ、澪。
あのビデオに入ってるのは『あずきちゃん』よ」


「ああ、あのお姉ちゃんやお母さんによくいじめられる……」


「それは『あさりちゃん』ね。
まあ、二人とも黒髪の二つ縛りって共通点はあるけれど」


「あ、そっちか……」


「何でもいいから観よう観よう!
私、『あずきちゃん』って、再放送でちょっとしか観た事ないから楽しみー!」


そう言うが早いか、唯がビデオデッキに『あずきちゃん』のビデオテープを挿入する。
やっぱり暇が潰せれば何でもよかったらしい。
私と澪は苦笑しながら、何故か正座してテレビの正面に陣取る唯の隣に座った。


「じゃあ、再生するよー!」


唯がテレビの入力を切り替えて、ビデオの再生ボタンを押す。
この時の唯は本当に楽しそうだったし、
澪も懐かしいアニメが楽しみらしく、期待に胸を膨らませた表情をしていた。
この後、唯が口にする何でも無い思い付きが、
二人を強く苦しめる事になるなんて、その時の私達は思いもしなかったのだ……。




まずお約束ではなかった事を断っておきたいと思う。
『あずきちゃん』のビデオの中には確かに『あずきちゃん』の放送が録画されていた。
何かの間違いでアダルトビデオや呪いのビデオが録画されていたという事はなかった。
ある意味でそういうお約束的な事は起こらなかったのだ。

でも、今になって思うのだ。
そちらの方がずっとよかったのかもしれないと。
いいえ、何かの間違いで録画されていたアダルトビデオを観てしまって、
三人でしばらく気まずい空気を感じてしまう方が、確実にずっとよかった。

きっかけは私の何気無い一言だった。
「あずきちゃんって梓ちゃんに何となく似てると思わない?」、
と私は本当に何の深い意味も無くそう言った。
黒髪のふたつしばりな所、あずきちゃんの本名も『あずさ』な所、
少しだけ素直になれない所もあるその性格も含めて、何となく似ている気がしたのだ。

すると、唯が得意気にこう言ったのだ。
「あずきちゃんをあずにゃんの小学生の頃だと思って観てみよう!」と。
多少馬鹿馬鹿しいけれど、悪くない思い付きだとその時の私も思った。
何かを前提に劇作を鑑賞するのとしないのとでは、集中力や楽しみ方が全く変わって来る。
これならばいい暇潰しになるだろうと思った。
思ったのよね……。

その結果が現在の惨状だった。


「うわあああああああああ!
あずにゃんが、あずにゃんがああああああっ!」


唯が頭を抱えて悲痛な声を上げている。
きっかけは『あずきちゃん』の中のあるシーンだった。
『あずきちゃん』は少女漫画雑誌に連載されていた漫画で、
少女漫画雑誌だけあって、主人公のあずきちゃんは小学生だ。
小学生の女の子が転校生の男の子に恋をする。
それだけならそれなりにありがちな漫画なのだが……、
アニメで放映されたシーンに問題のそのシーンがあったのだ。


「あずにゃんが……、あずにゃんが小学生の頃に、
もうファーストキスを済ませてるよおおおおおお……」


唯が掠れた涙声で呻く。
そうなのだ。
主人公が小学生の女の子なのに、転校生の男の子とのキスシーンがあったのだ。
小学生の女の子なのに……。
あずきちゃんを梓ちゃんに見立てて鑑賞していた唯にとって、それはいたく衝撃的だったらしい。


「落ち着きなさい、唯。
あれはあずきちゃんで、梓ちゃん本人じゃないのよ」


私は唯の背中を擦りながら言ってみたけれど、
唯にとってそれは重要な事ではなかったらしく、激しく首を横に振りながら続けた。


「分かってる……、分かってるよう、和ちゃん……。
でも……、でもお……、
あずきちゃんが小学生でファーストキスを済ませてるって事は、
ひょっとしたらあずにゃんも小学生の頃にファーストキスを済ませてたり……。

やだあああああ、やだよおおおおおお!
ねえねえっ、和ちゃんはどう思うっ?
あずにゃん、小学生の頃にファーストキス済ませてると思うっ?」


そんな事無い、とすぐに返答してあげられればよかった。
普通に考えて、小学生の頃にファーストキスを済ませる女の子なんて極少数なわけだしね。
でも、私はすぐに返答出来なかった。
何故なら、梓ちゃんなら有り得るかもしれないって、一瞬考えてしまったからだ。
梓ちゃんは外見とは異なり、その内面はかなり大人びている。
落ち着いた性格で、大人びた梓ちゃんならあるいは既に……。

唯はその私の沈黙を肯定と受け取ったらしい。
辛そうな表情を浮かべて、またいたく悲しそうに嘆き始めた。


「やっぱりそうなんだああああ……。
あずにゃんの唇は小学生の頃に私の知らない男の子に奪われてるんだああああ……」


「だから、落ち着きなさい、唯。
あんた、キスなら幼稚園の頃に憂と何度もやってたじゃない。
その延長だと考えるのよ。そう考えなさい」


「妹とのキスと男の子とのキスは全然違うよ、和ちゃん……」


「ええ……、それはそうね……。
ごめんなさい、唯。
流石にこれは我ながら無理のある発言だったわ……。

でも、ほら、よく観て、唯。
あずきちゃんは結構男の子と遊んでる子でしょ?
男の子の友達が多い子はそういう事もあるのよ、きっと。
だけど、梓ちゃんは男の子の友達が多そうな感じはしないでしょ?
だからね、きっと梓ちゃんのファーストキスはまだ……」


「ま……、まさか……」


私の言葉を遮って次に呻き始めたのは澪だった。
何が起こったのかと思って澪に視線を向けると、
澪は唯と対照的に顔面を蒼白とさせて呆然として呟いていた。


「小学生の頃、律は男の子ともよく遊んでた……。
特に近所のトシ君とは私抜きで遊んでたみたいだし……。
まさか……、まさか律はトシ君と小学生の頃にファーストキスを……。
まさか……、ははは、そんな……、そんなまさか……」


しまった……。
澪に飛び火させてしまったらしい……。
確かに私の理屈では、梓ちゃんより律の方が先にファーストキスを済ませている事になってしまう。
しかも、その想像はあながち間違っていない気までしてくるわね……。
律は男の子の友達も多いみたいだし、
たまに見せる恥ずかしがり屋な所は男の子にも人気が出そうだ。
という事は、律の方こそが小学生の頃にファーストキスを……?


「そういえば……」


呟きながら、不意に唯が私の肩を掴んだ。
必死さが見て取れる表情で私の瞳を覗き込む。


「確か『あずきちゃん』ってアニメは小学生で終わったけど、
漫画の方は中学で転校生の子と離れ離れになった後の話もちゃんとあるんだよねっ?
和ちゃん、漫画持ってるっ?
中学生の頃のあずにゃんの方が今のあずにゃんの性格と近いはずだから、
中学生バージョンのあずきちゃんの漫画を読んで比べてみる!
中学生の頃のあずにゃん知らないけど!」


「え、ええ……。
漫画はお母さんが好きだから持ってたはずだけど……」


「和ちゃんのお母さんの部屋?
今すぐ取って来るっ!」


「わ……、私も……!」


唯に続いて澪が居間から飛び出して行く。
漫画ならお母さんの部屋にあったはずだけれど、
確か『あずきちゃん』の中学生の頃の話って……。
そこまで私が考えた瞬間、もう単行本を見つけたらしく、唯の声がまた響いた。


「わああああっ!
あずにゃん、中学一年生の夏休みでもう別の男の子とチューしてるー!」


「待て、唯!
それどころか五巻じゃ二股になってるぞっ!
二股……、中学生で二股……」


「あずにゃん酷い……。これは酷いよ……。
で、でも、流石に中学卒業の頃にはどっちか一人に決め……、って、わああっ!
中三の初詣、真夜中に密室で男の子と二人きりでチューしてる……。
って事は、この後、間違いなく……」


「そ、そういえば、律もトシ君と初詣に行った事があるって言ってたような……。
ま、まさか……、まさかああああ……」


「ちょ……っ、最終回見てよ、澪ちゃん!
あずにゃん、二十歳で双子産んで結婚したって書いてあるよ!
あ……、あんまりだ……。
これはあんまりだよ、あずにゃん……」


「何だよ、この展開……」


「誰得なの? 何得なの……?」


そう言った後で二人でその場に崩れ落ちて、二人ともしばらく肩を落として震えていた。
長い長い間、その場で何も言わずに蹲っていた。
『あずきちゃん』と梓ちゃんには何の関係も無い。
その言葉が二人の耳にやっと届いたのは、夜の闇がかなり深まってからの事だった。
二人にとっては、それほどまでに『あずきちゃん』の展開が衝撃的だったんでしょうね……。
私……、『あずきちゃん』の展開は結構好きなんだけれど……。




「それじゃあ、次は澪の話よ」


「ま、また……?
前も言ったけど、そんなに怖い話のストック持ってないぞ……。
んー……、じゃあ、また律から聞いた話になるんだけど……」


「先が物凄く読めるけれど、とりあえず話してくれるかしら」


「分かったよ、和。
じゃあ……、話すぞ?

これは高二の一学期が始まるより少し前の話らしいんだけど、
律が例のTさんとある湖畔で遊んでいた時の事らしい。
Tさんが「湖に行ってみたい」って言われて、
それで近場のあの湖を二人で見に行く事になったらしいんだ。
と言うか、水臭いよな、律も……。
湖を見に行くんなら私……、
じゃなくて私達も誘ってくれればいいのにな。

まあ、今はそれは置いておこう。
それで律がTさんと二人で湖の周りを歩いていたらさ、
ある茂みの奥でとんでもない物を目撃しちゃったらしいんだ。
あ、いや、まだ怖い話じゃないんだけどな。
とんでもない物ってのは……、その……、えっと……、分かるだろ?
高二の一学期が始まる少し前って事は、春真っ盛りの時期だろ?
春丸出しの時期だよな?
だから……、その……、春は植物が芽生えて、動物の恋の季節で……。

あーっ、だからさ、律達は見ちゃったんだよ!
春の恋人達が身体とか唇とかを重ねてる所を!
何と言っても、春だもんな……。
野外でそういう事をするカップルも増えてたみたいなんだよ。
流石の律とTさんもそれにはびっくりしたらしくて、
二人で気まずい空気を漂わせたまま無言で湖の周りを散策してたらしい。

勿論、それだけじゃ怖い話にはならないよな。
そう。怖い話はここからなんだ。
律達が無言のままで散策して十分くらい経った頃だったらしい。
不意に湖畔を揺らすような大きな悲鳴が上がったんだ。
悲鳴がしたのはさっきカップル達が情事を行っていた茂みの奥の辺りみたいだった。
変な行為を女の人に強要したんじゃないか、
って一瞬律は思ったけど、放っておくわけにもいかないから駆け付けたらしい。
そういう所、困ってる人を放っておけない律らしいよな……。

それで茂みの奥の話に戻るんだけど、
そこでは半裸の男女が額から血を流して蹲っていたらしい。
死んではいなかったけど、かなりの重傷みたいだった。
「何があったんですか?」って律が聞くより先に、
律の腕がTさんに思い切り引かれてその場に倒れ込んじゃったらしい。
それで「いきなり何をするんだよ」って律がTさんに聞いたら、
Tさんは戦慄の表情を浮かべてある場所に指を差していたんだそうだ。
ある場所って言うのは、律がさっきまで立っていた場所だった。
その場所には手のひらよりも大きな石が落ちていたんだよ。
Tさんが手を引いてくれなけりゃ、その石が律に直撃してたのは間違いない。

でも、何処からそんな石が飛んで来たんだ?
自然にこんな大きな石が飛んでくるはずがない。
しかも、律を狙うみたいに飛んでくるはずがあるもんか。
そう考えた律とTさんは周囲を見渡して、遂にそいつを見つけたんだ。
居たんだよ、茂みの奥よりも更に奥まった場所に……。

ヒューマンガスみたいな仮面を被って、
上半身裸で手に大きな石を持った奇妙な男が……!」


「ねえねえ、和ちゃん?
ヒューマンガス……って何?」


「映画の『マッドマックス2』に出てくるカリスマ的悪役の名前よ。
どうして澪があの映画の事を知ってるのかは分からないけれど、
多分、律が借りて来たのを一緒に観ていたんでしょうね」


「あ、『マッドマックス2』なら私も知ってるよ!
ヒューマンガスってあの人の名前だったんだー。
私、ジェイソンのお兄さんって呼んでたから、分かんなかったよー」


「あんたも色々観てるのねえ……。
って、唯、それよりも今は澪の話の続きを聞く事にしましょう」


「うんっ、分かったー。
中断させちゃってごめんね、澪ちゃん。
続けてくれていいよー」


「ああ、分かったよ、唯。
それでそのヒューマンガスなんだけど、
律達が自分の姿に気付いたのを認めると、
手に石を持ったまま律達の方に走り始めたらしいんだ。
目撃者の口を封じるつもりなのか、それとも他に理由があるのか、
そのどちらなのかは分からないけど、追い掛けて来る以上、律達はその場から逃げ出すしかなかった。
悪いとは思ったけど半裸のカップルをそのままにして、
Tさんと手を繋いで全速力でヒューマンガスから逃げ回ったらしい。
今までの人生でその時ほど本気で走った事は無かった、って律は言ってた。

でも、それも長くは続かなかった。
律の体力はもう少し残ってたらしいんだけど、
セレブなだけあって、一緒に走ってたTさんの体力が先に尽きちゃったんだ。
Tさんが脚を縺れさせて転んでしまって、
手を繋いでた律も一緒にその場に転んじゃったんだよ。
そうしてる間にもヒューマンガスは二人にどんどん近付いて来ていて、
だからと言って、律はTさんを見捨てて一人で逃げ出す事も出来なくて……。
律達にはもうどうしようもなくなって、
ヒューマンガスが遂に二人の傍で石を持った手を大きく振り上げた時……!


「破ぁ!!」


という甲高い声が湖畔に響いて、
気付いた時にはSちゃんがヒューマンガスに大外刈りを決めていたんだ!
勿論、攻撃はそれだけじゃ終わらなかった。
Sちゃんはヒューマンガスの身体を仰向けに倒して、
その左足首に自分の両足を引っ掛けると、その場で何回転もし始めたんだ。
その技こそまさしくスピニング・トーホールド!
近年、使い手が少なくなってきた技だけど、Sちゃんは本当に見事に極めていたらしい。
あんまりの激痛に耐えられなくなったんだろうな。
ヒューマンガスは悲痛な呻き声を出しながら、
「すみません! リア充を懲らしめたかっただけなんです!
すみませんすみません! 風紀委員気取りでした! 本当にすみません!」、
って、叫んでいたけど、Sちゃんが携帯で呼んだ警察が来るまで解放してもらえなかったらしい。

やっぱりセレブ生まれって凄い。
律は警察に連行されるヒューマンガスを横目に、
スピニング・トーホールドの練習をしながらそう思ったんだそうだ」


「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか、唯。
蝋燭も勿体無いものね」


「ほーい」


「ちなみに律が話し終わった後に言ってたんだけど、、
ヒューマンガスはエスパー伊東の様な声をしていたらしい……」


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最終更新:2013年02月20日 22:38