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悲しみの弔鐘はもう―― - (2014/04/06 (日) 09:40:20) の1つ前との変更点

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*悲しみの弔鐘はもう――  ◆m8iVFhkTec ---- その民家において約二時間が過ぎ、これといった出来事は無かった。 22歳のELTのギターの人に似た男性と、あどけなく幼い姿の女神。 電車男と女神イズンは、ほとんど会話を交わさずにいた。 ふぅ、とテーブルに頬杖をついてため息をこぼした。 そしてふらりと立ち上がり、散らばった室内を何となく物色する。 切手とか通帳とかワイシャツとかジーンズとか食器とか、……要らないんだよなぁ。 なお、包丁やカッターなどの、刃物の類は何故か見つからなかった。 廊下の方を見ると、リビングとを隔てるドアのガラス越しに、うっすらと人影が見える。 電車男は、玄関の側でうずくまってPDAをじっと見ていた。 泣き腫らして充血した瞳が、画面のぼんやりとした光でも見て取れた。 あまりの悲壮感に、見るだけで心が痛む。 しかし、イズンはそんな彼に声をかけることが出来なかった。 果たして、軽々しく元気付けて良いものだろうか? もしかすれば、彼は今必死に自分の悲しみと向き合っているかもしれないのに。 心の整理が着くまでは、そっとしておくのがベストなのではないか。 ただ、本心からすればそれを待つのが実にもどかしく思っていた。 この無為な時間を過ごす間に、殺し合いでの犠牲は増え続けているに違いない。 一刻も早く巨神を討ち滅ぼさねばならない。 でも、恋人を失った電車男に無理強いをするなんて……そんな勇気は私には……。 イズンは自分に言い聞かせる。 ――これは戦士の休息なのです。決して無為な時間ではありません。 あの兄妹――フレイとフレイヤならば戦場を駆け回って、瞬く間に巨人族へと反旗を翻す事が出来るだろう。 だが、神々である彼らと人間である電車男を比べてしまうのはあまりにお門違いだ。 ……でも、早々に立ち直って欲しいと思っている。 心情を察しているにも関わらず、自分の導く道を迅速に進んで欲しいと思っている。 ――私の思考は、少し身勝手かもしれません……。 イズンはまた、何度目かわからないため息を溢した。  ◆ この異世界は2013年のもの。 本来自分がいた場所より9年も後の世界。 電車男は、「男達が後ろから撃たれるスレ」を見ていた。 それも最近のものでは無く、2004年の。 本来なら過去ログにすら残っていないものだ。 だが、2ちゃんねるに特化したこのPDAでは、そんなデータを復元し探しだして閲覧することが出来る。 自身が初めて書き込みをした>>731から順番に読み返していた。 そこに綴られている、まるで小説のようなストーリーを一から。 勇気を出してエルメスさんに絡む危ない爺さんを止めた事。 カップのお礼に、エルメスさんと一緒に食事に行った事。 デートの時、彼女の方から俺の手を握ってくれた事。 エルメスさんの家で、貰ったカップを使ってベノアティーをご馳走になった事。 メールで互いの想いが通じあったと確信した事……。 エルメス:  あんまりその気にさせないで下さい(笑)  少なくとも私にはモテモテですよ 電車男:  その気って…なんの気でしょうか?  経験がゼロなのでさっぱりわかりません(笑)  エルメスさんも少なくとも僕にはモテモテです エルメス:  「その気」ですか?これって実際に会って説明した方が良いのでしょうか? あぁ、今思い返してもドキドキする。 現実だとは信じられないような、ふわふわとした感覚があった。 自分の事を想ってくれている女性がいて。 普段は毒ばかり吐いている2ちゃんねるのみんなが、俺を一斉に応援してくれて。 まるで夢のような時間だった。 「幸せだったなぁ…( ´ー`) 」 思わずニヤニヤとした。 あの心がぎゅっと締め付けられるような時間が、凄く愛おしい。 次に彼女と会う時は、きっと最終決戦で……。 電車男:  会わないと言えない事なんですか?なんだろう…?  それはもしかしたら自分もあるかも…  今度会って言いたい事… エルメス:  では今度会った時にでも(笑) ……どんな未来が待っていたんだろう。 エルメスさんにピッタリなノートパソコンを選んで、食事して……あと、手を握ったりしてさ。 いつ想いを伝えるんだろうか。 出会ってすぐ? それともデートの最後? それともその日は、最後まで伝えないまま……? 「あっ…」 夢心地だった俺の意識がふと、我に返った。 そう、そのエルメスさんは今、もういなくなった。 本当に最後まで伝えることが出来ずに終わったんだ。 彼女の死を、別にこの目で直接見たわけじゃない。 数時間前にPDAで知らされただけであり、数時間前に不吉な夢を見ただけであり……。 ……でもそれら全てを嘘だって否定出来なくて。 口でどれだけ信じたくないと言ったところで、頭のなかではネガティブなものが支配してしまっていて。 ……。 ああ、元々きっと、俺には不相応な夢だったのかもしれない。 俺みたいなアキバ系オタが、こんなドラマのような恋を体験するのは何かの間違いだったのかもしれない。 この殺し合いは、そのしわ寄せに違いない。天罰なんだ。 神は俺に、ここで死ぬ運命だと言っているんだ。 ――死ぬ運命なんだ。 だって、例え生き残れたとして、俺一人で元の世界へ帰ったとして、そこに何が残っていると言うんだろう。 エルメスさんがいない。ただ一人で余生を過ごすだけの人生。 これからもずっと、スレに綴られた自分の黄金期を読み返して、その思い出に浸るだけの……。 ……待てよ、そういえばひろゆきが「何でも願いを叶える」って言ってた。 じゃあ、「エルメスさんを生き返らせる」という願いも可能なのかな。 ……いいや、また夢に縋るのはよそう。そんな度胸なんて俺に無いのだから。 大体、俺みたいな一般人が感情に任せて暴れたところで、勝ち残れるほど現実はあまくない。 「うっ…うっ…」 涙がまたこぼれ出てきた。 息が苦しい。悲しい。自分も後を死んでしまおうか。 悲しみを紛らわせるために、電車男はまた「男達が後ろから撃たれるスレ」を読み始めた。 そういえば、あの最後の書き込みをしてから、俺が、『電車男』が、失踪してしまった事を住民は何と言っているだろうか。 みんなして嘆いているか、もしくは憤慨しているかもしれない。 想像するだけで、心が傷む。 ページを進めていき、自分の最後の書き込みより先を、恐る恐る読み始めた。 「……えっ」 そして俺は思わず口を開けていた。 何故なら、そこに書かれた物が信じられなかったから。  ◆ 最初の視聴者はイズン様だった。 点けっぱなしのテレビに、中年の男性の姿が映る。 「電車男、テレビを観るのです! 何者かが放送を行なっております!」 イズンはすぐさま電車男へと報せた。 その間にテレビの中年男性は、画面外の誰かと会話を行っていた。 『ポルナレフさん、ここのカメラで合ってますか?』 『あぁ、そこで間違いねぇ。いつ始めちゃってくれても構わねぇぜ』 『そうですねぇ、今始めても見ている人がいるかどうか……。  とりあえずはしぃさんの放送から二時間後です。それまで内容や条件、そしてあわよくば人員の確保を行わなければ』 『若干不安なんだよな……。こう言っちゃあアレだが、猫が放送機材をいじれるのか』 『しぃさんはとても賢いですから、きっと上手くやってくれますよ』 男性の名前はいわっち、その他にポルナレフとしぃという人物がいるようだ。 二時間後に行われる正式な発表……何か大きなことを起こそうとしているようだ。 ……電車男から応答が無い。 「どうしたのですか、電車男!」 もう一度名前を呼んだ。 結果は同じ、沈黙だけ。 ――困りました。恋人の死によって、彼はテレビを観る余裕すらも奪われてしまったとは……。 イズンは歯噛みした。 まぁいい。自分だけでもしっかり見逃さずにおけばいいだろう。 電車男を諦め、とにかくテレビを注視する事にした。 『今、偶然この放送を目にしている皆様へ。  おはようございます。私はいわっちという者です』 いわっちは深く頭を下げる。 『主催者であるひろゆきさんへ、そしてこのテレビを見ている皆様へ向けて……。  私はこの後、私が抱いている想い、メッセージを"直接"お伝えします。  町内放送で時間指定をしますので、ご傾注頂ければ幸いに思います。  また、もし可能であればですが、このテレビ局へと赴いて私達に協力をお願い致します。  この殺し合いを終わらせるためには、皆様の意志が必要なのです。  ではまた、後ほどお会いしましょう』 それだけを言っていわっちはもう一度、深く頭を下げた。 『いいねぇ~、流石いわっちさん、舞台慣れしてるねぇ。サマになってたぜ。  ……おっと、カメラ止めた方がいいのか?』 『あ、いえ。とりあえず張り紙でもかけておきましょうか。  いつ、誰かがテレビを目にしても気づいてもらえるようにね』 そういって彼は画面の外へと出て行った。 さらに何かを話しているようだが、後は聞き取ることは出来なかった。 「この地に、勇気のある者たちは残っていてくれて良かった。  私達も急がねばなりません。彼らと力を合わせるのです……!」 大々的に呼びかけが行われる前に、この放送を目に出来たのは幸運だったと言えよう。 町内放送がされてしまえば、流石にテレビ局を狙いに来る殺人者たちが集うリスクが高まってしまう。 いわっち達に協力するのであれば、その前にテレビ局に駆け込むのがベスト――イズンはそう考えた。 自分も、勇気を出さねばならない。 イズンは意を決して、廊下の扉に手を掛けた。 「……電車男、どうか聞いてください」 絶望している彼に無理をさせるのは、少々酷だろう。 だが、すぐにでも重い腰を上げなくては勝利を掴む機会を失うかもしれないのだ。 「今テレビ局には私達の同志がいます」 多くの者を救うためには、気持ちを押し殺さなくてはいけない。 だから電車男、どうかそれをわかって欲しい。  ◆ 「は…はは。どういう事だよコレ…」 何故だか口からは、笑いが溢れていた。 面白いからではなく、理解が追いつかなかったために。 「ついにエルメスさんとめでたく結ばれて?  スレのみんなに思いっきり祝福されて?  ……なんだよ、なんでこいつ俺のトリップ知ってんの?こいつ誰だ?」 誰かが、俺になりすまして、物語の続きを書いていた。 文体があまりにも忠実で、話の内容もリアルで、でも自分はこんな事を書いた覚えは無い。 だからこいつは、偽物だ。 「なんで俺がいなくなるタイミングで偽物が湧くんだよ…。  なんで勝手に俺の話を終わらせてくれてんだよ…ふざけんなよ…」 そしてスレは終わっていた。 電車男のストーリーは、ハッピーエンドで終わった。 何なんだよ。 本物の俺とエルメスさんが、この場所でこんな事になってるのに。 偽物のコイツはどうしてこういう事が出来るんだよ。 何の意味があるんだよ、酷すぎるじゃないか。 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな! 「うあああぁぁぁっ!!」 俺は思い切り、手が折れる程強く壁を殴った。 ドン、と家全体が振動する。 ……ただ、それだけだった。 手の骨がギリギリと痛みを訴える程の力でも、木の壁にヒビを入れる事すら出来ない。 自分の無力さを痛感する。 なんて自分は弱いんだろう。 また、涙が零れ落ちた。 「……電車男。大丈夫ですか」 ふと、俺の隣にはイズン様が立っていた。 朝日を背に受けた彼女の姿は、なんだかとても神々しい。 「…イズン様、俺はもう嫌だ…。  エルメスさんとの恋を応援してくれた皆との記録が、偽物に汚されてしまった…」 情けない涙声。ツンと痛む鼻。ボロボロと溢れる涙。 自分はなんてみっともない大人なんだろう。 でも、もう全てがどうでもいい。 「そして、エルメスさんは死んだんだ。  いくら呼んでも彼女は帰ってきてくれない。  俺の一番幸せだった時間が終わった、だから俺も人生を…」 全てがどうでもいい。 あの日々を過ごせただけでも、俺は凄く恵まれていた。 じゃあもういいじゃないか。どうだって。 「さっさと終わらせたいよ…」  !,' | /__,.    、__ヘ ヽ.   / ヽ ○    \ l !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ' ヽ /   'l   ̄ ̄ _/   !'"    ,___,  "' i .  ヽ  |X|    ヽ _ン   ノ|X| /  |X|>,、 _____, ,.イ  |X|      ( ̄ ̄ ̄ 彡 _/ヽ_ ヽヽ    / ヽ       '――― 彡 \   / | |  | ̄|    | ←電車男               //\|  ノノ /  'l   ./                       ̄ ̄ ̄  ノ 「痛ーッ!?」 驚きと痛みで思わず悲鳴を上げてしまった。 ただ、悲しみで胸が裂けそうだというのにビンタが下された事に激高した。 小さな少女を見上げたまま、俺は怒鳴りつけた。 「な、この、何するんあqwせdr!!」 涙声のまま声を荒らげたので、もはや滅茶苦茶で、自分でも何を言っているのかわからない。 「電車男、よく聞いてください」 そんな俺に対してイズン様はいつもと変わらない、とても静かな口調で話した。 「過去を振り返るのは決して悪いことではありません。  ですが、いつまでも過去に縋るのは大きな間違いなのです」 「ふざけんなよ、アンタに俺の気持ちがわかるのか!?  大切な人が俺の知らないところで殺されたんだ。俺は何も出来なかったんだ。  なぁ、どうなんだ!? アンタに大切な人なんているのgtyふじk!?」 「いませんよ」 「だったら…」 「ええ、貴方の言う"大切な人"はいません。  ですが私には、永遠をも思えるような長い時を共に過ごした神々がいました。  そしてここへ連れられる前に、その多くが殺されてしまいました。  ……その喪失感を、貴方は理解出来るというのですか?」 「わ、わかるわけないだろう! でも…でもっ! 俺の方が重みが違ftぎッ!!」 「重み? いいえ、そんなのを比べても何の意味もありません。  ただ、少なくとも私は今、とても辛く感じています。苦しいほどに。  勿論、貴方の方がきっとその辛さは大きなものでしょう。痛いほどによくわかります。  たった二時間の休息で、そのショックを受け入れる事が出来るとは全く思っていません」 そう、悲しみを癒やすにはあまりにも短すぎる。 もっと、もっと、もっと時間が欲しい。 一晩寝て、一週間休んで、一ヶ月過ぎ去って……それでようやく、人は悲しみを忘れる事が出来る。 でも、死亡遊戯は一切の時間を与えてくれない。 悲しみに浸り、生きる意志を手放せば、瞬く間に死が迫ってくる。 「若い貴方に無理をさせるのは、あまりにも酷であろうと思います。  ですが……今、テレビ局へ向かわなければ、大きなチャンスを失ってしまうのです。  巨神たちを討ち滅ぼす義勇たちに力を貸すのが難しくなります。  ……貴方の道は、この女神イズンが導きます。  そう……非力な私に出来る事なんて、導く事だけ……ですが……。  どうか……」 「…」 イズン様の口調は徐々に、懇願するような感じへと変わってくる。 なんだかそれが、俺の心をキリキリと締め付けた。 彼女が次に言う言葉なんて、この時点で想像が付いていた。 「どうか、ここで立ち上がってください。電車男よ。  この殺し合いに呼ばれた者と……そして、私を救ってください……!」 そして、この頼みを断れない事も想像が付いていた。 …ズルイ。 落ち着きを取り戻した俺の心が、真っ先に思ったのがそれだった。 大の大人が、こんな小さな女の子に説得されるなんてさ。 「…わかった」 イズン様は大人びているけど、結局は一般人よりも戦う力の無い少女だ。 誰かが守ってあげなくては、あの軍人みたいな危険な奴に殺されてしまう。 だからって、俺みたいな非力な男に何か出来るなんて、自分でも思えないけど。 それでも彼女は俺に縋ってくれているんだ。 …それを無下にするなんて、男として、大人として失格じゃないか。 「でも本当に、俺なんかで、大丈夫なのかな…。  特別強い訳でもないし、それにまだ、こんなに泣いてるし…」 「……いいえ、貴方だから大丈夫なのです。  何故なら貴方はたった今、私に応えてくれたのですから!」 笑顔を携えて、そして力強くそう言ってくれた。 「多くの人間はきっとここで、自暴自棄となっていたでしょう。  貴方は違います。貴方はやはり、私の思ったとおり、とても強い人間でした。  泣いている? それが何の問題ですか!  電車男、誇りを持ちなさい。  貴方は間違いなく、誰かを救う事の出来る人間なのです」 普通ならイズン様の頼みを引き受けない……確かにそういう物かもしれない。 出会って数時間の少女の世話なんて、やってられない。 ましてや、好きな人を失った今の状態なんかじゃ。 でも。 「ホントに、出来る限りだけど……それで良ければ頑張るよ」 もう少し気の利いたことが言えれば良かったかもしれない…_| ̄|○ でも、それでも、それが俺の心からの返事だ。 何も出来なかったから、何もしなければいい――そんなわけが無い。 やれることをやろう。 そうでなければ、きっともっと後悔する結果になる。  ◆ 凄く眩しい。 目が開けられないほどに。 こんな鬱々とした世界でも、太陽が照りつけ、空は青く染まっている。 その対比が非情に居心地悪く感じた。 「電車男、巨人族へ対抗するためには、多くの者と結託する必要があります。  テレビ局へ急ぐのです」 俺は力強く頷いた。 話は聞いた。先ほど、『いわっち』『ポルナレフ』なる人物がテレビで放送を行なった事を。 そしてその放送を知る者が少ないうちに、テレビ局へと向かうのが最善なのだと。 念を入れてアジを護衛に出しておく。 ピチピチしたウロコが太陽光に辺り輝きを放つ――改めて奇妙な姿だと思った。 でも、軍人に襲われた時にコイツがいたから俺は今、無事でいられた。 頼れる――だから、仲間としての不安は一切無い。 「行こう」 準備は完了。 PDAのマップを確認し、テレビ局へ向けて歩き始めた。 彼らの行く末には何が待つのか、果たして……。 「待つのです電車男、何者かがこちらに近づいてきます。気をつけて!」      __∩   ..ノ//// ヽ 《 /////,_;;:;ノ|  ,|..///( _●_)  ミ ,_彡//〝|∪|┰`...\ //\\  ヽノ〝)).  ) (|_|_|_)  /./(_/  |    _.. / ∥  |  /\_\∥  | /    )_ )∥ 《.∪   (_\ ∥        \_) 身を潜めた彼らの前に姿を現したのは、巨大なクマであった。 「あれはおそらくヒグマ――それも変種のようです。  腹部の血などを見ると、手負いなのがわかるかと思います。  ……しかし、まともな武器が無い以上、アジを戦わせて勝てるような相手ではないでしょう」 イズン様の冷静に分析は俺の頭の中に入ってこなかった。 俺の頭は今、たった一つの名前が渦巻いていた。 殺した者の名にしてはあまりに直球過ぎて、本来なら疑うべきかもしれない。 しかし、正常な判断なんて下せなかった。 間違いなく、コイツだと俺は確信した。 > 殺害者名・・・被害者、被害者etc... >【Lv=03】  > やきうのお兄ちゃん・・・一頭自営業、エルメェス、原住民 > モララー・・・モララー MSKK、レベル男、ゆうすけ >【Lv=02】 > クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん > クタタン・・・ドクオ、麦茶ばあちゃん ――クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん あれが"クマー"と呼ばれる生物であれば。 あの口の周りの血は。 あの爪にべたりと付いた血は。 あの毛皮を染めている返り血は。 「電車男! 一体何を……!」 俺は気が付けば、非常に大きな刃物を持ってクマーへと突進していた。 喉が張り裂けんばかりの怒号をあげながら。 まるで水のように透き通ったその剣を、振り上げて、そして、思い切り突き立てた。 「よくも、よくも……よくもエルメスさんを―――ッ!!!!」 アクアブレイカーは彼の激情に呼応した。 ――必ず、かたきを討ってやる。 その誓いを条件に、刃は姿を現した。 【E-3 住宅街/一日目・午前】 【電車男@独身男性】 [状態]:健康、精神疲労(大)、傷だらけ、暴走 [装備]:アクアブレイカー@Nightmare City、アジ@おや、ポッポの様子が… [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、 [思考・状況] 基本:イズン様を保護する 1:エルメスを殺害したクマーを殺す 2:テレビ局へ向かう ※アクアブレイカーが剣としての性能を取り戻しました 【イズン様@ゲームハード】 [状態]:健康 [装備]:ライオットシールド@現実 [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~2 [思考・状況] 基本:殺し合いから生還し、アスガルドへ戻る 1:電車男、何を……! 2:対主催の集まるテレビ局へと急いで向かう 3:どうにも頼りない電車男に助言しつつ、脱出策を探す 4:テレビやPDAのような現代の機械が気になる ※バトルロワイヤルを巨神たちによる娯楽だと予想しています ※原作では遠方の物と対話する力を持っているため、制限がなければ使用できるかもしれません ※共通で迷彩服の男(グンマー)を危険人物と認識しています ※会場中のテレビではテレビ局のスタジオからの映像を受信できます。他の映像は受信できません 【クマー@AA】 [状態]:右腕骨折、全身にダメージ(極大)、左目失明 [装備]:鍛えぬかれた肉体 [道具]:無し [思考・状況] 基本:野生の本能に従うクマー 1:ク 2:マ 3:| 4:! ※重傷を負ったので体を休めようと思ったら、突然斬られました。
*悲しみの弔鐘はもう――  ◆m8iVFhkTec ---- その民家において約二時間が過ぎ、これといった出来事は無かった。 22歳のELTのギターの人に似た男性と、あどけなく幼い姿の女神。 電車男と女神イズンは、ほとんど会話を交わさずにいた。 ふぅ、とテーブルに頬杖をついてため息をこぼした。 そしてふらりと立ち上がり、散らばった室内を何となく物色する。 切手とか通帳とかワイシャツとかジーンズとか食器とか、……要らないんだよなぁ。 なお、包丁やカッターなどの、刃物の類は何故か見つからなかった。 廊下の方を見ると、リビングとを隔てるドアのガラス越しに、うっすらと人影が見える。 電車男は、玄関の側でうずくまってPDAをじっと見ていた。 泣き腫らして充血した瞳が、画面のぼんやりとした光でも見て取れた。 あまりの悲壮感に、見るだけで心が痛む。 しかし、イズンはそんな彼に声をかけることが出来なかった。 果たして、軽々しく元気付けて良いものだろうか? もしかすれば、彼は今必死に自分の悲しみと向き合っているかもしれないのに。 心の整理が着くまでは、そっとしておくのがベストなのではないか。 ただ、本心からすればそれを待つのが実にもどかしく思っていた。 この無為な時間を過ごす間に、殺し合いでの犠牲は増え続けているに違いない。 一刻も早く巨神を討ち滅ぼさねばならない。 でも、恋人を失った電車男に無理強いをするなんて……そんな勇気は私には……。 イズンは自分に言い聞かせる。 ――これは戦士の休息なのです。決して無為な時間ではありません。 あの兄妹――フレイとフレイヤならば戦場を駆け回って、瞬く間に巨人族へと反旗を翻す事が出来るだろう。 だが、神々である彼らと人間である電車男を比べてしまうのはあまりにお門違いだ。 ……でも、早々に立ち直って欲しいと思っている。 心情を察しているにも関わらず、自分の導く道を迅速に進んで欲しいと思っている。 ――私の思考は、少し身勝手かもしれません……。 イズンはまた、何度目かわからないため息を溢した。  ◆ この異世界は2013年のもの。 本来自分がいた場所より9年も後の世界。 電車男は、「男達が後ろから撃たれるスレ」を見ていた。 それも最近のものでは無く、2004年の。 本来なら過去ログにすら残っていないものだ。 だが、2ちゃんねるに特化したこのPDAでは、そんなデータを復元し探しだして閲覧することが出来る。 自身が初めて書き込みをした>>731から順番に読み返していた。 そこに綴られている、まるで小説のようなストーリーを一から。 勇気を出してエルメスさんに絡む危ない爺さんを止めた事。 カップのお礼に、エルメスさんと一緒に食事に行った事。 デートの時、彼女の方から俺の手を握ってくれた事。 エルメスさんの家で、貰ったカップを使ってベノアティーをご馳走になった事。 メールで互いの想いが通じあったと確信した事……。 エルメス:  あんまりその気にさせないで下さい(笑)  少なくとも私にはモテモテですよ 電車男:  その気って…なんの気でしょうか?  経験がゼロなのでさっぱりわかりません(笑)  エルメスさんも少なくとも僕にはモテモテです エルメス:  「その気」ですか?これって実際に会って説明した方が良いのでしょうか? あぁ、今思い返してもドキドキする。 現実だとは信じられないような、ふわふわとした感覚があった。 自分の事を想ってくれている女性がいて。 普段は毒ばかり吐いている2ちゃんねるのみんなが、俺を一斉に応援してくれて。 まるで夢のような時間だった。 「幸せだったなぁ…( ´ー`) 」 思わずニヤニヤとした。 あの心がぎゅっと締め付けられるような時間が、凄く愛おしい。 次に彼女と会う時は、きっと最終決戦で……。 電車男:  会わないと言えない事なんですか?なんだろう…?  それはもしかしたら自分もあるかも…  今度会って言いたい事… エルメス:  では今度会った時にでも(笑) ……どんな未来が待っていたんだろう。 エルメスさんにピッタリなノートパソコンを選んで、食事して……あと、手を握ったりしてさ。 いつ想いを伝えるんだろうか。 出会ってすぐ? それともデートの最後? それともその日は、最後まで伝えないまま……? 「あっ…」 夢心地だった俺の意識がふと、我に返った。 そう、そのエルメスさんは今、もういなくなった。 本当に最後まで伝えることが出来ずに終わったんだ。 彼女の死を、別にこの目で直接見たわけじゃない。 数時間前にPDAで知らされただけであり、数時間前に不吉な夢を見ただけであり……。 ……でもそれら全てを嘘だって否定出来なくて。 口でどれだけ信じたくないと言ったところで、頭のなかではネガティブなものが支配してしまっていて。 ……。 ああ、元々きっと、俺には不相応な夢だったのかもしれない。 俺みたいなアキバ系オタが、こんなドラマのような恋を体験するのは何かの間違いだったのかもしれない。 この殺し合いは、そのしわ寄せに違いない。天罰なんだ。 神は俺に、ここで死ぬ運命だと言っているんだ。 ――死ぬ運命なんだ。 だって、例え生き残れたとして、俺一人で元の世界へ帰ったとして、そこに何が残っていると言うんだろう。 エルメスさんがいない。ただ一人で余生を過ごすだけの人生。 これからもずっと、スレに綴られた自分の黄金期を読み返して、その思い出に浸るだけの……。 ……待てよ、そういえばひろゆきが「何でも願いを叶える」って言ってた。 じゃあ、「エルメスさんを生き返らせる」という願いも可能なのかな。 ……いいや、また夢に縋るのはよそう。そんな度胸なんて俺に無いのだから。 大体、俺みたいな一般人が感情に任せて暴れたところで、勝ち残れるほど現実はあまくない。 「うっ…うっ…」 涙がまたこぼれ出てきた。 息が苦しい。悲しい。自分も後を死んでしまおうか。 悲しみを紛らわせるために、電車男はまた「男達が後ろから撃たれるスレ」を読み始めた。 そういえば、あの最後の書き込みをしてから、俺が、『電車男』が、失踪してしまった事を住民は何と言っているだろうか。 みんなして嘆いているか、もしくは憤慨しているかもしれない。 想像するだけで、心が傷む。 ページを進めていき、自分の最後の書き込みより先を、恐る恐る読み始めた。 「……えっ」 そして俺は思わず口を開けていた。 何故なら、そこに書かれた物が信じられなかったから。  ◆ 最初の視聴者はイズン様だった。 点けっぱなしのテレビに、中年の男性の姿が映る。 「電車男、テレビを観るのです! 何者かが放送を行なっております!」 イズンはすぐさま電車男へと報せた。 その間にテレビの中年男性は、画面外の誰かと会話を行っていた。 『ポルナレフさん、ここのカメラで合ってますか?』 『あぁ、そこで間違いねぇ。いつ始めちゃってくれても構わねぇぜ』 『そうですねぇ、今始めても見ている人がいるかどうか……。  とりあえずはしぃさんの放送から二時間後です。それまで内容や条件、そしてあわよくば人員の確保を行わなければ』 『若干不安なんだよな……。こう言っちゃあアレだが、猫が放送機材をいじれるのか』 『しぃさんはとても賢いですから、きっと上手くやってくれますよ』 男性の名前はいわっち、その他にポルナレフとしぃという人物がいるようだ。 二時間後に行われる正式な発表……何か大きなことを起こそうとしているようだ。 ……電車男から応答が無い。 「どうしたのですか、電車男!」 もう一度名前を呼んだ。 結果は同じ、沈黙だけ。 ――困りました。恋人の死によって、彼はテレビを観る余裕すらも奪われてしまったとは……。 イズンは歯噛みした。 まぁいい。自分だけでもしっかり見逃さずにおけばいいだろう。 電車男を諦め、とにかくテレビを注視する事にした。 『今、偶然この放送を目にしている皆様へ。  おはようございます。私はいわっちという者です』 いわっちは深く頭を下げる。 『主催者であるひろゆきさんへ、そしてこのテレビを見ている皆様へ向けて……。  私はこの後、私が抱いている想い、メッセージを"直接"お伝えします。  町内放送で時間指定をしますので、ご傾注頂ければ幸いに思います。  また、もし可能であればですが、このテレビ局へと赴いて私達に協力をお願い致します。  この殺し合いを終わらせるためには、皆様の意志が必要なのです。  ではまた、後ほどお会いしましょう』 それだけを言っていわっちはもう一度、深く頭を下げた。 『いいねぇ~、流石いわっちさん、舞台慣れしてるねぇ。サマになってたぜ。  ……おっと、カメラ止めた方がいいのか?』 『あ、いえ。とりあえず張り紙でもかけておきましょうか。  いつ、誰かがテレビを目にしても気づいてもらえるようにね』 そういって彼は画面の外へと出て行った。 さらに何かを話しているようだが、後は聞き取ることは出来なかった。 「この地に、勇気のある者たちは残っていてくれて良かった。  私達も急がねばなりません。彼らと力を合わせるのです……!」 大々的に呼びかけが行われる前に、この放送を目に出来たのは幸運だったと言えよう。 町内放送がされてしまえば、流石にテレビ局を狙いに来る殺人者たちが集うリスクが高まってしまう。 いわっち達に協力するのであれば、その前にテレビ局に駆け込むのがベスト――イズンはそう考えた。 自分も、勇気を出さねばならない。 イズンは意を決して、廊下の扉に手を掛けた。 「……電車男、どうか聞いてください」 絶望している彼に無理をさせるのは、少々酷だろう。 だが、すぐにでも重い腰を上げなくては勝利を掴む機会を失うかもしれないのだ。 「今テレビ局には私達の同志がいます」 多くの者を救うためには、気持ちを押し殺さなくてはいけない。 だから電車男、どうかそれをわかって欲しい。  ◆ 「は…はは。どういう事だよコレ…」 何故だか口からは、笑いが溢れていた。 面白いからではなく、理解が追いつかなかったために。 「ついにエルメスさんとめでたく結ばれて?  スレのみんなに思いっきり祝福されて?  ……なんだよ、なんでこいつ俺のトリップ知ってんの?こいつ誰だ?」 誰かが、俺になりすまして、物語の続きを書いていた。 文体があまりにも忠実で、話の内容もリアルで、でも自分はこんな事を書いた覚えは無い。 だからこいつは、偽物だ。 「なんで俺がいなくなるタイミングで偽物が湧くんだよ…。  なんで勝手に俺の話を終わらせてくれてんだよ…ふざけんなよ…」 そしてスレは終わっていた。 電車男のストーリーは、ハッピーエンドで終わった。 何なんだよ。 本物の俺とエルメスさんが、この場所でこんな事になってるのに。 偽物のコイツはどうしてこういう事が出来るんだよ。 何の意味があるんだよ、酷すぎるじゃないか。 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな! 「うあああぁぁぁっ!!」 俺は思い切り、手が折れる程強く壁を殴った。 ドン、と家全体が振動する。 ……ただ、それだけだった。 手の骨がギリギリと痛みを訴える程の力でも、木の壁にヒビを入れる事すら出来ない。 自分の無力さを痛感する。 なんて自分は弱いんだろう。 また、涙が零れ落ちた。 「……電車男。大丈夫ですか」 ふと、俺の隣にはイズン様が立っていた。 朝日を背に受けた彼女の姿は、なんだかとても神々しい。 「…イズン様、俺はもう嫌だ…。  エルメスさんとの恋を応援してくれた皆との記録が、偽物に汚されてしまった…」 情けない涙声。ツンと痛む鼻。ボロボロと溢れる涙。 自分はなんてみっともない大人なんだろう。 でも、もう全てがどうでもいい。 「そして、エルメスさんは死んだんだ。  いくら呼んでも彼女は帰ってきてくれない。  俺の一番幸せだった時間が終わった、だから俺も人生を…」 全てがどうでもいい。 あの日々を過ごせただけでも、俺は凄く恵まれていた。 じゃあもういいじゃないか。どうだって。 「さっさと終わらせたいよ…」  !,' | /__,.    、__ヘ ヽ.   / ヽ ○    \ l !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ' ヽ /   'l   ̄ ̄ _/   !'"    ,___,  "' i .  ヽ  |X|    ヽ _ン   ノ|X| /  |X|>,、 _____, ,.イ  |X|      ( ̄ ̄ ̄ 彡 _/ヽ_ ヽヽ    / ヽ       '――― 彡 \   / | |  | ̄|    | ←電車男               //\|  ノノ /  'l   ./                       ̄ ̄ ̄  ノ 「痛ーッ!?」 驚きと痛みで思わず悲鳴を上げてしまった。 ただ、悲しみで胸が裂けそうだというのにビンタが下された事に激高した。 小さな少女を見上げたまま、俺は怒鳴りつけた。 「な、この、何するんあqwせdr!!」 涙声のまま声を荒らげたので、もはや滅茶苦茶で、自分でも何を言っているのかわからない。 「電車男、よく聞いてください」 そんな俺に対してイズン様はいつもと変わらない、とても静かな口調で話した。 「過去を振り返るのは決して悪いことではありません。  ですが、いつまでも過去に縋るのは大きな間違いなのです」 「ふざけんなよ、アンタに俺の気持ちがわかるのか!?  大切な人が俺の知らないところで殺されたんだ。俺は何も出来なかったんだ。  なぁ、どうなんだ!? アンタに大切な人なんているのgtyふじk!?」 「いませんよ」 「だったら…」 「ええ、貴方の言う"大切な人"はいません。  ですが私には、永遠をも思えるような長い時を共に過ごした神々がいました。  そしてここへ連れられる前に、その多くが殺されてしまいました。  ……その喪失感を、貴方は理解出来るというのですか?」 「わ、わかるわけないだろう! でも…でもっ! 俺の方が重みが違ftぎッ!!」 「重み? いいえ、そんなのを比べても何の意味もありません。  ただ、少なくとも私は今、とても辛く感じています。苦しいほどに。  勿論、貴方の方がきっとその辛さは大きなものでしょう。痛いほどによくわかります。  たった二時間の休息で、そのショックを受け入れる事が出来るとは全く思っていません」 そう、悲しみを癒やすにはあまりにも短すぎる。 もっと、もっと、もっと時間が欲しい。 一晩寝て、一週間休んで、一ヶ月過ぎ去って……それでようやく、人は悲しみを忘れる事が出来る。 でも、死亡遊戯は一切の時間を与えてくれない。 悲しみに浸り、生きる意志を手放せば、瞬く間に死が迫ってくる。 「若い貴方に無理をさせるのは、あまりにも酷であろうと思います。  ですが……今、テレビ局へ向かわなければ、大きなチャンスを失ってしまうのです。  巨神たちを討ち滅ぼす義勇たちに力を貸すのが難しくなります。  ……貴方の道は、この女神イズンが導きます。  そう……非力な私に出来る事なんて、導く事だけ……ですが……。  どうか……」 「…」 イズン様の口調は徐々に、懇願するような感じへと変わってくる。 なんだかそれが、俺の心をキリキリと締め付けた。 彼女が次に言う言葉なんて、この時点で想像が付いていた。 「どうか、ここで立ち上がってください。電車男よ。  この殺し合いに呼ばれた者と……そして、私を救ってください……!」 そして、この頼みを断れない事も想像が付いていた。 …ズルイ。 落ち着きを取り戻した俺の心が、真っ先に思ったのがそれだった。 大の大人が、こんな小さな女の子に説得されるなんてさ。 「…わかった」 イズン様は大人びているけど、結局は一般人よりも戦う力の無い少女だ。 誰かが守ってあげなくては、あの軍人みたいな危険な奴に殺されてしまう。 だからって、俺みたいな非力な男に何か出来るなんて、自分でも思えないけど。 それでも彼女は俺に縋ってくれているんだ。 …それを無下にするなんて、男として、大人として失格じゃないか。 「でも本当に、俺なんかで、大丈夫なのかな…。  特別強い訳でもないし、それにまだ、こんなに泣いてるし…」 「……いいえ、貴方だから大丈夫なのです。  何故なら貴方はたった今、私に応えてくれたのですから!」 笑顔を携えて、そして力強くそう言ってくれた。 「多くの人間はきっとここで、自暴自棄となっていたでしょう。  貴方は違います。貴方はやはり、私の思ったとおり、とても強い人間でした。  泣いている? それが何の問題ですか!  電車男、誇りを持ちなさい。  貴方は間違いなく、誰かを救う事の出来る人間なのです」 普通ならイズン様の頼みを引き受けない……確かにそういう物かもしれない。 出会って数時間の少女の世話なんて、やってられない。 ましてや、好きな人を失った今の状態なんかじゃ。 でも。 「ホントに、出来る限りだけど……それで良ければ頑張るよ」 もう少し気の利いたことが言えれば良かったかもしれない…_| ̄|○ でも、それでも、それが俺の心からの返事だ。 何も出来なかったから、何もしなければいい――そんなわけが無い。 やれることをやろう。 そうでなければ、きっともっと後悔する結果になる。  ◆ 凄く眩しい。 目が開けられないほどに。 こんな鬱々とした世界でも、太陽が照りつけ、空は青く染まっている。 その対比が非情に居心地悪く感じた。 「電車男、巨人族へ対抗するためには、多くの者と結託する必要があります。  テレビ局へ急ぐのです」 俺は力強く頷いた。 話は聞いた。先ほど、『いわっち』『ポルナレフ』なる人物がテレビで放送を行なった事を。 そしてその放送を知る者が少ないうちに、テレビ局へと向かうのが最善なのだと。 念を入れてアジを護衛に出しておく。 ピチピチしたウロコが太陽光に辺り輝きを放つ――改めて奇妙な姿だと思った。 でも、軍人に襲われた時にコイツがいたから俺は今、無事でいられた。 頼れる――だから、仲間としての不安は一切無い。 「行こう」 準備は完了。 PDAのマップを確認し、テレビ局へ向けて歩き始めた。 彼らの行く末には何が待つのか、果たして……。 「待つのです電車男、何者かがこちらに近づいてきます。気をつけて!」      __∩   ..ノ//// ヽ 《 /////,_;;:;ノ|  ,|..///( _●_)  ミ ,_彡//〝|∪|┰`...\ //\\  ヽノ〝)).  ) (|_|_|_)  /./(_/  |    _.. / ∥  |  /\_\∥  | /    )_ )∥ 《.∪   (_\ ∥        \_) 身を潜めた彼らの前に姿を現したのは、巨大なクマであった。 「あれはおそらくヒグマ――それも変種のようです。  腹部の血などを見ると、手負いなのがわかるかと思います。  ……しかし、まともな武器が無い以上、アジを戦わせて勝てるような相手ではないでしょう」 イズン様の冷静に分析は俺の頭の中に入ってこなかった。 俺の頭は今、たった一つの名前が渦巻いていた。 殺した者の名にしてはあまりに直球過ぎて、本来なら疑うべきかもしれない。 しかし、正常な判断なんて下せなかった。 間違いなく、コイツだと俺は確信した。 > 殺害者名・・・被害者、被害者etc... >【Lv=03】  > やきうのお兄ちゃん・・・一頭自営業、エルメェス、原住民 > モララー・・・モララー MSKK、レベル男、ゆうすけ >【Lv=02】 > クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん > クタタン・・・ドクオ、麦茶ばあちゃん ――クマー・・・エルメス、寺生まれのTさん あれが"クマー"と呼ばれる生物であれば。 あの口の周りの血は。 あの爪にべたりと付いた血は。 あの毛皮を染めている返り血は。 「電車男! 一体何を……!」 俺は気が付けば、非常に大きな刃物を持ってクマーへと突進していた。 喉が張り裂けんばかりの怒号をあげながら。 まるで水のように透き通ったその剣を、振り上げて、そして、思い切り突き立てた。 「よくも、よくも……よくもエルメスさんを―――ッ!!!!」 アクアブレイカーは彼の激情に呼応した。 ――必ず、かたきを討ってやる。 その誓いを条件に、刃は姿を現した。 【E-3 住宅街/一日目・午前】 【電車男@独身男性】 [状態]:健康、精神疲労(大)、傷だらけ、暴走 [装備]:アクアブレイカー@Nightmare City、アジ@おや、ポッポの様子が… [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、 [思考・状況] 基本:イズン様を保護する 1:エルメスを殺害したクマーを殺す 2:テレビ局へ向かう ※アクアブレイカーが剣としての性能を取り戻しました 【イズン様@ゲームハード】 [状態]:健康 [装備]:ライオットシールド@現実 [道具]:基本支給品、PDA(忍法帖【Lv=00】)、ランダム支給品0~2 [思考・状況] 基本:殺し合いから生還し、アスガルドへ戻る 1:電車男、何を……! 2:対主催の集まるテレビ局へと急いで向かう 3:どうにも頼りない電車男に助言しつつ、脱出策を探す 4:テレビやPDAのような現代の機械が気になる ※バトルロワイヤルを巨神たちによる娯楽だと予想しています ※原作では遠方の物と対話する力を持っているため、制限がなければ使用できるかもしれません ※共通で迷彩服の男(グンマー)を危険人物と認識しています ※会場中のテレビではテレビ局のスタジオからの映像を受信できます。他の映像は受信できません 【クマー@AA】 [状態]:右腕骨折、全身にダメージ(極大)、左目失明 [装備]:鍛えぬかれた肉体 [道具]:無し [思考・状況] 基本:野生の本能に従うクマー 1:ク 2:マ 3:| 4:! ※重傷を負ったので体を休めようと思ったら、突然斬られました。 |No.100:[[究極の味、究極の代償]]|[[時系列順>第二回放送までの本編SS]]|No.:[[]]| |No.100:[[究極の味、究極の代償]]|[[投下順>51~100]]|No.:[[]]| |No.77:[[emotion]]|電車男|No.:[[]]| |No.77:[[emotion]]|イズン様|No.:[[]]| |No.89:[[fate of the blood]]|クマー|No.:[[]]|

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